Left: photo by Mateus Porto. Center: photo by Luis Corzo. Right: photo by Hao Nguyen. Images courtesy of Syro.

今までになかった男性用ヒールを生み出すブランド、SYRO

SYROはニューヨークのフットウェアブランド。男性やジェンダー・ノンコンフォーミングのひとびとが履けるヒールを生み出している。

by Laura Pitcher
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30 September 2019, 8:38am

Left: photo by Mateus Porto. Center: photo by Luis Corzo. Right: photo by Hao Nguyen. Images courtesy of Syro.

フットウェアブランドSYROの共同創業者シャオボ・ハンとヘンリー・ベイにとって、男性がヒールを履くことは、巷で評されているような〈トリッキーなトレンド〉ではない。

男性やジェンダー・ノンコンフォーミング(自らは従来のジェンダー規範に規定されないと考えるひとびとを総称する語)が履けるヒールをつくることで、彼らは、自己表現の手段としての、日常生活で履くヒールに関心を抱く、クリエイティブなクィアコミュニティの土壌を耕しているのだ。このプロセスは、ふたりそれぞれの性別にまつわる物語を伝える手段にもなっていると彼らはいう。

ブランドは、好きなヒールを好きなサイズで履きたい、というふたりの願いから生まれた。ヘンリーがデザインを、シャオボがビジネス面を担当している。

「男性用ヒール市場は主に、ドラァグやボンデージコミュニティ向けの商品ばかりで、しかも、ハイエンドのカスタムアイテムで高価でした」とシャオボは説明する。

SYROの創業前、ヒールが着用されるのはハロウィーンやゲイ・プライドばかりだった。2016年、少量の初期生産アイテムで市場の下調べをしたところ、ふたりのもとには「支援が殺到」し、ふたりは、男性でも履けるヒールデザインを求めていたのは自分たちだけじゃなかった、と気づいた。

支援者のなかにはあのサム・スミスもいた。彼はSYROのヒールを履いた自分の写真を、自らのInstagramアカウントに投稿した

「大きなサイズのカジュアルヒールへの需要は本物でした」とシャオボは語る。「私たちは、バイナリーの外側で生きるひとびとの、何世代にもわたる巨大なムーブメントのいちぶだったんです」

ブランドのウェブサイトでは、SYROについて「既存のシステムを破壊するハイヒールを生み出し、シンシア・ニクソンに投票したブッシュウィックのクィアカルト(訳注:シンシア・ニクソンは『SATC』への出演で有名な女優で、2018年6月に実施されたニューヨーク州知事選の民主党予備選挙に出馬したが、現知事のアンドリュー・クオモに破れた)」と説明されている。

SYROは〈ジェンダー・ニュートラル〉ではなく、〈ジェンダー・ノンコンフォーミング〉という言葉をブランドの中心に据えているが、それは彼らが、このブランドはマイノリティとしてのアイデンティティを有するクィアによってつくられた、クィアのための本物のブランドだということを伝えたかったからだ。ジェンダー・ノンコンフォーミングというスタイルが、大きなメインストリームにより搾取されることを恐れてもいる。

彼らが注力している、USメンズシューズサイズ8〜14は、かつてのヒール市場においては充分にカバーされていなかった。

SYROの顧客は「生きることにワクワクしている」ひとだ、とシャオボとヘンリー。「彼らは自由を求め、ファッションに本気。慣習に逆らい、やんちゃもするトラブルメイカー。そして私たちはそんな彼らが大好きなんです」とシャオボはいう。

Syro heels for men
Photo by Luis Corzo

ふたりが出会ったのは2009年、Facebookでのことだった。「それぞれがそれぞれをストーキングしてた」という。実際に顔を合わせたのは2014年。シャオボはこの出会いについて、「SNSがひとびとをつなぐ」ことの証明だと語る。

直接顔を合わせたことで彼らの友情はさらに強まり、ふたりは、ファッションやジェンダーの自己表現を、もっと大胆にしていこう、とお互いがお互いを高め合っているそうだ。

「服を切ったり、下手なメイクをしたり。ふたりで最高のホモ。この世界のどこにいても」とシャオボ。「当時はふたりとも26歳だけど、16歳の気分でした。私たちに強制される、あらゆるルールを破って。最高でしたね」

ともにクリエイティブなバックグラウンドをもつふたり。「フェミニンなファッションが大好きだった」ヘンリーは、かつて母親のクローゼットにこっそり入り込んでいた。シャオボは高校と大学でアートを学んだ。ふたりは、かつて母親の洋服を試したことがある、という共通の経験をもつ。

「クィアのひとびとはみんなクリエイティブだと思うんです。自分たちに負担を強いるようなシステムのなかで育ってきたので、それと闘うためのクリエイティブな方法を見つける必要があるから」とシャオボ。

南カリフォルニアの郊外で、「韓国系移民の両親の保守的な監督下」に育ったヘンリーと、11歳のときに中国からニューヨークへと移住したシャオボ。ふたりは現在28歳で、ブッシュウィックを拠点に活動している。

彼らは、自分たちがクィアのジェンダー・ノンコンフォーミングの人間として、生活のなかで経験している出来事を、デザインのプロセスに反映している。「私たちのデザインのインスピレーションは、自分のなかから湧き出ます」とシャオボ。

「内なる対話ですね。たとえば、『女性らしいブーツが欲しい、きっとスティレットよりもチャンキーヒールの方が頑丈だろうな。つま先部分はワイドにしないと。そのほうが履き心地がいいだろうし。それで充分派手かな? それとも超厚底のプラットフォームをつけようか?』みたいな」

同じくブッシュウィックにあるスタジオで、彼らはデザインからマーケティング、プロトタイプの製作、顧客からのメールへの返信、注文の梱包など、すべてをふたりで行なっている。

syro men's heels
Photo by Dylan Thomas

ふたりは、NYでの生活を「泡のなかで生きているよう」と形容する。彼らはこの場所で、気ままにファッションを楽しむ。

「自分たちの着たいものを着る。何も気にしません」とシャオボ。「でも時には現実に打ちのめされる。『私は生きられるのか?』って、シンプルな疑問のように思えるかもしれないけど、私たちはこの疑問を常に抱えて生きてるんです」

SYROは男性用ヒールを〈トレンド〉以上の存在へと昇華し、クィアであることの歓びにフォーカスしている。彼らの望みは、このブランドが、憎悪や暴力に晒されるコミュニティを力づけること、勇気づけることだ。

シャオボとヘンリーと話していると、彼らの強固な友情、そして他のひとたちのジェンダーや自己表現のための力になりたいと本気で考えているふたりの情熱が、SYROの〈プロジェクト〉(ふたりはそう呼ぶことを好んでいる)としての成功を牽引したことは明らかだ。

シャオボはヒールブランドを経営しているくせに「ヒールじゃ全然歩けない」とヘンリーがからかうと、シャオボは「営業妨害! 完全にウソ!」と反論する。そうしてジョークを言い合ったあと、彼らはお互いへの信頼と尊敬があるからこそ、お互いのクリエイティブな直感に頼りにすることができ、「とにかくやってみよう」となる、と語る。

男性用ヒールの未来について訊くと、ふたりは一過性のファッショントレンドとしての男性用ヒールには興味がない、SYROを通してジェンダー・インクルーシビティを訴え続けていきたい、と語った。

「クィアの仲間たちはどこにも行かない。彼らはこれまでも、これからも、どこにでもいる存在です」とシャオボ。

「でも、クィアのフットウェアが10年後どんなデザインになっているかはわかりません。もし2029年の火星でも、SYROの靴、たとえばプラットフォームスタイルのスペースブーツを履いて、ノンバイナリーの子どもたちを学校に送り届けていてくれたりしたら、最高ですね」

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Photo by Dylan Thomas

This article originally appeared on i-D US.

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