『ハスラーズ』ローリーン・スカファリア監督interview「女性の師弟関係を描きたかった」

ストリッパーたちがウォール街で働く商社マンから大金をせしめた詐欺事件を元にした映画『ハスラーズ』。ローリーン・スカファリア監督が、カーディ・Bやリゾを起用した理由、拝金主義の有害さ、パートナーでもあるボー・バーナム監督について語った。

by Takuya Tsunekawa
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05 February 2020, 7:30am

第92回アカデミー賞の最大の落胆は、『ハスラーズ』のジェニファー・ロペスが助演女優賞のノミネートから落選したことだろう。その直後にソーシャルメディア上で起こった「#JusticeForJLo」運動は彼女への熱烈な支持を物語っている。

全米で興収100億円を超える大ヒットを記録した映画『ハスラーズ』は、性的な特性を利用して男の期待から利益を得る女たちの物語だ。ウォール街の裕福な白人男性たちに密かにドラッグやアルコールを飲ませて大金を盗み取ったことで2013年に摘発されたストリッパーたちの実話に基づいている。

ジェニファー・ロペスは、そのガール・ギャングのボスたるラモーナを完璧な肉体と唯一無二のカリスマ性で体現し、『クレイジー・リッチ!』(2018)のコンスタンス・ウーが演じる主人公デスティニーらを導く。彼女は、男たちから客体化されていた自身の身体や価値、そして運命を自分たちでコントロールするよう統率を図るのだ。

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ウィル・フェレルやアダム・マッケイ、そしてジェニファー・ロペス自身も製作に携わる本作の脚本・監督を務めたのは、ローリーン・スカファリア。友人のディアブロ・コディ(『JUNO/ジュノ』『ヤング≒アダルト』脚本)やデイナ・フォックス(『ワタシが私を見つけるまで』脚本)、エリザベス・メリウェザー(『抱きたいカンケイ』脚本)とともに女性脚本家集団「The Fempire」を結成する彼女は、『ハスラーズ』を通して、邪悪で不道徳なアンチヒロインとシスターフッドを描き出している。

──『ハスラーズ』は長編第一作『エンド・オブ・ザ・ワールド』(2012)と同様に、大きな物語の裏にある世界に焦点を当てているように感じました。

「この映画の原作になった記事(※2015年にニューヨーク・マガジン誌に掲載されたジェシカ・プレスラーの記事「The Hustlers at Score」)を2016年の夏に読みました。そこで普段偏見を持って見られるストリッパーという職業に興味を持ったんです。記事を読んでいるうちに、ストッパーは特殊な仕事ではなく、ほかの仕事と同じように良い日もあれば悪い日もあるのだと感じました。実際にストリッパーやダンサーをしている女性たちに、リーマンショックの前後でどうだったかをリサーチしました。彼女たちは社会から偏見の目で見られているかもしれないけど、供給がある人も多く、みんなが不幸なわけではない。お金をたくさん稼いだあとに、別の事業を始める人もいます。だけど、収入が不安定で40ドルしか稼げない日もある。そういうところに中毒性があって、ストリッパーという仕事にハマってしまう人もいます。様々な価値観が見える仕事だと思って、この世界を取り上げました」

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──ジャネット・ジャクソンの曲「コントロール」から映画が始まることが示唆しているように、この物語は、今までセクシュアライズされていたストリッパーが自分の身体を主体的に利用する姿を描いています。伝統的に表象されてきた女性像への反発はありましたか。

「ジェニファーは現在50歳ですが、この役にすごく適していて、自分の身体を上手くコントロールしています。彼女は自分の帝国を作っていますが、社会的に大きな影響力を得ているからといって、それがコントロールしていることだとは思いません。正しい答えがあるかはわからないけど、お金で支配できることもあるし、他人をコントロールできることもある。そのこととエンパワーメントはまた別だと考えているのです。ストリッパーやウォール街の人たちはお金に支配されているので、エンパワーメントという意味で描きました」

──マーティン・スコセッシ風の演出を試みているように感じました。なぜそのようなスタイルで作ろうと思いましたか。男性ギャング映画への女性からのアンサーという意識もあったでしょうか。

「マーティン・スコセッシ作品からの直接的な影響はないかもしれません。でも私自身、ジャージーシティ(ニュージャージー州)でイタリア系として育ったので、彼の作品はよく観ていました。ギャング映画によくある男性社会の師弟関係が女性の経験の中にもあるということを描きたかったので、確かに少し反映されていると思います。また、ダンサーたちのアスリートとしての身体能力の高さやパワフルさも強調したかったので、スポーツ映画のような雰囲気も出そうと心がけました」

──同じく実話を基にした『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017)と似た構造を持っているように思います。どちらもスクリプト化されたインタビューを物語に導入していますね。

「インタビューを組み込んだのは、ジャーナリストを通して観客の視点を描きたかったためです。ジャーナリストのエリザベス(ジュリア・スタイルズ)と、ラモーナやデスティニーは対極な環境で育った女性たちです。ストリッパーに対して偏見の目を持ちながらも、彼女たちの話に耳を傾けるジャーナリストの行為は、観客と同じ立場になり得ます。また、ジャーナリストを登場させることで、デスティニーがこの物語をコントロールしようとしていることを表したいと思いました。彼女は幼い頃から自分ではコントロールができない環境だったので、自分の目線で物語を伝えたいという欲求がありました。彼女は自分を傷つける人を突き放す一方で、それに対して罪悪感を持っていました。デスティニーの生い立ちからこのふたりのやりとりが生まれています。この映画の中でジャーナリストは観客の立場を象徴する重要な役割を担っています」

──デスティニーの「傷ついた人は他人を傷つける(hurt people hurt people)」というセリフが印象的でした。ノア・バームバックの『グリーンバーグ』(2010)でも同じセリフがありましたが、アメリカで有名な一節なのでしょうか。

「そのセリフは、元の記事から引用しました。デスティニーがこの物語をコントロールしているという意味で使っています。特にアメリカで有名な一節というわけではありません」

──エンパワーメントや多様性というテーマを(元ストリッパーの人気ラッパー)カーディ・Bや(ボディ・ポジティブを代表するアイコン)リゾ、あるいはキム・カーダシアンのクリップがさらに後押ししていると思います。恥や悪名と思われるようなことでも利用して人気を得てきた彼女たちの起用はテーマと密接に結びついていますか。

「様々な女性の経験を伝えたかったのです。実際にトランスジェンダーであるトレイス・リセット(トレイシー役)には2006年~2007年くらいにほかの撮影現場で出会いました。クラブで働いてた経験もある彼女は、当時からカミングアウトをした上で仕事をしていました。意気投合し、映画の中に彼女のようなキャラクターを登場させたいと思いました。劇中のボーイフレンドとのやりとりも実際の彼女の経験をベースにしています。様々な女性がいて、様々な女性同士の関係があること、また、ボディサイズも年齢も幅広い女性がいるということをロッカールームのシーンで表したかったのです。あのシーンはとても気に入っています。そこでカーディやリゾ、スタンダップコメディアンの女性など、様々な経験と才能を持っている女性たちを登場させました。彼女たちはその役割に多くの信憑性をもたらしてくれました」

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──『オーシャンズ8』(2018)と似た要素を持っていると思いますが、あの映画が先にあったことで作りやすくなった影響はありますか。

「『オーシャンズ8』への意識はそれほどありませんでした。この映画は多様な女性が登場するアンサンブル作品であって、強盗映画として作ったわけではないので、そこまで複雑な構造にはなっていないかと思います」

──この映画は、社会が期待するジェンダーの役割を浮き彫りにしています。女性は容姿に価値がある一方で、男性は財布で評価されます。お金を奪われた男性たちは、警察に被害を訴えようとしても信用されません。それはまるで女性が身体に暴行を受けたケースを反転させたかのようです。

「男性はお金で判断されて、女性は容姿で判断されてしまいます。私は書くことは共感のエクササイズだと思っているので、女性たちと同じぐらい、お金や成功で判断されてしまう男性たちへの共感もありました。男性への社会から期待される判断基準やこうあるべきという価値基準に問題提起をしたかった。彼らもまたお金を稼いでいるべきだという固定概念に縛られ、そのしがらみの中で生きているということを表したかったのです」

──先日、『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』(2018)で来日したボー・バーナムと有害な男らしさについて会話をしました。彼は『ハスラーズ』を特別な映画だと称賛していますが、パートナーである彼からどのような支援がありましたか。また、有害な男らしさを描くことに意識はありましたか。

「脚本を書いているときに、何度か彼に読んでもらってフィードバックをもらいました。逆に『エイス・グレード』の話もしたり、お互いの映画について意見を出し合ったりしていました」

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「人がお金で判断され、お金が全ての成功や力の価値基準になっている社会自体が有害なものだと思います。その価値観に支配されている男性がいるということは社会全体に影響を及ぼすことであり、そのことが女性がセックスや容姿で判断される社会を生み出しています。アメリカだけの問題ではありませんが、アメリカでは暴力に反対する人たちがいながらも銃規制ができていない。これに答えはないかもしれませんが、有害な男らしさが、アメリカの価値基準を作っていることは確かで、それは顕著な問題だと思います」

──貧富の差の拡大、そして貧しい者が裕福な者から搾り取る構図を描いている点でポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』(2019)と通じると言えますね。

「『パラサイト』は素晴らしい映画なので、比較してもらえて嬉しいです。いま、お金が貧富の差や強者と弱者の階級の構造を生んでいることは世界的な問題だと考えています」

『ハスラーズ』 は2月7日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

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