韓国、タイ、台湾でのBLドラマの盛り上がりと複雑な背景

韓国、タイ、台湾のネットコミュニティを中心に、空前の盛り上がりを見せるボーイズラブ(BL)ドラマ。しかしその裏には、LGBTQ+の人びとにとって風当たりの強い現実がある。

by Ashlee Mitchell; translated by Nozomi Otaki
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27 July 2020, 4:59am

Still from 2moons2.

ロマンチックで空想的、時に官能的なストーリーで、独自路線をひた走るボーイズラブ(BL)ドラマ。制作される国では同性愛はいまだにタブー視されることも多く、これらのドラマは東アジア諸国のエンタメにおいてLGBTQ+が登場する唯一のコンテンツだが、世界中に熱狂的なファンを生んでいる。

アジア各国のドラマにおけるBLブームの起源は、日本の男性同士の恋愛を主題とする漫画〈やおい〉。この言葉を生み出したのは、少女漫画に革命を起こした〈24年組〉の流れを汲む漫画家の坂田靖子波津彬子で、ふたりはセクシュアリティやジェンダーの表現を模索するとともに、本質的なテーマに切り込んだことで知られている。

1980年代に誕生し、物議を醸してきたこのジャンルは、当初は主に十代の女性をターゲットにしていたが、やおいという言葉は、徐々に男性同士の恋愛を描く創作物全般に使われるようになっていった。

二次創作、アニメ、ウェブ漫画に続き、BLドラマは今、世界のさまざまなオーディエンスの間で人気を集めている。なかでもこのジャンルを牽引するタイと台湾では、2020年だけで80本以上のシリーズが公開される予定だ。

東アジア諸国では、歴史的観点からもLGBTQ+への理解が不足していることを踏まえると、これらの国でクィアコンテンツを呼び物にするTV・映画業界が急成長しているのは意外に思えるかもしれない。

今年5月に同性婚を合法化した台湾は、アジア随一のLGBTQ+先進国として知られているが、タイでは同性婚はいまだに合法化されておらず、どちらの国にもLGBTQ+への差別は根強く残る。

韓国にも差別を禁止する法律は存在せず、ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告によれば、新型コロナウイルスの感染拡大によって、LGBTQ+への差別が加速しているという。

STILL FROM

5月23日、Vikiで公開されたクィアのウェブドラマ『君の視線が止まる先に』は、韓国初のBLドラマとの呼び声も高い作品。全8話のこのドラマは、若き財閥の御曹司と彼のボディガードの親密な関係を描く。

サイドストーリーとしてクィアの関係を描いた韓国ドラマは、これまでにもあった(『梨泰院クラス』のメインキャラクターのひとりはトランスジェンダーで、『恋するアプリ Love Alarm』『恋はチーズ・イン・ザ・トラップ』『十八の瞬間』にもクィアのキャラクターが登場する)。

韓国映画では『移ろう季節の中で』や『メソッド』、LGBTQ+映画スタジオ製作の『Long Time No See』などがBL作品として分類されるが、いずれもメインストリームで成功を収めることはなかった。

しかし、『君の視線が止まる先に』は、通常の韓国ドラマのようなメディア露出やプロモーションがなかったにもかかわらず、世界中に熱狂的なファンを生んだ。

「観終えるたびに、1話がもっと長かったらいいのにと思っていました。でも、あの長さでよくここまでの作品ができたな、とも思います」と22歳の米国の学生、カイラはi-Dに語った。「この作品をきっかけに、長編シリーズもつくってほしいです」

YouTubeにBL作品のリアクションビデオを投稿している英国の20歳の学生、エヴリンも、本作をきっかけにより多くのBL作品が生まれることを願っている。

「韓国は保守的な国だから、すぐには実現しないでしょう。でも、このドラマの人気に気づけば、もっと受け入れられるようになるはず」

タイで『2moons2』や『Present Perfect』をはじめとするヒット作を生み出してきたアーム・アヌソーン(Aam Anusorn)監督によると、BLのファンベースは主にストレートの女性で、BLドラマの人気の理由は、日常生活では目にすることのない男性の「繊細な」一面が描かれているからだという。

しかし、BLドラマを制作するクィアの監督として、彼はそれを意図的にオーディエンスに伝えようとしているわけではない、と明言する。「僕たちはオーディエンスに対して正直であるべき。BLは他のラブコメと同じなんです」

「BL作品をつくるときの僕の考えやプロセスは、ゲイ映画をつくることを前提としているわけじゃない。僕はただ、ラブストーリー、ロマンチックな物語をつくっている。それだけです」

自分自身やタイのLGBTQ+の体験に基づいて作品をつくっているアヌソーン監督は、この業界では例外的な存在だ。「僕は自分が創りたいものを創っている。自分の人生に起こっていることを物語にしたり、些細なことを拾い集め、自分の作品に取り入れています」と彼は説明する。

「多くの視聴者は、僕の作品のディレクションの違いに気づいてくれます。他のBLシリーズとは違うんです」

アヌソーン監督の作品が提示するのは、多くの人びとが待ち望んでいたものだが、監督自身がセットでスタッフからのホモフォビアを体験したこともあり、タイのLGBTQ+が権利獲得するまでの道のりはまだまだ長いことを実感しているという。

タイ社会はLGBTQ+に対してオープンでも受容的でもない、と監督はいうが、それでもタイのエンタメ業界が好調なのはBLドラマのおかげであり、韓国にとってのK-POPと同様、BL作品は一種の〈ソフトパワー〉になりうる、と彼は考えている。

アヌソーン監督は現在、東アジアの映画業界を深く掘り下げるドキュメンタリーを制作中で、ジッティレイン(JittiRain)原作の大ヒットBLドラマ『2gether: The Series』で主演カップルを演じたブライトとウィンなど、BL作品の人気俳優が出演する予定だ。

BLドラマのファンたちは、SNSで好きなシップ(ship:リレーションシップの略。特定のキャラクター同士の恋愛関係のこと)について語り、Twitter、Reddit、Tumblrなどでファンアカウントを運営する。YouTubeユーザーは、新たに公開された作品へのリアクションビデオを投稿する。

しかし、最も熱心なファンたちもBL作品が内包する問題を認識しており、これらのコンテンツの持つ複雑さについて、ネット上で議論を交わしている。

「残念ながら、同性愛をやみくもに持て囃す人たちもいます」とオランダ在住の21歳のバリスタ、ディスティニーはBLのファンベースについて語る。彼女自身は、他の多くのファンと同様、東アジアのドラマのいちファンとしてBL作品を鑑賞しているという。

「魅力的な男性にBLの役を演じさせるのが、これらのドラマの常套手段です」とフィリピンに住む23歳のリンは主張する。「すぐに人気が出るのですが、それは彼らのルックスのおかげ……。なかにはあまり演技がうまくないひともいます」

それでも、リンはこれらの作品をきっかけに東アジアにおける社会的不平等への認識が高まり、ゆくゆくはさらにLGBTQ+の表象が増えていくだろう、と考えている。彼女のお気に入りのBL作品はタイドラマ『Until We Meet Again~運命の赤い糸~』だ。本作はクィアの役にクィアの俳優を起用しているが、残念ながらこのような取り組みは、BLジャンルではほとんど例がない。

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Still from "2gether: The Series."

そのいっぽうで、BL作品のおかげで自らのセクシュアリティやアイデンティティを受け入れられたというファンもいる。

「みんなに理解されないから隠さないといけないと思っていた部分を、周りに打ち明けられるようになった」と語るのは、米国在住の26歳のオペレーションマネージャー、アシュリーだ。彼女はアヌソーン監督の『2Moons2』を観てリアクションビデオをつくり始めたという。

有名なBLリアクションチャンネルを運営するアリクスは、BLドラマのおかげで自分自身がコンテンツのなかで表象され、LGBTQ+コミュニティの一員であることを実感できた、と語る。

また、23歳の看護師のビアンカは、BL作品を好むネット上のコミュニティは「多くのひとが自分が社会の一員であり、支えられていることを実感できるよう、全てのひとを受け入れ、心を開くことを重視している」と述べる。

BLドラマは、今や一大ムーブメントとなった。セクシュアリティを解放した革命的な日本の漫画ジャンルから派生し、多様なアートプラットフォームや世界各国で高く評価されるひとつの芸術へと成長した。

BLドラマが真にLGBTQ+を表象するジャンルとなるのはまだまだ先の話だが、クィアの物語を中心に据えることは、クィアネスが現実よりもフィクションで受け入れられやすい東アジア諸国において、大きな一歩となるはずだ。

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