コロ休に読みたい、パンデミック小説5選

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大以降、カミュの小説『ペスト』が世界各国で再び注目が集まっている(日本では二ヶ月で15万部以上の増刷)。けれども、パンデミックを描いた小説は『ペスト』だけじゃない。今こそ読みたい5冊を紹介。

by Alan Smithee
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09 April 2020, 8:00am

新型コロナウイルスが世界的なパンデミックを引き起こしている現在、ひとつの小説に注目が集まった。アルベール・カミュ『ペスト』だ。20世紀の文学史においてカフカと並んで不条理文学の代表作家と評されるカミュの長編小説である本作は、1匹の鼠の死体から急速に拡大するペストとにより生じた混乱がリアリスティックな筆致で綴られている。

この小説が人々の関心を惹き寄せたのは、今何が起こっているのか、これからなにが起こるのか、を考えたい人が増えているからではないだろうか?

また、フィクションで描かれた事件が現実に近しくなった状況で、ふだんこうしたものを読まない人々も小説を手に取っただろう。文学作品はどこかとっつきにくい性質もあり、またそこから簡単に意味を見出すことも難しいが、きっかけがひとつあれば本から本へ知らないうちに渡り歩いていた……ということも少なくない。

そこで今回は、パンデミックを話題にした小説や、それと関連して読むとより深みの出る小説を5作品ピックアップした。

コレラの時代の愛, ガルシア・マルケス, 小説, パンデミック
『コレラの時代の愛』ガブリエル・ガルシア=マルケス 木村榮一訳 新潮社

『コレラの時代の愛』(ガブリエル・ガルシア=マルケス)

『百年の孤独』で世界中から大きな賞賛を得たガルシア=マルケスの長編小説。初恋の女性を想い独身を貫いた男が、コレラから国を救ったという彼女の夫が死んだそのとき、内に秘めた愛を打ち明ける。この物語でもっとも大きなポイントは、男が待ち続けた時間がなんと半世紀を超えることだ。「初恋の人を想い続ける」というよくあるモチーフに果てしない時間が付与されることで、ひとつの恋が神話になる。マルケスの長編のなかでも読みやすく、興味を持ちつつも読みあぐねていた方にオススメしたい作品だ。

ブラッド・ミュージック, グレッグ・ベア, 小説, パンデミック
『ブラッド・ミュージック』グレッグ・ベア 小川隆訳 早川書房

『ブラッド・ミュージック』(グレッグ・ベア)

ひとりの男によって知性を持った細胞「ヌーサイト」が創造される。男はそれを体内に注射することにより秘密裏に研究所から持ち出すが、その危険性を察知した友人によりかれは殺されてしまう。しかし、その死をきっかけにヌーサイトが未曾有のパンデミックを引き起こす。

この作品ではヌーサイトが感染した人間に語りかけるという点で、パンデミックのみならず意識や知性といったSFならではの問題も扱っている。また、エンターテイメント作品としても読みやすく、これからSFを読んでみたいという方にぜひオススメしたい1作。

白の闇, ジョゼ・サラマーゴ, 小説, パンデミック
『白の闇』ジョゼ・サラマーゴ 雨沢泰訳 河出文庫

『白の闇』(ジョゼ・サラマーゴ)

原因不明の失明が次々と発生し、失明した人々が強制収容され、そこでコミュニティを形成したり抗争を起こしたりと、緻密な文体で人類の歴史の縮図を作り上げたパンデミック小説の傑作。決して読みやすい小説ではないが、『ブラインドネス』というタイトルで映画化もされているので、小説に慣れていない方はまずこちらを観てから読むのもオススメできる。

カルメン・マリア・マチャド, 彼女の体とその他の断片, 小説, パンデミック
『彼女の体とその他の断片』カルメン・マリア・マチャド 小澤英実,小澤身和子,岸本佐知子,松田青子訳 エトセトラブックス

『彼女の体とその他の断片』(カルメン・マリア・マチャド)

アメリカの若手作家カルメン・マリア・マチャドによる短編集である本作にも、性体験の記録を断章で綴った「リスト」や、女たちの体が消えていく「本物の女には体がある」などにパンデミック現象の気配を感じることができる。しかし、『ペスト』など、感染現象がフォーカスされる作品とは違い、彼女の作品ではあくまでも語り手の個人的な生活が作品の中心となり、疫病はその情景に薄い影を落とすのみだ。それにより、なにか手に負えないものが忍び寄ってくるという感覚が端正な文体から色濃く醸し出され、独特の味わいがもたらされている。

氷, アンナ・カヴァン, 小説, パンデミック
『氷』アンナ・カヴァン 山田和子訳 ちくま文庫

『氷』(アンナ・カヴァン)

ひとことでいえば「地球を氷が覆い尽くそうとする世界のなかでひとりの少女を探し続ける物語」になるのだが、この小説は次になにが起こるかがわからない見通しの悪さのなかを突き進んでいく強力なエネルギーを持っている。パンデミックを扱っている作品ではないが、世界の終わりに向かって突き進むこの小説は、先の見えない今だからこそ読んで欲しい。世界が終わろうともそれでも生き続けなければならないという決意があり、最後の一行まで読み通したとき、それが強烈な光となるような輝きを放つ。


以上、20世紀を代表する作品と現代文学から5作品を紹介した。

小説には単純にストーリーがおもしろいだけではなく、ひとことではかんたんに語りつくせない事柄についてを時間をかけて考えるおもしろさもある。特に今回は、「じっくりと時間をかけて読んでもらいたい」という観点から選出した。

読書のスタイルは人により様々であり自由だ。しかし、「この作品は何を伝えたいのか?」にとらわれすぎてしまうと、物事を無意識的に簡略化しすぎてしまい、複雑なことを複雑なままに受け止められなくなってしまうこともある。だからこそ、小説に慣れていない人ほどゆっくりと読んでみてほしい。そうすることで、今まで考えもしなかったことが考えられるようになる機会を得るのではないだろうか?

もちろん、初めは「難しい」と感じたり、文字を追うので精一杯かもしれないが、それでも構わない。何かひとつでも引っかかった言葉を頼りに次の1冊へと手を伸ばして見ると、きっとあなたが求めている1冊にたどり着けるはずだ。

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