Prozac Nation, Jason Biggs, Christina Ricci, 2001, courtesy of Everett Collection.

うつ病にかかった恋人と(安全に)別れる方法

相手にとっても自分にとっても適切なふるまいかたを、カウンセラーに訊いた。

by Rae Witte; translated by Ai Nakayama
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09 April 2019, 7:13am

Prozac Nation, Jason Biggs, Christina Ricci, 2001, courtesy of Everett Collection.

恋人がフロリダ州マイアミの家を出て、アップステート・ニューヨークへと戻った。彼が出ていって1時間のあいだに感じた、強烈な解放感とむかむかするような罪悪感を私はよく覚えている。ついにやったんだ、と。(彼とはその後すぐに別れた)

病院で診断されたわけではなかったが、同棲していたあの頃、彼は間違いなくうつ病だった。命を懸けてもいい。家族と私それぞれに「向こうよりこっちにいたほうがいい」と吹聴しながら、私たちふたりが暮らすマイアミの家とシラキュースの実家を行き来していた彼は、ついにベッドから出られなくなった。私とも距離を置き、どう元気づけようとしてもほとんど反応がなかった。

コロンビア大学の〈Mailman School of Public Health〉とニューヨーク市立大学パブリックヘルス&ヘルスポリシー大学院の研究者たちは、12歳以上の米国人のうつの発症率が、2005年から2015年にかけて大幅に増加していると明らかにした。特に12~17歳の若者に増えており、うつを訴えた割合は、2005年の8.7%から、2015年には12.7%まで上昇している。

認可メンタルヘルスカウンセラーのジョア・リブール(Joa Riboul)は、ニューヨーク州立大学オルバニー校のカウンセリング&心理学サービスセンターでメンタルヘルス・ケアマネジャーとして働き、うつに苦しむ学生たちの姿を目にしてきた。「死別、経済的問題、恋愛関係の破綻、自然災害、病気など、何か具体的な出来事をきっかけにうつ病や気分変調症を患うひともいますが、特にきっかけとなる出来事もなく発症するひともいます」

元恋人の母親は、私たちが付き合い始め、徐々に私が彼の世界の中心になってきた頃に亡くなった。それから3年、国を横断する距離の引っ越しや、これ見よがしなアルコール依存、家族と恋人(私)への嘘八百などいろいろあり、ついに彼は壊れてしまったようだった。意志とは関係なく震える腕で私は彼の姉妹に電話をかけ、そろそろ彼を実家に戻したほうがいい、と決意した。彼の家族も、彼は自分たちといたほうがまだ良い状態だと思っていたようだし、正直、私もこれ以上ひとりで彼の面倒をみれる気がしなかった。

先ほどジョア・リブールが言及していたとおり、何か具体的な出来事がうつにつながる場合もあれば、特にきっかけもなく発症することもある。私はパートナーを診断することはできないけれど、彼にはうつ病に関連する数々の症状が表れていた。かつての趣味への関心を失ったり、前ほど楽しまなくなること。倦怠感、エネルギーの減退、過眠症、もしくは不眠症。すべてのものを無価値と感じること。体重の急激な増減、食欲の増減などもあった。

彼が実家に戻ってからも別れないつもりではあった。しかし私は突如として、自分の生活が彼の幸福を中心に回っていたことに気づいた。自分自身のことは二の次にして、趣味も後回しにし、彼の気分を害さないように彼のあらゆる感情を受け入れる努力をした。私自身は母と仲が良かったので、母親を亡くした彼に感情移入していた。このひとは、母親と毎日電話もできないんだ、と心痛く思っていた。

もし私と別れたら、彼には頼れるひとがいない。面倒をみてくれるひとも。そう、最終的に私はこんな心境に至っていて、だからこそ彼との不健全な関係をダラダラと続けることになったのだ。友人にはっきりとこう打ち明けたこともある。「もし今彼からプロポーズされたら、イエスって答える。人生最悪の決断だとわかってても」。これが、まごうことなき本心だった。

結局、彼から別れを切り出された。私もいずれそうなるとは感じていたが、別れの責任を負いたくなかったのだ。当時は、いっしょにいると約束したんだから裏切れるはずがない、と思っていた。うつのパートナーと暮らしていると、自分の心身の健康は二の次になる。自分のことですら注意を払えない相手が、私のことに気を配れるはずもない。

大切なひとがうつに苦しむ姿をみているのはつらいが、同時に、自分自身への配慮も簡単に忘れてしまう。パートナーを幸せにしなければ、という義務感に駆られて、自分のことを蔑ろにしてしまうのだ。このひとと一生をともにしよう、と考えている相手ならなおさらだ。

しかしどれほど罪悪感に苛まれようと、どれほど大切な相手だろうと、夫婦だろうと、別れを告げたっていいのだ。当然、心身ともに健康なふたりの別れと同じようにはいかないが、不可能ではない。別れを決断する方法、別れ方、別れたあと自分のため、そして相手のために何ができるのかを、ジョア・リブールが解説する。

——別れていいのかという迷いはありつつ、相手の存在によって自分のアイデンティティが失われていると感じる。そういうときはどうすればいいのでしょうか。相手を傷つけずに、自分自身をちゃんと大切にするには?

これだけは覚えておいてください。他人がどう感じるかなんて、私たちはコントロールできない。コントロールできるのは自らの行動、思考、感情だけです。ただ、自分の行動が直接的に他人に影響を及ぼすこともあるので、相手の課題を認識、理解し、相手の思考や感情に共感してあげることが助けになる場合もあります。もちろん、コミュニケーションはいつだって重要ですね。付き合っているときも、別れるときも。

——パートナーがうつで、それでも自分から支援を受けようとしない場合はどうすれば?

支援を受けることを強制はできません。必要なときはいつでも手を差し伸べるし話を聞くよ、と伝えてあげるのがいいでしょう。あるいは助けになりそうな手段を知っているよ、と伝えるんです。相手がそういったものに頼ってみようと思う日がくるかもしれません。もし相手に自殺願望があったり、精神的苦痛が大きい場合は、自死対策関連機関の連絡先(日本なら、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)など)を教えてあげてください。苦しむ本人の代わりに、あなたがそういった機関に連絡しても構いません。

——私自身もセラピーを受けたほうが?

贔屓目は抜きにしても、セラピーはあらゆるひとにとって有効だと考えます。セラピーでは安心できる空間が提供され、先入観や偏見もない。ただ話を聞いてくれるひとがいる。とにかく苦しいときも、誰かに耳を傾けてほしいときも、セラピーは精神や感情に寄り添ってくれます。

——相手が自分に依存することに慣れきってしまった場合、相手に別れたいと伝えるにはどうすればいいですか?

当たり前のことかもしれませんが、まずは正直でいること、自分の心に従うこと、自分に嘘をつかないことがいちばん大切です。関係を終わりにすることで相手に降りかかる試練をしっかり理解していれば、相手もあなたの共感や支援を感じ取れるはず。強い意志を持ってはっきりと自分の意見を述べてください。

——そのとき私は具体的に何といえば?

まずは直接会って話せるかどうかを訊きます。話す際は「私は〜」と主語を自分にして伝えること。たとえば「私はこの関係はもうダメだと思う」とか。主語を「あなた」にしてはいけません。「私」を主語にした文章なら、相手は自分が責められているような気分になりにくいんです。非難されたような気分になったり、怒ったり、ということも少ない。そのため、あなたの言葉にも耳を貸してくれやすいし、協力的になってくれます。繰り返しますが、他人の反応はコントロールできない。コントロールできるのはあなたが演じる役だけです。でも正直でいれば、誰からも責められることはありません。

——もし相手がこちらの話を聞いてくれなかったら? あるいは、別れたくない、と主張したら?

もちろん関係性次第ですが、どんな場合でもいえるのは、安全、安心感がいちばん大事だということ。もし相手が心配なら、相手に先ほどのホットラインを伝えるのに加えて、相手の支援機関の誰かに別れたことを知らせておいてもいいですね。もしあなたの意志に非協力的だったり、なかなか受け入れてくれない場合は、〈壊れたレコード〉と呼ばれるテクニック(訳注:とにかく同じ言葉をひたすら繰り返すこと)を使って、自分の意志を強く言い聞かせてください。しっかり距離をとって、遠くからサポートすれば、メッセージが曖昧になったり、誤解されたりすることを避けられます。また、自分自身が安心感を覚えているかを絶えず確認してください。他人の感情に共感するために、自分の心と身体の健康を二の次にする必要はありません。安心感なんてない、という場合には、支援機関を頼ったり、DV相談ナビ(日本:0570-0-55210)など他の手段を試してみてください。

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