水曜日のカンパネラ:無意味と不具合のポップマジック

フリーキーなラップと変幻自在なビートのコンビネーションを軸に、独自の世界観を打ち出す音楽ユニット、水曜日のカンパネラ。6月にメジャーデビューを果たした、女性ヴォーカル、コムアイがその野心を語る。

by Yu Onoda
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13 July 2016, 1:33am

KOM I WEAR VEST YOHEIOHNO CHOKER BORN JEWELRY TROUSERS MODEL'S OWN.

そこには、メッセージやセルフボースティングもなければ、意味らしい意味も存在しない。3人組ユニット、水曜日のカンパネラのフロントに立つコムアイは、ヒップホップが伝統的に培ってきたスタイルを無自覚に解体した先で、強度の高い、ユニークな響きの言葉を矢継ぎ早にラップし、トラックに乗せると、日常から逸脱し、リスナーを触発する。

「最初の頃は、ふわふわ浮遊感のある歌を歌っていたんです。でも、お腹から発声しないハフハフ発声が曲に上手くハマりすぎて、つまらなかった。だから他にはない、人を触発する表現方法を得るために、自分の声が一番合わなそうなラップを影のメンバーであるケンモチさんに提案されて。いやいやレコーディングしてみたら、不具合が生じてアンバランスが取れていいなって思ったんですよね。無意味なリリックについて、私自身は世の中に対して、思うことは沢山あるんですけど、メッセージや意志に溢れたJ-POPの世界でさらにこれ以上言いたいことはないというか、そこから頭一つ抜けていくのはリリックの無意味かなって。ただ、それは自分が意図したわけではなく、みんなで面白い方向性を考えていったら、結果的にそうなっていたんです」

それまで音楽をやったことも、やるつもりもなかったという彼女。トラックメイカーのケンモチヒデフミとユニットを立ち上げたディレクター兼マネージャーのDir.Fに誘われ、2012年より水曜日のカンパネラは活動をはじめた。ヒップホップからジューク/フットワークやトラップといったベースミュージック、レゲトンやテックハウスまで、変幻自在なビートに組み合わされたシュールなリリックが、コムアイというフィルターを通すことで、プリズムのような光を放ち、立体的にヴィジュアライズされる。

「人が忘れ物に気づいた瞬間の無防備な表情が大好きなんですけど、聴く人、観る人が惹きつけられる魅力というものがあるとするなら、自分が意識していないところ、失敗したり、未完成なところ、図らずして表に出てしまっている部分だったりすると思うんですよ。そうやって、意図しないところでクセや個性が出てしまうわけだから、毎回、作風は変えようと意識的に考えていて、一緒にお仕事する人にも『水曜日のカンパネラのイメージを守る必要はなくて、今回だけの顔を見せられればOKです』とお伝えしているんです。そうした表現を連ねて、多面体としての水曜日のカンパネラやコムアイを捉えてもらえれば豊かだなと思います」

「ラー」を手掛けた児玉裕一や「マッチ売りの少女」を手掛けた関和亮など、ネットでバズを起こしているミュージックビデオを注目の映像作家が手掛けているほか、第一線で活躍しているデザイナーやイラストレーター、スタイリストらを惹きつけ、その度にイメージを鮮やかに塗り替えていく水曜日のカンパネラの世界。コムアイは、そこでクリエイティブな化学反応を促進する触媒のような役割を果たしている。

お題があって、大喜利のように、アイデアを発展させていくのが、私の思考の癖なんです。例えば、先日、『ミュージックステーション』に出演した時は、数分の出演時間で今まで見たことがないものを表現するために、『ライブと違ってテレビ画面にはフレームがあるから、そのフレームを使おう』と思って、そこから演出を考えました。自分が置かれた状況を考察したり、前回やったことを踏襲して、今回どう裏切るかとか、そういうお題を見つけることで、その先のアイデアが発展的に生まれて、自分自身が楽しくなるんです。いまはバブルやその後の不況を経て、物質的なことでは人間は満たされないと、みんなが気づいている時代だと思うんです。大きな家に住んでも、高級外車に乗っても、たいしたアピールにならないというか。じゃあ、どうなるかというと、センスの時代に突入していると思います。価値がないものや誰も気に留めないものに新たな価値を見つけて選び出したり、楽しんだりするセンスが、その人の評価になるんじゃないかと」

音楽活動だけでなく、ラジオ、テレビのコメンテーターとしても、その斬新な発想が注目されつつある彼女は続ける。

「ただ、今の日本は、自分の生きづらさを人にぶつけて、自分の首を絞めているというか、あまりに社会がタイトですよね。だからこそ、"テキトーでいいじゃん"っていうメッセージもこっそり忍ばせつつ、色んな活動を通じて、ポジティヴなパワーを放っていけたらいいですね。私個人でいえば、日常のネガティブな空気に触発されたのか、一時期、スカムなものにハマっていて、その影響から今では出さないようなシャウトをしてたり、殺伐とした気持ちでライヴをやっていたんですけど、そういう感情を出し尽くした一昨年の末あたりからだんだん浄化されて、去年リリースしたEP『トライアスロン』が大きな転機になりました。気分としては、ようやく冬眠が終わって春が来たような、ポジティブな表現が増えたような気がするんです。6月にリリースしたメジャーデビューEPは、サウンド面で色んな人が関わっている作品なんですけど、「トライアスロン」が未来だったり、もっと開けたところに響いていくようなイメージを描いたように、また新たな転機になりそうな予感がしているんです」

Credits


Photography Yusuke Yamatani
Styling Koji Oyamada
Text Yu Onoda
Hair and make-up Tomoko Miyagawa
Styling assistance Ai Suganuma and Hiromi Kanamoto

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