Masayuki Ino Photography by Houmi Sakata 

doublet interview:井野将之が語る、受賞、帰国、そして今

「もうすぐ1週間。ようやく実感が湧いてきました」。LVMH プライズ 2018のグランプリを受賞したdoubletのデザイナー井野将之。数日後には展示会のためにパリへとんぼ帰りする彼に、ロングインタビューを敢行した。

by Tatsuya Yamaguchi; photos by Houmi Sakata
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15 June 2018, 2:16pm

Masayuki Ino Photography by Houmi Sakata 

日本時間の6月6日(水)深夜。目が覚める、素晴らしいニュースが飛び込んできた。今年で5回目となる若手支援コンペティション「LVMHヤングファッションデザイナープライズ(以下、LVMH プライズ)」の2018年度グランプリに、doubletのデザイナー、井野将之が選出されたのだ。「謙遜ではなく、まさか自分が獲るだなんて思ってもいませんでしたよ」。記念すべき、しかし激動の日々を過ごす彼に、i-D JAPANはロングインタビューを敢行することができた。

——グランプリ、おめでとうございます! 日本、ひいてはアジア人初の快挙です。

ありがとうございます! 審査が進み、最後のプレビューの時でさえもグランプリに選ばれるとは微塵も思っていませんでした。今は数日経ち、ようやく実感が湧いてきたところ。身近な人たちから祝福の言葉を余りあるほどいただいたことが、何よりも嬉しいです。

——LVMHプライズの特徴のひとつに、ラグジュアリーメゾンを手がける名だたるデザイナーらが最終審査に関わるという点があります。彼らとのコミュニケーションのなかで、印象的だったリアクションはありましたか?

3月に行われたセミファイナルのプレビューでハイダー・アッカーマンさんが、角度によって3パターンの柄が見えるPVCの服を見て「この素材をジョン・ガリアーノがみたら嫉妬するだろうね」と言ったのは印象的でした。ちょうど同じ頃、Maison Margielaでホログラム素材を使っていた頃でしたから。ファイナルでは、カール・ラガーフェルドさんがTシャツをプレス圧縮してカップラーメンの容器に入っているものや、同じく圧縮してハンガーの形状になっているシャツをみて声をあげて笑ってくれました(笑)。光栄なことに、マーク・ジェイコブスさんからは「これはどう作っているんだ?」と質問攻めにあいましたね。

——井野さんの“ユーモア”が世界共通であることと同時に、彼らのデザイナーとしての好奇心や探究心をひしひしと感じさせるエピソードですね。

その点は本当に感じました。若手が作る服にも惜しみない興味を持って、素直に見てくれる。圧倒的な貪欲さをもつクリエイターなんだなと。率直に嬉しかったです。

——今回のグローバルな賞がきっかけでdoubletを取り巻く流れも大きく変わってくるかもしれません。そこで改めて、ブランドの軌跡にある転機を教えてください。

元colette(コレット)のディレクター、サラ・アンデルマンさんと出会えたことは最大の転機だったかもしれません。彼女はLVMH プライズのプレビューにも来場してくれて、自分のことのように喜んでくれました。2016-17年秋冬からcoletteが閉店するまで扱ってくれましたし、ウィンドウディスプレイにdoubletを取り上げてもくれ、そのグローバルな影響力はすごかったです。サラが審査員を務めるTokyo Fashion Awardを受賞したおかげで開催できたパリの初展示会では、ロサンゼルスのショップ、424とコラボした経緯で、50アカウント以上の取引先を持つ彼らが僕の展示会にどんどん人を流してくれたり……。少しずつ芽が出ていたものに皆さんが栄養を注いでくれて、じわりじわりと展開を広げることができたと思っています。

Photography by Ittetsu Masuoka form the doublet collection 2018AW "Ready-to-Where ?"

——ストリートウェアを主軸におくdoubletの服作りが評価されたということは、時代の空気とマッチしたということなのでしょうか?

このプレビュー中ではそうしたことを肌で感じることはなかったですね。僕の見立てとしては、審査員の眼にdoubletの服が“奇妙”なものとして映ったのだと思います。偶然にも過半数の方が、僕のやることを面白い、新しい、興味があるといったふうに感じていただけたと。

——以前、若い頃に夢中になっていたカルチャーや、当時着ていた服に真っ向から向き合うことがコレクションの出発点だとおっしゃっていましたが、今もデザインソースは井野さんの記憶のなかにあるということでしょうか?

最近は、人と共有できるもっと懐かしい思い出を探そうとしていますね。たとえば、忘れかけていた“アナログ”なものって今、味があるし、新鮮だなという興味の方が強い。先ほどの“圧縮”のアイデアも、お風呂に入れると膨らむ恐竜の人形や、お土産屋にある“水に濡らすとタオルになるボール”を思い出したから。柄が変わるPVC素材も傾けると恐竜が動く定規から。僕の思考にはそれらを“どう変えようか”というアイデアが常に存在していて、その変えたことを着る人に分かりやすく伝えることが“デザイン”だと考えています。

Photography by Ittetsu Masuoka form the doublet collection 2018AW "Ready-to-Where ?"

——デザインのブラッシュアップはどのようなアプローチをされるのですか?

自分が作った服の一番のファンは自分だし、クローゼットはdoubletだらけ。だから、ファーストサンプルがあがると、その服を着て街に出かけるんです(笑)。自分が恥ずかしいなと思ったらその時点でもうダメ。お蔵入りになることも、裾を20センチくらいばっさり着ることも、こういう着丈や身幅の方が着やすいと部分的に思うこともある。そもそも自分の服ばっかり着ているから、今までとは違うものが欲しくなってくるんです(笑)。去年の自分が羨ましがるものを作ろうという気持ちは、常に抱いていることです。

——自身が着たい服でありながら、男性も女性も、幅広い体型の方もエイジレスに着ることができる。doubletにはいわゆる定型化されたマネキンがないように思います。

まさにそうですね。いわゆるサイズレンジの基本形がないんです。肩が異様に詰まっていたり、逆に大きくドロップしていたりと、ぱっと見のサイズ感はちぐはぐでも、着用感はパターン上でしっかり計算しています。もちろん僕にもコンプレックスがありますが、誰に似合うかわからなければ、誰でも似合うんじゃないか。どう着るかはお客様に委ねる部分もありますが「これが“この服”のMサイズです」と言い切れることを前提に一着一着をつくっています。

——海外でコレクションを見せる機会が加速度的に増えていったなかで、doubletの特性として見えてきたことはありますか?

パリでブランドの説明をするときにも使っていて、doubletの軸として決してぶれないと確信できるのは“sense of humor”。服作りはもちろん、お客様に届けるやり方にも“sense of humor”が内包されていなくてはいけない。たとえば、ファッションブランドらしくない動画。ウィンドブレーカーをつくったときはラジオ体操の番組を、服の着方が分かりづらいTシャツはその開封動画を教育番組系の某TV番組をオマージュした動画を制作しました。試行錯誤ですが、誰もやっていない、自分がよく知っていて、今やれば楽しいと直感できることにユーモアは潜んでいる。

——この高速ラジオ体操が海外の方にはコンテンポラリーダンスに見えたり(笑)。そうしたアイデアの源泉にしても、日本人であるということは井野さんのスタンスとしてぶれない。

もちろん。日本で生まれ育って生活していて、僕が経験したほぼすべてのことは日本でのこと。ラジオ体操だって、海外の人よりも正確に出せるからこそ、ふざけた要素を織り交ぜても芯がぶれない。イマジネーションの源が僕の経験のなかにあるうちは、日本人らしくあり続けると思います。今回、素晴らしい賞をいただいたこともまた、僕の“ひとつの経験”です。

http://doublet-jp.com/

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