​#tbt: 異端のスーパーモデル、クリステン・マクメナミー

「世界でもっとも奇妙な容姿のスーパーモデル」と言われ、新たな美のあり方を世界に浸透させたクリステン・マクメナミー。彼女の魅力に迫った、1993年のi-Dインタビューを再掲載する。

by i-D Staff
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08 June 2017, 8:59am

クリステン・マクメナミーは果たして美しいのだろうか? スーパーモデルとしての地位を確立している彼女だが、もともとの容姿が従来のスーパーモデルたちの美の基準から外れているうえに、眉毛をブリーチするなど、異色のオーラを放ちファッション界で物議を醸してきた。彼女自身、自らを「ヤク中の火星人」と形容している。社会が掲げてきた美の基準は、彼女の登場で終わりを告げたのだろうか?

今年初旬に開催されたパリ・オートクチュール・コレクションでは多くのショーが開催され、モデルたちが優雅にランウェイを闊歩した。夢のような美しい世界が広がるなか、ひとりの女性が際立って見えた。彼女は異星の和音を奏でる楽器のようにその場の空気を一変させた。観客を夢見心地にさせる完璧なハーモニーに、突如ファンファーレが鳴り響いたようだった。深い色彩や暗い色彩に身を包んだ彼女の肌には、それとは対照的に、まるで大聖堂の祭壇にともるろうそくの灯のように、透き通るようなはかなさが浮き立っていた。淡くも退屈そうな表情を観客席に向けながら歩く彼女は、揺るがしようのない事実として、新たな美のあり方を象徴する存在だった。

両性具有的なオーラに風変わりな顔の作り、突き出た肋骨、大きな口、失われた眉毛--この女性はいったい誰なのだろう? 彼女は現代を代表するモデルであり、社会が押し付ける美の基準を超えた存在だ。スーパーモデルの定義をぶち壊しながら、それでも敬意を集めているモデルの第一人者といえるだろう。「彼女こそモダン・ファッション。"美"の既成概念に囚われるのではなく、生命力と個性、力強さを体現している」とカール・ラファーフェルドは語っている。彼女はクリステン・マクメナミー--そのほとばしる圧倒的な存在感でモデル業界を席巻している、28歳のアメリカ人モデルだ。

ファッションが社会の変化を計るバロメーターだとすれば、いまのファッション界の停滞と過熱は現代社会の混乱を反映している。現在のファッション界には、スタイルの変化が見られる。絢爛を極めたグラマーから、個性を折衷した世界観への移行だ。その破壊的なまでに質素さは飾り気がなく、劇的にシンプルなものだ。そのような新しいデザインには新しいモデルが必要となる。純真無垢とセクシャルな魅力という奇妙な組み合わせによる新しいルックが生まれるわけだ。かつて完璧さだけが席巻していたキャットウォークだが、いまでは奇妙ともいえる容姿のモデルたちが多く登場している。高校では「美人」と呼ばれなかったであろう女性が、Chanelのショーで喝采を浴びている--そういうとわかりやすいかもしれない。

ファッションは、不自然なグラマーに飽き飽きしているのだ。うつろな眼差しに乱れた髪、青白い肌にやせ細った体など、現在のモデル界はシンディ・クロフォードに代表されるようなモデルたちが打ち立てた美の基準から離れ、よりオープンになってきている。サラ・マレー(Sarah Murray)やクリスティ・デンハム(Christy Denham)、スキンヘッドのイヴ(Eve)、そしてマクメナミーといったモデルたちがそれを象徴し、美の固定概念を壊しているのだ。彼女たちの容姿は奇妙ですらある。彼女たちの登場によって、憧れの美のあり方に大きな変化がもたらされるかもしれない。

「女性の美しさの理想を変えていきたい。理由は単純。人はそれぞれ美しいから」と、マクメナミーはいつもの大声に、ペンシルバニア出身らしい訛りで話す。「ファッション業界とメディアは『これが理想の女性像』として完璧な容姿を打ち出すことで、世の中の女性に劣等感を植え付けている。99.999パーセントの女性はそんな理想からかけ離れているというに。シンディ・クロフォードのような女性や、完璧な体型をもった女性はほとんどいない。わたしが新しい美のあり方になっているのは、わたしが個性(インディビジュアアリティ)を象徴している--自分らしくあることを楽しんでいるからだと思う。『シワ取りも鼻の整形も豊胸手術もやめなさいよ』ってね。"わたしこそ美しい"って世界に信じ込ませることができたのよ? わたしができたんだから誰にだってできるわよ。心の持ちようなのよ」

一夜にして成功を収めたようにみえるマクメナミーだが、そこには長い下積みがあった。時代が追いつき、彼女の容姿が時代を象徴するになったのだ。今、時代が求めているのは、セクシュアリティではなく個性が投影された世界観だ。モデルたちは派手なメイクに胸を強調する80sなスタイルではなく、それぞれ個人の内面をカメラに向かってぶつけてくる。彼女たちはみな人間的な面白さをもっている。容姿は二の次なのだ。カラスの羽根のような髪型に大きな口、そしてやせ細った体という特徴だけなら、ランウェイをともにしたほかの完璧なモデルたちと変わらない--しかし、マクメナミーはそのなかでも異彩を放っている。

「自分の容姿には自信をもってる。これまでもそうだった。だから今のわたしがある。仕事だからもちろん浮き沈みはある。でもだからといって、"鼻の整形しなきゃ"なんて思ったことはない。コンプレックスは誰でもあるし、わたしも強いて言うなら"目が大きすぎるかも"って思うときがある。だけどそう思ったところで、結局は"これがわたしだ"って結論に行き着くの。あれこれ変えてトレンドに迎合しようと思うようになったらもう終わりね。控えめな鼻が流行っているからといって鼻を小さくしたりなんかしたら、もう取り返しがつかない。大きな鼻が流行ったら、粘土で鼻を作るわけ?」

リンダ・エヴァンジェリスタ、ナオミ・キャンベル、クリスティ・ターリントン、クローディア・シファーが頂点に君臨するファッション界で、何年にもわたり苦水を飲まされてきたマクメナミーだったが、現在は数々のトップ・メゾンに起用され、今季はVersaceの広告キャンペーンに登場している。そして、世界の名だたる雑誌が彼女に多くのページを割いて、最新コレクションの魅力を描き出している。

「世の中が受け入れてくれるようになって驚いている。信じられないわ! これまでずっと"成功する"って信じてきたけど、いまは『2ヶ月後には忘れられてる』って思ってる。それくらい見通してるわよ。だいたい、スーパーモデルって何よ? わたしはスーパーヒューマンで、スーパーウーマンよ。わたしがそうなんだから誰でもそうなれるし、みんながそうであるべきだと思う。わたしはこれからの人生を、"生きて"全うしたいの。モデルとしての成功に陰りが見えたぐらいで、橋から飛び降りて死んでしまうような人間にはなりたくない。わたしが消えれば、誰かほかのモデルが時の人になる。ひどいと思うけど、それがファッション業界の仕組みなの。モデルとしての成功と、女性としての生き方は同じじゃない。同一視しちゃダメ」

「わたしは過大評価されていて、身の丈に合わない価格がつけられてるって思う。見た目なんて生まれつきのものでしかないのに、わたしはこの容姿で稼いでいる。写真では表面的なものしか見えないけど、内側にあるもののほうがよっぽど大事。内面が大切なの。内面がすべて--それがすべて、それが人生だと思う。モデルのキャリアなんて1年が関の山。2、3年もてばラッキーなほうよ。そのキャリアの後もひとは生きていかなきゃならない。そうでしょ?」

カール・ラガーフェルドいわく、マクメナミーは「90年代の美の象徴」だ。世の中に衝撃を与え、誰もが彼女について語っている。「どうしてもモデルになりたい」と入ったファッション界で、若き日のマクメナミーがモデル業界の大御所アイリーン・フォードから「そのたるんだ瞼をどうにかしないかぎり、あなたに仕事はこない」といわれたという話--伝説的写真家リチャード・アヴェドンが手がけたGianni Versaceの広告写真の撮影で、どうしようもなく自分が醜く思えて、泣きながら現場を後にしたという話--マイアミの美しいサウスビーチにあるクラブで、逃げるボーイフレンドに殴りかかろうと追いかけまわしていたという話--喧嘩で目の周りにアザを作ってしまい、翌朝に控えていた大事な表紙の撮影をキャンセルしたという話--マクメナミーには逸話が尽きない。

マクメナミーの成功は偶然によるものだと考える者も少なくない--しかし、スティーヴン・マイゼル(マドンナの写真集『Sex』を撮影した写真家)との撮影でメイクアップ・アーティストのフランソワ・ナーズが、「彼女の大きな目といびつとも言える顔の部位を強調して、他のモデルとは異質な容姿を作り出そう」と、眉毛をブリーチするアイデアをマクメナミーにもちかけ、マクメナミーもこれに応じたことで、彼女はモデルの概念を永遠に変えてしまった。

「いまでも『ヤク中の火星人みたい』とは思うけど、わたしは気に入ってる。セクシーだと思うわ」とマクメナミーは大声で言う。「本当にそう思う。世の中のひともそう思い始めている。だから、シンディ・クロフォード! 気をつけて! シンディもドラッグでキメて、そのうちガリガリに痩せ細ろうとするようになるわよ。あの髪も切って、胸を小さくする手術を受けたりしてね」

リンダ・エヴァンジェリスタは、実際に大御所ブランドからの起用が減ったことを受けて、最近のパリ・コレクションでは髪を短く切り、色も明るくして、おてんば娘のような容姿にイメージチェンジを図った。まさに飛ぶ鳥落とす勢いのマクメナミーだが、現状にあぐらをかくほど彼女は愚鈍ではない。彼女は美しさを売るいまのキャリアをより確固たる何かへの足がかりとしか考えていない。

「ファッション業界は、狂気を教えてくれた。眉毛を抜く意味も教えてくれたけどね! ハハハ! なんにしても、いまは次を考えてる。モデルとしてのキャリアに見切りをつけたら、その後は娼婦になるって決めたの。本当よ。モデルも娼婦も同じことだもの! 冗談はさておき、モデルの後は女優業をやっていきたい。マドンナが映画『BODY/ボディ』で演じたような役をやりたい。もっと良い作品がいいけど。ハハハ!」

現在、世界に巻き起こっている"アンチ・ファッション"というトレンドが一時的なものであろうとなかろうと、このモードは今後も残るだろう。今季トレンドの服を完璧に表現できるのが、独特な容姿や雰囲気をもったモデルだというのはたしかだ。しかし彼女たちの存在感は、服の世界観を超えたものだ。それは社会的気風の変化がファッションに反映されているからだ。経済危機と政治危機が世界を襲うなか、クチュールの絶対領域にまで現実の力が及んでいるのだ。そして、ランウェイや雑誌からは大きな胸と細い腰のシリコン美人が消えた。この変化にクリステン・マクメナミーが果たした寄与は大きい。

Credits


Interview by Guido and Michael Boadi with additional reporting by Avril Mair
From i-D No. 117, The Beauty Issue, June 1993

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