rick owens 17 spring/summer at paris fashion week

今季のコレクションを通して、自らが抱える恐怖心を直視し、それを受け容れたリック・オウエンス。できあがったコレクションは、ほとんどオートクチュールと言ってしまっても良い、実にエモーショナルな出来栄えとなった。

by Anders Christian Madsen
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06 October 2016, 3:26am

Rick Owens 2017年春夏コレクションの招待状には、渦が描かれていた。その不穏なイメージは、2017年春夏コレクションが、このところリック・オウエンスが抱えてきた悩みを反映した啓示的なショーとなることを予想させた。しかし、その予想は大きく外れた。かすれた声に脆さが痛々しいほどに滲むニーナ・シモンの「Wild is the Wind」が会場に流れると、コレクションのオープニングルックがランウェイに登場した。ロイヤルパープルのファブリックがローマ調に身体を包むグラマラスなドレスは、床につくほどに伸びながらもサイドに大胆なスリットが入ったスカートの下に、シルバーのブーツが覗いていた。このドレスをはじめ、今回のコレクションにはボールガウンと呼んでも差し支えないコレクションピースが並んだ。高貴で、荘厳な色彩構造には、ときにフェザーのケープが、またときにゴールデンイエローの装飾が配され、コレクションを彩った。その装飾は、まるで朝焼けのよう——いや、あれは夕陽だったのだろうか?オウエンスは今年の7月と8月を、彼が新たな居住地に決めたリドで、アドリア海を泳ぎ、ベネチアの水平線から日が昇り、また沈むのを見て過ごした。静かな日々のなか、彼は世界について深く考えたという——彼にとっての世界や、彼の外側に存在する世界について。そして生と死について。私たち誰もが経験する苦しい時期に、果たしてどう対処すれば良いのかについて。

「進化について考えた。ファッションの進化について。そして、人類の進化について」とショーの後にオウエンスは言った。「インビテーションの渦は、停滞を表現していたんだ。停滞について、僕はよく考える。生態学的な意味での停滞も、ほかの意味での停滞も。歳をとれば、誰でも多かれ少なかれ停滞や後退というものについて考えるようになる。クリエイティブであるということは、停滞や後退の逆であるべきで、それは死の対極にあるもののはず。だからこそ僕はこの仕事をしているんだと、いつも肝に銘じてきた。"後退"という言葉にはネガティブな含みがあるように思われるし、渦は下降スパイラルと解釈されがちだけど、もしかするとその渦が引き込んで連れていってくれるのは、どこかまったく別の、知らない場所なのかもしれない——そんな、停滞や後退という概念にポジティブな光を見出そうとする、そんなアイデアが浮かんだんだ。停滞・後退も進化なのかもしれないって」。今回のコレクションに見られた装飾、あれらはやはり昇る太陽だったのだ。このコレクションは、歳をとるということから、テロや戦争、環境汚染、そしてアメリカ大統領選挙などといった社会的・政治的な情勢不安にいたるまで、停滞や後退、混沌とするこの現実世界に対する、オウエンスのエモーショナルでエレガントな反応、いや、答えだった。オウエンスの作品はこれまでも、彼を取り巻く環境への反応だった。今シーズン、脆く、退廃的な美しさが漂う彼の作品には、彼自身が直面した恐怖心が表現されていた。

「アメリカ人として、僕はいつも遠くのパリに憧れていた。そしてこの街に暮らせることになって、これまで作り上げてきたものが、ヨーロッパの複雑さをアメリカ人として解釈した形なんだと気づいた。僕は、引き算をしていくのが好き。物事を白黒はっきりさせたい性分ではあるけれど、ヨーロッパが長い歴史のなかで育んできた深みや奥行き、そして"白黒はっきりさせるばかりがすべてではない"という複雑さは素晴らしいと思う。だから、そういったふたつの要素を合わせて、アニメバージョンのヨーロッパとでも呼ぶべきようなものまで引き算をしていくこともある。アメリカ人としての性分を恥じているわけではないんだよ。それが僕の"売り"でもあるわけだしね。だからこそ新しいものが生まれるんだ」。過去数年間にわたり、オウエンスの作品はクチュールの要素を強め、表現は洗練されていった。ひとびとを熱狂させ、オウエンスがファッション界で確固たる地位を築くきっかけとなったあのレザージャケットは、彼にとってはすでに遠い過去の産物となっている。今回のコレクションは、またもやリック・オウエンスという宇宙を拡大する大きな一歩となった。オウエンスは限界というものを知らないようだ。「僕はもともと機能性をベースにものを考えるほうだから、ふわふわしたデザインができずにきたんだけれど、今回はそれすらも自分に許したんだ」とオウエンスは説明した。

「僕が作るものにはしっかりとした質感と形があるものが多い。でも今回はふわふわと浮くような服を作った。しっかりと縫い合わせてもいないんだ。どうやってそうなったのか、自分でもわからない。店頭でどう売られるのかも、どう形を作れば良いのかもわからない。でも、そういう心配は後ですればいい」とオウエンスは肩をすくめた。会場の音楽がデヴィッド・ボウイバージョンの「Wild is the Wind」へと切り替わると、オウエンスは観客に挨拶をするためランウェイへと顔を出した。胸に迫るボウイの情熱的な叫びが、オウエンスの心を的確に表していた。「君は春、君はすべて。君は人生そのものなんだよ」——オウエンスにとって、ショーはお金を生むためのものではない。季節ごとのセラピーなのだ。個人的な恐怖心や情熱を表現すること——それをみんなで着飾って支え合う場なのだ。そんなオウエンスは、ただファッション界で最高のセラピストであるだけでなく、素晴らしく誠実なひとりの人間でもあるのだ。

Credits


Text Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.