エルメス時代のマルタン・マルジェラ展

当時は評価されなかったマルジェラによるHermès。Maison Martin Margiela時代の作品との関係性から、Hermèsというメゾンでマルジェラが挑戦していた世界観を紐解く展覧会が開催される。

by Charlotte Gush
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11 April 2017, 9:45am

Maison Martin Margiela fall/winter 2000-2001, Photo: Marina Faust

アン・ドゥムルメステール、ドリス・ヴァン・ノッテン、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクらの1年先輩であり、"アントワープ6"のひとりでもあるマルタン・マルジェラは、裏表をひっくり返したテーラリングやダメージ加工を施した生地を用いるなど、前衛と脱構築の服作りをするデザイナーとして、80年代から90年代にかけて、大きな評価を得た。そんな中、彼が1997年にHermèsのクリエイティブ・ディレクターに就任した際、当然ながらプレスはマルジェラが生み出すHermèsに一定の世界観を期待した。「Hermèsのアイコニックな商品を脱構築すると考えたわけです。バーキンをふたつに切り離してみたり!」と、エキシビション『Margiela: The Hermès Years』のキュレーターを務めるカレン・ヴァン・ゴツェンホーヴェンは笑う。しかし、大方の予想に反し、マルジェラは、自身初のHermèsコレクションとなった1998年秋冬コレクションで、ベージュやキャメル、トープ(ベージュ・ブラウン)といったナチュラルな配色の、流れるようにエレガントな服を発表した。

Hermès A/W 2001-2002 Collarless jacket and pants in cashmere and silk, high-neck pullover in cashmere and silk, scarf 'Losange' in silk crêpe, Le Monde d'Hermès, Photo: Ralph Mecke

Hermès側も相当のリスクを負ってのマルジェラ起用だった。クリエイティブ・ディレクター指名に際し、ハンドバッグと並んでメゾンきってのアイコニックな商品であるプリント・スカーフについて、マルジェラはHermèsに、「デザインしない」と条件を出したという。当時のHermèsのプレタポルテはごく限定的な展開だった。Hermèsという絶対的地位にあるメゾンと、今や歴史に残るデザイナーとしてその影響を持ち続けているマルジェラという組み合わせだったにもかかわらず、この2者が作り出した世界観に対し、当時のプレスはそれほどの理解を示さなかったのだとゴツェンホーヴェンは話す。

Hermèsで見せた作品の世界観は、マルジェラがMaison Martin Margielaで見せたものとは対極にあるものだった。しかし、今週からアントワープのモードミュージアムMoMuではじまった展覧会『Margiela: The Hermès Years』では、白い壁にMaison Martin Margielaでの作品を、オレンジの壁にHermèsでの作品をそれぞれ展示し、これまでは見えてこなかったつながりを探っている。「調査を進めれば進めるほど、対極にあるかのように見えたふたつの世界が、実はやはり、ひとりの人間が同じヴィジョンのもとに異なる方法で表現していたのだとわかってきました」とゴツェンホーヴェンは話す。「Maison Martin Margielaでは、ライニングに使う生地をほかで使ったり、つまみ縫いの技術を駆使したりと、それまでは隠すことが当然とされてきた職人の技巧の結晶を意図的に外に見える形で配しています。一方のHermèsでは、世界最高峰のアトリエを与えられ、職人の技巧は最高級だったわけですが、彼らの技巧は、外に見えない形で用いられました。日本スタイルとでもいうべきか、ラインは極めてミニマルにデザインされていたのです」と彼女は説明し、「ひとりの名士が、同じ要素を用いて異なった表現をした、ということです」と結論づけた。

Maison Martin Margiela S/S 1996, Photo: Marina Faust

展覧会の会場には、マリー=エレーヌ・ヴァンサン=ショクロンによる1995年音源作品「Les Compliments」が流されている。14分25秒にわたり、「Tu est assure. Tu est belle…(君は大丈夫。君は美しい)」などと、男性の声でフランス語の褒め言葉が囁かれるというものだ。MoMuのディレクターであるカアト・デボ(Kaat Debo)は、展覧会のための調査を進めるうちに、マルジェラが「女性に対する深い敬意を持ったひと」だとわかったという。マルジェラと仕事をともにしたモデルたちは、彼が女性と服の関係について多くの質問をしたと、口を揃えたという。「たとえば、モデルたちの話を聞いたことで、彼は、女性がジャケットのボタンをあまり閉めないということに気づいたそうです」とデボは言い、そのような対話のなかで得たアイデアから、スリーブの下にスリットを入れることでマントのようにも着ることができるジャケットが生まれたのだと説明する。同じく、深くVラインが切り込むトップスの数々は、「セーターを脱ぐときに髪が乱れる」というモデルたちの話に着想を得て作られたそうだ。それらのトップスは肩からおろして脱ぐことができるため、髪を乱すことがない。肩から脱いだあとは、スリーブを腰に巻きつけてまとうことができるというアイデアだ。

Hermès A/W 1998-1999 Vareuse in double-faced cashmere, sleeveless high-neck pullover in cashmere, mid-length skirt in Shetland wool and boots in calfskin, 'Le vêtement comme manière de vivre' Le Monde d'Hermès, Photo: John Midgley

マルジェラによるHermèsのシックな服飾作品が並ぶ隣には、足袋ブーツやオーバーサイズのラップフロント・ジーンズ、マルジェラの母が編んだという穴の空いたパンク調セーターなど、Maison Martin Margielaのアイコニックな作品の数々が並べられている。会場には、それらの作品の着方が幾通りも示されるビデオの他、ランウェイ・ショーの模様を納めた映像も流される。当時の新聞や雑誌からの関連掲載記事や、起用モデルの写真を並べたキャスティング・ボードなども展示される展覧会『Margiela: The Hermès Years』は、マルタン・マルジェラが作り出したデザインの細部にみる独創性を明らかにするとともに、当時は理解されなかったHermès時代の作品の素晴らしさを紐解いて見せてくれる。

Margiela: The Hermès Years』展は、2017年8月27日まで、アントワープのMoMuにて開催中。

Maison Martin Margiela A/W 1996-1997, Photo: Anders Erdström; Hermès A/W 1998-1999, Photo: Studio des Fleurs

Maison Martin Margiela S/S 2009, Photo: Marina Faust

Maison Martin Margiela S/S 2009, Photo: Giovanni Giannoni; Hermès S/S 1999, Photo: Studio des Fleurs

Maison Martin Margiela A/W 1991-1992, Photo: Marina Faust; Hermès A/W 2002-2003 'Les Gestuelles', Photo: Marina Faust

Credits


Text Charlotte Gush
Images courtesy MoMu Fashion Museum Antwerp
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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