Princess Margaret, Photography Cecil Beaton, 1949 © Cecil Beaton, Victoria and Albert Museum, London

「この展覧会はショーよりもずっと大事」:マリア・グラツィア・キウリが語る、史上最大のDior展覧会

Dior初の女性クリエイティブディレクターが、Diorのパワーと栄光を考察する。

by Steve Salter; translated by Ai Nakayama
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07 February 2019, 6:43am

Princess Margaret, Photography Cecil Beaton, 1949 © Cecil Beaton, Victoria and Albert Museum, London

ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)では、当館来場者記録を更新したアレキサンダー・マックイーンの回顧展「Alexander McQueen: Savage Beauty」以来最大規模となるファッション展「Christian Dior: Designer of Dream」を開催中だ。

本展では、展示スペース11室分、全500点以上の展示品が並べられる。200点の貴重なドレスをはじめアクセサリー、ファッション写真、映像、香水、メイク道具、イラストレーション、雑誌、創設者クリスチャン・ディオールの私物などを通して、20世紀を代表するクチュリエである彼の多大なる影響力やブランドの歴史、そして彼の意思を引き継いだ6人のアーティスティックディレクターの功績をたどる。来場者は、ムッシュ・ディオールそのひとを深く知れるだけでなく、Dior史上初となる女性クリエイティブディレクター、マリア・グラツィア・キウリに至るまでの、ブランドのテーマの変革を目の当たりにする。

今年で創業72周年を迎えるDiorというラグジュアリーブランドについて、あなたはどれだけ知っているだろう。 第二次世界大戦後のパリで創業されたことは? ムッシュ・ディオールが、20世紀を代表するクチュリエとして名を刻んでいることは? ムッシュ・ディオール亡きあと、Diorのレガシーを引き継いだデザイナーたちについては? 英国マーガレット王女が21歳の誕生日に着用したドレスは? これらすべての答えを、そしてそれ以上のことを教えてくれるのが「クリスチャン・ディオール:夢のデザイナーたち(Christian Dior: Designer of Dream)」だ。

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本展は、2018年パリ装飾美術館で開催された、まるでDior印のテーマパークのような「Christian Dior: Couturier du Reve」を元にして再構成された。「キュレーターが違えば、内容も変わります」と説明してくれたのは、マリア・グラツィア・キウリ。私たちは〈英国式庭園〉をテーマにした展示室で、ムッシュ・ディオール、イヴ・サン=ローラン、マルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズ、そしてキウリがつくった何着ものドレスに囲まれている。「同じものを見ていても、眼は違いますから。今回のキュレーターはまた別の視点でDiorを見ているんです。パリではもっとフランス的な要素が表れていましたけど、今回はとても英国的。文化的な違いというものを考えてしまいますね。私は非イタリア系ブランドで働くのはDiorが初めてだし、世界じゅうのひとたちとともに働いていますけど、ブランドのDNAはフランス的だし」

キウリは自らの役割をキュレーターにたとえ、人とつながり、意見を発信することを自らの責務ととらえている。「私は注意深く世界に眼を向けるよう努め、今の世界の姿を表したファッションを生み出そうとしています」。2016年、Diorの71年の歴史のなかで初となる女性クリエイティブディレクターに就任したキウリは、フランスを代表するラグジュアリーブランドの新章を、細心の注意を払ってかたちにし、女性のエンパワーメントに関する議論をパリ・ファッションウィークに提起してきた。キウリのコレクションは、前に進むために過去を参照しており、そのファッションはフェミニズムと結びついている。2018年春夏コレクションでは、女性問題を痛烈に提起したリンダ・ノックリンによる論文のタイトル「なぜ偉大な女性芸術家はいなかったのか?」、そしてキウリのパワフルなDiorデビューとなった2017年春夏コレクションでは、作家のチママンダ・ンゴズィ・アディーチェの著書のタイトル『みんなフェミニストでなきゃ』を引用し、そのメッセージは世界から大きな反響を得た。ファッションを男女平等のより広範な議論のなかに置く彼女のあとには、数々のデザイナーたちが続いている。

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男性主導でかたちづくられてきたファッションの歴史において、Diorのトップに立った初の女性デザイナーであるマリア・グラツィア・キウリの重要性は明白だ。「もちろん私は女性で、また違った視点をもっています」とキウリは簡潔に述べる。「私は他の女性に何かを無理強いしたくはない。ただ議論のきっかけになりたいだけで、Diorには、女性の声に耳を傾けるブランドであってほしい。ファッションが何かしらのルールを押しつける場合もありますが、若いころ、ファッションに興味を抱いていた私にとって、ファッションとは自由であり、自らのアイデンティティを表現することに他なりませんでした」

ジャンフランコ・フェレの印象的なシルエットや、ジョン・ガリアーノの卓越したストーリーテリングなど、Diorの歴史には数々のモーメントが刻まれている。彼女のお気に入りは何だろう?「アーカイブを眺めるたびに、毎回インスピレーションを与えてくれるものは違いますね。でもとにかくいつも、自分のクリエイションを大事にしてます」とキウリ。「個人的にはマルク・ボアンが好きです。彼が活躍していたのは60~70年代で私の青春時代ですし、ジェンダーやセックスに関しても、社会政治的に大きな変化が生まれた時期です」。今やボアンの功績は見落とされがちだが、実は彼は、Diorのクリエイティブディレクターとして最長の就任期間を誇る。60、70、80年代、激動の文化のなかでも負けずにブランドを率いたデザイナーだ。「今私が着たいと思うのは、彼のデザインしたアイテムです。タイムレスな魅力があって。彼がクリエイティブディレクターに就任したとき、『女性を忘れてはならない』といったそうです。私も、そう思いながらやってます」

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「結局、みんなが見ているのはDiorというブランドなんです。Diorを率いてきたデザイナーたちではない」。〈デザイナー〉セクションを通りながら、キウリは謙遜する。「イヴ・サン=ローランからラフ・シモンズまですべてのデザイナーたちが、創業者や、ブランドの作法を自らのやりかたで参照しつつ、それでいてなお自分の味を加えたデザインを考案してきました。でも見いだすことができるのって、ファッション史家やファッションマニアくらいですよね」。今回の展覧会は、〈ダンスホール〉〈旅〉〈歴史主義〉〈庭園〉をはじめとする数々のテーマの展示室を通して、Diorの歴史における相互関係を明らかにしている。特に庭園をテーマにした部屋では、後継者たちがいかにムッシュ・ディオールの庭園への情熱を称えていたかがわかる。イヴ・サン=ローランは薔薇のモチーフを頻繁にデザインに取り入れたし、マルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノも優れた〈庭師〉として、コレクションにフローラルの刺繍で華やかさを加えていた。100万本もの生花が背景に使われた、ラフ・シモンズのDiorデビューコレクションも印象的だったし、マリア・グラツィア・キウリのクチュールデビューコレクションで登場したドレスは、手染めのシルクペタルを用い、まるでシルクチュールのレイヤーのあいだに丁寧に挟まれた押し花のようだった。夢幻的だが、キウリのいうとおりだ、ということははっきり理解できる。展示作品の説明書きを読まなくてもDiorとわかる、それこそがこの卓越したブランドのパワーなのだ。「Diorが、時代を象徴しながらも、時が経ってもオリジナルの価値観を失わないでいられるブランドだということを、みんなにみてもらいたい」

V&Aで開催されたアレキサンダー・マックイーン展、デヴィッド・ボウイ展、フリーダ・カーロ展を訪れたキウリは、本展が観る者の感情をかきたて、記憶となり、啓蒙することを願っている。「何もかもがあっという間に進んでしまうこの時代、ファッションについてまた別の角度から議論できるような、こういう展覧会を推進していくことはとても大切です」とキウリ。「小さな画面を通して写真を眺めても、限られたものしかみられない。私たちには、もっといろんなものを提示して、みんなに教えを伝えていく責任があるんです。画像だけじゃダメ。大事なのは経験です」

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経験を提供することへの情熱は、ここ最近の彼女自身のDiorショーにも反映されている。たとえば2019年リゾートコレクションでは、メキシコの有名なロデオ騎手、エスカラムーザを会場のシャンティイ城に招聘。2019年春夏プレタポルテコレクションでは、テルアビブ出身の振付師、シャロン・エイアルのダンスカンパニーを背景にした。そして最新のクチュールショーでは、ロンドンを拠点とするアクロバティック・カンパニー〈Mimbre〉の力を借り、女性の強さを表現した。キウリは、さらっと終わってしまうランウェイショーには興味がない。

「クリスチャン・ディオール:夢のデザイナーたち」展で、Diorは新しい経験を提供する。「この展覧会はショーよりもずっと大事です。だって、より多くのひとたちと経験を共有できるから」とキウリはうれしそうだ。「ショーに呼べるのは1000人程度で、かなり限定されてる。でも展覧会には誰もが足を運べて、クチュールの真価というものを、新たな世代に知ってもらうこともできます。私たちはどんどん伝えていかないと。ファッション、職人技、Diorというブランド。それらの裏にある美しさを示していくんです。いろんなひとにより多くのことを見てもらえるのが展覧会ですから」。本展は、アレキサンダー・マックイーンの回顧展が打ち立てた来場者記録をきっと更新してしまうだろう。チケットはお早めに。

「Christian Dior: Designer of Dream」展はロンドンのV&Aにて、2019年7月14日まで開催されている。

This article originally appeared on i-D UK.

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