人生の物語が宿った服:Mame Kurogouchi 18AW

「多くの物語をもった1着の洋服は現代社会において活躍する女性の背中を押してくれると信じています」。Amazon Fashion Week TOKYO初日、“AT TOKYO”枠での参加をはたしたコレクションの核心には、デザイナー・黒河内真衣子の記憶の存在があった。

by Tatsuya Yamaguchi; photos by Takao Iwasawa
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20 March 2018, 9:49am

小雨が降る、3月19日(月)の夜。東京・東品川に完成したばかりの巨大なAmazon Fashion Studioの光に向かってゆるやかな人の波があった。このスタジオでの最初のイベント——去るパリ・ファッションウィーク期間中に2018-19年秋冬コレクションを発表したMame Kurogouchiによる凱旋ショーが開かれるのだ。「パリでのプレゼンテーションは16体という限られた数での発表でしたので、今シーズンの世界観が凝縮されているピースを意識的に選んでルックを組みました」と、デザイナーを務める黒河内真衣子がバックステージで話してくれた。こう続けた。「これまでの私たちの服作りに携わってくださっている日本各地の職人や工場、取り扱いをいただいているお店の方々、お客さまも多くお呼びしています。つまり、今回は、私なりの感謝を込めたショーでもあるのです」

ランウェイショー形式はブランド初の試みだ。ラックにかかった服の数々、リラックスしてその時を待つモデルたち、ヘア&メイクの仕上げを施すチームの姿……。そのすべてが一望できるバックステージの隅で、ショー開始直前の緊張感を内に秘めながらも凛とした眼差しで“臨戦態勢”に入っている彼女の佇まいこそ、2010年のデビュー当時から「現代社会における戦闘服」を掲げるMame Kurogouchiの装いそのものではないかと夢想しながら、ショーの開始をそっと待った。

今季のコレクションノートには、パリでの発表に際して「物作りにおいても初心に戻ろう」とリサーチするなかで出会った、フランス人建築家でデザイナーのシャルロット・ペリアンが1941年に日本で開催した「選択・伝統・創造」展の図録からインスパイアされたことが記されていた。彼女の作品(日本のデザイン界に多大な影響を与えた名作の数々をぜひ見て欲しい)だけでなく、日本の畳、蓑、籠なども紹介されている。同時期に彼女はル・コルビジェのアトリエで同僚だった建築家の板倉準三らの導きで日本を初めて訪れ、柳宗理らとともに日本各地の職人たちと出会った。日本固有の“もの”に注がれた彼女の柔軟な眼差しのあり方と、日用品に宿る「用の美」を見出す民藝運動を推進していた柳宗悦や河井寛次郎らと深い交流をもったことが、先の展覧会に紐づいている。

ノートにはこうも記されている。「多くをみて学び、選択し、伝統から新たな創造をした彼女に学び、私は自分の身の回りをもう一度見直してみました。そこには多くの美しいものが潜んでいました」。つまり自身の記憶や日常、あるいは人生の断片にこそ服作りのレファレンスは溢れている、と。例えば、今季のカラーパレットは明快だ。事務所の周りに落ちていた枯れ葉は茶色、毎日使っている領収書はミントグリーンに。石段はベロアのジャカード生地、庭に生える植物やいつもの喫茶店で活けられているものは、刺繍などで描かれた草花柄に落とし込まれていく——ペリアンがそうであったように、彼女の体験によって見出された“美”が服のいたるところに立ち現れているのだ。

ショーが始まった。旧倉庫ならではの整然とした空間には、無数の白熱灯が不均一な方向に傾いている。モデルは柱を縫うようにして歩く。記憶は、そんな理路整然としていなくて、幾重にも重なり合っているということだろうか。複数の編み方をつなぎ合わせて幾何学的にもみえるニット、無作為にもみえる手織りの生地(ペリアンも大いに影響を受けた藁細工のディテールからの着想だという)。揺れ動くフリンジ、無作為にもみえるタッセル。Mame Kurogouchiが追求する日本の職人的で緻密なテクニックの存在が見え隠れしながら、女性の身体を丁寧に考慮した、時にゆるやかで、時にすっと肌に吸い付くようなシルエットが現れる。「東京ということをもっとも強く意識したことのひとつは、パリではしてこなかった色々なスタイリングをお客さまに見ていただきたいということ」。34体のすべてに異なるリアリティを感じたのは、東京のショーのために新たに結成したチームによるところも大きい——ヘア&メイクは加茂克也、スタイリングは遠藤彩香だ。

「多くの物語をもった1着の洋服」にまつわるストーリーは、着る女性がいて、初めて完結する。

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