Photography Christine Yuan

革命の狼煙をあげる88rising:ショーン・ミヤシロ interview

数々の記録を塗り替え、とにかくめちゃくちゃ最高で、西洋的なバイアスのかかった〈アジア系ミュージシャン〉像を変革する音楽集団88risingのいまに迫る。

by Frankie Dunn; translated by Ai Nakayama
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07 February 2019, 11:15am

Photography Christine Yuan

This article originally appeared in i-D's The Superstar Issue, no. 354, Winter 2018

「どんどん進化していく、好奇心というエネルギーの球体。それが88rising。その核は愛と仲間」。これがショーン・ミヤシロによる88risingの定義だ。彼は日系ニューヨーカーで、2015年にレコードレーベル/音楽集団/アーティストマネジメント&プロダクションカンパニーである88risingを立ち上げた張本人。「現状維持で満足するんじゃなくて、自分自身に挑み続けてる。幸せをつくる会社だよ。何かをつくって、発信して、みんなに歓びを与える」

88risingは、東洋と西洋のクリエイティブシーンのギャップを埋めながら、世界におけるアジア系ミュージシャン像を変えつつある。韓国のラッパー、キース・エイプが2015年にリリースし、世界的ヒット曲となった「It G Ma」のリミックスを、88risingが主導して制作し、米国でリリースしたのがすべての始まりだ(リミックスでは、A$AP Ferg、Father、Dumbfoundead、Waka Flocka Flameがフィーチャーされた)。その後ショーンは、中国系カナダ人俳優/モデルで、シンガーからラッパーに転身したクリス・ウーと出会う。そのときすでにアジアで有名だったクリスは、米国でも自分の音楽で勝負したいと望んでいた。そこでショーンは、カイリー・ジェンナーとのあいだに子どもをもうけたヒューストン出身ラッパー、トラヴィス・スコットとのコラボレーションを提案。そして実現したのが「Deserve」だ。2017年にリリースされると、この曲はただちに話題となり、米国内のiTunesチャートで1位を獲得。中国系アーティストとしては初となる快挙だった。

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以来ショーン・ファミリーは拡大を続け、オーストラリア系日本人の元ユーチューバー(あの〈ハーレム・シェイク〉ミームの生みの親)で、センチメンタルなスロージャムが持ち味のJoji、インドネシアのラップ王子リッチ・ブライアン、中国のヒップホップグループHIGHER BROTHERSなどをスターダムに押し上げてきた。さらにインドネシアのR&BシンガーNIKI、中国のポップスター、レクシー・リウ、88rising初の非アジア系アーティストで、メランコリックなR&Bを生み出すアフリカ系米国人AUGUST 08も名を連ねている。これらの中心アーティスト以外にも、日本人ラッパーKOHHや韓国系米国人のプロデューサーYaeji、ロンドン育ちの日本人ポップシンガー、リナ・サワヤマとのコラボを果たしている。

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現在、ニューヨークのオフィス、さらにロサンゼルスと上海の拠点で働く献身的なスタッフたちのおかげで、88risingは順調に成功を重ねている。2018年には、コレクティブとしてみんなで米国&アジアツアーをまわり、夏に88rising名義でリリースしたアルバム『Head In The Clouds』は高い支持を得た。さらに、9月にロサンゼルスで開催した単独フェスも大成功を収めた。「友だちといっしょに夢を実現していってるだけ」とショーン。「ほんとそれだけ。そういう気持ちで毎日目覚めることができるって最高だよ」

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大阪生まれで現在はニューヨークを拠点とし、2018年10月にファーストアルバム『BALLADS 1』をリリースしたJojiは、88risingのクルーたちを『アベンジャーズ』に例える。「たまにみんなで集まって大ヒット作をつくるけど、みんなそれぞれの活動もある」からだそうだ。ただしショーンは『アベンジャーズ』だけじゃないと考えている。「『アベンジャーズ』×『The Office』だね。それから、ケアベアの要素もある。まずそれぞれが特別な力をもっているから『アベンジャーズ』。そしてそれぞれに独特のクセがあって、それを職場で発揮してるという意味で『The Office』。ブライアンはドワイトかアンディだろ。Jojiの声はジムに近い。NIKIはパム。ケアベアっていったのはみんながみんな、輝く特質をもっているから。それを全部ひとつの鍋に放りこんて、銀の大皿に乗せて世界へと差し出してるんだ。虹を召し上がれ、って」

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「88risingの基本ルールは、まず良いアーティストであること、そして人間として傑出していること」とショーン。「俺たちの心はまっすぐだ。もちろん俺たちだって完璧じゃないけど、俺たちには魂がある」。音楽的に多様でありながら、88risingのアーティストたちはつながっている。彼らをつなげているのは、ショーンがいうところの「自分たちが何か大切なことをしているという意識、何かすごいものを自分たちが代表しているという意識」。しかし、それを口に出しているわけではないようだ。「自分たちが歩む道、自分たちがみんなに刺激を与えていく方法について話し合ったことはない。DEPECHE MODEじゃないけど〈Enjoy the Silence〉って感じ。でも、みんな理解はしてる」。きっとそれが事実なのだろう。88risingの存在が世界じゅうの映画業界、音楽業界で起きているポジティブな変革を後押ししていることは間違いない。2018年はめちゃくちゃな政治状況だけじゃなく、ポップカルチャーにおけるアジア系アーティスト像の変化が生まれた年として記憶されるはずだ。

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例えば、キャストの大半をアジア系俳優が占めた『クレイジー・リッチ!』が、2009年の『あなたは私の婿になる』を押さえて、ラブコメ史上最高興行収入を記録。また主人公にアジア系女子を迎えた『好きだった君へのラブレター』が、ティーンの話題をかっさらった。「時代だよ」と主張するのは、19歳のNIKI。彼女はもともとブライアンの地元の友人で、初期のデモ音源がショーンの耳にとまり、88risingの仲間入りを果たした。「アジア系の姿をメディアで観ないのは事実。私も子どもの頃から、どうしてアジア系のバービー人形がいないのかなって不思議だったし、『ムーラン』みたいなディズニー映画がもっと増えればいいのにと思ってた。多様性が欠如した状態が当たり前だった。アジア系女性が学歴以外のところで勝負する余地はない、って私も疑いももたずに受け入れてた」。ジャカルタで育ったリッチ・ブライアンは、世界的に有名になり、ハリウッドに居を移したインドネシア人俳優を知ったときのことを覚えているという。「13歳のときに、そういうインドネシア人がいるって知って、すごく刺激をもらった。今は、俺が刺激だ、って俺と同じような見た目のキッズたちが伝えてきてくれる。ほんと最高だよ」。子どもの頃は有害なステレオタイプに毒されていたNIKIも、時代が動きつつあると感じている。「今は88risingがヒットしていて、『リバーデイル』ではアジア系俳優が学校の人気者を演じていて、K-POPグループがLAのステイプルズ・センターを満席にする時代。未来はさらに良くなるはず」

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ただし、ショーンは慎重だ。「俺はどんな表象でもOKとは思ってない。それはありえない。エンタメ業界、映画業界、音楽業界におけるアジア系はみんな負け犬っていうのが事実。ひとつサクセスストーリーが生まれたから、ハリウッドのエージェントたちがこぞって次なるアジア系ヒットを探してるだけ」とショーンは分析する。「そうやって、クソみたいなコンテンツが生まれてる。それは把握しておかないと。もちろん、ひとつきっかけが生まれたら、それに伴ってチャンスが増えるのはたしか。それはすばらしいよ。でも、業界の甘いワナにまんまと引っかからないようにしないと」。そういう姿勢を保とうとしているからこそ、88risingはトップの座に登りつめることができたのだろう。自らが道を切り拓き、いっさい妥協せずに活動する、アジア系アーティストのためのアジア系企業だ。

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「どんな分野においても、みんなが俺らのことを重要視してくれてるというだけで、俺たちにとってはすごいこと」とショーン。「もし誰かが、俺たちをきっかけに物事をポジティブに考えられるようになってるなら、俺はうれしい。俺たちがあらゆる障壁を壊し、あらゆる扉を開き、この世界のどこかにいる子どもたちに、自分もペンを握ってビートに乗せた歌詞を書いてみてもいいんだ、って思わせているとしたら、マジで最高。自分にもできる、っていうことを誰かが誰かに伝えていく。そうやって世界は前進していくんだ」

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