大崩落の前に──精神科を受診しようとした私に立ちはだかった4つの壁

今メンタルヘルスの問題が増加している。けれども、病院にいくのだって簡単じゃない。いつどうなったら受診すべきなのか。病院選びはどうやって? 気になるポイントを気鋭のライター高島鈴が自身の体験とともに共有してくれた。

by Rin Takashima
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08 October 2020, 11:00am

何かが崩れた。何が崩れたのかは知らない。気がついたら布団の中で体が動かなくなっていて、気がついたら心臓の痛みと喉のつかえで息ができなくなっていて、気がついたら夜中に不安で号泣していた。何かが崩れた。多分全部崩れ始めていた。私はこれを「大崩落」と名付けた。

大崩落は今年すでに四度起きている。五月に一度、七月に一度、九月に二度だ。原因はかなり明白で、パンデミックによって実家に閉じ込められたからである。私は家という空間を愛しているが、愛の数万倍憎悪を持っている。家にいる時間が長ければ長いほど、家族と過ごす時間が長ければ長いほど、私はすぐそばに蠢く他人がどうしても気持ち悪くて、存在していられなくなる。テレビの音、話し声、全部が無理だった。具体的な人物、つまりわが父母は特に悪くない(この人たちの険悪なやりとりは、私の肝を潰しに潰し、全身を緊張させ続けたが、それはこの人たちが悪いからこうなったわけではない)。私が家族という営みに全く適合できなかったということだ。それは最初からそうだった。その歪みはパンデミックによって私の首に決定的に手をかけたのだ。大崩落はシンプルな帰結であった。

病院に行ったら、交感神経が過敏になっていること、そしてうつ状態にあることを告げられた。想像していたことから、たいして離れてはいなかった。薬を飲み始めてからは諸症状は治まりつつあるが、副作用のせいもあるのか体力は大幅に落ちたままである。

本当は私に書けるのはそれだけなのだ。心を病み、それが体調にかなり直接的に影響するようになって、それでも仕事をセーブできず、この先の見通しが立たずに途方に暮れている。これは現在進行形でそうなっている。それだけである。

しかしきっと、私以外にも私と似たような状況にある人、あるいは私の「手前」の状態にある人がいるはずだと思い、私がここ数ヶ月で学んだことを書いておきたいと思う。これが誰かの参考になればいいとも思うし、誰の参考にもならないなら一番いい、とも思っている。

1:「病院に行くか」という踏ん切りをつけるのが難しい

 まず第一関門として、精神科/心療内科の受診を決断するまでに私はそこそこの時間を要した。私はもともとあまり精神的に「健康」ではなかったし、どん底までメンタルが落ちても数日かけてリカバリーできる場合がほとんどだったので、大崩落の数日後に食欲が戻ってくると「今回もなんとかなったな」と思い、そのまま病院に行かずに済ませていたのである。気分の落ち込みとそこからの回復は、私にとってそこまで警戒すべき事柄ではないような気がしてしまっていた。

これは間違いだった。というのも、「あ、これ本当に精神科行かないと死ぬ」と確信できる状態にまで陥ったとき、人間は大抵物理的に動けなくなっているからである。足の痺れ、日のあるうちに起きられない、そもそも上半身を起こせないなどなど、「おしまい」の状況になってしまうと、そもそも病院まで「足を運ぶ」行為が不可能になる。そして極端に知らない人と会話することが難しくなり、病院に電話することができなかったり、携帯を手に取って病院の電話番号を打ち込むことすら耐え切れないほど億劫になったりする。

「病院は動けるうちに行ったほうがいいよ」。これは私より先にうつになった私の親友が私に教えてくれたことだ。私は自分がうつ状態になるまで、この言葉の意味を理解していなかった。本当に、動けなくなってからでは、遅い。何か困ったことが生じたら、とりあえず大崩落が起きる前の「顔合わせ」のつもりで、信頼できそうな病院を探して受診しておくべきだ。

2:信頼できる病院が見つけにくい

 三度目の大崩落で受診を決めたあと、私は病院探しを開始した。あまり電車にも乗りたくないし、できるだけ家から近い、通いやすい病院がよいと思った。しかし近場の精神科・心療内科を調べると、Googleレビューでおそろしく低い評価をつけられている病院ばかりがいくつも目に入った。

一応断っておくと、Googleレビューはさして信頼できる媒体ではない。特に病院だと、「受付の人が私語をしていた」「予約の電話をかけたら通話中だった」ていどで評価1をつける人もいるぐらいなので、かなり個人の裁量に依拠している。また得てしてレビューというものは、なんの批判的論点も持っていない人はわざわざ書き込もうとしないので、Googleレビューもその投稿の多くはなんらかの問題点を指摘する内容になっている。よって☆の数が低くてもよい病院というのはいくらでも存在するし、厳しいレビューがついていてもよい先生が在籍している病院はある。

しかし私の家のそばの精神科は、いずれも医療機関としてかなり重要であろう部分について、かなり生々しい言葉で批判されていた……院内処方なのに薬の説明がない、症状を告げたら鼻で笑われた、「努力が足りない」と叱られた、火曜午後の〇〇先生は非常に高圧的なので絶対にやめろ、などなど。精神科ということは、自分が辛いと思っていることを打ち明けねばならない相手である。怖い医者は絶対に嫌だった。私はレビューを見ているうちに、どこに電話をかけていいのかわからなくなってきてしまった。

3:精神科・心療内科の初診予約は難しい

そしてこれがかなり大きな問題で……ようやく家族の知人が看護師として勤めていたというある程度信頼できそうな病院を見つけ、電話してみたところ、患者が殺到していて初診予約の受付を行なっていない旨を告げられた。諦めて隣の駅にある程度高い評価を得た精神科を見つけ、電話したところ、やはり患者を絞っている関係で、初診受付をしていないと言われた。「すみません、うち今初診受け付けてないんですよ」と申し訳なさそうに言われるときの、道が閉ざされたような気持ちは、本当にきつい。精神的に参っていればいるほど断られたときの絶望感は強くなるので、この点でもエネルギーがあるうちに受診することを強く勧める。

私が初診予約を取れなかったのは、COVID-19の影響で患者を絞っていたことなどもおそらく理由の一つであったのだろうが、そもそも人気のある「まっとう」な精神科・心療内科は、どこも予約が取りにくい。私の場合は初診予約がしたいと告げた段階で断られたが、予約が取れても一ヶ月先であるとか、予約を受け付ける時間帯が極めて短いとか、病院によってさまざまなハードルがある場合がある。

これも大崩落が起きてから病院に行くのでは遅い、と主張する理由の一つだ。とにかく、「よい医者にすぐに受診」はかなり難しい。運次第ですらある。

また先にも触れた通り、「知らない人と電話する」ことが負担になる人はここでも困難に直面するだろう。Web予約を採用している病院もあるが、その対象は多くの場合再診で、初診はほとんどの場合電話予約するほかない。早くホットペッパービューティのように初診をWeb予約できるシステムを作ってほしいと思ってしまうが、医療機関はそうもいかないのかもしれない。

4:持病がある人は、紹介状が必要になる場合がある

 さて、どうにかいくつかの関門を乗り越えて、ようやく「即日初診受付可能」という悪くなさそうな病院を見つけた。さっそく初診の電話をしたところ、ここでも新たな障壁にぶつかった。というのも、私は別の持病があり、すでに精神薬を服用していたため、持病で通院している病院からの紹介状がないと診察できないと言われたのである。

ようやく病院に行ける、と思った段階で、さらにもう1ステップが必要になってしまった。しかしどうしようもないので、先に持病の病院に電話をし、紹介状を出してもらうための予約をしなければならなかった。

もちろん医療行為であるから、対面診療は非常に重要だし、別の持病を持つ人間にほいほい不用意に精神薬を出すわけにもいかない。それはわかる。しかしひとりの精神的限界を迎えた人間としては、この通院準備は非常に手間だったし、受診準備を整えるまでの間もずっと底なしの不安に襲われ続けていた。

大崩落がくる前に

さて、以上四点、精神科通院において私が直面した問題を挙げた。私はこれらの苦しいプロセスを乗り越え、一通の紹介状を手にして、先に目をつけた近場の病院に電話をかけようとした。

しかしそこでふと気づいた……この病院に行って、出会った医者が自分と合わない人物であったら、紹介状が無駄になってしまうのではないか? 割印をほどこした封筒を見ていると、相性の良い医者に巡り合うまでガチャを回すように紹介状をもらい続けるのは、絶対に非効率的であるように思われた。

結局私はどうしたかというと、信頼できる友人が通っているクリニックに、家から一時間以上かけて通うことにしたのである。多少負担が大きくても、病院をいくつも行脚するよりはそのほうがよほどよいはずだと思った。そしてその選択は、結果的に私にとって正解だった。少なくとも今のところは。

 ここまで書いてきたことは、あくまでも一例であり、主観的な情報である。メンタルヘルスの症状はひとりひとり差が大きいし、症状も変化するので、何が絶対にいい、とは言えない。私は治療を受け始めたばかりの一患者にすぎず、これから考えや状況は絶え間なく変わるだろう。

そういう立場から何度でも強調したいのは、とにかくわずかな不調でもあれば、すぐに病院に行くべきであるということだ。周囲に医療関係者やメンタルヘルスを抱えた経験のある人がいれば、差し支えのない範囲でよい病院を知らないか聞いてみてもいいかもしれない。

精神的なことで病院を頼るのは、何も悪いことではない。それは絶対にそうだ。薬に頼るのも全く悪いことではない。薬によって不安が消えていなければ、私はこの文章を書くこともできなかった。どうかこの文章を見て、何か少しでもひっかかりを覚えたなら、気軽にクリニックへ足を運んでほしい。学校などの保健室から相談して、病院を紹介してもらうのもよい。大崩落がくる前に、あなたはあなたを食い止めるための手立てを試すことができる。

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