フロリダ春の泥祭 〈マッド・スプリングブレイク〉って何?
おっぱい小径、トランプ大統領支持者、数えきれない数のトラック……。写真家ウィル・ハートリーが語る、〈泥まみれの春休み〉の実情。
フォトグラファーのウィル・ハートリーは、スプリングブレイク(春休み)の享楽的などんちゃん騒ぎをこれまで三度撮影してきた。一度目は2017年、若者たちが酩酊するカンクンのグランドオアシスホテル。二度目はその翌年、パーティー参加者たちが浮かれ騒ぐマイアミのサウスビーチ。どちらもよくある光景だ。しかし3年目となる2019年のスプリングブレイクはひと味違った。
「友達がこの泥だらけのスプリングブレイクのYouTube動画を送ってくれて」とウィルは回想する。「行かなきゃ、と思ったんです」
マッド・スプリングブレイク(泥まみれの春休み)はまさにその名のとおりのイベントで、普通のスプリングブレイクとは違う。もちろん、ビキニの女子や大量のアルコール摂取はあるものの(おっぱい小径(Titty Lane)と呼ばれるエリアは同イベントの目玉だ)、会場となるフロリダ州シャーロット郡のレッドネック・マッドパークには、どでかいトラックや家族連れまでもが集まる。興奮した様子の参加者が、ウィルにこう語ったという。「初めてここに来たときは携帯が盗まれて、2回目に来たときはトラックが燃やされて灰になったよ。今回は問題なしだね、今のところ」
「黙示録に近い」光景のなかでも、ほとんどは楽しく過ごしたと語るウィルの写真は、混沌としているはずのイベントを、フラットな目線で、不思議なほど穏やかに提示している。

──スプリングブレイクをテーマに写真を撮る理由は?
ヴィジュアル的にワクワクするからです。視線を向けた先には必ず、写真に収めたくなるような光景が広がっていて、まるで自分の周りで舞台作品が上演されているかのよう。そこにいる人たちはみんな、日常から逃避したい、自由を感じたいと思っているんです。英国人の僕にとっては興味深いです。英国にはスプリングブレイクという文化がないので。
──レッドネック・マッドパークは、あなたが以前に撮影したカンクンやマイアミとは何が違うんでしょう。
スプリングブレイクといえば、ビーチやプールでのパーティーですよね。レッドネック・マッドパークのスプリングブレイク・イベントにも同じような要素はありますが、何よりそこには泥とトラックがある。それにコミュニティ精神のようなものも感じました。ただどんちゃん騒ぎをするだけじゃなくて、モンスター級のバカでかいトラックを全速力で運転したりもする。ルールはほとんどなくて、あったとしても誰も守ってません。走るモンスタートラックからはひとがぶら下がってますし、飲酒運転も多い。スケルトン柄のフェイスマスクを被ったバイカーが四輪バイクでその辺をうろついてて、まるで暴走族です。かと思えばただただ泥まみれになって、泥と一体化している人もいるし。燃えるトラックのそばで小さな女の子が遊んでいる姿をみたこともあります。さながら『マッドマックス』でした。

──参加者はどんな人が多いですか?
ハメを外す若者たちもいるし、幼い子どもや祖父母を連れた家族もいます。僕らは、より安全で静かかと思って家族用のキャンプサイトに泊まったんですが、子どもたちが四輪バイクでそばを通るし、みんな一晩中運転してましたね。予想もできませんでした。大学生が多いのかと想像してましたが、実際は全然。この泥んこコミュニティの一員であれば誰でも参加できるんだと感じましたね。グループ間で対立してる様子もみられませんでした。みんなお互いに助け合い、ぬかるみにはまった人がいれば手を差し伸べ、飲み物を分けたり、車に乗せてあげたりして。でも、問題が全く無かったというわけではありません。時には、ヤバい雰囲気になったこともありました。最終日の夜には、男性がひとりケンカで亡くなっています。僕らは会場を離れたあとにそれを知りましたが、動揺しましたし、僕が見たのは上っ面だけだったのかもしれない、と思いました。
──カメラを向けられたときの人々の反応は?
写真に写りたがらないひとのほうが珍しかったですね。だいたい、カメラを向けるとみんな少しポーズを取りますが、そのあとは僕なんてその場にいないかのように、それまでやっていたことを続ける、という感じです。みんなオープンで、好奇心旺盛で、すごく楽しかったです。カオスな瞬間もあり、そのときはそこにいる人全員をカメラに収めたので、あとで連絡するためにInstagramやEメールアドレスを訊くのが大変でした。

──トラックについては個人的にどう思ってますか?
乗せてもらってパークや泥の中を走るのはすごく楽しかったですが、行く前も今も、トラック自体はそこまで好きじゃないです。四輪駆動が全然見つからなくて空港で二輪駆動トラックを借りたんですが、会場に入ったらかなり笑われました。すぐに泥にはまってしまうのでなかなか進めないし。なので会場のそばでヒッチハイクをして乗せてもらいました。歩きは危ないです。乗せてくれる車を待っているときも、車にひかれないようにかなり注意しました。
──個人的には会場の名前〈レッドネック・マッドパーク(Redneck Mud Park)〉が気になるのですが、参加者たちはどう思っているのでしょうか?
それが元々の公園の名前なんです。いろんなひとにこの名前の由来を尋ねてみたんですが、ひとによって答えは様々でした。ある男性は、「国のあれだろ、愛国心的な」と。レッドネックの意味(赤い首:無教養の田舎者を指す)は知らなかったけど、実際に見て知ったとのことでした。それは「あまり洗練されていないひとのこと」で、米国ではあらゆるものにレッテルをはるのが好きだけど、自分はそれがイヤだ、ともいっていました。「この国のなかでもっとも洗練されたひとたちのなかにもレッドネックはいるだろ」って。

──ファンがこの場所に夢中になる理由は?
トラック野郎同士が集まることができる場だからだと思います。自分のトラックで会場に行けて、そこで好きなように乗りまわすことができる。それに反対するひとたちはいない。すごく楽しいけど、同時に非常に危険でもある。まさに大人たちの遊び場ですね。
──やはり盛り上がるのは〈おっぱい小径〉でしょうか。
日中では誰もがそれについて話しているし、夜になると全トラックがそこに向かう、って感じです。車が道の両脇に並び、中央をトラックが通れるようにする。それが〈おっぱい小径〉。そこを走るトラックに女性たちが乗っておっぱいを見せる、という毎晩のメインイベントです。ポールダンスやトゥワークをやったり、そこらへんにいるひとたちとキスやハグをしたり、かなり見境がない感じです。とある男性に、おっぱい小道があるならどこかに〈チンチン小径〉もあるのか、と質問してみたら、めちゃくちゃ真面目な顔で「いや、それはただ偶然ポロリしちゃっただけだろ」っていわれました。
──この旅で得た最大のものとは?
心が温まるようなコミュニティ精神です。老若男女がハメを外して楽しんでいる様子をみるのはすごく楽しかったですね。たとえ違法スレスレの行為をしていたとしても! 会場で出会ったひととの交流もありました。僕らのことを気に入ってくれたみたいで、マッドパークのFacebookページに僕と友達の写真を投稿して「みて! 大西洋を越えて来た友達だよ!」っていうキャプションを付けてくれたひともいました。









Credits
All images courtesy Will Hartley
This article originally appeared on i-D UK.