ノーマリティを訴える世界

「世界はノーマリティを求めている」とミウッチャ・プラダが語ったミラノ・メンズ・コレクション2日目、Dsquared2とMissoniもシンプルを求めて自然へと目を向けた。

by Anders Christian Madsen
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17 January 2017, 8:18am

prada fall/winter 17

バックステージでは、いつものごとくレコーダーを手にジャーナリストたちがミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)のもとに詰めかけていた。70年代の世界観をベースに自然を讃える内容に終始した2017年秋冬メンズ・コレクションについて、ファッション界の今後を占うミウッチャにジャーナリストたちは聞き入った。70年代を再解釈させたら右にでる者はないミウッチャだが、今季コレクションのインスピレーションについて、「自然の流れでああなった」と語った。「70年代は、人類にとってとても重要な変化が起こった時代だった」——これが、常軌を逸した現代社会についてミウッチャが語ったすべてだった。世界が狂信にひた走った2016年が幕を閉じた今、私たちは平常心を忘れてはならない、とミウッチャは今季コレクションを通して私たちに語りかけているのだ。「これから様々なことが起こり、私たちはこれからたくさんの戦いを強いられる——そんなとき、私たちは本来の自分というものを見失ってしまう。今、私たちは本来の自分を見失っている状態にある。だから、ノーマリティを無意識のうちに求めているんだと思う」とミウッチャは語った。今季Pradaのショー会場は、暗く冷たい色調が支配する精神病棟の大きな相部屋のような空間で行なわれた。会場にはレイヴにバイオリンの音が踊るミックスが鳴り響いた。そこへ、ゴールドのコーデュロイ・スーツ、グレーのVネックとブルーのシャツを着たオープニングのモデルが登場し、ミウッチャが会場に配した意図は明確になった。「私のインスピレーションは複雑。それを言葉にするなんて無理よ」と彼女は言った。「でも、とにかく"大きなもの"から"小さなもの"へと意識の舵を切りたいと思った。インスタレーションやファッション、アート、そういったものをやみくもに讃えて重要視するのではなく、逆の方向へと舵を切りたかったの。より人間らしくて、よりシンプルで、よりリアルなものを大切にしたい」

Prada autumn/winter 17

ミウッチャは、そんな「人間らしく、シンプルで、リアルなもの」を北欧の自然に見出した。ポール・ハメリン(Paul Hameline)やジョナス・グロアー(Jonas Glöer)といった若いモデルや、ベン・アレン(Ben Allen)、クレマン・シャベルノー(Clement Chabernaud)といった中堅モデルたちが、抑えめのモチーフを配したレザーやコーデュロイ、シープスキン、ニットなどに身を包んで登場した。「今回のセーターは、より大衆的要素を取り入れたなアートの形、ロー・アート(low art)の好例だと思う。イタリア語以外の言語にも、"日曜画家"っていう表現はあるのかしら? アマチュア絵画のことで、素人作品だからこその良さがあるの」とミウッチャは説明し始めた。「"ノー・アート"という概念を体現する著名アーティストを探そうと、膨大な量のリサーチをした。でも結局は見つからなかった。トゥー・マッチなものを否定して、リアルで人間らしくてシンプルなものを体現する"ノー・アート"というアートを、今の世の中は必要としているのに」 一般人に油絵の心得を教えるテレビ番組で活躍した画家ボブ・ロス(Bob Ross)なら、きっと今季Pradaの配色やテーマを絶賛したにちがいない。今季Pradaのコレクションは、溢れかえる情報や捏造されたニュース、幼稚な見識、身勝手な意見などが溢れかえる世界、そして真のジャーナリズムなど皆無となったメディアなど、社会をイギリスのEU離脱やトランプの当選などに向かわせた攻撃的な風潮に対して「みんな、ちょっと立ち止まって、深呼吸をして、周囲を見渡してみて」と語りかけているようだった。これは、起こる物事に対して後先考えずに反応し続けた結果、パニック状態に陥った現代社会に対する、静かなプロテストだった。平和主義が声高に叫ばれる今季メンズウェア・コレクションのシーズンにあって、まったく予期しなかった憩いの空間となった。しかし、一歩立ち止まって深呼吸をし、平和をいまいちど心に、そしてファッションに思い描いたデザイナーは、ミウッチャだけではなかった。

Dsquared2 autumn/winter 17

Dsquared2のディーン&ダン・ケイティン兄弟(Dean and Dan Caten)は、ハイキングをテーマに「自然を旅する」という世界観を新たな高みへと押し上げた。メンズとウィメンズを統合してのショーとなった今季、ワッペン、ゴツゴツとしたラバーソールのシューズ、レンジャー・ジャケット、パーカ、そしてシアリングをはじめとする毛皮やファーを盛り込んで、「大自然の中にある人間」を力強くDsquared2の世界観に描いた。そして、これまで数シーズンにわたりDsquared2ショーのスタイリングを手がけているパノス・イヤパニス(Panos Yiapanis)によるダークな世界観も手伝い、今季Dsquared2のコレクションはPradaが打ち出した「自然への慕情」とトーンを同じくしながらも、スーパーモデルたちにブラックのレザー・ガウンやケープを配しるなどして、よりゴス色が香る世界を描き出していた。Missoniは、アウトドアをさらに大胆に解釈した世界観となった。Missoniファミリーのゴールデン・レトリーバーがランウェイに登場するなどした後には、ダークな配色でしかし豪華に作られたモヘアの世界が追求され、これまでにデザイナーのアンジェラ・ミッソーニ(Angela Missoni)が作った中でももっとも力強いメンズウェアのコレクションとなった。今季ミラノが打ち出す男性像が「肩の力を抜けよ」と語りかけているかのようにリラックスした世界観が目立ったこの日を、見事に象徴するようなショーとなった。

Missoni autumn/winter 17

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Credits


Text Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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