ラグジュアリーファッションのルールを打ち壊すGucciとBalenciaga
アレッサンドロ・ミケーレが、友人であるBalenciagaのデムナ・ヴァザリアを”ハッキング”。コラボレーションの常識を覆すコレクションについて、アレッサンドロ本人が語る。
Images courtesy of Gucci
ファッションの新時代へようこそ。これまでのラグジュアリーブランド、神聖なルール、象牙の塔にこもっている頭の固いデザイナーに関する知識は、すべて忘れてほしい。4月16日、ポップカルチャーに多大な影響を及ぼしてきた二大ブランドが前代未聞の〈相互汚染〉を実現し、世界を激震させた。
Pradaのミウッチャ・プラダとラフ・シモンズに続き、今回タッグを組んだのは、共にケリング・グループ傘下で、イタリアとフランスのいとこ同士であるGucciとBalenciaga。〈Aria〉と題されたGucciの最新コレクションは、ファッションと、大切に守られてきたルールや伝統を一変させるかもしれない。
それはなぜか? いや、もっと重要なのは〈どうやって〉だ。このふたつのブランドと、クリエイティブディレクターとアーティスティックディレクターをそれぞれ務めるアレッサンドロ・ミケーレとデムナ・ヴァザリアは、いずれもディレクター就任後1年も経たないうちに、現代ファッションのルックを作り変えてきた。
ともにジェンダー、嗜好、ブランディングのルールを取り払い、ラグジュアリーファッションにストリートスタイルの要素を取り入れてきたふたり。彼らが歩む〈ストリート〉はこれ以上ないほどかけ離れているが、だからこそ、このふたつのブランドの顧客は共通しているのかもしれない。それはネット社会を生き、服に対して積極的で、(服に関するもの以外は)ブランドに左右されない層だ。
アレッサンドロの多様な要素を取り入れた豪華絢爛なマキシマリズムと、デムナのいかにもスラブらしい、無駄を削ぎ落とした統合的なデザインは、一見相反しているが、ファッションへの愛は変わらない。「刷新はファッションが生き残る唯一の道です」とアレッサンドロはショー後の記者会見で語った。
「今回は、そのための対話をとことん突き詰めてみたかった。自分が何をすべきか、どうすればブランドを祝福すると同時に、別の場所に目を向けてひと味違うことを実現できるのか、じっくり考えました」
まさに彼の言葉通り「ひと味違う」、ラディカルなコレクションが完成した。オンラインで開催され、キャットウォークがファッションフィルムの舞台となったこのGucciのショーは、お祝いムードに満ちていた。このイタリア生まれのブランドは、今年生誕100周年を迎える。ヴィジョンを具現化するには、ただ過去のアーカイブを振り返るのではなく、新たな領域に目を向ける以上の方法はないだろう。
アレッサンドロは友人のデムナに連絡し、デムナは二つ返事で引き受けた。「デムナは、僕が彼のパターンやスタイルを使って別のものに変身させる、というアイデアを心から楽しんでいました」とアレッサンドロは語る。「彼も面白がってくれて。それに永遠の若さに魅了されてきたこのふたつのブランドには、ぴったりだと思ったんです」
結局、このレベルのパートナーシップに必要なのは、大胆さと対等な立場だ。両者ともにヴィジョンやシグネチャーに十分な自信があり、ライバルとの競争やブランド価値の低下を心配する必要はない。むしろ、このような試みによってさらに力を増すだけだ。
Gucciがシーズンやファッションウィーク、ジェンダーの概念を遠ざけたように、このパートナーシップの狙いは、陳腐なコラボレーションの常識を覆すことであり、広報担当者はあえて〈相互汚染〉や〈ハッキング〉という表現を選んでいる。
しかし、本コレクションは、単なるGucciとBalenciagaのハイブリッドではなかった(もちろん、両者のスタイルを掛け合わせたようなアイテムは多数登場したが)。アレッサンドロはトム・フォード時代のGucciに立ち返り、きらびやかでクラシックなベルベットをふんだんに使用。ボタンをきっちり留めた乗馬服を、ハーネスやチョーカーなどと組み合わせることで、倒錯的でフェティッシュなアイテムに変身させ、引き続きセクシーさを強調した。
「さまざまなものを内包するGucciという複雑なブランドを、新たに生まれ変わらせたかった」と彼は語る。「Gucciにはカルト的なパワーがあり、おそらくそのパワーに最初に気づいたのがトムでした。このブランドは、外界との対話によって、何度も生まれ変わってきた。他のフランスのメゾンのような歴史の重みや責任を感じる必要がないので、僕はラッキーだと思います。その代わりに、ここにあるのは思い切り実験できる研究室です」
ランウェイを囲むのは、iPhoneを構える観客ではなく、パパラッチのカメラのフラッシュ。ショーはフローリア・シジスモンディがアレッサンドロと共同監督を務め、ここ最近忘れ去られていた快楽主義的なパーティーの中心であるナイトクラブで撮影されたムービーで幕を閉じた。この映像は、Gucciの記念すべき1年の流れを決定づける作品となった。
「この誕生日パーティーには、あらゆる人が招待されます」とアレッサンドロはいう。現在のコラボレーションはまだ業界の慣習に過ぎないかもしれないが、本コレクションは常識を超える新たな時代の到来を告げた。すなわち、世論におもねるのではない、本来的なインクルーシビティ(包括性)の時代だ。
100年後のGucciは、どんな姿になっているのだろう。「ファッションのあるところに、生活はある」とアレッサンドロはしたり顔で宣言する。「こうしてファッションはもう一度生まれ変わるのです」


































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