コミック作家・カナイフユキ「お金に換算しづらい自信や人間関係を築いておけば」【離れても連帯Q&A】

コロナ以降のアイデンティティは「何を買うか」ではなく、「何を考え、どう行動するか」で構築される? コミック作家のカナイフユキが、自己隔離中に見ていたという「エロアカ」や、日本の茶化しカルチャーについて語る。〈離れても連帯〉シリーズ第26弾。

by Fuyuki Kanai and Sogo Hiraiwa
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27 April 2020, 7:00am

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大によって、日本ではいま、多くの文化施設が休業を強いられ、感染防止対策として、あるいは政府による“自粛の要請”によって。また「ステイ・ホーム」や「ソーシャル・ディスタンシング(距離をとること)」が求められ、人と人とのコミュニケーションはいまだかつてなく制限されています。

こうした中でわたしたちには何ができるのでしょうか。文化を維持するために、好きな人や場所を守るためには何が? 離ればなれであっても連帯するには? この"非日常"を忘れないためには? さまざまなジャンルの第一線で活躍している方々にアンケートを実施し、そのヒントを探ります。

今回はイラストレーター、コミック作家のカナイフユキが登場。

離れても連帯, KEEP-DISTANCE-IN-SOLODARITY

──新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、今あなたが属している業界や産業はどんな打撃を受けていますか? 応援・支援するにはわたしたちに何ができるでしょう?

カナイ:僕はフリーランスでwebデザインの仕事をして生計を立てながら他の活動をしているのですが、幸い在宅でできる仕事なので、その面では影響はありません。イラストなどの仕事も同様です。しかし、友達と共同運営しているカフェ&イベントスペースは営業自粛を余儀なくされてしまい家賃の減額を交渉中ですし、自分のZINEを扱っていただいている書店さんもオンラインのみの営業をされているところが多いです。今すぐ収入が絶たれることはないと思いますが、社会は繋がっているので、どこかでひとつの業界が打撃を受けたら自分に影響が及ぶ可能性はあるだろうなと想像して心配しています。

少しでも「なくなったら困るお店」「いなくなったら困る個人」からものを買ってもらえたら良いのかなとは思います。しかし、自分も含め経済的に他の人を支援するほど余裕がない人も多くいるので、個人に自助努力を求めるばかりで何もしない政府に怒りを募らせています。経営が苦しそうなお店で買い物できないのが本当に辛いです。

できる範囲で経済を回し、できる限りの防疫をし、政府の愚策に対しては声を上げる、ということをしてもらえたらと思います。

──自宅待機以降に新しく始めたこと、もしくはポジティブな影響・変化がありますか?

カナイ:自分のストレスの感じ方に対して敏感になり、イライラしているときの自分を客観的に見る時間が増えました。以前から、ストレスが溜まると性欲のコントロールが上手くできなくなってしまう傾向があると自覚していたのですが、ちょうど3月後半からストレスフルな仕事をしていたこともあり、Twitterでいわゆる「エロアカ」を大量にフォローしてDIYのポルノ写真やポルノ動画を見るという暴挙に出てしまいました。最初は興奮していたのですが、鍛えた肉体や、自分が性的に機能することをこれでもかと誇示したがるゲイ男性たちを見るうちに、それらが強さでもって承認されたいという有害な男性性を煮詰めたような光景に見えてきて、虚しく悲しい気持ちになりました。コロナ禍の中でなければ自分もそれに参加して(つまりサクッと誰かとセックスして)処理していたかもしれないので、ひとりで冷静に考えられるこの状況をポジティブに捉えることはできますね。そして、ふと、エイズ禍の中でもやりたい人はやっていたのかもしれないなと想像したりもしました。

あとは、外を出歩けることが気持ち良いと久々に感じたことや、日記や記録をつけておくことの大切さを実感したことがポジティブな変化だと思います。また、ストレスフルな状況の中で「自分が何を気持ち良いと感じるか」がクリアになり、不謹慎ですが興奮しています。絵のアイディアや文章を考えているときの頭が回転している感覚がとても気持ち良くて、自分はそういう人間なんだなとわかったのは良かったです。

──コロナのビフォー/アフターで、変化した自分の考え方や、社会への認識があれば教えてください。

カナイ:以前から現政権の差別的な態度は感じていましたが、それが炙り出されたと思います。非典型的な家族、外国人や複雑なルーツを持つ市民、生活困窮者などを冷遇する姿勢があらわになって、改めて心から軽蔑しています。絶対に一生許しません。

また、意外とそれに対してアクションを起こす(署名、官邸や政党へのメールなどで)人が多いなと思いました。同時に、みんな、ここまでの状況にならないと政府の横暴に気づかないし行動も起こさないんだ……という気持ちも少しあります。今後は、これが日常的な普通の行動になったら良いなと思います。

──今の気持ち・気分を音楽で表すとしたら?

カナイ:中谷美紀「砂の果実」

──自宅隔離中の人に試してほしい、オススメの行動やコンテンツを教えてください。

カナイ:ZINEを作ることですね。自分が何を好きか? どんなことに関心を持っているか? いま何を感じて何を考えているか? それらをまとめてアウトプットすることは、セラピー的な効果があります。僕がZINEを作るのも半分はそれが理由です。人に見せることを前提に作らなくてもいいので、自分の声をじっくりと聞いてみましょう! もちろん、他の人に見せて思いを共有することができたら、そこから広がっていく世界があると思うので、それも楽しめたら素敵ですよね。僕も、エロアカについてのZINEを作ろうとしています。

──コロナ禍で人間の「良い面」も「悪い面」も浮き彫りになりました。あなたが見聞きしたなかで、忘れたくないと思う、印象的な出来事やエピソードがあれば教えてください。

カナイ:和牛券、お魚券、Go to travel、布マスク2枚、30万から10万に減り世帯主にしか給付しないという話になりいまだに給付されない給付金、出し渋られる休業補償、国に吸い上げられた税金がいかに無駄遣いされているか感じた虚しさと怒りを忘れたくありません。

良い面では、こんなときに連絡をとって気遣い合える家族や友人の存在に感謝しています。

──コロナ禍が落ち着いた後、日本の社会にはどう変わっていってほしいですか?

カナイ:今後、あらゆる差別や格差がさらに可視化されて、誰も「ノンポリ」ではいられなくなると思います。

少し前までは「何を買うか(消費するか)」で自分がどんな人間かを構築していく時代でしたが、間違いなく不景気がやってくるであろう今後は「何を考え、どう行動するか」で自我を構築していく時代になると思います。どの政党を支持するかなど、社会的な行動も重要になるでしょう。政治や社会問題の話題を忌避するムードはもう維持できないと覚悟するべきだと思います。

そうなると、僕の作っているzineもそうですが、消費・経済と距離を置いた場所での活動、「それ儲からないけどなんのためにやるの?」と言われそうな活動をいまから筋トレ的にしておくと後々役立つ気がします。お金に換算しづらい自信や人間関係を築いておくと、不景気や悪政に振り回される時代でも人としての軸がブレにくくなると思うからです。

これまでの社会はあまりにも困っている人の声を無視してきたし、個人が自分の生活を守るので精一杯な状況を作られていると思うので、その潮目が変われば良いなと思います。

これまでより一層、聞こえづらい声を「聞く力」を持って、いまは分断されているコミュニティ同士も繋がる社会になることを期待します。離れても連帯、離れなくても連帯、という感じでやっていけたらなと思います。権力者が最も嫌うのは、力を持たない人々が手を取り合うことだと聞いたことがあります。

中谷美紀の「砂の果実」を選んだのは、この曲がリリースされた90年代後半のムードが好きだからです。2000年代初頭まではアイドルは下火で、かわりに暗くてシリアスな内容の歌を歌う若い女性歌手が流行していました。アニメやお笑いなども少し頭を使わせるものが多くて、この時代に思春期を過ごした身からすると、現在の日本のポップカルチャーは幼稚さを肯定しすぎていると感じるときがあります。この頃は物事をシリアスにとらえることを茶化してブームが終わってしまったように感じますが、今度は茶化さずに真剣に考える方向に社会が変わればいいなと思っています。

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