Brooke Candy Photographer by Yulia Shur at avgvst

ブルック・キャンディ interview:車上生活のストリッパーがラッパーになるまで

GrimesやSiaにその才能を見出されたブルック・キャンディ。しかしその過去は決して平坦なものではなかった。ホームレス生活、ストリッパー時代、大手レーベルとの契約まで--。アートディレクションからポルノ映画の撮影までこなす謎多きラッパー、ブルック・キャンディの全貌に迫る。

by Hibiki Mizuno; photos by Yulia Shur
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18 December 2018, 7:18am

Brooke Candy Photographer by Yulia Shur at avgvst

ブルック・キャンディ(Brooke Candy)--形容しがたい、特殊なキャリアを持つカメレオンのようなパフォーマーだ。2012年にリリースされたGrimesのLP『Visions』に収録されている「Genesis」のMVにも彼女は登場している。当時ストリッパーとして働いていたブルックを、Grimesがパーティで声をかけたのがきっかけだった。近未来のポップ・ロボットのような衣装をまとい、地面につきそうなピンクの三つ編みブレイドのエクステを揺らすその圧倒的な存在感で、ブルックは一躍インターネット上で話題となった。

2013年には自主制作の音源と「Das Me」のミュージックビデオをYouTubeで発表。従来は女性を軽蔑するために使われてきた「slut(ふしだらな女)」という言葉を自分たちのものにしようと、圧倒的にセックスを肯定・賛美するラップを披露した。それを機に世界中から注目を集めたが、そのファッションやビジュアルの使い方に対し、従来黒人文化にルーツを持つものを利用しているという批判もあがった。しかし彼女は、それで萎縮する玉ではなかった。いつの時代も挑戦を続ける表現者は、物議をかもし、受けた批判は作品で応答してきたのだから。

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そんな彼女の素性はなかなか掴みにくい。ブルックはラッパーだけでなく、アートワークのデザインや写真撮影、イベント企画、ポルノ映画の監督まで八面六臂の活躍をしている。初期のプロフィールで自身を「ペテン師」と形容していたのも頷ける。ブルック・キャンディは常に目紛しく変化し続けているのだ。

2017年の春ブルックは、一度は契約を結んだソニーのRCAレコードとの決別を発表。それ以後、彼女は再びインディペンデントな活動を再開している。2018年だけでも、Peter WadeとMNDRを客演に迎えた「War」、ロシアのフェミニズム・アクティビスト集団プッシー・ライオットのナージャと稀代のクィアラッパー、ミッキー・ブランコとのコラボを果たした「My Sex」を発表、アダルト動画サイト〈PornHub〉との協働でポルノ映画『I Love You』の監督も務めている。大手レーベルの檻から解放されたブルック・キャンディは今後ますますその勢いを増していくだろう。

今回i-Dは、2018年11月に来日していたブルック・キャンディに単独インタビューを行なった。車中で生活していたストリッパー時代、Siaとの出会い、自身の根幹にあるフェミニズムとクィアネス、そしてTrump Roomでの来日パフォーマンス——彼女の型にとらわれない生き方に迫る。

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── 元々はストリッパーとして働いていたんですよね。

「アートに興味を持つようになったのは、サンフランシスコに住んでいたころ。写真を撮ったり、絵描きやドラァグクィーンと連んだりしていたから。そのあとロサンゼルスに引っ越して母と暮らしていたんけど、クィアだってカミングアウトしたら、家から追い出されてホームレスになったの。お金が必要だったんだけど、車の中で暮らしていると仕事を得るのは難しかった。シャワーも浴びられないし、まともな洋服もないから、面接にもいけない。だけど当時、友達のラバーナ・ババロン(Labanna Babalon)が、〈Cheetahs〉っていうバーでストリップをしてたの。バーといっても、女性たちが経営するフェミニスト・ストリップ・クラブみたいで、そこで働いている女性たちはみんな、すごく賢くて格好良かった。服を脱がなくてもいいストリップでもあったし。それで面接を受けて働くことになった。まだ車の中で生活してたし、服も友達に借りながらだったけど」

── そこからどのようにして音楽を始めたのか教えてください。

「稼ぐようになってからも散財はしなかった。ストリップ用の衣装を買って、もっと稼げるよう工夫していった。その貯金を使って音楽を作り始めたの。そしたらある日そのバーで、音楽プロデューサーと出会い、曲を作りにこないか、と誘ってくれて。わずかな所持金で借りたスタジオで録音したのが「Das Me」。次の日にストリップで500ドル稼いで、そのうちの200ドルでMVを作った。プロモーションには自分の持ってるありとあらゆるコネやツテを使った。世界に届くようにしたかったから」

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── DIYな始まりだったんですね。今もインディペンデントに活動されていますが、以前はソニーのRCAというようなメジャーレーベルと契約していた時期もありました。RCAと契約するまでにはどのような経緯があったのでしょうか?

「ツアーや撮影の仕事をするようになって、Ariel PinkやGeneva Jacuzzi、Seth Prattらと一緒にパンクハウスに住んでた。そしたらある日、突然Siaからメールが届いたの。「私の名前はSia。あなたのことはフリークだと思う。何か手助けしたい。私と会わない?」って。最初はなりすましだと思ったんだけど、またメールが来て会うことに。興味あることや好きなアートを訊かれたあと、「一緒にポップアルバムを作らない?」って誘われたの。興味はなかったけど、「もちろん」って答えた。Siaにそんなこと言われたら断れないでしょう」

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── だって、あのSiaですからね。

「それで5曲ほど作って、あらゆるメジャー・レーベルに持っていった。Siaがエグゼクティブ・プロデューサーとなって私のアルバムを出したい、というと、すべてのレーベルから何千万単位のオファーをもらった。それでソニーと250万ドルの契約を結ぶことになったの。Siaという超大物、そして私を売りたくて仕方ない年上の男性たちに説得されて。もっといい生活ができると思ったし、絶対に断れなかった。でもその判断は良くなかったと思ってる。エゴとお金欲しさによる決断だったから。今はただ自分のため、私の創作を好きな人たちのためだけにアートをやりたい。金儲けや白人男性が支配的な大企業とは関係ないアートを」

── 2018年は「Wars」「My Sex」「Nuts」と次々に新曲を発表しています。「My Sex」にはミッキー・ブランコやプッシー・ライオットのナージャも参加していますね。

「『My Sex』は文化的に今、絶対必要だと思った。アメリカ大統領選挙とロシアとの関わりを考えたときに、ロシアの政治的活動家であるナージャたち(プッシー・ライオット)に参加してもらうのが、私ができる最大限のアクションだった。それから既存のジェンダーに当てはまらず、本当にパンクなミッキー・ブランコと一緒にやるのも必須だった。彼は私たちの世代のGGアリンだと思う。「My Sex」のミュージックビデオでは、ノンバイナリー(男女に分類されないジェンダー・アイデンティティ)の体が出てきて、“ジェンダーは存在しない”ことを示している。これも重要なトピック。発言できる立場にいる人たちはもっと話していくべきだと思う。またはビジュアルで表現するか。それに近いことをやったのは、マリリン・マンソン。彼は「The Beautiful People」のMVで、人工膣と胸をつけて、長い髪で化粧をしてた。彼以外にジェンダー・ベンダーの美学を表現したアーティストを私は知らない」

── 「フェミニズム」や「クィアネス」「セックス・ポジティブ」というテーマがいつも作品の根底にあるようですが、小さいときからフェミニストであるという自覚はありましたか?

「自分でフェミニストだと意識したのは、ストリップ・クラブで働きはじめたころかな。そこで男性がどんなに抑圧的で搾取的になるかを見て、女性のエンパワーメントや平等性を考えるようになった。「これは私の使命だから、声を上げていかなきゃ」って。何かを純粋で正直なところから話すには、それを当事者として体験しなくちゃいけない。私はそこからインスピレーションを得てる。クィアに関しては、家を追い出されたときにクィアのコミュニティに救われたから。こんなに愛に溢れている人たちを見たことがなくて、このコミュニティのために闘ってやる、って思った。だからフェミニズムとクィア性は私にとって重要な要素」

── 「セックス」についても開けっぴろげに表現している印象があります。

「私が自分を性的に表現したり、セックスワーカーと協働するのは、「女性が性の主体である」という考えが受け入れられていないから(アジアでもそうだと思うけど西洋では特に)。本質的に私たちは動物で、衝動的に行動もすれば、性欲もある。それを受け入れさえすれば、セックスワーカーも平等に扱われる。病気や殺人も減ると思う。トランス女性には、偏見のせいで普通の仕事につけなくて、セックスワークを始める人もかなりいるし、亡くなってしまう人も多い。私たちはもう一度、1960年代の性に自由で、愛が中心だった時代のようにならなくちゃいけない。無条件な愛こそ、革命の根底にあるものだと思うから」

── アダルト動画サイト〈PornHub〉とコラボして発表したポルノ映画『I Love You』も話題になりました。

「超クールでしょ。ポルノは大衆的に消費されていて、みんなが見るものなのに、女性監督がいなかった。そこにはフィメール・ゲイズ(女性視点)もフェミニズムもない。美しさや官能もね」

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──
制作時に難しかったことはありましたか?

「ポルノを監督するのは楽勝だった。っていうのは、まず私はセックスが大好きだし、自分のイメージにも合ってる。それに彼らは、完全に自由にやらせてくれたから。内容は完全にクィアで、挿入はなし。美しくて、官能的、芸術的な作品にしたかった」

── アダルト業界では、日米を問わずセックスワーカーの扱いが問題視されています。

「出演した子たちから普段、男性監督にひどい扱いや性的暴行を受けたり、十分なギャラが払われなかったりするような環境で撮影してる、と聞いてとてもショックだった。でも私たちの撮影現場は夢のようだった。クルーが全員、女性かクィアの人たちで、全編ワン・テイクで撮ったから。というのもポルノは同じことを何度も、20テイクとかやらせるのが当たり前らしくて。私が求めていたのは二人の人間のあいだに生まれる化学反応。このポルノから、誠実さや官能を感じ取ってほしい。私も最初のカットを見たときは涙が止まらなかった。これはトランスジェンダー、レズビアン、ゲイのシーンを一本に納めた史上初のポルノだと思う」

── 今後の活動予定は?

「近々、ASHNIKKOっていうクールな若いラッパーと新しい曲を作る予定。ポップさを保ったまま、今まで私がやってきたことを全部ミックスするつもり。フェミニストすぎて男の子が聞けないわけじゃないけど、無視できないタフさでラップしてて、すごくダンサブルって感じかな」

── 最後に、今回の日本でのライブや印象を教えてください。

「Trump Roomでのライブは、今までやったことのなかでいちばんイケてた。VERBALやシタ・アベラン、ナディア・リー・コーエンも来たり、全身タトゥーのパンク・キッズたちがヘッド・バンギングしたりして最高だった。緊縛で宙につられてパフォーマンスをするのが昔からの憧れだったしね。夢のようなパーティだった」

── 緊縛師のHajime Kinokoさんと一緒に行なったパフォーマンスですよね。なにかコンセプトはあったのでしょうか?

「裸で縛られている私が「今ファックしたい」って歌っているのを見た人は、一歩引いて考えるでしょ? 「今見たの、何だったんだろう?」って。それは重要な役割で、私はそうやって演じるのが好き。楽しんでやっているの。日本人は私の考え方を理解してくれる。アメリカではパンクのようなサブジャンルとして扱われるけど、ここでは私のなりたいものになれる。それは私にとって大事で特別なこと。あと東京にきてだいぶセックスを楽しんでいる、ってのは言っておきたい。1日4回くらい。とっても愛に溢れていて、最高!」

先週公開されたばかりのブルック・キャンディの最新MV「OOMPH」はこちら。

http://bloodyguts.tumblr.com/
https://www.yuliashur.com/