リナ・サワヤマ×プッシー・ライオット「社会を揺さぶるクィア、ポップス、アクティビズム」【対談後篇】

リナ・サワヤマとナージャ・トロコンニコワによる対談後篇。話題はクィア・コミュニティが社会に与えた影響や資本主義リアリズムを経由して、日常のなかで実践できるアクティビズムへ。

by Sogo Hiraiwa
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21 July 2020, 12:28pm

リナ・サワヤマ×プッシー・ライオット「ファストファッションみたいな音楽は作りたくない」【対談前篇】

性役割を揺さぶるクィア・コミュニティ

ナージャ:ずっと訊いてみたかった質問があるんです。これまでに出会ったセクシストのなかでトップ5人は誰ですか? 私も自問してみたことがあります。たとえば、2007年に一緒にアートコレクティブを始めた男がいます。当時の私は17歳。その男は「女にアートなんか作れっこない」「偉大なアートを作った女はレニ・リーフェンシュタールくらいだ」と差別的な発言を時々していました(ちなみにレニはヒトラーお付きの映画監督です笑)。それがきっかけで私はプッシー・ライオットを始めたんです。そういうセクシストいませんでしたか?

リナ:UKの性差別はより周到だと思います。言葉には出さないというか。私が体験する性差別はレイシズムと絡み合ったものですね。「ルーシー・リューよりセクシーだね」と言ってくる男がいたり。あとトランプが大統領選で勝った直後に参加したニューヨークでのパーティで、体育会系の男に話しかけられたことがありました。彼は私に気があるみたいで、10分以上あれこれ質問されたんだけど、急に「君は英語ができないからもう話したくない」と言ってきたんです。クレイジーですよね。それまでずっと英語で話してたのに!

ナージャ:たちが悪い……。

リナ:そう。でもトランプがそれを奨励していたんです。国のリーダーが酷い言動をすることによって、あたかもそうしてもいいかのような雰囲気ができてしまっていたんです。それと日本社会にはある種の男らしさが確かにあって、すごく性差別的だと思います。知っているかもしれませんが、数年前に、東京の医科大学が10年以上にわたって女性の合格者数を限定していたというスキャンダルが出たんです。

ナージャ:日本のジェンダーロールはどうですか。アメリカより強いですか? というのもアメリカでも、特に都市部では性役割が薄まってきたと感じるんです。クィア・コミュニティの活動のおかげで、とっても解放された。

リナ:私はUKで育っているし、日本にも年数回しか帰らないので、日本で育つのがどういうことなのかわからないんです。でも欧米より進んでいるとは思えません。有給の産休が保証されていない数少ない国のひとつですしね。男性の産休もない。いまでもそうかはわかりませんが、異母姉が子どもを産んだときは、父親はまったく休暇を取りませんでした。その仕組みが性差別を物語っていますよね。私の母は「なんでベビーシッターなんか雇うの? お母さんなんだから、自分で赤ちゃんの面倒をみないと」って言われていたし、そういう古臭い母親幻想があるんだと思います。でも、さっきあなたがクィア・コミュニティが性役割を解体していると言っていたのはなるほどなあと思いました。

ナージャ:ええ、少なくとも都市部では。アメリカでもUKでも分断が生じていますよね。ロシアでも同じことが起こっていますが、同時にクィアの復興も始まっているんです。しかもすべて草の根運動から出てきた動きなので、とても勇気づけられる。脳なしのロシア政府はLGBTQアクティビストを弾圧するための法律を作りました。それだけではなくてトランプ同様、特定のコミュニティに対するヘイト表現を国が容認し、お膳立てしているんです。

リナ:ここをターゲットにしていいよ、と。クィアの草の根運動が活発になっていると知れてよかったです。でも、その口火を切ったのはあなたですよね。自分のした行為がこのような実のある影響を及ぼしていることについてはどう感じていますか?

ナージャ:それは褒めすぎです。でもプッシー・ライオットは重要な役割を果たしてきたのかもしれません。ロシアでよく私たちが言っていたのは、もし家父長制という火が燃えているなら木片を投げ込むべきだ、ということ。印象としては、かつて私たちが木片を投げ入れた火がいまメラメラ燃えているといった感じです。

すばらしいと思うのは、若い世代の子たちがフェミニストとして堂々としていられること。けれども、クィアでいることはいまだに難しい。若いうちはどうしたって親と暮らさないといけないからです。このあいだも、ホモフォビアがきつい両親に隔離されていたクィアの子の引越し費用をプッシー・ライオットで募りました。その子ひとりで一体何ができるでしょう?

リナ:辛い状況ですね。

ナージャ:親たちにそうさせているのはやはりロシア政府です。「西側はゲイに支配されている」云々と時代錯誤の価値観をいつも喧伝していますし、最近も史上最もホモフォビックなCMを作りました。とはいえ、以前よりはクィアやフェミニズムのアクティビストであると言いやすくなっていると思います。13年前、プッシー・ライオットを始めた頃はそれを公言するだけでもトラブルになっていましたから。

日常のなかで実践できるアクティビズム

リナ:いまi-D Japanの読者のことを考えていました。どうしたら普段の生活のなかにアクティビズムを取り入れられるでしょうか? アメリカならアクティビストを名乗っても全然問題ないと思いますが、日本はたぶん状況が違っていて。アクティビズムに興味のある日本の読者にはどういうアドバイスができるでしょうか。

ナージャ:まず言えるのは、直感と夢を信じること。特に若い人の勘は鋭いですからね。実際私がそうで、16歳のとき自分のやりたいことは完全に把握していました。仕事に就くという選択はあり得なかったんです。周りは反対して、母親からはずっと「弁護士になれ」と言われ続けました。それから8年間は万引きをして食いつなぎました。18歳で子どもを産んでからも、モスクワ大学で無料で勉強しながら、万引きをしてサバイブしました。どんな状況でも道はあるから、怖がらないことです。自分の直感に従い、伝統的な教育システムの外側でたくさん学んでください。リナがさっき言ったとおり、学校でクリエイトする術は学べないからです。伝統的な教育制度は知識を消費することばかりを教えて、知識を批判するしかたや現状を問う術は教えてくれません。これらはアクティビストになるために必須のスキルです。

ナージャ:またニュースを読むときは、どうしたらその状況を変えられるか考えてみてください。自分が実行できることを考えてみる。それが些細な行動でも大丈夫です。どんなものでも些細すぎるということはありません。システムは小さなものの集合体で、集まることで大きなパワーになるからです。

リナ:私もそのことはずっと考えてきました。政治学を専攻したのもそれが理由でした。大学では政治学、心理学、社会学を専攻していたのですが、それはすべてが繋がっていると考えたからです。心理的に起こっていることは、政治学や社会学においてはひとつのファクトなんです。

ナージャ:すばらしい。私もドリアンも哲学専攻ですけど、ポップミュージックの世界で社会学や哲学を学んだ人たちが増えていて本当にワクワクします。

リナ:いつも考えていたことですが、何よりも大事なのは教育と読書で、ポップカルチャーはその次だと思うんです。いいですか皆さん、「一に教育、二にポップス」ですよ。

ナージャ:アドバイスとしては、すぐに結果を期待しないことも大事です。アクティビストになりたい人が数週のあいだ毎日欠かさず通りに立って何も成果が上がらず、これはやっても無駄だとやめてしまうケースがかなりあるように思うんです。けれど、無駄ではありません。私たちが対峙しているのはとてもしぶとい仕組み(asshole)なのであって、そう簡単に変わるものではないんです。

リナ:全く同感です。人が即時的な結果を前提にするのは、SNSで急速な変化が起こっているからだと思います。ブラック・ライヴズ・マター(BLM)もそうですよね。私はあらゆることは選挙キャンペーンだと考えています。ある人物を大統領の座に就かせようとしたら、数十年かかるわけです。それには莫大な資金、草の根運動、ロビー活動、その他諸々が必要になる。そういう視点を持ったうえで、アクティビズムや自分たちが望む変化を考えるべきなんだと思います。なぜなら、アクションや変化はさまざまなレイヤーで起こらないといけないからです。草の根運動もそうですし、地域社会へのサポートも必要です。近所に住んでいる人たちを知ること、選挙期間にドアをたたくこと、会話を交わすことはとても重要です。

それからお金の話も大事だと思います。今回のBLMで私はSNSで自分ができる最善の尽くしましたが、アメリカに住んでいないし……とそこで気づいたんです。もしお金を稼ぐことができれば、大義のために使えるなって。セレブリティたちは空虚でまぬけな存在だと思われているけど、彼らには大きな力がある。そして、力を注ぎたいと思えるものがあるなら、そういう力を持つのもエキサイティングなことだと思うんです。

リナ:自分のやるべきことを実感できたのは、この世界に音楽が有り余っているからです。私にとってはなくてはならないものですが、薬や他のエッセンシャルなものに比べたら、残念ながら必需品ではないわけで。だけど、どうやったら自分がエッセンシャル・サービスになれるかを考えるのは結構おもしろいですよ。

ごめんなさい、どうやったらアクティビストになれるかって話でしたよね。どんな小さなことでも、たとえば会社で働きながらでもアクションは起こせると思います。友人の弁護士は黒人の同僚の給料が自分の給料より低いことを知り、もし彼女に対して同額かそれ以上を払わないならここを辞めると会社に申し立てをしました。その結果、彼女は友人より多くの給料をもらえることになりました。彼女は自分の仕事をリスクにかけたんです。このことが示しているのは、アクションは多層的(マルチレベル)にする必要があるということ。あなたが特権を持っているなら、お金があるなら、いい仕事に就いているなら、その仕事を辞めて転職できる立場にいるのなら、システムに揺さぶりをかけてみてください。

楽しみながらできることを見つけるのが“成功の鍵”

リナ:それからこれは資本主義的な考え方かもしれないけれど、特権がある人はお金をむやみに消費しないでください。つまり、あなたがシステムのなかにいて何か変えたいと望んでいるなら、貯金することでチャリティに寄付もできるし、会社を揺さぶることだってできる。お金がなかったら離職というカードも使えないですよね。かりにそれで仕事を失ったとしても、企業のカルチャーにわずかでも変化をもたらすことができるんです。もし不自由なく暮らせているなら、あなたには特権があるということです。特権がある人はそれを使って変化を起こしましょう。かなり資本主義的かもしれませんが(笑)、働いている人へのアドバイスはこんな感じです。お金を貯めること、寄付すること、システムを揺さぶること。

ナージャ:そういえばTwitterでBLM関連のドキュメントをシェアしていましたよね。とても役立つ情報ですばらしいと思いました。

リナ:ああ〜、あれは私が作ったわけじゃないんですけどね。常にアップデートされている資料なので、プロフィールにリンクで貼りました。アルバムが出たばかりでしたが、プロモーションはすべて取り止めました。そんな場合じゃない気がして。次出るMVの広告利益はロンドンで活動している若い黒人クィア団体に全額寄付するつもりです。BLMではアメリカに住むアジア人についてのツイートもしました。私は教育を受けていて、関連する資料に当たれるし文章もかける。なので、噛み砕いてわかりやすくしたものをフォロワーに共有する義務があると思ったんです。

大きなことをしなくちゃいけないという考えから及び腰になっている人もいると思います。でも社会は連続体だから、ごく小さなことから始められる。最も大きく貢献できるのは投票です。とてもプライベートだけど、とても強力なアクションでもある。私は義務だとも思っています。これがi-D読者へのメッセージですね。あなたがどこにいても、すべきことはできる。特定の業界に入らなくても、アーティストにならなくても、有名人にならなくてもいいんです。

ナージャ:私たちはそれぞれ持続可能で快適なアクティビストのあり方を見つけるべきなんですよね。それこそが成功の鍵だと思います。2016年にトランプが当選したとき、「みんなで議員に電話しよう」と言い出した人たちがいたけれど、そういうのは心地悪い。全員が同じことをする必要はないんです。気持ちよくできないことは2週間も続きません。楽しみながらできることを見つけてください。

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