「違うところにぶっとばして差し上げるものでありたい」:女王蜂アヴちゃん interview

その強烈なリリックと妖艶なフェロモンで人びとを魅了する女王蜂のヴォーカル、アヴちゃん。「男性性」と「女性性」のあいだで揉まれてきたから今の自分があるという彼女が自身の、そして社会のジェンダーを語る。

by Neo Iida; photos by Houmi Sakata
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19 November 2018, 7:43am

この記事は『i-D Japan No.6』フィメール・ゲイズ号から転載しました。

猛暑のなか、外での撮影を終えインタビューの席に着いたアヴちゃんは、野菜ジュースを飲んでひと息ついた。挨拶のあとの「お名前をお伺いしてもいいですか?」という言葉に、ああ、思ったとおりの人だなと思った。単なるアーティストとインタビュワーではなく、個と個で話をしようとしてくれる。

「ドン・キホーテでも流れてほしいなと思って作ったんです。日常にあることを歌わないといけない気がして」。女王蜂が今年4月に発売したシングル「HALF」は、〈踊るの大好き〉〈カーステでノリノリ〉という弾けるような歌詞で始まったかと思いきや、次の瞬間〈あたらしい普通としあわせ/そんなに遠くはないでしょう〉とシリアスな言葉を耳に突き刺してくる。昨年、アルバム『Q』で自身の少年性をひも解き、より深部に潜った感のある女王蜂の、次なるステージだ。アニメ『東京喰種:re』のEDテーマでもあるが、選ばれる前にでき上がっていたものだという。

「女性性、男性性よりも人間性だと思うんですね。私自身 “女子力万歳!”みたいな人間ではないので。だからこそ理論武装するような歌詞ではなく、誰にでもわかる言葉で、一笑に付せるものじゃないといけないなと思って。『何これ?』って鼻で笑われつつも、スッと身体に染みてくるような歌にしたかった。例えば浜崎あゆみさんって、表層だけ切り取ると、あの声とかヒョウ柄とかネイルが記号みたいに浮き立つけど、実は孤独を煮詰めたような歌詞じゃないですか。でも誰もが気軽に『あゆ』って口にできる。つまりそれだけ強度があって、尖っているんだと思うんですよね」

Avu-chan

「HALF」の“双子”だというカップリングの「FLAT」には、〈単館系ジェンダームービー/主人公は病むか死ぬか恋に敗れるか/ちょっと判んないね/判んないぜ〉と綴られていた。これまでもその音楽性の高さと、美しく儚い情景を描き出す歌詞が魅力的だった女王蜂だが、こうして素直にアイデンティティやジェンダーを突きつけたのはこれが初めてかもしれない。「アイデンティティを聞かれることが多い人生なんですよね。『出身はどこの国なの?』とか言われると、私は今日本語を喋っているのだけど、『それでよくないですか?』って。そもそも“アヴ”ってイスラム教の名前で、クリスマス生まれっていう時点でカオスなのに、さらに仏教徒なんですよ。大変なんですよ(笑)。だから聞かれることに飽き飽きしてたし、自ら言わなかった部分でもあったんですけど、やっぱり自分の言葉で言わなきゃいけないときが来たんだなって」

年齢や生まれた場所、身長、体重など、些末な個人情報を聞かれるだけでも面倒くさいのに、「あなたは誰ですか?」という芯を突く問いほど疲れるものはない。その答えは「私は私です」に他ならないからだ。それをむしり取って、一体何になるというのだろう。不毛な質問と、アヴちゃんは延々向き合ってきた。「ちょうどね、さっき外で撮影していたら、半裸の男の子と、ブチ切れてるお母さんに出くわしたんです。聞いていると、ついさっきまで水浴びをしてて、お母さんが彼の着替えを忘れてしまったみたいで。お母さんが『半裸でいなさい! 男の子なんだから!』って言ったんですよ。そしたら男の子が泣いて『いやぁーーー!』って。友達に会うかもしれないし、日に焼けちゃうし、普通に嫌じゃないですか。男の子だからって半裸でOKって、それ、いちばんキャッチーにあかんやろって」

Avu-chan

「男らしさ」「女らしさ」という“フラッグ”は、私たちが日々を送るいろんな場面に存在する。小さな頃から刷り込まれたそれは、当たり前のように私たちの行動を支配して、ちょっとした言葉の隅に潜み、知らないあいだに誰かを傷つける。「みんな赤と青の2色をもってると思うんですよ。それを混ぜることで、紫になったり、深みのある青になったりして、グラデ ーションを作ってると思うんです。青だけ、赤だけって、パキッと別れてるのって、なんだかコスプレみたい。人生、コスプレしててもしんどくないですか? それに、美しさに男も女もないんですよね。うちのライブに来てる人って、圧倒的に美しい、カッコイイ、面白いっていうところに共感してくれていると思うんですよ」

老若男女が集う女王蜂のライブは、次第に動員が増えているという。その現象を切り取れば、アヴちゃんのような意識をもつ人は、少なからず増えているのかもしれない。ステージの上をヒールで踏み鳴らして8年。ひとつ上がって、ひとつ降りて、と大切に大切にその歩を進めてきた。「女王蜂っていう名前だけでドラァグ枠にされがちなんですけど、私たちはレディー・ガガが好きだったり、ただ派手なだけ。〈健康第一〉って歌うくらい、朝方だし、サマソニも出番早めにしてください! みたいな感じだし(笑)。どちらかというと『女王』という言葉が示すのはクイーンってこと。私は女王蜂の主人であり女将。守らないといけないものがあるんです」

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私が女王蜂を守る、という気迫ある表情も、「あげ~!」とEGGピースをキメるギャルの顔も、どちらも素顔のアヴちゃんだ。その緩急を許しているのは、バンドという揺るぎない存在があればこそだろう。

「バンドをやることで、誰かのことを愛してるとか、ありがとうっていう気持ちをもてるようになったんです。もし私ひとりだったら、モデルとしてハードコアな人生を生きてたと思う(笑)。『恵まれてます、ありがとう』と言うだけでは足りないくらい私は恵まれていて、楽しくやらせてもらってますね。今日も全身Givenchyを着て『ジバンチィ! イェーイ』なんて言って(笑)。この身体にこの心をもてたことがとても嬉しいし、このチームと一緒に居られることもすごく嬉しい。男性性、女性性っていうところで揉まれてきた自分があって、それで今があるので、一概にしょうもないものだとも思えないんですね」

ジェンダーに限らず、今を取り巻くさまざまな問題に、あらゆるレイヤーがある。その狭間で置き去りにされてしまう人。忙しなくアップロードされていくタイムラインの裏側で、前を向けずに立ちすくんでしまう人。アヴちゃんは、そんな声にもならない憂いを「もう、みんな!」とすくいとる。その圧倒的な美しさと人間力で、音楽や映像、写真を通して、見る者の常識を激しく揺さぶってくる。「夢を与えたいですね。その音が鳴る一瞬、ページをめくるあいだだけかもしれないけど、それを聴いてるあいだ、見てるあいだは、違うところにぶっとばして差し上げるものでありたい。そう思います」

Credit


Text Neo Iida
Photography Houmi Sakata
Styling Avu-Chan
Hair and Make-up Mika Kimura

AVU-CHAN WEARS DRESS, COAT AND BOOTS GIVENCHY. EARRINGS MODEL’S OWN.

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