AKIKOAOKI 2020SS Photography Shun Komiyama 

ユニフォームをめぐる記号論的再解釈:AKIKOAOKI 20SS

ポピュラーな“制服”の意味を超えてユニフォームの定義に民族衣装のあり方を取り入れたAKIKOAOKIの青木明子。メイクアップを担当した〈RMK〉のKAORIとのコミュニケーションを経てインスタレーション空間で浮き立たせたのは、未来のどこかで凛然と暮らしていそうな、ちょっとクレイジーな新しい“トライブ”の姿だった。

by Tatsuya Yamaguchi; photos by Shun Komiyama
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09 September 2019, 7:00am

AKIKOAOKI 2020SS Photography Shun Komiyama 

『インターステラー』のサウンドトラックのせいか、体が宙に浮く感じがあった。この空間は、宇宙? ファンタジー? バーチャル空間? いや、AKIKOAOKIのことだからきっと洗練されたリアリズムが内包されているはずだ。

「現代的というよりはプリミティブな感覚がある民族衣装のエッセンスを、ブランドらしいユニフォームのスタイルに足していきたかったんです」と、インスタレーションを終えて、ソファに腰掛けたデザイナーの青木明子は今シーズンのテーマを説明した。

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白いホリゾントに、両側面が鏡面になった直方体のオブジェがランダムに配置されていた。そのあいだを縫うように歩くモデルを目で追っていると、歪曲したモデルの鏡像が思いがけず目に飛び込んでくる。

フロアにモデルが増えれば増えるほど、3Dと2Dが混在した“群像”を描いていく。この演出も、横のつながりや絆に重きをおく「民族」の集団性を思ってのことだという。「一人ひとりのパーソナリティの差を表現するのではなく、今回は“横並び”のイメージをつくりたかったんです」

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「西洋にルーツがあるシャツやジャケットという記号を私たち現代人のユニフォームだとすると、対極的な位置にあるアジアの民族衣装もまた、その民族にとってはユニフォームだといえます」

コレクションとの完璧な調和をつくり出した〈RMK〉のクリエイティブディレクター、KAORIが口にした言葉を借りると、「日頃忘れていることに着目する面白さ」こそ、デザイナーズブランドのクリエイションと対峙する醍醐味だ。

ちょっとした言葉遊びだが、彼女のデザイン的なルーツであるユニフォーム(制服)の語源はラテン語のunus(ひとつの)とforma(かたち)。広い定義でいえば、学生服や礼服、軍服など、大小さまざまなひとつの集団をあらわし、社会的な意味合いとして同一性や禁欲性をかもし出すシンボリックなものだ。

集団を暗示するものを、個人を描くものへ。青木明子は、ユニフォームの性質を活かしながらも解放するように“ひとつのかたち”ではない女性性を描き続けてきた。そう考えると、たしかに民族衣装を、記号論的、メタ的な視点でみてみると、すっと腑に落ちる解釈なのである。

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この混合は、コレクションの表層ではなく、具体的なデザインプロセスに込められた。

例えば、正方形や長方形の布地を使うことで生まれるイレギュラーなヘムラインやドレープ。あるいは、さりげなく崩したシンメトリー。ブランドらしい女性的なウエストシェイプやカッティング、布づかい、ドローストリングスで露出する肌のセンシュアルさと相まって、かなり新鮮だ。

「今までのアプローチとはすごく違うところなのでいろいろな発見があって面白かったですね。布の重さでまったく表情が変わるので、『ここにつけてみたらこうなる』という少し無作為な感覚もありました。セットされたユニフォームの中にそうしたエモーショナルな部分が入るといいなというのはありましたね」

テーラリングのように完璧に仕立てる立体的なシェイプとは違って、一枚の布の流れを活かしてデザインしていくのは、東洋の民族服的な発想にかなり近い。

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他にも、アジア特有の文化である習字の筆のタッチをテキスタイルにおこしたもの、重力に逆らわず縦に伸びたシルエットや装飾、(西洋的でもあるが)ウエストやアームを紐(ストラップ)でとめるディテールは、帯締めなどの着方と重なってもみえる。

生地のテクスチャや控えめなカラーパレットはあくまでAKIKOAOKIらしく、マスキュリンなピンストライプやグレンチェックのスーツファブリックやシャツ、スキンカラーでトランスペアレントなものがマッシュアップされている。概念的なタフさと、ひらひらとゆらめく物質的な軽さのバランスが、今季の女性観として浮き立っている。

「民族服の土臭さを漂わせず、どこか遠くの未来にとばすようなイメージがあったんです」と、インスタレーションのディレクションについて青木は話す。

その感覚を引き立たせたのは、音と空間、そして規則性のあるメイクアップだった。

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「普通の人間に見えても、よく観察してみると違和感がある。明子さんと私がお互いのブレインを読んでいったコミュニケーションのように、メイクの中にも“なぞなぞ”をつくるような感じで、見る人にも少しの違和感を感じ取ってほしかった」と、KAORIはバックステージで語った。

「コンセプチュアルで強さがあっても、女性的な繊細さや柔らかさが洋服から香り立ってくるのは不思議ですね。まるで、はっきりとしたビジョンと意思を持ちながらナチュラルな振る舞いをされる明子さん本人のよう。実際、今回が初対面でもあった彼女という人を通してメイクで表現するべきものが見えてきたように思います」

光沢を抑えたスキントーンや、フューチャーなイメージを拡げる目元のシルバー。長く直線的に仕上げたつり眉でほんのりと違和感を決定づける。「明子さんが求めていたのは、民族感と未来感が混ざり合った絶妙なバランスだったんです」

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民族がもつ固有性は、均質化の波が押し寄せている現代をひもとくキーワードのひとつだといえるかもしれない。そして、今回のインスタレーションをつくりあげたふたりの女性クリエイターが自然と共有していたワードのひとつは、「違和感」だった。

「SNSなどのバーチャルな世界はなんでもできて、なんでも手に入り、私にとっては以前のような感動する“フック”もない。そういう規制のない環境が、かえって人間の感覚を鈍くしていっているのではないか……。技術が発展することはすごく良いことですが、そんな“違和感”を感じているんです」と、デザイナーは話しを続けた。

おりおりに自身が抱いたリアルな気分をテーマ設定に反映させていく彼女だからこそ、違和感を感じたものごとに対してはとことんまなざしを向けていく。

「ユニフォームや民族衣装はどちらも“囲われた世界”の中で、時間や文化などを吸収しながら成熟しているものなので純度が高い。そういうものに、やっぱり私は惹かれるんです」

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https://www.akikoaoki.com/


Credit

Photography Shun Komiyama
Interview & text Tatsuya Yamaguchi

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