『ダンケルク』:フィン・ホワイトヘッド インタビュー

イギリスが生んだ新たなスター、フィン・ホワイトヘッドが、クリストファー・ノーラン監督最新作『ダンケルク』について、そして脚光を浴びたくない理由について語る。

by Tish Weinstock
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11 September 2017, 11:00am

「ひとを喜ばせなきゃならないって感じないんだ」と、フィン・ホワイトヘッドは言い切る。いかにもイギリスらしい、雨の降る夏の午後、フィンはイースト・ロンドンの撮影スタジオで、自身の成功について思案を巡らせている。「ひとに好かれようと頑張るのはやめようと思って。友達でも僕のことを好きじゃないやつがいるくらいなんだから」と、冗談めかしていう。

現在20歳のフィン。この日、彼はスタジオでの写真撮影に追われていた。ガラスの天井には雨が叩きつけ、彼の声を聞き取るのも困難だ。しかし質問に答えつつ、撮影チームからの要望にも応えようとするフィンは、チャーミングで礼儀正しい。インタビューや撮影には適さない環境ではあるが、クリストファー・ノーラン最新作『ダンケルク』の撮影現場に比べれば大したことはない。

Coat Paul Smith. Vest vintage from Portobello Market.

フランス北部で行われた5ヶ月間の過酷な撮影で、フィンは人体をのせた担架を手にダンケルクの浜辺を駆け回らなければならなかった。撮影では、ウールの長いトレンチコートにアーミーブーツ、背には銃を背負って、凍りつくような冷たい水に投げ出されることもあった。立ち込める煙の向こうに叫び声やサイレンや軍艦の音が聞こえ、頭上に現れる戦闘機から、銃弾を浴びるシーンもあった。「すごく疲れる撮影だった」と、フィンは振り返る。「それでも、実際の体験からしたら、かけ離れているものですけどね」。第二次世界大戦のフランスを舞台にした『ダンケルク』。ドイツ軍に包囲された40万人の連合軍兵士たちがダンケルク海岸から命をかけて撤退しようとする様子を描いた作品だ。数百ともいわれる小さな民間船までもが海上の兵士たちの救助に駆けつけたという実話をもとにしている。それは、究極の状況における人間の生き残りと勇気を伝える、あまりにも残酷な物語だ。

Jacket Balenciaga. Rollneck Pringle of Scotland.

キリアン・マーフィー、ケネス・ブラナー、トム・ハーディ、マーク・ライランスなどのベテラン勢、そして、本作がハリウッド・デビューとなるハリー・スタイルズと肩を並べ、フィンは、なんとか生き延びようと戦う若い兵士トミーを演じている。「トミーの目と耳は観客の目と耳なんだ」とフィンは話す。「トミーが生き抜こうとするのを、観客が体験するんだ」。彼にとってトミーは自己を投影しやすい役だったようだ——思わぬ困難に巻き込まれ、それを生き抜かなくてはならないという状況への理解だ。「すべてがとてもリアルに感じられた。演技しなくても、自分の身に降りかかっている状況に対応するしかなかった」と、彼は回顧する。「ダンケルクは奇妙な場所だった。そこで多くの人が死んだと知りながら、浜辺に立つのは不思議な気分だった。教会の壁には今でも銃弾の跡が残っていてね。僕は宗教的な人間じゃないけど、それでも教会に向かって銃弾を浴びるなんて正気の沙汰じゃない」。1940年に起こった出来事がいまだに暗い影を落とすダンケルク——不気味なほどに時間が止まって感じられる。「ダンケルクは、今でも1940年の惨事に取り憑かれている」と、フィンはいう。「あそこにいると、感情的に引きずられる感覚があった。一日の終わりには冗談でも飛ばさないと、悲しみに引きずりこまれてしまう。役者も撮影隊も、その気分を少しでも嘆いたりしようものなら、すぐに『実際の戦場の酷さに比べたら』と言われたよ」

Jacket Dior Homme. Rollneck Pringle of Scotland.

ロンドン南西部に生まれたフィンは、四人兄弟の末っ子だ。いつも音楽が鳴り響く家で、幸せな子ども時代を過ごした。ジャズ・ミュージシャンである父親は、よく階段を降りながらスキャットで即興のメロディを歌っていたという。フィンには、かすかな悲しみが漂っている。自身について多くを明かさないフィン——そこが、「このひとをもっと知りたい」とわたしたちに思わせる。アイルランドに伝わる神話で、知識の鮭を間違えて食べてしまった結果、人生の知恵を得た少年の話がある。その主人公、フィン・マックールにちなんで名付けられたというフィン。両親の思い通りに、フィン・ホワイトヘッドもまた、年齢にそぐわず賢い。しかし同時に少年のような魅力も備わっており、そのギャップは、映画の中でも外でもわたしたちを魅了する。

Jacket Givenchy by Riccardo Tisci. Rollneck Pringle of Scotland.

フィンが演技に惹かれてたのは、学校でのことだった。15歳で、ナショナル・ユース・シアターに加入した。「気持ち悪い言い方だけど、ひとの感情を操って、普段なら感じないようなことを感じさせることができるところに惹かれた」と、彼は演技の魅力について話す。「役によっては、僕が過去に味わった個人的な体験や感情を使うこともできる。でも、完全にはなりきることができない役もあって、そういう役を演じるには、リサーチをして、彼が何を考え、何を感じ、なぜ自分とは違う行動をとるのかを正当化していかなければならないんだ」。イギリスのテレビドラマ三部作『HIM』出演にした際、フィンは実体験とリサーチを駆使して役を作り上げた。フィンが演じたのは、苦難多き思春期を生き抜くなか、念力を持っていることに気づく10代の少年だった。「青春時代には、みんな孤立感を味わう」と、フィンは語る。「場合によってはひどい孤独感を味わう人もいる。でもそれはあまり語られることのない現実で、大人は『今が一番いいとき』だって言う。最悪にもなりうるのにね。圧倒的な気持ちの揺れを感じていても、それについて語ることができないんだから。男は誰かに助けを求めることも、気持ちを打ち明けることもできない。僕は、家族がとてもオープンだったからラッキーだった。うちは何でも話し合える家族だったんです」

Coat Raf Simons.

『ダンケルク』はすでに大きな話題となっている。もちろん、ハリー・スタイルズの存在が大きな成功要素であることも確かだろう。しかし、主役はやはりあくまでもフィンだ。当の本人は、スーパースターになる心の準備ができているのだろうか? 「まったく興味がない」と、フィンは即答する。「そういう世界はちょっと気味が悪いとすら思う。ふつうの感覚を保ち続けることが大切なんだ。親しい友達がいて、支えてくれる家族がいる——だから、僕はてんぐにならないよう心がけることができる。Instagramもやってないんだ。虚勢の世界に引き込まれたくなくてね。やりたいひとはやればいい。それで俳優としての真価が変わることはない。僕はただ、プライベートのレベルで自分を知ってほしいなんてまったく思わないんだ」

Credits


Text Tish Weinstock
Photography Maxwell Tomlinson
Styling Max Clark
Grooming Roku Roppongi at Saint Luke Artists using Bumble and bumble. Styling assistance Louis Prier Tisdall.
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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