track-by-track : Ryohu 『Blur』

KANDYTOWNやAun beatzで活躍するラッパーRyohu(呂布)の初全国流通盤となるEP『Blur』に収録された全7曲を、i-Dの"track-by-track"シリーズにて1曲ずつ紐解く。

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okt 18 2017, 8:43am

比肩なき音楽家としての道を切り拓こうとしているラッパー、Ryohu(KANDYTOWN、Aun beatz)の2nd EP 『Blur』が完成した。ヒップホップのアートフォームに対する敬意と矜持を持ち合わせたうえ、生音と打ち込みの方法論を絶妙なバランスで操ることによって生まれ得た、ジャンルの記号性にとらわれないグッドミュージックが7曲並んでいる。「曖昧」という意味を持つタイトルは、時代性を問わず昼夜を分かたぬストーリーテリングによって描かれる彼の歌が広げる豊潤な奥行きであり行間でもある。共同プロデューサーの河原太朗(ampel)を筆頭に、コーラスのAAAMYYY、ドラムのSuyama Jackson(Aun beatz、Ryu Matsuyama)、サックス&フルートの谷本大河(SANABAGUN.)、トランペットの高橋紘一という布陣をそろえたゲストミュージシャンのチームも本当にいい仕事をしている。必聴の名盤がここに誕生した。

1. The More, The Better
——尊い逃避行の歌ですね。時間帯を問わずに浸れるムードがある。
これは、もともと4、5年前くらいからあった曲で。自分のなかで悶々としていた時期のある日、無心になりたくて一人で高尾山に登りに行ったんです。ところが、その帰り際に友だちに会って「どこに行っても一人になれないんだな」と痛感したんですよね。でも、そうなったときに気持ちがラクになって。この曲もそうだけど、基本的に朝でも夕方でも夜でも聴ける曲にしたいなと思っていて。そういう感覚は『Blur』というEPタイトルともリンクするところだと思います。サウンド的にも最初はすげぇ暗い曲だったんです。でも、ダークすぎると面白くないなと思って太朗ちゃんに相談してメロディを作り変え、ギターアレンジを考えてもらいました。俺の頭になかで癖になるギターフレーズが鳴っていたのがサウンドのキーになりましたね。

2. All in One
——ブルージーな色気に富んだ曲ですね。 タイトル前作『All in One EP』から引き継がれるものであり、Ryohuという音楽家にとって大きなキーワードなのかなと思います。
前作に『All in One EP』というタイトルを冠したのに、その言葉の意味を説明してなかったなと思って(笑)。だったら、このタイミングで曲にしようと。タイトルが意味する「一つで多くのものを兼ねている」という感覚。それはYUSHI(KANDYTOWNの中心メンバーで今もクルーの精神的支柱であり続けている)の死をきっかけに、魂や欲求は肉体を失ってもいろんな場所に行けるし、いろんな人とフィールできるという考えに至って。だから、魂は旅にも出れるし、友だちと遊ぶこともできる。それを自分自身のストーリーに置き換えて歌詞を書きました。生きている間は身体が一つしかないからこそ、できることとできないことがあるんだなって。それも『Blur』な感覚ですね。サウンドのポイントはSANABAGUN.の高橋紘一に吹いてもらったトランペットに尽きると思います。

3. Shapeless
——ファンキーなグルーヴが気持ちいい曲です。ハンドクラップとラップだけになるセクションもクールで。ポジティブな様相でアイデンティティと自問自答しているような歌詞だと受け取りました。
サウンドのノリはレゲエっぽい要素のあるヒップホップという感じで。仲間たちとビーチでパーティしているんだけど、健全なムードがそこにあるというイメージですね。歌詞は自分の環境の変化があったりして、楽曲制作していたときにイライラすることがいっぱいあったんですね。でも、「これじゃダメだ。こんなんじゃ音楽を楽しめない」と自分に言い聞かせて。だからこそ、幸福なパーティーをイメージしたんです。

4. Desserts
——静から動へ劇的に変化するサウンドの上で、セクシャルで情熱的な歌詞が展開していきます。正直、この歌詞の筆致には驚かされました。
これは性的な表現を比喩的に使っていて。サイコ野郎になった気持ちで書きました。「Desserts」って逆から読むと「Stressed」になるんですよね。ストレスがあるから甘いものが欲しくなる。その対比を考えたときに頭のなかにドラッグと恋愛のストーリーが浮かんだんですけど、ドラッグは自分のキャラじゃないと思って。後半にサウンドが劇的に変わるのは、愛がストレスに変わる瞬間を表現しています。前半は生音で、後半は打ち込みのクラブミュージック。そこも対比になってます。普段の俺は絶対にこの曲の歌詞で歌っているようなことは口にしないですね(笑)

5. Feelings(White Bird)
——アンビエント的なサウンドスケープが広がる、幻想的かつミニマルな曲ですね。
気づいたらトーンとしては明るい曲が多いEPになるなと思って。なので、もっとグレーというか、色のない曲が欲しいと思って作りました。悲しみも喜びもあるんだけど、この瞬間だけは理論や理性ではなく、静かにただ今を感じていたいということを歌ってますね。この曲は女性ボーカルが際立ったほうがいいなと思って、AAAMYYYのコーラスを大きくしてもらいました。曲の終わり方が気に入っているので、そこも注目して聴いてもらえたらうれしいです。

6. Shake
——音楽的には「Desserts」と並んで特に独創的な趣のある曲で。4つ打ちのダンスビートとクラウトロックが合体したような構成になっている。歌詞は深夜から早朝にかけて移りゆくクラブの情景が浮かびます。
3年前に自主制作でリリースした『GREEN ROOM』というアルバムにも4つ打ちの曲があるんですけど、もともとハウスやテクノのビートが好きなんですよね。でも、ヒップホップで4つ打ちをカッコよく取り入れている曲ってあまりないなと思って。それは4つ打ちの音の鳴りがボーカルをそこまで必要としていないからかもしれないですね。でも、そこにラップの入る余地を自分で作りたかったんです。結果的に俺のボーカルのボリュームを下げたんですけどね(笑)。イスに座りながらリラックスして歌っているような感じを出したかったし。後半のバンドサウンドのアレンジはAunbeatzのギター、Markunが活躍してくれました。歌詞は、クラブのフロアに超ヤバいダンスをしている女の子がいて。でも、彼女は周りにチヤホヤされて、やがて誰からも見向きもされなくなるというストーリーですね。ノリノリな前半から、不穏になる後半をサウンドの変化でも表現しています。

7. Say My Name
——ラストを飾るのは「掛け値なしのグッドミュージック」と呼びたくなる曲です。
本当はこの曲はEPに収録しない予定だったんです。いつかシングルとしてリリースしてもいい曲だなと思っていたから。「Shake」でEPを終わる予定だったんですけど、この曲で終わることでまたナチュラルに1曲目に戻れるかなと思って。歌詞の内容としては、『All in One EP』に収録されている「Call Your Name」の続編なんです。「Call Your Name」から成長した男女を描いてます。俺はどの曲でもあまり自分自身について言及しすぎてないので、曲の続編を作りやすいんですよね。いかにもラッパー然としたセルフボースティングはしなくていいと思ってます。ダサい生き方はしてないから、曲で表現しなくてもいいかなって。近くにいる人たちが、俺がどういう生き方をしているかを知ってくれている。それでいいんです。だから、ラッパーの主義主張ってけっこうどうでもいいと思ってる。たとえば「ビッチ、車、金」って歌っているラッパーが、普段電車に乗ってたらリスナーは冷めると思うんですよね。俺はだいたい車に乗ってるけど、電車にも乗るし、バスに乗るのも好きだから(笑)

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