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チェコスロバキア最後の女性死刑囚を描いた『私、オルガ・ヘプナロヴァ』主演インタビュー

旧チェコスロバキアで女性としては最後に死刑に処された殺人犯がいた。電車を待つ人々の中にトラックで突っ込むという非道な大量殺戮を行なった犯人を、映画『Já, Olga Hepnarová(私、オルガ・ヘプナロヴァ)』で演じた女優ミカリーナ・オルスザンスカに話を聞いた。

Oliver Lunn

Oliver Lunn

オルガ・ヘプナロヴァという女性を、あなたは知っているだろうか? 旧チェコスロバキアが国として最後に死刑に処した女性だ。1973年、22歳のオルガはプラハの中心地で電車を待つ25人の市民にトラックで突っ込んだ。この事件で8人が死亡、12人が重傷を負った。その2年後、オルガは絞首刑に処された。

しかし、このオルガという女性は一体どんな人物だったのだろうか? センセーショナルな作りを意図的に避け、オルガ・ヘプナロヴァという女性を深く考察した伝記映画『I, Olga』でその実像が見えてくる。この映画で、オルガは社会にうまく適応できない厭世的なティーンとして描かれている。そして徐々に、オルガの心の中に<私 対 世界>という構図が芽生えてくる。「あなたたちの冷笑と私のこの涙は、いつか高い代償として必ずやあなたたちに返ってくる」と彼女は日記に書き残している——その後に起こす復讐劇を示唆するように。

ルイーズ・ブルックスを思わせる美しいボブスタイルでオルガを演じたポーランドの女優ミカリーナ・オルスザンスカ(Michalina Olszanska)は、劇中でタバコを吸い続け、70年代チェコスロバキアのレトロシックを体現しながらも、オルガの心に巣食う孤独を痛々しいまでに表現している。ミカリーナはオルガに感情移入できたのだろうか? オルガを理解するに従ってミカリーナは実生活に支障を感じただろうか? 若い女性殺人犯たちというものはなぜこれまでに私たちの興味をそそるのだろうか? ミカリーナに訊いた。

——劇中でオルガは自らを「悟りを開いた精神異常者」と形容していますね。あなたも彼女をそう捉えていますか?

私はオルガが単に精神的に病んでいたとは考えないようにしています。そんなに単純なことではないと思うので。オルガは極めて知的な女性だったと思います。知的で、混乱していて、孤独で——彼女が置かれていた環境や、彼女を取り巻いていた人々には、彼女があまりに知的すぎたのかもしれないと考えています。そんな環境に育ったからこそ、彼女は「誰も私を理解してくれない」という思いを募らせていったのではないかと。アーティスティックな人々が周りにいたら、彼女ももっと違った世界が見れたと思います。彼女は読書が好きで、実にたくさんの本を読んで育ったんですよ。そういうひとだったんです。でも彼女のお母さんは、彼女にただ普通の女の子に育ってほしいと願った。1970年代のことです。70年代という時代背景を考えれば、「普通」を求められるということが大きな葛藤につながっただろうと想像に難くありません。

——大量殺戮事件の犯人の心の内をどう理解し、演じたのでしょうか?

ティーネイジャーというのは、特に女の子であれば、多かれ少なかれ「誰も理解してくれない」と思うものです。自分はひとりなんだと、世界から取り残されているんだと。私にもそう思った経験があります。でも、だからといって誰もが人殺しになるということはないわけです。そこで、まずは私が十代でもっとも辛かった時代の記憶を辿ってみました。オルガが犯した犯罪を正当化する理由探しではなく、彼女が感じたであろうことを理解したかったんです。なぜなら、彼女がやったことは、もちろん大勢のひとを犠牲にした殺人ではありますが、ある意味では自殺でもあるからです。

——トラックに乗り込む前、すでに彼女は自分が死刑を課せられると知っていたということですか?

もちろんそうですよ。彼女は死刑を望み、実際にそれを自ら求めたんですから。彼女の自殺は、とても複雑な心理構造のもとに行き着いたものだったんだと思います。映画の冒頭で、母親がオルガに「自殺するには、強い意志が必要なのよ」と言うシーンがあります。「あなたにそんな意思の強さはない」と。きっと、オルガはその短い生涯を通して、ずっとその母親の言葉を胸に生きていたんじゃないかと思うんです。

——オルガを演じるというのはどのようなものでしたか?

面白いことに、私にはいつも殺人犯や残忍な人物、そしていわゆる"精神異常者"と呼ばれるような人物を悪人として描いたキャラクターばかりが巡ってくるんですよ。なぜなんでしょうね(笑)。でもそういったキャラクターを演じる際に心がけているのはキャラクターに人間味を見出すということ。人間としての彼女たちを愛するということです。そうでなければ、悪役を演じる意味なんてありませんからね。オルガに関しては、演じることで自分の心が浄化されるようにすら感じました。オルガは"ダークを極めたキャラクター"です。彼女を理解しようとすることで、自分自身を理解することができたし、人間というものを深く理解できたような気がします。オルガが「人さまを自分の見解だけで勝手に判断してはいけない」ということを私に教えてくれたんです。

——劇中でオルガは日記を書いていますが、あれは彼女の日記を忠実に再現しているのでしょうか?

そう、日記はリアルなものですよ。裁判での発言も実際の言葉を使っています。でもそれ以外はすべて即興でできあがったオルガ像です。それと、オルガにとっての最後のボーイフレンドにも会いました。オルガに関して多くは語ってくれませんでしたけどね。監督のトマーズ・ワインレブ(Tomás Weinreb)が彼に、オルガを演じる女優として私を紹介してくれたとき、彼は「いいんじゃないかな。彼女の目には何かがある」と言ったんです。「あ、ありがとう……?」と困惑しましたけどね。いずれにせよ、オルガとして彼に触れるということ、そして彼が今でも罪悪感に苛まれていると分かったことは、私にとってとても重要な意味を持ちました。「オルガが彼女自身から逃れられなかったということ、ほかの希望を見出すことができなかった原因の一旦は自分にある」と彼は今でも感じているんですよ。

——オルガに、そして彼女が事件を起こす前に経験したことに、同情的感情は湧きましたか?

はい、同情しましたよ。私自身もずっとアウトサイダーでこれまで生きてきましたから。両親がともに俳優で、その間に生まれた一人っ子——大変な幼少期でしたよ。だから、オルガのことはよく理解できました。映画ではオルガの実像と違う部分がいくつかありますが、そのひとつは容姿です。オルガは私ほど痩身ではなかったんです。私がティーンのとき、周りの女の子たちは痩せるということに取り憑かれたようになっていました。私もそこを通ってきたので、そんな虚像に取り憑かれる現代的な心情を、オルガにも組み込もうということになったんです。オルガは痩せることに命を削るようなことはしませんでしたが、それをオルガというキャラクターに組み込むことで、現代の若い女性がこの映画を見たときに、オルガが生きていた現実をより深く理解できるだろうと考えたんです。

——オルガは精神障害の遍歴を持っていながら、裁判では「精神状態を挙げて無罪を訴える」ということをしませんでした。彼女は裁判の間も正気だったのでしょうか?

正気だったと思います。彼女が語ったことはすべて、これ以上ないというほど信ぴょう性がありますからね。トラックで群衆に突っ込んで行ったとき、彼女は冷静だったと思います。私たちがそれを信じていなければ、いわゆる"精神異常者"の映画を作る理由なんてありません。自分は精神異常ではない、あなたも精神異常ではない、私たちには精神異常者の心の内は理解できない——そんな風に分類できるほど、人間は単純ではないはずです。普通でいられたはずの女の子が、誰かに傷つけられたことで変わってしまう——そう考えると、「私がこうなっていたっておかしくないんじゃないか」と思うわけです。

——オルガが髪型をボブスタイルすることで、そこには時間の経過が表現されるわけですが、同時にオルガの内面の変化も表現されているのでしょうか?

そうだと思います。実際に、オルガはボブにして活発な女の子を演出していたんです。映画の冒頭で、オルガはお母さんが望むとおりの女の子でいる一環として、ロングヘアにしています。そこに変化が起こって、彼女は髪型をボブにする。そしてボブで死んで行くんです。そう解釈することはとても重要な意味を持ちました。オルガはタフになりたかった。実際よりもタフに見えるよう、まずは容姿を変えたんです。男の子のような容姿に。繊細すぎる女の子らしい実像を隠すためにね。彼女はただただすべてが、世界が怖くてしかたがなかった——髪型を変えるということは、その恐怖心を隠す手段だったんだと思います。

——劇中のオルガはよく煙草を吸いますね。ほぼ全シーンで吸っていますが、撮影では苦労しましたか?

私自身吸いますから、大変ではありませんでした。でも、以前は友達とパーティなんかで少し吸うぐらいだったのが、あの映画の撮影をきっかけにヘビースモーカーになってしまいました! 煙草は、オルガにとって重要な意味を持つものだったんだと思います。赤ちゃんのおしゃぶりのようなものです。私の母は「大人になっても私たち人間は動物だから、何かを咥えると安心するのよ」と言っていました。母親のおっぱいを吸っていた記憶がずっと消えずに意識下にあるんでしょうね。オルガの煙草の吸い方は独特だったんですよ。グレタ・ガルボのような吸い方ではなかったんです。不安を感じたらタバコを吸うというのを理解したら、オルガとして煙草を吸うことができるようになりました。

——オルガが女性だったから、そして女性が犯した大量殺戮が今も当時も稀だからこそ、現代もなお彼女の犯罪はひとびとの興味をそそるのでしょうか?

そうですね。そんなことを女性がやるなんて、ひとは考えもしないですからね。そして、同じ大量殺戮事件でも、それを犯したのがタフな見た目の男である場合と小さく弱そうな女の子である場合とでは、見方が大きく変わってきますから。『レオン』のマチルダを観たとき、「この子にはきっと何か興味深い過去があるに違いない」と思ったでしょう?

@OliverLunn

Credits


Text Oliver Lunn
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.