コロナ禍に広がるLGBTQ+の健康格差

「私はクィアで、黒人で、障がいを抱えている。自分が病気になったときの健康格差がとても心配。構造的な抑圧のせいで死にたくなんかない」

by Finbarr Toesland; translated by Nozomi Otaki
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08 July 2020, 9:53am

ロックダウンによって家にこもる時間が長くなり、人付き合いが激減している今、あらゆるひとが健康やウェルビーイングへの影響を実感している。これを機に第二言語を習得したり、本の企画書を作った、などというエピソードは、どうにかしてパンデミックを乗り越えようと奮闘する、一時解雇やレイドオフ中の従業員の記事に比べればずっと少数派だ。新型コロナウイルスの脅威のなかで、豊かな暮らしを続けられるひとはほんのひと握りに過ぎない。

最近の報告で、英国で社会的に弱い立場にあるコミュニティが、よりパンデミックの影響を受けやすいことが明らかになった。特にLGBTQ+コミュニティで、コロナを原因とするメンタルヘルスの問題を抱えるひとが増えている。

英国のLGBTQ+権利擁護団体〈Stonewall〉の調査によると、昨年うつを経験したLGBTQ+のひとびとの割合は52%にのぼり、ストレート/シスジェンダーのひとびとの割合を遥かに上回るという。このコロナ禍で普段通りの生活を送れなくなり、支援へのアクセスが制限されるなかで、さまざまな制約に苦しむひとが増えているのも無理はない。

「最も多い問題は、険悪な家庭環境にいること、そしてロックダウンによって増加するマイノリティのストレスの影響です」と説明するのは、LGBTQ+と専門セラピストのマッチングを行ない、メンタルヘルスへの意識向上を目指すプラットフォーム〈Helsa Helps〉の設立者、マーク・スヴェンソンだ。

「ロックダウンによって、毎日のように攻撃的な家族と過ごす生活が何ヶ月も続けば、当然LGBTQ+の若者のメンタルヘルスに悪影響を及ぼします」

たとえクィアのひとびとが専門家のサポートを求めたとしても、非クィアのひとびとと同様、NHS(国民保険)の制限や保険適用外のメンタルヘルスケアの法外な価格などの問題に直面する。さらに、クィアのクライアントを治療するトレーニングや経験不足のため、LGBTQ+の社会保障のニーズに応えられるセラピストが少ないことも、信頼できるカウンセラーを探すさいの障壁のひとつとなっている。

しかし、問題はリソース不足によってLGBTQ+コミュニティが主要なメンタルヘルスケアにアクセスできないことだけに留まらない。これらのサービスを利用したLGBTQ+の23%が、医療従事者から差別的、否定的な言葉を浴びせられたと訴えている。

「〈London Friend〉や〈MindOut〉など、LGBTQ+に無料のカウンセリングを提供しているすばらしい団体もありますが、そういうサービスは資金不足だったり、すでに満員だったりする場合が多いです」とマークは指摘する。

コロナによる経済不安が続くなかで、LGBTQ+コミュニティは金銭面でも打撃を受けやすい状況にある。調査によれば、LGBTQ+コミュニティにはリスクの高い業界に従事しているひとが多く、経済的な苦境に陥りやすいという。

ヘイリー・コンバー=ベリーは、ロックダウンが始まる前まで、ウェディング業界でブランド/ウェブサイトデザイナーとして働いていた。公共の場での集会が中止された結果、彼女の仕事は一夜にしてゼロになった。

「アイデアも湧いてこなくなりました」とサセックスに妻と暮らすヘイリーは語る。「ネガティブな雰囲気が充満しているときにインスピレーションを引き出すのはとても難しい。メンタルヘルスも悪化して、2週間ずっと泣きっぱなしで塞ぎ込んでいました」

ヘイリーはセラピストに会うかわりに、エコセラピーや自然の中で気持ちを落ち着かせる方法について読書を始めた。「正式なセラピーではありませんが、私には効果があるとわかったので、自助的なアプローチをとることにしたんです」

パンデミックにおけるメンタルヘルスの問題は、ただ漠然と存在するのではなく、現状によってマイノリティのストレスが増加することに原因がある。根深いホモフォビア、スティグマ、偏見、アイデンティティの秘匿など、マークはLGBTQ+コミュニティがうつ、ストレス、不安を抱える確率の高さのさまざまな要因を挙げた。

「そこにパンデミックによる身体の健康や金銭面の悩みなどに関するストレスや不安が加われば、LGBTQ+の若者がメンタルヘルスの問題を抱えやすくなるのは当然です」とマークは主張する。

LGBTQ+コミュニティの中のBAME(black, Asian, and minority ethnic:アフリカ系、アジア系、エスニックマイノリティ)、障がい者、トランスジェンダーなどのあいだでも、メンタルヘルスの問題に悩まされるひとが増えている。〈LGBT Foundation〉が英国に住むLGBTQ+を対象に実施した匿名調査では、特定のクィアのひとびとが抱える問題が浮き彫りになった。

「私はクィアで、黒人で、障がいを抱えている。自分が病気になったときの健康格差がとても心配。構造的な抑圧のせいで死にたくなんかない」

「また抑うつの症状が出はじめた」と別の回答者は答えた。「抑うつのない人生なんて送れないような気がする。身体のトランジションは保留になった。このまま死んでしまったら、死亡診断書に間違ったジェンダーを書かれるかも」

LGBT Foundation広報部のアシスタントディレクター、エマ・ミーハンも、ロックダウン中に危機的状況に陥るひとが急増した、と証言する。

「パンデミックが続くなかで、私たちのホットラインへの相談内容で最も多いのがメンタルヘルスの問題です。今はほとんどのひとにとって、普段の対処メカニズム、つまり自分のアイデンティティを認め、大切にしてくれる友人やLGBTのひとびとと会うことは不可能ですから」

ロックダウン措置の緩和によって日常が少しずつ戻ってくると期待されているが、パンデミックがLGBTQ+コミュニティのメンタルヘルスに与える影響は、一夜にして解消されることはない。

パンデミックの〈隠れたコスト〉に関して、英国労働党党首のキア・スターマーは今年5月下旬にメンタルヘルスケアの向上を求め、政府は主要なメンタルヘルスケア機関へ500万ポンド(約6億7000万円)の助成金を交付すると発表した。それでもなお、LGBTQ+コミュニティへのメンタルヘルスケアの格差に対処するには、さらなる支援が必要だ。

あらゆるメンタルヘルスサービスが多大なプレッシャーにさらされるいっぽうで、深刻な問題を抱えるひとびとが助けを求められる場所は他にもある。

「私たちが伝えたいのは、必要ならいつでも力になりますし、安全に電話ができる環境にいるならすぐに相談してください、ということです」とLGBT Foundationのエマは呼びかける。「パンデミックが続くなかで、私たちはこれからもすべてのLGBTQ+の方々の力になりたいと願っています」

This article originally appeared on i-D UK.

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