ジャンプスーツの再来、ふたたび

男性服は機能性を基盤になりたっている——ならば、なぜもっとも機能的であるジャンプスーツが一般化しないのだろうか? ジャンプスーツを考案した未来派のエルネスト・ミカへレスから、度々コレクションでジャンプスーツを提案しているミウッチャ・プラダまで。ジャンプスーツの歴史とその魅力に迫る。

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jul 11 2017, 7:10am

This article was originally published by i-D UK.

Prada spring/summer 18

「最近、わたしはジャンプスーツに夢中なの。あのシンプルさに惹かれるんだと思う」と、ミウッチャ・プラダは2018年春夏コレクションで際立っていたジャンプスーツについてそう話す。彼女がジャンプスーツに夢中になるのは、これが初めてではない。過去にもメンズのコレクションでジャンプスーツを手がけたことがあった。「ジャンプスーツが好きすぎて、最後にPradaがジャンプスーツを作ったのが2008年の春だったのも覚えている。自分でも大丈夫かなって心配になるわ」と、チャーリー・ポーター(Charlie Porter)は『Financial Times』紙のファッション・ショー批評欄で書いている。私もまた、あの幾何学的で美しいジャンプスーツを忘れられないでいるひとりだ。わたしはミウッチャ教徒であるうえ、あの作品が発表された当時、その素晴らしさが理解できるほどにはすでに大人だった。ジャンプスーツが戻ってきたPradaの最新コレクションは、わたしにある光景を思い起こさせた。2008年春のコレクションを見たチャーリー・ポーターが『Guardian』紙に書いた意見記事「Are You Ready to Jump?(ジャンプする用意はできてる?)」を思い出したのだ。チャーリーはジャンプスーツがシンプルにして機能的で、ファッションの極みとまで言い切っていた。そして、そろそろ世の男性たちが偏見を取り払うべきだと書いていた。「男たちよ、このワークウェアを着て、生きるのだ」と。彼が書いていたことはもっともで、あれから10年が経った現在においてもそれは変わらない。

ジーンズからジョガーパンツにいたるまで、男性服は機能性をベースに作り上げられている。だから、このもっとも機能性に優れた服は、もっと広く着られていてしかるべきなのだ。チャーリーはDickiesのバージョンから、Gosha Rubchinskiy、Richard Nicollのバージョンまでジャンプスーツを実際に着て、その素晴らしさを身を以て知っている。しかし、彼の訴えも虚しく、ジャンプスーツ人気に火がつくことはなかった。2018年春夏コレクションでPradaが発表したジャンプスーツも、相変わらず刺激的でパワフルに見えた--状況が10年前と変わっていないからこそ、そう見えるのだ。

「長いあいだPradaはジャンプスーツを作ってこなかった」と、チャーリーはショーを駆け回るなか、つかの間の静かな時間に、電波の安定しない携帯電話での会話で言う。「今回のコレクションにジャンプスーツを盛り込んだ意図は、おそらく際立ったスタイルを盛り込むことで、ショーの単調な流れに刺激を与えることにあったんだと思う」。ミウッチャは、自らのコレクションに刺激的なスタイルを盛り込もうとするデザイナーだ。ファン、批評家、そしてファッション関係者は、彼女が服を通して感覚的に訴えかけてくる、あの刺激を常に求めている。しかし、一般大衆は、それよりもさらにもう一歩踏み込んだ後押しがなければ、ジャンプスーツを日常的に着ることはない。

Prada spring/summer 18

1919年、フィレンツェの未来派の芸術家、エルネスト・ミカへレス(Ernesto Michahelles)によって考案されたジャンプスーツだが、それが世界に受け入れられるまでには長い時間がかかっている。ミカへレスはそのデザインを、「イタリアのファッションの歴史においてもっとも革新的にして未来的な服」と謳い、世に送り出した。ジャンプスーツに大きな可能性を見出したミカへレスは、より多くのひとびとにその素晴らしさを知ってもらおうと、イタリアの新聞『La Nazione』に型紙まで掲載した。「ジャンプスーツがいまだに不思議な服として考えられている理由のひとつは、おそらく、それがあまりに理想郷的な発想の服で、現実と紐づけて考えられない点にあると思う」とチャーリーは言った。現実世界でも、宇宙飛行士からAndre 3000、肉体労働者からバスタ・ライムス、ビースティ・ボーイズにいたるまで、日常生活で目にする多くの男性たちがこのスタイルを取り入れている。それでも、やはりガレージやスペースシャトルといった場所以外で見るジャンプスーツは、ひとびとにショックを与えるのだ。

ジャンプスーツとその半袖バージョンであるロンパーは、今でも「男が着るには突飛なスタイル」として受け取られている。「男はセパレートを着ることに慣れすぎている」とチャーリーは説明する。「1トーンで、上から下までをひとつの生地で体を包まれるということに、男は抵抗を感じるんだと思う」

ミウッチャがジャンプスーツをコレクションに盛り込み、最新のファッション的刺激を世界に与える数ヶ月前、Kickstarterで、ACEDによるRompHimがクラウドファンディングのキャンペーンを行なっていた。ミカへレスが描いた夢をACED Design社が現代的デザインに落とし込み、「ファッション革命を巻き起こす」と銘打って資金を募ったのだが、これにネット住民たちが反応し、面白おかしいミーム画像や動画が次々に作られたことで、ネタ探しを日課とするジャーナリストたちもこれを取り上げ、ソーシャル・メディアでは大きなトレンドとなった。そのおかげもあり、1週間で、当初掲げていた目標額1万ドルをゆうに超える35万ドルが集まった。この記事を書いている時点では、3000人の支援者から、35万3000ドルが集まっている。そして、パステル調の色彩でデザインされた初回生産ロンパーの数々は、発売から1週間弱で完売した。しかし、キャンペーンでの資金集めは成功したものの、ロンパーへの反応は嘲笑がほとんどだった。「RompHimを着て、片手にはハンドスピナー、もう片方の手にはユニコーン・フラペチーノを持った僕--それが2017年の僕」と、@MileWehnerはツイートしていた。そこへミーム画像や映像が大量に作られ、ネットで大きな話題となった。その量はあまりに多いので、ここではそのうち5つを厳選して紹介する。

「メンズウェアには恥ずべき側面がある。男は友達の服装をからかうのが大好きなのだ」--Viceはこう書き、デヴィン・パチョリック(Devin Pacholik)にZaraのデニム・ロンパーを着てもらって、さまざまな環境に飛び込んでもらった。そして、その場にいるひとたちに意見を聞かせてもらった。「デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ(Dexy's Midnight Runners)みたいだね」という奇妙な感想も聞かれたものの、男が着るデニム・ロンパーは各所で好意的に受けとめられた。しかし、SNSでの反応はそれほど好意的なものではなかった。百歩譲って、極めてアメリカ的なRompHimのデザイナーたちの感覚を嘲笑うのはかまわないとしよう(赤ちゃん用の服を大人用サイズにしただけのようなデザインなのだから、それはしかたないかもしれない)。でも、ミウッチャ・プラダの卓越したセンスと技術によって生み出されたものを笑うのは許されない。ファッション司教ミウッチャがPrada教会で服を通し行なうスピーチ--その内容を嘲笑するなど、誰にも許されることではないのだ。

「Pradaのジャンプスーツの素晴らしいところは、なんといってもその男らしさ。カットに男らしさが表現されている」とチャーリーは言う。「背中にさりげなくギャザーがほどこされているから、肩にかけてのシェイプがそこに作り出される。それに、絶妙なポケットの配置によって肩の形が誇張されるようデザインされているんだ。そして、袖をまくることでさらに肩が強調される。デザイナーが意図しないしないかぎり、こういう効果は生まれない」。Pradaのジャンプスーツはどう着たとしても、巨大な赤ちゃんや迷子の整備士にはなり得ない。ミウッチャはほかにも、好奇心旺盛な男性のためにコミックがプリントされたジャンプスーツも展開していた。どれも袖はロールアップされている。さもないと、動きやすい作業着になってしまうからだ。それでもジャンプスーツにはためらいがあるひとのために、ミウッチャは、短めのショーツとトップの組み合わせによって、セパレートながらもロンパーのように見えるルックも展開している。Gosha Rubchinskiyは90年代サッカーパンツ風の股下ギリギリ丈パンツを発表、Rick Owensはその彫刻的デザインに、誰もが二度見するほど短い丈を組み込んでいた。ショーツがよりショッキングで、より際どくなる2018年春夏、ジャンプスーツは今季の決め手アイテムにはならないかもしれないが--どうだろう、Pradaの提案を受け入れて、試してみてはいかがだろうか?

Prada spring/summer 18

Credits


Text Steve Salter
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.