最新作を放つ異彩ラッパー、Netflix「日本沈没2020」の楽曲参加も話題のDaichi Yamamoto interview

前作「Andless」のリリースから約1年。東京や地元・京都でのワンマンライブも大成功に収め、今年に入ってからもTVCM曲やNetflixのキャンペーン楽曲への提供など話題に事欠かさないラッパーのDaichi Yamamoto。最新作「Elephant In My Room」のリリースが満を辞して決定、本作に込められた想いとは。

by Yuho Nomura; photos by Yuki Hori
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19 August 2020, 10:00am

デビューから僅か2年で飛躍的に活躍の場を広げつつあるバイリンガルラッパー・Daichi Yamamoto。特異なバックグラウンドを持つ彼だからこそ、変わりゆくこの時代で抱く表現欲は計り知れない。今回そんな彼がこれまで秘めてきた胸の内をi-D Japanで激白。活動拠点でもある京都で撮り下ろした自宅での写真と共に新作「Elephant In My Room」の全貌をお届けする。

― 早速なんですが、前作「Andless」と今作「Elephant In My Room」を比較してみて明らかに変わった点、成長した部分があるとしたらどんなことが挙げられる?

まずひとつ言えるのは環境が変わったという事ですね。それは世界的に環境が変わったというよりも、僕自身の身近な環境という意味合いが強いのですが、「Andless」の時は京都の「Jazzy Sport」でスタッフとして働きながら音楽活動をしていたんですが、今年になってからは基本的には音楽活動だけに集中できるようになったので、純粋に音楽に費やせる時間が多くなったんですよね。

― それは大きいね。とはいえ環境が変わるって必ずしも良いことばかりではなかったりするよね。

そうなんですよね。「Jazzy Sport」でスタッフをしていた頃は良い意味でメリハリのある生活を送れていたので、制限はありながらも規律のあるライフスタイルの中で音楽活動ができていたと思います。それが完全にフリーの立場になると、「あれ? こんなに時間あるんだ」って(笑)。

― 会社員からフリーランスに転向した感覚に近いのかな。

はい。なので音楽と向き合う時間は増えたんですけど、その反面で葛藤する場面も増えたというか。そこに来てコロナの影響もあって、完全に思考が迷いの森に入り込んでしまったんですよね。ただそうした時流がありながらも、発想をプラスに転換させる意味でもA&Rのマサトさんと、夏頃にはEPを出したいねって話はしていたので、そこに照準を合わせて、なんとかメンタルとモチベーションの調整していきました。

― なるほど。コロナで言うと今だに終息がつかず、先行きの見えない状況の中で、今後どうやって活動していくべきか考えていたりする?

深刻な問題だとは思いますけど、ずっとこのままの生活が続くわけでもないと思うので、変化は柔軟に受け入れながらも、これまでのように早くライブができるようになって欲しいですよね。僕自身、父親が京都で「METRO」というクラブを経営していることもあって、ライブはずっと生で観てきたし、やっぱりライブ至上主義なんですよね。一度オンライン上のライブパフォーマンスも試してみたんですけど、リアルなレスポンスがないのは寂しいし、こっちのモチベーションも上がらないんですよ。生でオーディエンスが実際に盛り上がっている姿を見られるのもそうですし、酔っ払っているお客さんがいたり、野次を飛ばしてくる人がいたり、っていう空気感が好きなんですよね、単純に。

少し前にトラヴィス・スコットが「フォートナイト」とコラボレーションした楽曲とか、つい最近kZmくんが開催していたオンライン上のライブビューイングのようなコンテンツは面白いなって思いますけどね。

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― そうだね。そうした最中で発表された本作は、前作以上に思い入れもあったと思うんだけど、DAICHIくんにとっての見所はどんな部分だろう?

「Andless」は僕にとって初めてのアルバムだったこともあり、とりあえず持っているツールを全て試した感覚が強かった作品なのですが、「Elephant In My Room」ではそこから更に的を絞った表現に力を入れることができた気がしますね。濃度でいったら前作よりも濃くなっているというか。

― 楽曲の中でひとつ好きな曲を選ぶとしたら?

個人的に好きだなって思える曲は、grooveman Spotさんと一緒に作った2曲目の「Netsukikyu」ですね。楽曲としてのバランスがすごく良くて、今の自分に一番合っている気がするんです。もちろんどの曲も納得のいく大好きな曲ばかりなんですけど、今の気分で言ったらこの一曲ですかね。

― 自身でもビートメイクを行う身でありながら、今作ではgrooveman Spotさん以外にも豪華なビートメイカー陣が脇を固めているよね。

前作の時にも感じたことではあるんですけど、意外と自分のことって自分では理解しきれていないというか、客観的な視点がないと僕の場合ダメだなと感じる瞬間があったので。自分の信頼の置けるビートメイカーの人たちからビートを提供してもらうことで、新しい自分が発見できるっていうのは大きいですよね。

― 信頼できるといえば、前作に収録された「Let it be」でもお馴染みのタッグとなったQUNIMUNEさんプロデュースの「Blueberry」はどうだった?

もう何度もご一緒している関係性ではあるので、毎回安心して制作ができているんですが、QUNIMUNEさんと作る曲はいつもフックへの思い入れと作り込みに時間がかかるんですよね。パターンでいうと10曲以上作っていますし、お互いそこに重点を置いて作ることが多いです。

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― こちらは先行シングルとしてリリースされ、つい先日MVも公開されたことで話題になっていたよね。

MVも毎回お願いしている堀裕輝さんというフォトグラファーの方に撮影頂いているんですが、今回の撮り下ろし写真はもちろん、ジャケットやプロフィール写真などでもお世話になっている方で、今回は初めて全編を通して16mmフィルムで京都を舞台に撮影を行いました。シネカリグラフィーというフィルムに直接傷をつけて動きを生み出す手法を採用していて、今までにない世界観で楽曲をイメージしながら演出しているのがポイントなんです。他にも映画「この世界の片隅に」で特殊作画を手掛けた野村健太さんに参加を頂いていて、これまでとは異なる取り組みになったかなと思っているので、是非見ていただきたいですね。

― 話題といえば、八村塁選手が出演したことでも注目を集めたリポビタンDのCMに楽曲提供された「Splash」もSNSなどで大きな反響を呼んでいたけど、どういった経緯で生まれた曲なのかな?

この曲は突発的にオファーを頂いたことから始まったのですが、僕のマネージャーでもあり、「Jazzy Sport」でA&Rを担当しているマサトさんの提案でビートメイクとプロデュースをKMさんに担当していただき、ただのタイアップ曲というよりも初めて全国放送のCMに使用される曲ということもあり、非常に嬉しかったですし、感慨深い曲になりました。関わっていただいた方に感謝ですね。特にクレジットなども載せずに放送されていたので、気付かない人もいるのかなって思ったら、意外とみんな知っててくれて。なかには八村塁選手が歌っているの?なんて声もあったみたいですけど(笑)。ただ今回の収録曲は、実際にCMで使用された楽曲からは微妙にアレンジが加わっているので、聴き比べてみても面白いかもしれないですね。

― そして今回、ラッパーとしては唯一の客演ともなった5lackとの「Radio」。初めてのフィーチャリングだったと思うけど、一緒に曲作りをしてみてどうだった?

以前からずっと一緒に曲作りをしたいと思っていたんですが、今回絶好のタイミングでマサトさんから『5lackはもういつでもプロデュースのイメージが出来ているらしいよ』と連絡をもらったんです。その後すぐに5lackさんにコンタクトを取ったら、既にビートが出来あがっていて(笑)。

本当は次のアルバム用に制作を進めていたのですが、思ったよりも早く曲が出来あがったこともあって、今回の作品に入れさせてもらいました。当然アーティストとしても尊敬している方ですし、10代の頃から沢山曲も聞いていたので、プレッシャーもあったのですが、実際に一緒にやってみたら5lackさんのディレクションや提案力の高さに驚きましたね。

あとはフックの作り方やビートのチョイスに至るまで僕の印象をそのまま具現化してくれて、もちろん僕もそれに対して応えたいっていう気持ちも強くなるので、今までにない僕の新しい一面を表現できた気がしますね。そうした意味でも今作の「Elephant In My Room」を彩る一曲になってくれたかなと思います。

― そして「Elephant In My Room」のラストを飾る「Spotless」は自身でビートメイクとプロデュースを担当。やっぱり他の曲とは制作過程や思い入れも異なってくるのかな?

外出が思うようにできなかった時期に他のアーティストと同様にほどんどの時間を制作期間に費やしていたんですが、ロンドンにいた頃から絶えずビートメイクはやっていたので、鍵盤を弾いたり、新しいビートを作ったりっていう作業はずっと続けていたんです。だから当然僕のクリエイションとしてそうした曲も入れていこうと思いましたし、改めて思ったのはビートでも自分の主張やメッセージを届けられるっていうのは大きいんだなって感じましたね。

制作に関しては、客演を招いた時との良し悪しはそれぞれあるし、役割も違うので安易には比較ができないですけど、今の自分の立ち位置を再確認できる部分はあると思います。

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― 今回どうしても聞きたかったのが、BLMに関連する社会問題について。可能な範囲で構わないので、DAICHIくんの率直な考えを聞けたらなと。

個人的に今回のBLMで感じたことは、大前提として人種差別は絶対に良くないし、根絶するように努めていかないといけないということ。自分のこれまでの経験としても、これ以上不快な気持ちになる人が生まれてはいけないと思っています。

そうした思いがある上で、いつだったかヴァージル・アブローがTwitterで『黒人というだけで買い物に行くだけで殺されるかもしれない恐怖を常に抱かねばならなくて、就職や進学でも肌の色だけで当然のように不利なジャッジを下される不安を持たざるを得なくて、見た目で判断されたくないからコミュニケーションを取る上で過剰に意識しなければならない状況は絶対におかしいんだ』って赤裸々に発言していて、すごく共感できたし、同時にとても悲しくなってしまいました。

同時にSNSなどを見ていると、声の大きな人の意見がそのまま大衆的な言葉として受け入れられていたり、一時的な流行りとして認識している人たちも少なからずいたりして、そうした風潮を目にした時に恐怖を感じてしまったんですよね。

あと僕が強く感じるのは、そもそもアメリカに住む黒人や僕がイギリスで出会った黒人、あるいは僕みたいに日本で生まれ育ちながらも黒人のルーツを持つ人間など、みんな違った歴史や文化の上に生活していますよね? その中で人種差別はどの国の生活の中でも絶対にあってはならないことだけど、今回のアメリカの件に対して、同じ黒人同士でも例えばYESとNOという言葉を使ったとしても、ニュアンスが異なった意味で伝わっていくことってあると思うんです。前後の文脈や発言した人の背景によっても意味は変わってくるし。例えば、僕個人の声が黒人全体の声を代弁していると思われるのは違うし、彼らも黒人と言われる以前にただの一人の人間なので、一個人の意見として受け止められる世界であって欲しいんです。

日本でも沢山のデモが起きるくらい社会問題として取り上げられていたので、僕を含め、多くの人がこうした人種問題について考えるきっかけになったことは前向きに大切な機会として受け止めていかないといけないですよね。

― 今回の問題で音楽アーティストも沢山声を挙げていたよね。

はい、日本人でも多くのアーティストがそうしたアクションをとっていて、素晴らしいことですし、勇気のいる行動だとも思いました。僕は幼い頃からそうした問題を肌で感じ、目の当たりにしてきたので、感じることも色々ありました。ただ凄くセンシティブなトピックスであり、さっきも話したように微妙にニュアンスが違う意見を持った人を、僕の発言で傷つけてしまうこともあるかもしれない中で闇雲に発言することはできませんでした。同時にもっと根本的な原因について考える必要があると思い、僕としてはSNSに何かしらのアクションを起こすことよりも、自分の身の回りの人と意見を交換する事に時間を割きました。地元の友達やマサトさんとも長時間電話をしたり、京都に住むアメリカ人の友達とも話したりしました。そこでも強く感じたのは、過度に繊細になりすぎているということ。優しく傷つけないようにって思うあまり、誰も進んで話したがらないし、お互いの意見の違いを怖がってるんじゃないのかな、って。特にこの部分はその京都に住むアメリカ人の友達も言ってて、盲点だったなと。正直、黒人の方でも自分の意見でマウントを取っている人もいますし、そういった立場の利用も良くないですよね。目指すべきゴールは人種差別がなくなることで、そこに向かう方法が違うなら話して身近なところから擦り合わせていくことが先決じゃないかなって思います。

もちろん自分なりに考えてはいながら明確な答えが出ていないこともあったのですが、現時点で言えることは、人種差別もLGBTQなどの問題も、人間としての単位で考えた時にようやく解決策が見つかるのかなと。人が人を殺めたり、人が人を裁くことはやっぱりおかしいし、ネットで個人情報を晒したり、誹謗中傷することも同じで、自分がされて嫌なことはするなっていうことだと思うんですよね。

こうしたインタビュー記事の中で触れるかどうかも迷ったんですけど、i-Dというメディアが様々な社会問題にも深く取り組んでいる気概のある媒体だからこそ、僕自身も決断できた部分もあります。

― これまでメディアを通じてそうした社会問題について触れたことが公にはならなかったと思いけど、DAICHIくんの楽曲でいうと前作の「Brown paper bag」や本作の「Blueberry」でも垣間見えるんだけど、そのあたりに関してはどうかな?

これはケンドリック・ラマーの影響が大きいんですが、説教臭くならずに、音楽性を伴った上でそうした社会問題について提起できることは素晴らしいなって思ったんです。そこって実は日本人のアーティストが苦手にしている部分なんじゃないかなって。だから政治色が強かったり、社会派をテーマにした音楽って少し色物扱いされたりするじゃないですか。僕もそうしたバイアスがかかって躊躇していたんですけど、『それは違うんだ』って思えたのが、ケンドリック・ラマーの「To Pimp A Butterfly」だったんですよね。

なのでBLMに限った話ではないのですが、コロナの影響で自室にこもっての制作や自身の生活の変化などが、最終的には「Elephant In My Room」というタイトルに表れたのかもしれないですね。

― というのは?

直前まで別のタイトルで決まりかけていたんですが、造語だったので少し分かりづらくて、あと気分もちょっと変わったこともあって、別のタイトルを模索した時に、ふと「ROOM」って単語が降りてきて、そこから派生した言葉を探していた時に、マサトさんから「Elephant In The Room」って慣用句が合いそうだねってアドバイスをもらって。意味としては「見て見ぬ振りをする」って意味なんですけど、部屋の中に像がいるのに反応をしないみたいな語源なんですけど、さっき話したような内容ともリンクして、すんなりと僕の内側に入ってきたんです。それで今回は、ジャケットの写真も僕の本当の部屋を使用していることもあり、このタイトルにしました。

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― 良いストーリーだね。ここまで聞けて改めてDAICHIくんが今回の作品にかける想いや前作からの変化を感じられた気がします。

そう言ってもらえると嬉しいです。純粋に作品を作っていく過程でコロナやBLMのような問題が重なった事も少なからず関連しているし、Netflix「日本沈没2020」という湯浅政明監督作品のキャンペーン楽曲に参加させてもらったりして、自分自身に向き合うことで、視野も活動の幅も広がってきたように思います。いろんな象が部屋の中にいても、象に向き合うことでその部屋から居なくなる事もあるのかな、って最近は思っています。

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Yamamoto “Elephant In My Room”
Out on 2020.08.12 [Wed]

Artist : Daichi Yamamoto / Title : Elephant In My Room / Label : Jazzy Sport Cat # : JSDY-2001 / Digital Only
■Featuring Artist : 5lack
■Producer : 5lack / grooveman Spot / KM / QUNIMUNE / Daichi Yamamoto

Track List

DAICHI YAMAMOTO
京都生まれのMC。日本人の父とジャマイカ人の母を持つ。2012年からロントドン芸術大学にてインタラクティブ・アートを学び、2017年10月イギリスから帰国し「Jazzy Sport」に所属。続く2018年には、STUTSやAi Kuwabaraらの作品への客演参加、MONJUから仙人掌、PSGからGAPPERを招いたリード曲『All Da』のRemixを収録したAaron ChoulaiとのジョイントEP『Window』を発表。さらに2019年3月に発表したデジタル・シングル『上海バンド』が、Apple Music“今週のNEW ARTIST”にも選出され、同年9月には待望の1stアルバム『Andless』をリリース。12月には渋谷「WWW / 京都 Metro」でのリリースライブを行い、バンドセットでのライブも披露。そして2020年1月には、音楽ストリーミングサービスSpotifyが選ぶ、今年飛躍が期待される注目の新進気鋭・国内アーティスト10組「Early Noise 2020」として選出。またASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文氏が主催する「Apple Vinegar Music Award 2020」では『Andless』が特別賞を受賞。さらに八村塁選手出演の大正製薬「リポビタンD」TVCMや、Netflixキャンペーンへの参加が話題になるなど、今年大注目のアーティストと言える。

Instagram: @daichibarnett
Twitter: @daichiyamoto
SoundCloud: daichi-barnett-yamamoto

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