Photography Minu Han

K-POP、学歴社会、貧困、整形──韓国の今に切り込む作家 フランシス・チャ interview

現代の韓国に暮らす4人の女性の生活をありありと描いた小説『If I Had Your Face(もしあなたの顔だったら)』。作者のフランシス・チャに、キャラクターの着想源となった自身の過去や、彼女にとっての美容の意味を訊いた。

by Jenna Mahale; translated by Nozomi Otaki
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12 August 2020, 9:18am

Photography Minu Han

今から10年前、フランシス・チャがデビュー作の執筆を始めたとき、彼女は今とはまったく違う生活を送っていた。「K-POPにどハマりしていたんです。ちょっとおかしいくらい」と彼女は電話越しに笑いをこぼす。

25歳だった彼女は、父親が危篤となったため、美術学修士過程の途中で看病のためにニューヨークから韓国に帰国した。父が亡くなったあと、深い悲しみに暮れるフランシスに、束の間の慰めを与えてくれたのがK-POPのファンダムだった。

「特に夢中になったグループはBIGBANGです」と彼女は説明する。「彼らは私がハマったときはデビューしたばかりでしたが、すぐに今でいうBTSのような存在になりました」

現在ニューヨークで夫と子どもたちと暮らす彼女は、熱狂的なファンとしての生活にピリオドを打ったことに満足しているようだ。

「昼間は仕事をするふりをしながら、目が覚めている間ずっと彼らに熱中していました」と彼女は回想する。「ずっと夢のなかにいるような、不思議な生活でしたね」

当時のフランシスの生活が投影されているのが、彼女の最新作『If I Had Your Face』の最初の主人公、アラだ。

「ファンダムには、フィクションでは決して見られないような一面がありました。かつての自分が取っていたとんでもない行動を振り返り、それについて書くのは本当に楽しかった」

「あの頃は、常にBIGBANGが今どこにいるのかを把握していました。夜は録音されたメッセージが聴ける番号に電話して、それを聴きながら眠ったり。今考えるとどうかしてるけど、それが私の人生だったんです」

「アラは大好きなキャラクター。彼女のなかには、当時の私が陥っていた闇があるから」。アラはK-POPの大ファンで、美容師としてソウルで働いているという設定だ。

その次の章では、物語はキュリという女性の視点から語られる。キュリはアラの常連客のひとりで、容姿を磨くために血の滲むような努力をしながら、裕福なビジネスマンを愉しませる〈ルームサロン〉で大金を稼いでいる。しかし重要なクライアントの機嫌を損ねたことがきっかけで、彼女の立場は危うくなっていく。

続く章の語り手は、新婚で妊娠中のウォナ。金銭的な問題によって、結婚生活に亀裂が生まれる様子が描かれる。

そして4番目の主人公は、キュリのルームメイトのミホ。身寄りのない美術学生の彼女は、ニューヨークで富裕層のエリートに囲まれながら、権威ある奨学金で暮らしていた日々からずっと、不安に苛まれ続けている。

if i had your face, frances cha

登場人物はみんな同じアパートで暮らしており、それぞれの生活はお互いにゆるやかに繋がっている。章が進むごとに主人公が入れ替わり、誰もがそれぞれの物語に少しずつ登場する。しかし、彼女たちのより具体的な共通点は、差し迫った貧困だ。

「現代の韓国は、世界の他の国とはまったく違います。それを言葉で表現したかった」とフランシスはいう。

「未来的で、テクノロジーに基づく、急進的な社会は、教育に関しては超競争社会でもあります。世界でもトップレベルの学力を誇る国なので、みんながほんのひと握りの大学を目指して競い合っています」

だからこそ、美容整形手術が経済的な命綱になっているのかもしれない、と彼女は説明する。『If I Had Your Face』で、この社会的な真実に最も鋭く切り込んでいるのは、キュリの物語だ。

「(整形手術を)しているからといって、このキャラクターをジャッジしたくはありません。彼女にとって、それは生活をより良くするための唯一の手段だったんです」

「キュリは生まれながらにして裕福でも成功を約束されているわけでもなく、有名大学に入れるほどの学力もなかった。彼女がこの国で社会的地位を向上させるには、他の可能性を探るしかなかったんです」

本作の書評の多くは、フランシスが「シニカル」かつ「さりげなく残酷」なアプローチで「実利主義的な社会」を論じている、と指摘しているが、これは彼女の意図した解釈とは必ずしも一致しない。

「欧米的な文脈において、整形手術にはとてもネガティブなイメージがあります。無意味で分別のない行為だ、と」

彼女は、欧米に広く行き渡っているダブルスタンダードの例を挙げた。「興味深いのは、矯正にはそういうイメージがないことです。歯の状態が自信や恋愛にあからさまに直結し、高価で、痛みを伴い、身体に傷をつけ、劇的に変える施術であるにもかかわらず、広く受け入れられている」

「まったく別の顔に変わってしまうのに、矯正はジャッジされない。『ありのままの自分を大切にするべきだ、自分を変えようなんて思わなくていい』なんて主張するひとはいませんよね」

frances cha

フランシスの小説は韓国の美容業界に抗うのではなく、美容に真摯に接するメリットを描写することで、この業界の複雑な一面を提示している。フランシス自身も、フルメイクのときがいちばん落ち着くといい、外出するときは必ずアイライナーを引くそうだ。

「韓国には、『メイクは他人への礼儀を示す』という言葉があります」と彼女は説明する。「母親に小さい頃からそう教え込まれました。誰かと会うときに、時間をかけて最高の自分を見せる努力をしなければ、相手を見下しているも同然だ、って」

メイクをすることは、「あなたを尊重しています、だからあなたのために努力をしています」というメッセージになる、と彼女はいう。

フランシスは、欧米の読者が本作が韓国社会を非難していると誤解するかもしれない、と懸念するが、彼女はこれまでも世界の読者に向けて文化を発信してきた。韓国に住んでいた頃はCNN Travelのエディターを務め、世界の読者のために文化的翻訳が必要なストーリーにも度々遭遇した。

「現代の韓国にあまり馴染みのないオーディエンスから反応をもらい、この国の違いを実感したという意味で、とても良いトレーニングになりました」と彼女は語る。フランシスが『If I Had Your Face』の基礎となるストーリーを集め始めたのもこの頃だ。

しかし、小説を執筆するさいは、世界のオーディエンスのことはあまり考えず、友人との何気ない会話と同じくらい自由に、韓国語のフレーズを英語に取り入れているという。

「自分が話している言葉に別の言語が混ざっていることに気づかない、ということもよくあります。英語のままにしている言葉もあれば、韓国語のままにしている言葉もある。どうしても英語に訳せない動詞もいくつかあります」

フランシスにとって、本作は自分が若い頃に読みたかったフィクションだ。「理想の読者は、まさに私みたいなひとです!」

フランシス・チャ『If I Had Your Face』は現在発売中。

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