クルス・ベッカムが語る、大人への一歩と音楽のキャリア

記念すべき雑誌デビューで、クルスは父親の20年前の写真にオマージュを捧げた。

by Douglas Greenwood
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10 March 2022, 11:00am

この記事は i-D The Out Of Body Issue, no. 367, Spring 2022に掲載されたものです。注文はこちら

マイアミ、ワインウッドの建物の壁は、ケニー・シャーフ、シェパード・フェアリー、レディ・アイコなど、偉大なアーティストのグラフィティで埋め尽くされている。「あの作品にはすべて意味があるんだ」とクルス・ベッカムはいう。彼はよくこの場所で写真を撮り、友人とスケートボードをし、いつか世界に向けて公開する音楽のインスピレーションを育んでいる。このような展望や活動に馴染みのあるティーンエイジャーも多いはずだ。

しかし、クルスが送る生活は、普通のティーンエイジャーとは少し異なる。彼は世界きっての有名人の息子であり、その肩書きは、厄介な問題と同時に無数のチャンスをもたらした。大半の16歳は自分の部屋で将来の夢を思い描くいっぽう、クルスにとってはここ数年、マイアミ、ロサンゼルス、ロンドンのレコーディングスタジオが第二の家となっている。そこで彼は、若きクリエイティブとしての道を歩み始めようとしている。16歳という年齢は実際の自分より大人びて感じられる(「ティーンエイジャーは誰でもそうだと思う」)という彼だが、進むべき道を見いだし、アーティストとして大人への不安に満ちた一歩を踏み出した。この世に生まれ落ちた瞬間から、雑誌の表紙やファッションウィーク、サッカー場など、あらゆる場所で両親を目にしてきた彼にとっては、ごく自然なことだろう。彼はいつの日か、両親のどちらかの足跡をたどる運命にあったのだ。

Cruz Beckham in i-D 367 The Out Of Body Issue
Cruz wears trousers BALENCIAGA. Boxers (worn throughout) SUNSPEL. Belt (worn throughout) WILLY CHAVARRIA. Grill (worn throughout) courtesy of POPULAR JEWELRY. Jewellery (worn throughout) model’s own. Shoes NIKE X SUPREME.

今年1月、気温が0度を下回った土曜日の夜に、クルスはイングランド、オックスフォードシャーからインタビューに応じた。ここの気候は、彼が1年の大半を過ごすマイアミのすがすがしい空気からはかけ離れている。重々しい石壁の背景とは裏腹に、彼はいかにもEボーイ世代らしく、シアトル生まれでメキシコを拠点とするストリートアーティストのChitoとGivenchyがコラボしたフーディをかぶっていた。このフードはインタビューの間ずっと彼の頭を覆い、いわば盾のような役割を果たしていた。クルスにとって、今回のようなインタビューはめったにない体験だ。確かに彼は生まれながらの有名人として暮らしてきたかもしれないが、公の場で誰かと対談したことはほとんどない。

「学ぶことに終わりはないと思うけど、今は時間をかけてじっくり考えてる」

このインタビューの数週間前、クルスはニューヨークで同じくらい珍しい体験をした。それはスタジオでのスティーヴン・クラインとのフォトシュートだ。クルスはカメラの前に座り、彼がまだ生まれてもいなかった20年前に撮られた父の写真と同じポーズをとった。それがi-D最新号の表紙を飾っている、青春の1ページを切り取った記念するべき写真だ。

「これが僕の初めての撮影だった。ちゃんとした撮影はね!」と彼はいう。緊張からか、クルスは同じ言葉を何度も繰り返した。「楽しかった」。少し前から準備していたという、トレードマークの〈スマイズ(目で微笑むこと)〉は、もう体得できただろうか。「できたと思うよ! 休暇で旅行に行くたびに、母に何百枚も写真を撮られるんだ」。飾らない、ワケありな笑みがこぼれる。「ほんとにイライラする」と彼は冗談を飛ばす。「でも、そこからいろんなことを教わった」

Cruz Beckham in i-D 367 The Out Of Body Issue
Top and trousers BALENCIAGA. Trainers NIKE X SUPREME

2008年、クルスはわずか3歳にして、ステージに自らの居場所を見いだした。母親のバンド、スパイス・ガールズがワールドツアー中に立ち寄ったNYのマディソン・スクエア・ガーデンで、クルスはカーテンの裏から登場し、2万人の観客の前に立った。「ヘッドスピンかなんかをやったんだけど、今振り返ってみると最高の思い出だよ」と彼はいう。その映像は今もYouTubeに残っている。「いいところを持っていかれちゃった」とステージ上のヴィクトリアは笑っている。兄のブルックリン・ベッカムは、人びとの視線を釘付けにする彼の魅力について、こう語った。「クルスのエネルギーは他の誰とも違う。みんなを幸せにする力がある」

幼少期はTHE STONE ROSES(「マンチェスターの復活ライブにも行ったんだ!」)とOASISから、マライア・キャリーやR&Bまで、さまざまなサウンドが、彼をできるだけ多くのジャンルに触れさせようと躍起になっているかのように、自宅のスピーカーから争うように流れていた。しかし、両親がクルスのミュージシャンとしての可能性に気づいたのは、彼が車内でビヨンセの「Love on Top」を歌い、伸びやかな高音を披露したときだった。「僕はまだすごく小さかった。声も十分に発達してなかったから、高音でしか歌えなかったんだ」。それ以来何度も挑戦してみたが、彼のオクターブは年齢とともに低くなっていった。

Cruz Beckham in i-D 367 The Out Of Body Issue
Jumper LOEWE. Trousers WILLY CHAVARRIA. Sunglasses OAKLEY. Socks (worn throughout) FALKE. Trainers DIOR.

その後は何年か、創作や人生について模索した。「自分はサッカーをやりたいんだと思って、少しだけやっていた」とアーセナルユースに所属していたこともある彼は振り返る。しかし、それでも彼は〈初恋〉の音楽へと戻ってきた。「あるとき決意したんだ。これこそが自分がやりたいことなんだ、って」

「休暇で旅行に行くたびに、母に何百枚も写真を撮られるんだ。ほんとにイライラする……。でも、そこからいろんなことを教わった」

11歳のとき、クルスは初めてのスタジオ収録を経験する。それを手がけたのは、彼と同じフレッシュな新人やアンダーグラウンドの新たな才能ではなく、ビヨンセ、レディー・ガガジャスティン・ビーバーの大ヒット曲を世に送り出してきた米国ポップミュージック界を代表するプロデューサー、Darkchild(ダークチャイルド)ことロドニー・ジャーキンスだ。「母が彼と一緒に僕をスタジオに連れていって、そこで生まれて初めての曲をレコーディングした」

このクリスマスソングは、リリース後すぐにタブロイド紙であれこれ書き立てられたが、彼のなかではもう過去の話だ。この最初のステップがとりわけ大切な思い出であるかのように、彼はスタジオでの経験を、曲そのものについて以上に熱を込めて語った。ロドニーにはクルスと同じ年頃の子どもがいて、収録の合間に一緒に遊んだという。「初めてが彼らと一緒で本当によかった」

Cruz Beckham in i-D 367 The Out Of Body Issue
Trousers WILLY CHAVARRIA.

観客の視線を独り占めしたステージデビューから約14年、クルスは同世代の多くが人生の目標を探る年頃を迎えた。彼の同級生たちは、進路相談で優柔不断さを爆発させているに違いない。しかし、クルスには確固たる決意がある。しかもその決意には、私たちの多くが期待するようなうぬぼれは見当たらない。それよりも明らかなのは、学びたいという彼の強い気持ち、そして自分を褒めることへのためらいだ。「クルスは一番優しくて繊細なひと」と兄のロメオは語る。「でも、生意気で陽気な一面で、それをうまく隠してるんだ」

クルスはギターやピアノ、ドラムなどの楽器を、ほぼ独学で習得している。「自作の曲のためにマンドリンを習ったこともある」。彼は自分がまだ学んでいる途中、つまり飛びこむ前に考えている最中だということを、10回以上も繰り返し強調した。「学ぶことに終わりはないと思うけど、今は時間をかけてじっくり考えてる」。彼の今の焦点は、「とにかく好きな音楽をつくること」にある。

Cruz Beckham in i-D 367 The Out Of Body Issue
Vest vintage HELMUT LANG SS98 courtesy of Artifact NY. Trousers RAF SIMONS SS21 courtesy of Artifact NY. Sunglasses RUDY PROJECT.

ロンドンとLAの新進気鋭のプロデューサーに加え、彼はマイアミで、アッシャー(Usher)の『Confessions』期のトラックやジャスティン・ビーバーの『Purpose』のヒット曲などを手がけたプー・ベアー(Poo Bear)とともに過ごしている。「何度かスタジオに入って、一緒に数曲作った」と彼は「個人的な体験、実体験」を記録する作品を制作中であることを明かした。最近よく聴くアーティストは、THE WEEKND、J. コール、キッド・カディだそうだ。

好きな科目は(もちろん)音楽と、兄のブルックリンも影響もあり、写真だという彼は、もうすぐ学校を卒業する。昨日、家族とともに故郷に帰ったが、明日はまたスタジオに戻るという。好きなことを自由にやり、思い通りの生活を送れるようになるまでは、延々と行ったり来たりの生活だ。それが終わったあと初めて、私たちは未来のクルス・ベッカムに会えるのだろう。

Cruz Beckham in i-D 367 The Out Of Body Issue
Hoodie and sweatpants JW ANDERSON. Coat MONCLER X DINGYUN ZHANG. Trainers NIKE X SUPREME.
Cruz Beckham in i-D 367 The Out Of Body Issue
Bib RAF SIMONS.
Cruz Beckham in i-D 367 The Out Of Body Issue
Top vintage RAF SIMONS SS99 courtesy of Artifact NY. Shorts DRIES VAN NOTEN. Trainers NIKE X SUPREME.
Cruz Beckham in i-D 367 The Out Of Body Issue
Jacket and trousers WILLY CHAVARRIA. Trainers NIKE X SUPREME.
Cruz Beckham in i-D 367 The Out Of Body Issue
Trousers BALENCIAGA.
Cruz Beckham in i-D 367 The Out Of Body Issue
Trousers BALENCIAGA.
Cruz Beckham in i-D 367 The Out Of Body Issue
Trousers WILLY CHAVARRIA. Trainers NIKE X SUPREME.
Cruz Beckham in i-D 367 The Out Of Body Issue
Trousers WILLY CHAVARRIA.
Cruz Beckham in i-D 367 The Out Of Body Issue
Shirt vintage HELMUT LANG courtesy of Artifact NY. Shorts R13.
Cruz Beckham on the cover of i-D 367 The Out Of Body Issue
Jeans BALENCIAGA, boxers SUNSPEL, jewellery model’s own.

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Credits


Photography Steven Klein
Fashion Alastair McKimm
Hair Holli Smith at Art Partner using Oribe.
Hair colourist Lena Ott.
Set design Jack Flanagan at The Wall Group.
Photography assistance Timothy Shin and Sam Dole.
Styling assistance Madison Matusich and Jermaine Daley.
Production Travis Kiewel.
Production assistance Toogii Khurmast.
Studio manager Chris Cassetti.
Casting director Samuel Ellis Scheinman for DMCASTING.

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Music