晩秋に聴きたい新作アルバム8選 バハナ、FKAツイッグス、サマー・ウォーカー

レックス・オレンジ・カウンティ『Pony』からサマー・ウォーカーの新作『Over It』まで。どんな気分も彩ってくれる、今秋発売の8枚のアルバムをご紹介。

by Mary Retta
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22 November 2019, 9:00am

晩秋は薄暗く、幽玄的な雰囲気が漂う。今年の秋にリリースされたアルバムは、まさに晩秋に聴くにふさわしい作品が多い。バハナ(Berhana)のデビューアルバム『HAN』からサマー・ウォーカー(Summer Walker)の新作『Over It』まで、どんなときにも最高のサウンドトラックになってくれる音楽が揃う。i-Dオススメの、今秋リリースの新作をご紹介。

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バハナ『HAN』
本作をひとことで説明すると、奇妙だ。だけど、その奇妙さはむしろリスナーが求めていたもの。「Grey Luh」や「Janet」を収録した2016年リリースのデビューEPで、スローなR&Bの名手、という評判を確立したバハナ。最新作では、実験的で新鮮なサウンドが盛りだくさんで、音楽性のさらなる進化が明らかだ。

『HAN』は全編を通して旅をしているような作品で、彼はそれを表現するべく、作品を宇宙旅行のごとく作り上げた。宇宙を思わせるアルバムのジャケット、さらに「HN」というアルファベットが付けられた4曲のインタールードでは、フライトアテンダントがリスナーに「ヘッドフォンをしっかり着けて、ベースのスラップが最高潮に高まるまで外さないでください」と注意を呼びかける。

収録曲はそれぞれ個性豊かだ。「Golden」や「Drnuk」は基本的にアップビートで心地の良いサウンド。「I Been」や「I Wasn't Told」は比較的スローテンポで瞑想的だ。かと思えばディスコ的な「Lucky Strike」も。

彼の新しいサウンドはファンキーで、多様で、シンプルに楽しい。これまでの彼の音楽、特に「Wildin」のような曲では音楽性の幅広さが証明されていたが、彼は本作で、自分の芸術性をさらに自由に奮っている印象だ。最新のMV群では、彼が音楽以外の芸術的要素も担っている。たとえば「Health Food」のMVでは、バハナはファンキーな音楽にレトロな映像を組み合わせ、〈健康〉という曲のテーマをより巧みに提示している。

『HAN』は、リスナーを最高の旅へと連れ出してくれるアルバムだ。

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サマー・ウォーカー『Over It』
長い冬が始まろうとしている季節にも、室内で音に身を任せながら踊れる、完璧なプレイリストを用意してくれたのはサマー・ウォーカー。愛、切望、失恋という難しいテーマを、リスナーの気持ちをアゲてくれる、まっすぐなトーンで表現したのが1stスタジオアルバム『Over It』だ。

23歳の彼女は、古典的なラブソングを何のこともなげに再定義し、愛や恋愛関係を不必要に理想化することなく音楽にしている。たとえばブライソン・ティラー(Bryson Tiller)と歌う「Playing Games」で、彼女は恋人に「多くを望んだことなんてない」し、自分を見せびらかしてほしいだけだった、と嘆き、アルバムタイトルにもなった「Over It」では、愛に多くも求めすぎているかも、「自分を操ってくれる」パートナーを欲しがっているのだ、と内省している。

アルバム全体を通して、スローで憂いを帯びた彼女らしいサウンドだが、そのサウンドを耳にするリスナーは自ずと、彼女が紡ぐ歌詞や物語をゆっくりと考えることになる。

「CPR」などをはじめとする楽曲を収録したデビューEP『Last Days of Summer』では、スローでスムースなR&Bサウンドを彼女らしさとして印象付けたが、本作はより成長を感じさせる。『Last Days of Summer』は若い女性が間違った場所で愛を探しては苦しむ、という物語だったが、本作の主人公は「それを乗り越える(over it)」女性。そうして彼女は自分を愛することを知る。

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レックス・オレンジ・カウンティ『Pony』
2017年「Edition」「Loving Is Easy」「Sunflower」などのヒットソングで話題となったが、前作『Apricot Princess』以降、そこまで目立った活動はしてこなかったレックス・オレンジ・カウンティ(Rex Orange County)。そんなサッド・ボーイ(sad boy)の代表たる彼が、ついに新作『Pony』で帰ってきた。アッパーな曲、憂鬱な曲、示唆に富む曲がこれでもかと収録されているアルバムだ。

「Laser Lights」「It’s Not The Same Anymore」などでは、語り、歌唱、ラップを織り交ぜるような彼独特の音楽スタイルが健在。さらに本作では、テンポ、雰囲気、ジャンルなどを好き勝手に操っている印象だ。たとえば「10/10」はテクノ感もあるアップビートな一曲。「Always」はスローなラブバラードだ。

ウィットに富んだ歌詞や音楽的な面白さだけではない。彼の音楽は、テーマも実に興味深い。彼はいつも、自らのうつや精神疾患の問題を正直に、あけすけに、他のひとも共感しやすいかたちで表現する。たとえばマリリン・モンローが「今よりもっと社交的になりたい」と吐露する声をサンプリングした「Paradise」や、「ハッピーでいるということを僕に教えて」と歌う「Happiness」など、初期の楽曲が代表的だろうが、『Pony』でも、「彼らは毎日ストレスで参ってる僕をみたがる」「そんなのフェアじゃない」と訴える「Stressed Out」などで、メンタルヘルスについての話題を普通のこととして提示する姿勢が窺える。

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FKAツイッグス『MAGDALENE』
これまでのアルバムや映画のようにスケールが大きなMVで、女神のような神秘的な存在感をみせてきたFKAツイッグス(FKA twigs)だが、最新作『MAGDALENE』では、彼女の芸術性が新たな次元に達している。収録曲はどれも美しく幽玄的で、聴く者は憂いに沈み、物思いにふけってしまうような、そして、彼女に見つめられているような感覚に陥る作品だ。

彼女の魅力といえば、その率直さだろう。自らが受けた心の痛みや悲しみ、混乱を引き受け、自分のむき出しの弱さをアートに昇華し、癒す。「私の人生が崩れ落ちていきそうって思ってた」と、今年のi-Dのインタビューで、本作についてこう語った。「すべての知識、安定、私とつながるすべてのものが、私から離れていく、って」。その感覚はアルバム全体に表れている。本作は明らかに解放のためのメソッドだ。

〈どうして私はあなたのためにそれをしないんだろう?〉と悲痛に歌う「Cellophane」や〈それでも私を美しいと思う?/私の涙が雨のように流れても〉と叫ぶ「holy terrain」で、彼女は自らの苦悩や絶望感をあらわにする。それらを隠すのではなく、むしろそれを自らの芸術性のための燃料にしている。そうして生まれた音楽は、徹底的にパーソナル。彼女自身の感情や欲望だけにフォーカスしている。

「女性の物語は、男性の物語の付属品になりがち」と彼女はいう。「マグダラのマリアについての文献を読み始めて、彼女の偉大さを知った。彼女はキリストの最良の友であり、腹心。彼女は薬草に詳しく、治療もできたけど、聖書に記された物語では、彼女は〈娼婦〉とされている。マグダラのマリアの物語には、強い力、品格、気品、インスピレーションを感じた」

『MAGDALENE』はまさに、癒し、そして自分を愛することへのパワフルな頌歌のような作品だ。

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マヘリア『Love and Compromise』
〈愛と妥協〉というテーマを実際に経験してきたマヘリア(Mahalia)。彼女は13歳の頃から音楽を作ってきて、私たちはリスナーとして、彼女の音楽、そして彼女自身の成長をリアルタイムで見られるという恩恵を受けてきた。「I Remember」「Sober」など過去の楽曲では、自身のルーツにあるソフトかつアコースティックなR&Bを貫いてきたが、今作では音楽性をさらに広げ、アップビートで楽しく、中毒性のあるファンキーなR&Bサウンドをファンに聴かせてくれている。

力強くリズムを刻むアップビートなサウンドは、これまでの彼女の作品には見られなかった。バーナ・ボーイ(Burna Boy)をフィーチャーした「Simmer」や「I Wish I Missed My Ex」は、初期作品同様、愛や自分の成長、恋愛を歌っているが、もっと自信に満ちた雰囲気がある。2016年のアルバム『Diary of Me』の収録曲やその後リリースされたシングルはゆったりとした曲調で、恋愛について語ることをまだためらっているようなところも感じられたが、『Love and Compromise』では音楽性だけじゃなく、ひとりの人間としての彼女の成長も感じられる。たとえばエラ・メイ(Ella Mai)が参加した「What You Did」でマヘリアは、自分にはもっと価値があり、浮気をした彼氏は「許せない」ときっぱり言ってのける。

他のアーティストのカバー曲、すばらしい歌詞、秀でたギターテクなど、これまでもミュージシャンとしての才能を披露してきた彼女だが、最新作で、アコースティックなサウンドを聴かせていたシンガーソングライターとしてのかつての姿を見事に脱却し、より広い音楽性を示すことに成功した。

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デヴォンテ・ハインズ『Fields』
デヴォンテ・ハインズ(Devonté Hynes)は止まらない。ここ数ヶ月で2枚のアルバムをリリース。1枚は彼の個人名義でリリースされた『Fields』、そしてもう1枚はBlood Orange名義のミックステープ『Angel's Pulse』だ。後者はトラディショナルなR&Bといったところだが、『Fields』は彼の芸術性の広さを示し、まったく違う方向の音楽性を追求した作品となっている。

ハインズは本作で、リスナーに自らの音楽性の隠れた一面を見せた。収録曲はすべてインストゥルメンタルで、歌詞もボーカルもないため、おのずと楽器の使いかたに耳がいく。Blood Orange名義の楽曲では彼自身がリードボーカルとして歌うが、彼の音楽的才能をまだ知らないというリスナーも多いかもしれないので説明すると、彼はギター、ピアノ、チェロのレッスンを受けており、本作ではそれらすべてを使用している。

本作にはどこか薄気味悪い雰囲気が漂う。曲調はダークで、憂鬱で、幽玄的。つまり、実に秋に、そして、混沌と結びつくさそり座の季節にぴったりだ。

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MEN I TRUST『Oncle Jazz』
カナダのインディポップバンド、MEN I TRUSTの3枚目のスタジオアルバム『Oncle Jazz』は、驚くほどに心地よく、うっとりするほどに奇妙な作品だ。スローな楽曲、アップビートな楽曲、心が落ち着くような楽曲、深く考えさせられるような楽曲が織り交ぜられ、とにかく、とことん独創的。

MEN I TRUSTはリスナーをトランス状態に陥らせるコツを知っているらしい。バンドの想像力の中にしか存在しなかった世界へと、リスナーを連れて行く。「Norton Commander (All We Need)」を聴けば宇宙空間に浮かんでいるような気分になり、「Seven」では流れるようなロングヘアで、古風で立派なドレスを身につけて美しい場所をさまよい歩く白人女性となる。収録曲のサウンドはそれぞれ異なっているが、MEN I TRUSTは漠然としたさまざまな不安を、それぞれの曲で見事に表現している。リスナーの心は凪ぎ、物思いに沈むことができる。それはアップビートな楽曲でも同じだ。

MEN I TRUSTは長年活動してきたバンドだが、注目を集め始めたのは比較的最近で、そのきっかけになったのは「Tailwhip」「Show Me How」「Lauren」などの楽曲だった。ただ、彼らのサウンドも歌詞ももちろん美しいのだが、MEN I TRUSTは自分たちのクリエイティブなヴィジョンや、生来の芸術性を詰め込んだ美しいMVを作る才能もある。音楽だけではなく、人柄をも感じられるすばらしいMVを、ぜひチェックしてほしい。

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スーダン・アーカイヴス『Athena』
ヴァイオリニスト/シンガーのスーダン・アーカイヴス(Sudan Archives)はこれまでも自らの個性を大切にしてきたが、最新アルバム『Athena』はこれまでと比べものにならないほどに進化している。収録曲は神秘的で美しく、「Did You Know」は比較的テンポが速かったり、逆に「Down On Me」はゆったりとして内省的だが、存在感のあるアコースティックサウンドがすべての曲に統一感を与えている。本作の楽曲は古典的、伝統的な雰囲気をまとっている。それは「Glorious」に顕著だろう。初期の楽曲では彼女のヴァイオリンの技術にフォーカスが当たっていたが、最新の楽曲ではより幅広いサウンドで実験している様子が窺える。その結果、彼女の音楽性は進化し、より繊細で多様なサウンドが実現されている。

彼女には、卓越した音楽の才能だけじゃなく、世界中の様々な音楽を融合させる手腕もある。もちろん、スーダン文化への愛着も昔から持ち続けてきた(彼女のステージネームは国名から取られている)。これについては2018年のi-Dのインタビューで詳細に説明している。「弦楽器の楽曲は、古典的な音楽だと思う」。「この種の音楽には、癒しの効果があると思ってる。スーダンにはすばらしいヴァイオリン文化があるし、スーダンの伝統音楽では弦楽器が多用されてることに気づいた。スーダン音楽のスタイルも、アレンジも、ヴァイオリンの使いかたもすてきだと思うし、歌唱法もすごく美しい。身体の中が洗われるような感覚になる」

サウンドの多様性により、彼女の音楽はより繊細になり、普遍性をも宿すようになった。彼女は、自分にしか作れない楽曲で、メインストリームの音楽に迎合することなく、多くのオーディエンスを魅了している。

This article originally appeared on i-D US.

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