Reza Abdoh. Law of Remains. 1992. Photograph copyright Paula Court.

演劇界の異端児レザ・アブドーの回顧展

ニューヨークのMoMA PS1で、クィアカルチャーと社会の腐敗をとらえたレザ・アブドーの回顧展が開催された。

by Mariana Fernandez; translated by Nozomi Otaki
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18 September 2018, 9:13am

Reza Abdoh. Law of Remains. 1992. Photograph copyright Paula Court.

エイズ関連疾患によって、わずか32歳でこの世を去ったレザ・アブドー(Reza Abdoh)は、米国の実験演劇においてもっとも急進的な人物だ。彼はその短い人生のなかで、童話や文学、BDSM(Bondage、Discipline、Sadism and Masochism)やクィアのクラブ文化に、ケーブルテレビの映像を組み合わせた〈コラージュ〉を作成し、米国社会の悪習を反映する演劇を創り上げた。アブドーの過激な作品は、1980年代から1990年代にかけて、ロサンゼルスやニューヨークで上演され、エイズの大流行による人道危機やレーガン政権下の文化戦争に果敢に挑んだ。

1992年のニューヨーク・タイムズ紙の劇評で、ステファン・ホールデン(Stephen Holden)は、アブドーの作品の狙いは「啓蒙と同時に罰すること」だと評した。脚本・演出両方を手がけていたアブドーは、役者と観客を極限まで追い詰めた。彼の作品は、廃倉庫や怪しげなホテルの一室、再開発前のミートパッキング地区の、血が染みついた通りなどで上演された。

アブドーは亡くなる前に、自身の作品の再演を禁じた。演劇コミュニティに出回っている数本のビデオテープを除き、彼の現実離れした作品の大半は観ることができない。そんなイラン生まれのアーティスト、アブドーの初の大規模な回顧展「Reza Abdoh」が、今月3日までMoMA PS1で開催中されていた。

Reza Abdoh. Bogeyman. 1990. Photo by Jan Deen.

6つの部屋で構成された同展は、まず、イランの裕福な家庭で育ったアブドーが、演劇の天才としてカルト的人気を博すまでの過程を追う年表から始まる。アブドーは、皇帝モハンマド・レザー・パフラヴィー治世下で近代化が進むイランに生まれた。広大な私有地で育ち、イングランドの一流寄宿学校ウェリントンカレッジに入学した彼は、いくつかの演劇作品で教師の助手を務めた。

イラン革命後、アブドーの父と3人の兄弟は、米国への亡命を余儀なくされた。1979年、ロサンゼルスで暮らし始めた一家は、1986年のレーガン政権の移民改革統制法によって移民に恩赦が与えられるまで不法滞在を続けた。アブドーが初めてHIV陽性と発覚したのは、グリーンカード申請のためにエイズ検査を受けたときだった。この出来事が、のちの彼の作品に大きく影響することとなる。

父親から身体的虐待を受けていたアブドーは、時には金銭と引き換えに、年上のゲイ男性に愛と安らぎを求めた。彼は南カリフォルニア大学入学をきっかけに一人暮らしを始め、ロサンゼルスのあちこちで口語劇を上演した。1988年に上演された『Peep Show』では、観客はすすけたホテルの6つの部屋に案内され、それぞれポルノ、麻薬、イラン・コントラ事件にまつわる不穏な脚本を基にした戯曲を鑑賞した。また、エウリピデス『メディア』のリメイク作品は、屋内のバスケットコートで上演された。

Reza Abdoh. Bogeyman. 1990. Photo by Jan Deen.

回顧展の会場には3つの映写室があるが、そのうちの1つで上映されるのがアブドーの代表作『The Hip-Hop Waltz of Eurydice』だ。この作品は、ギリシャ神話の英雄オルフェウスが冥界に下り、美しい妻エウリュディケを地上に連れ帰るために冥府の神々を説得するという、古典的な恋物語をベースにしている。悪夢から生まれたかのような、アブドーが再解釈したギリシャ神話は、あえてジェンダーを逆転させた中性的なキャラクターが登場する。

アブドーは、演劇に映像を取り入れる先駆けとなった劇作家でもある。舞台の背景には、ブッシュ元大統領の顔が合成された裸の男性が踊ったり、自由の女神が爆発するなど、不気味な映像が映し出された。ロサンゼルス・タイムズ紙の劇評家シルヴィ・ドレイク(Sylvie Drake)は、『The Hip-Hop Waltz of Eurydice』は「気弱な人向きではない」と警告した。さらに彼女は、この作品を「難解で断片的、辛辣であるのと同時に、ダイアモンドのような輝きを放つ」と評している。

アブドーのカンパニー〈dar a luz〉は、数々の独創的な作品を創り上げた。例えば、アンディ・ウォーホルが、連続殺人犯ジェフリー・ダーマー(Jeffrey Dahmer)を題材にした映画を作るというシュールな作品『The Law of Remains』、ネオナチや白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)を彷彿とさせる、米国の都市の衰退と人種差別を自由に解釈した『Tight Right White』だ。アブドーの6作品に出演したジュリアナ・フランシス(Juliana Francis)は当時を振り返り、「つらいときもあったけれど、思い切り自分を解放できた」と述べている。アブドーの舞台は、いかなる社会的制約も受けない聖域だった。そこでは、大量殺人、身体切断への性的欲求、ネクロフィリア、カニバリズムすら禁じられていない。

あるとき、自身の作品を前衛的だと思うかと記者に聞かれたアブドーは、次のように答えた。「そうは思いません。急進的なものとは、街なかにあるもの、つまりイラクで起こっている戦争です」

Reza Abdoh. Quotations From a Ruined City. 1994. Photograph copyright Paula Court.

アブドーの病状が悪化するにつれ、エイズやクィアの身体のコントロールは、彼の作品において、単なるメタファー以上の意味を持つようになっていった。彼の遺作『Quotations From a Ruined City』は、現代社会の資本主義が引き起こした崩壊や社会の腐敗を映し出している。エイズという病名は使われないものの、酸素マスクをつけて苦しそうに喘ぐ男性が何度も登場する。

1995年、アブドーはニューヨークの自宅で亡くなった。皮肉にも、兄弟と一緒に末期患者が登場する作品に取り組んでいる最中だった。演劇は、まさに死の瞬間まで彼の命をつないでいたのだろう。演劇は彼を救うことはできなかったが、彼自身が失ってしまった、人びと、米国、さらに自身の身体への信頼に向き合う手段だったのかもしれない。私たちはもう二度と、五感を攻撃するアブドーの演劇を体感することはできない。それでも、この回顧展は、観る者の心をかき乱しながらも、ある種の安らぎを私たちに与えた。優れた芸術作品とは、かくあるべきなのだ。

Reza Abdoh. Law of Remains. 1992. Photograph copyright Paula Court.
Reza Abdoh. Bogeyman. 1990. Photo by Jan Deen.
Reza Abdoh. Quotations From a Ruined City. 1994. Photograph copyright Paula Court.

This article originally appeared on i-D US.

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