CSM MA AW17:2017年の卒業生たち

セントラル・セント・マーチンズの卒業制作発表で、ロンドンのウィメンズのシーズンが幕を開けた。

by Anders Christian Madsen
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21 February 2017, 9:00am

Gabriele Skucas

2017年の卒業生にとって、現実世界は決して望ましい状態にはないだろう。ファッションデザイナーを目指す者にとってはなおさらだ。世界の目はかつてないほど、クリエイティブなフィールドに身を置く者たちに注がれている——これまでも、デザイナーやアーティストのクリエイティビティが人類を救ってきたのだから。セントラル・セント・マーチンズMA卒業生たちの中で、ファッション界の未来を担うデザイナーとして選出された者たちが、去る先週金曜に2017年秋冬コレクションを発表し、ロンドン・ファッションウィークをスタートさせた。周囲の期待は高まっていた。彼らの作品は、現在の社会情勢へのリアクションと解釈できる要素に満ちていた。ステファン・クック(Stefan Cooke)と並んでL'Orealプライズを受賞したゲイブリエル・スキューカス(Gabrielle Skucas)は、戦時中を思わせる厳粛な色合いのコレクションを発表した。アドルフ・ヒトラーの秘書トラウデル・ユンゲを連想させるような秘書スカートは、そのプリーツ使いで彫刻的ですらあった。一方のクックは、素晴らしいメンズウェアのプリントをもってコレクションピースにだまし絵を描いて見せた——私たちの目に映る世界は幻覚なのだという概念を、そこに描いていた。

Gabriella Sardeña

しかし、今シーズンのCSM卒業生コレクションで発表された新たなアイデアのなかで際立って新鮮だったのは、文化的主張の真逆をいく要素だった。限られた時間に額面通りの主張を打ち出すのではなく、CSM卒業生たちはあくまでもファッションの理想を汚れない視点から、社会を揺るがす現在の非現実的状況に惑わされることなく、自らの持つセンスと技巧に向き合っていた。ガブリエラ・サルデーニャ(Gabriella Sardena)がフェザーを多用して作った突飛とも言えるグラム・ロックの世界は、カラフルな現実逃避とは感じられず、ただただ純粋でフレッシュなエネルギーを感じさせた。ファッションを愛する者たちがいつも見たいと願うような、底抜けに楽しい世界だったのだ。先日Calvin Kleinの最新コレクションで発表され、Instagramで誰もが絶賛していた、プラスチックで覆われたイエローのファー・コートのように。人の心を掴むワイルドな作品をランウェイに送り込むことは、簡単なことのように思えるかもしれないが、それを実際にやってのけるのはとても難しいことだ。それを、サルデーニャはやってみせた。ステファン・クックも同様だった。ジーンズ・プリントをほどこしたパンツや、アーガイルのプリントをほどこしたプルオーバーは、もちろんだまし絵の手法だ。これはファッションの歴史において初めて用いられた手法ではなかったが、クックはそれを新たな高みへと押し上げた。とにかく素晴らしかった。

Stefan Cooke

ピーター・モヴリン(Peter Movrin)は、うわさによれば肉屋の息子だそうで、その家業の影響と見られる要素をコレクションに織り込んだ。そこには、肉を包むための紙やアルミホイルを連想させる素材が多く見られ、昨今のファッション界に欠けている奇想天外なアイデアを見せてくれた。怒りとプライドが世界に大混乱を巻き起こしている今、大統領や首相たちの奇怪な言動に、私たちの感覚も少し奇想天外なものを求めていたのかもしれない。かつてアレキサンダー・マックイーンは、ファッションに驚きの要素を持ち込んだ。CNNが報じるデイリーニュースのほうがマックイーンのショーよりもよほどグロテスクである今の世の中——ファッションの世界には、改めて奇想天外なアイデアが必要なのだろう。しかし、だからといってCSM卒業生たちのコレクションでゴミ袋が素材として実に多く用いられていたことの興味深さやメッセージ性、キュートさ——リサイクルの意味においてのキュートさ——が否定されるべきではない。この不景気の真っ只中で卒業しなくてはならないデザイナーたちの現実が、そこには映し出されていた。

Peter Movrin

しかし一方で、数人のデザイナーたちにとって、現在の世界情勢は西洋社会全体に重くのしかかる暗雲ではなく、あくまでもパーソナルなものであるようだ。オリヴァー・テーム(Oliver Thame)のコレクションはリベリアの少年兵士たちをテーマとしており、マルチ・テクスチャーのパッチワークには、打ち砕かれた贅の世界が描かれているようだった。「これをドリス・ヴァン・ノッテンが見たら」と思わず想像し、「テームの将来は明るいだろう」と結論づけた。将来といえば、トム・ガイ(Tom Guy)のドラマチックなシルエットと刺繍の施されたチュールは、「Diorのデザインチームに空きがあれば……」とガイがマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)に売り込みを図っているような世界観だった。2017年卒業生のうち、誰が世界のファッション界へと巣立ち、昨年のマイケル・ハルパーン(Michael Halpern)のようにこの奇妙な時代の精神を体現する存在となるのだろうか。ロンドンをベースに活動するアメリカ人デザイナーのハルパーンは、昨年のCSM卒業制作発表ショーでスパンコール多用のStudio 54調ルックを発表し、評価を得た。すぐにファッションビジネスを立ち上げるとたちまち好評を得て、今では世界的ショップの数々に商品を降ろすまでに至っている。

Tom Guy

Credits


Text Anders Christian Madsen
Photography Mitchell Sams
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.