LGBTスペースのつくり方:7つのヒント

ここ数年で開店し、早くもロンドンのクィア・スペースを牽引している<ザ・グローリー>と<ハー・アップステアーズ>。この2軒の運営者たちに、お店を立ち上げる上で大切なポイントを聞いた。

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nov 7 2017, 9:57am

Image courtesy of The Glory

ロンドンのLGBTシーンは悲惨な状態にある。急速な土地開発に伴いロンドンの物価が急騰し、また公共の空間にあってもLGBTが広く受け入れられるようになった嬉しい現況までもが追い風となり、2000年以降、ロンドンでは100を超えるLGBTのクラブ、パブ、バーが閉店に追い込まれている。しかし、「ピンチをチャンスに」の精神で生まれ、現在のロンドンLGBTシーンに大きな存在感を放っているクィア・スペースがある。2014年の末、ハガーストンに誕生した<The Glory>は、ほかでは見ることのできない強烈なパフォーマンス、レベルの高いドラァグクイーンやドラァグキングのコンテスト、斬新なクラブイベントで一躍有名となり、2016年には、ロンドンでは初となるユダヤ人ゲイナイト「Butt Mitzvah」を開催した。カムデンにある<Her Upstairs>は、2016年に開店したばかりだが、LGBTパフォーマーたちの表現の場としてすでに定評を得ている。いずれの空間もひとりの手で作られたものではないが、i-Dは<The Glory>の共同オーナーであるジョン・シズル(John Sizzle)、<Her Upstairs>の共同オーナーであるメス(Meth)と話す機会を得て、これまでの道のりと、その過程で学んだことについて話を聞くことができた。

<お金がかかる>
「前金を払わずにこの物件を借りられて、本当にラッキーだった。ものによっては、3ヶ月分の賃料を先払いしなければならないところもあるから。それでも、Her Upstairsを開業するには、わたしたちの貯金を切り崩さないといけなかった。決して安くはない額をね」とメスは話す。ジョン・シズルも、「できるだけ早く店を稼働させるべき」と口をそろえる。というのも、「オープンさせずに賃貸料と光熱費を払い続ければ、当たり前のように借金はかさんでいくだけ」だからだ。また金儲けが目的であれば、LGBTスペースの立ち上げはお勧めしないという。だってこれは極めて専門的なビジネスなのだから。「お金のためのビジネスじゃない」とメスは言う。「大切なのはコミュニティのためにスペースを作るんだという目的意識と、関わる人全員にきちんと給料を払えるくらいの資金確保」

<他にない娯楽性>
「オープンしたばかりで、お店の名前を知ってもらう必要がある時期は、『あそこに寄ってみよう』じゃなくて、『今夜はあそこで遊びたい』と思ってもらえるようにしなくちゃいけない」とメスは言う。「Her Upstairsは開店当初から、『多様性をラディカルに体現するクィア・スペースにしたい』という明確な方向性があった。ナイトをやってもらいたいと最初にアプローチしたひとのなかに、有色人種パフォーマーたちのためのナイトThe Cocoa Butter Clubを運営しているセイディ・シナー(Sadie Sinner)がいた。ビジネス面でも道徳面でも理にかなったあり方だと思った——だって毎日同じタイプの観客ばかりじゃ、ビジネスとしても不安でしょう?」

<変わり続けることの重要性>
「アーティストはみんなキャリアにおいて違うステージにいる。The Gloryは彼らがどのステージにいようと、先見の明をもってアーティストを起用して、彼らに最高の表現の場を作っています」とジョン・シズルは説明する。「若いアーティストの才能を見抜いて彼らに表現の場を与えることで、お店としても新鮮な空気を保つことができる。お店は変わり続けなきゃいけない。The Gloryのパブ全体をインドア・フェスの会場にしたこともあります。イギリス伝統のフォークダンス、バーンダンスのイベントを開催したときには、納屋の雰囲気を出すために干し草で会場を敷き詰めたり。ジョージ・マイケルのトリビュート・ナイトを開催したときは、Club Tropicanaをテーマとしてジャグジーを設置したりもしました。常に実験的なナイトを作りたいと思っているけど、そうやって素敵なセットを作るには多くのお金が要りますね」

<SNSをフル活用する>
「うちのお店に来るのは若者がほとんど。彼らにリーチするには、SNSがもっとも効果的」とメスは言う。Her Upstairsがもっともよく活用しているのはFacebookだそうだ。The GloryのPRを担当しているジャック・カレン(Jack Cullen)はSNSでは個性を打ち出していくべきだと話す。「The GloryのSNSにはオーナーたちのユーモアを反映させています。ドラァグクイーンたちをおちょくったり、スタッフや出演者の二日酔いの様子を暴露したり、ショーの裏側を明かしたりね。それと政治的なスタンスも明確にしています——The Gloryはロンドン市長選の際にサディク・カーンへの支持を打ち出していたし、今でもイギリスのEU脱退には断固反対の姿勢を崩していない。そうやって政治的なスタンスを明らかにすることで、特定の客層を失うリスクはあります。だけどロンドンはバカを排除しても会場を満員にできるぐらいにはひとが多いから怖くないです!」

<メンテナンス費を甘くみるな>
「うちの店に来てくれるお客さんは良識のあるひとばかりだけれど、ひとたび乱痴気騒ぎになると、いろいろなものが破損してしまうという現実も、起こらないわけじゃない」とメスは言う。「メンテナンスが関わってくると、それまで温和だったクイーンも男に戻るから注意が必要」と、ジョン・シズルは皮肉たっぷりに言う。「酔っ払いは物を壊す。それが現実ってもの」

<フレンドリーかつ毅然とした客対応>
「The Gloryでは誰でもウェルカムです。でもここはクィア空間だから、そこへの敬意がきちんと払われることが前提。"ゲイのひとたちとパーティタイムを楽しみたい"というノリで来られても困ります。そういうのが目的なら、HEAVENがやってるイベントG-A-Yにでも行って」と、ジョン・シズルは言う。Her Upstairsの入場条件も、The Gloryと同じだ。「入り口で客を区別したりはしない。このスペースの趣旨を理解しているひとなら誰でも入場させる」と、メスは説明する。「でも横柄な態度や行動に対しては、断固たる措置をとる。警備員もいて体制はしっかりしているし、なんといってもわたしは190センチもあるドラァグだから、誰も噛み付いてなんかこないけど!」

<未来を考える>
「クィアな空間が次々に閉鎖されてき、このコミュニティには陰鬱な空気が立ち込めていった。スペースが奪われるたびに抗議運動をするくらいしか、手立てがないように感じた」とメスは言う。「でも、今は新しい考え方が出てきているように感じる。『歴史あるお店が次々に失われていくのは悲しい。だけど新しいお店をオープンさせて、その流れに対抗しよう』というね。だから、The Gloryが成功し、Royal Vauxhall Tavernが復活して、うちも成功しているんだと思う。わたしたちはLGBTとして、LGBTのひとたちのためにスペースを作っている。そして同時に、わたしたちの居場所を奪い続けている不動産開発会社やビール会社に「ファック・ユー!」と中指を突き立てているの」

もっと詳しくHer Upstairsについて知りたいかたはこちら、The Gloryについてはこちらを。ロンドンに行く予定のあるひとは、どうせならカクテルの一杯でも飲みにこの二軒を訪れてみてはいかがだろうか?