クィアのロマンスを歌う5人の新星アーティスト

BROCKHAMPTONのケヴィン・アブストラクトから、ブロンクス出身トランスジェンダー・ラッパーのクエイ・ダッシュまで、2017年にクィアの愛を歌うミュージシャンたちを紹介。

by André-Naquian Wheeler
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10 April 2017, 5:10am

warren wolfe. image courtesy the artist.

2017年3月初旬、フランク・オーシャンが「Chanel」をリリースし、Twitterは大いに沸いた。引き込まれずにいられないその世界——歌い出しの「My guy pretty like a girl(俺の彼は女の子みたいに可愛い)」という歌詞は大きな反響を呼び、これに関する多くのツイートが見られた。オーシャンは、「both sides like Chanel(Chanelみたいに、どっちにでも対応できる)」とも歌っており、この曲がバイセクシュアリティを歌ったものであることは明らかだろう。これは彼にとって(近年オーシャンは、自らのクィア体験を赤裸々に語りはじめている)、そしてポップ・ミュージックにとって、とても重要な曲だ——音楽で、性を曖昧に表現しなくてはならない状況に中指を突き立てているのだ。

音楽業界は、LGBTQのミュージシャンの声を黙殺してしまいがちだ。多くのアーティストたちが、これまで「"普遍的アピール"を損なわないよう、ゲイを示唆する代名詞を使わないよう指示された」と漏らしている。しかし、ストリーミングサービスの普及や、SoundCloud、Bandcampといったプラットフォームの登場によって、LGBTQのアーティストたちもそれぞれが思うように音楽を制作・発表できるようになり、自らの体験を明確に聴衆へ届けることができるようになった。彼らはレッテルを貼られることを拒み、メインストリームの世界でストレートの聴衆からもクィアの聴衆からも人気を獲得している。BROCKHAMPTONのメンバー、ケヴィン・アブストラクトは、「彼」「ボーイフレンド」といった単語をよく歌詞に入れている。そして、R&Bの可能性を押し広げているアーティストのSydは、先日リリースしたビデオのなかで、好きな女性にフラれる女性を演じている。二重の意味を持つ言葉を使ってでしかアーティストたちが真の姿を打ち出せないという状況は、近年の音楽から急激になくなりつつある。自らのセクシュアリティについて曖昧な表現を用いることを拒む、5人の新星アーティストを紹介する。

Warren Wolfe
ニューヨークを拠点に活動するウォーレン・ウルフは、抑えた曲調に天から聞こえてくるようなサウンドで、感情溢れる世界を作り上げる。現在21歳のウルフだが、「Thought」では、恋をするなかで、新たな自分を発見していくさまを歌っている。「This is so new and I've never felt this way(こんな気持ちになったのは初めてだ)」と歌い、後ろに繰り返されるフォルセットのメロディは、神秘的な印象を高めている。スマホとアプリによって本音を言いづらくなっているこの時代にあって、その感情溢れるリリックは、ひとを惹きつけて離さない類稀なる力を持っている。
「自分の性を受け入れたら、ものごとを新しい視点から見られるようになった。人との関係や自分を知ること、そして成長という複雑なできごとに関しても」とウルフは言う。SoundCloudで人気を獲得し、インターネットで大いに話題となった現在、彼は自身初のEPを制作している。彼は今、これまでにないほどの自信をもって、音楽でありのままの自分を表現している。「それまで隠していた自分の一部を、今は音楽で伝えることができる」と彼は言う。「以前は、男性らしさや女性らしさといった既成概念に縛られていた。でも今は、そこから解放されて、ボーカリストとして、プロデューサーとして、好きなように自分を表現していいんだと感じているよ」

Kevin Abstract
「Empty」のMVは映画のようだ。ポール・トーマス・アンダーソンの『ブギーナイツ』に着想を得て作られたというこのビデオで、現在20歳のラッパー/アーティストのケヴィン・アブストラクトは、高校のフットボール部のスター選手からフェラチオをしてもらっている。場所は、スター選手の部屋だ。そこへ、彼のガールフレンドが何も知らずに部屋へと入ってくる。彼女の顔には、裏切られた気持ちと嫌悪の気持ちが入り混じった表情が浮かぶ。苦悩が滲むパンクなアブストラクトの声をバックに、映像はアメリカ郊外に生きる10代のクィアが経験する様々な葛藤を描いている。映像は、ダイビングボードの先に座り考え込んだスター選手が、やがてプールへと飛び込むシーンで終わる。最後には、「亡きサマー・ラブーフに捧ぐ」という文句とともに、縁取られたスター選手の写真が掲げられる。
アブストラクトは、性の目覚めや初恋、そして周囲に馴染もうと試行錯誤する青春の喜びと苦しみを歌に綴ることを使命として、2ndアルバム『American Boyfriend: A Suburban Love Story』を制作したそうだ。「Seventeen」では、ガールフレンドがいる男と、その浮気相手である自分の関係を歌っている。秘められた関係にあって、すべてを笑顔で受け流していかねばならない苦難を。「His mom in the dining room, we're in his bedroom, his girl too(彼のお母さんはダイニングルーム/俺は彼のベッドルームに——彼の彼女も一緒に)」と歌い、「Had to pretend like I didn't mind that bitch, just so I could see his face(女と一緒に楽しんでるフリをする俺/彼の顔を見ていられるなら、それもしょうがない)」

Syd
Sydは、インタビューで自身のセクシュアリティについて話すのをいやがる(ストレートの男性ラッパーたちはいつでも決まって自身のセクシュアリティを明け透けに語るのに)。しかし、歌では違う。Tyler the Creator率いるヒップホップ集団Odd Future Wolf Gang Kill Them AllのDJとして知られるSydだが、このグループのメンバーであることでクィア・コミュニティからは批判を浴びた。「Odd Futureは同性愛嫌悪のグループだと思っているひとが多かった。歌詞でたびたびホモフォビックなスラングが使われていたから。だから、『同性愛を嫌う人たちと一緒になって、同性愛嫌悪を助長している』ってみんなは口々に言った」と、彼は『The New York Times』紙とのインタビューで語っている。
2015年、SydはOdd Futureを脱退し、ジャンルを超えた音楽グループThe Internetを結成。2017年初旬にはソロ・アルバム『Fin』をリリースした。収録曲「Body」では、「What's my name?/ Girl, I swear I can hear your body(わたしの名前を呼んでみて/わたしには、あなたの体が聞こえる)」と、官能の世界を歌い上げている。細かく計算されたビートの配置に、髪を掴み引っ張るさまや、肉体に歯跡を残すさまが歌われ、Sydは、クラブでも好まれるであろう上質のセックス讃歌を作り出している。その世界観は、リアーナやブリトニー・スピアーズにも共通するものがある。『Fin』で、Sydはクィア音楽がメインストリームでも引けを取らない上質な音楽を作り出していることを証明している。

Serepentwithfeet
Serpentwithfeetのオペラ的な音楽には、不安を克服したり、複雑で心ない恋人に別れを告げるなど、これまでに彼が通ってきた半生の道のりがにじむ。ニューヨークを拠点として活動するSerpentwithfeetことジョサイア・ワイズ(Josiah Wise)は2016年末、「Redemption」や「Penance」など宗教色の濃いタイトルをちりばめたEP『Blister』をリリースした。表題曲「Blister」で、彼は心をゆるさない恋人に「安心して」と懇願する。「Baby, it's cool with me that you like to lie.(ねえ、僕には嘘をついてもいいんだよ)」と彼は歌う。「その目が悲しみに満ちているのが、僕には見えるから」。この記事で取り上げているアーティストたちの多くがクィアの恋愛の幸せを謳っているのに対し、Serpentwithfeetは、疎外感や不安、自己のうちに巣食う自己嫌悪の念など、苦しみの部分を歌っている。『Blister』に収められている曲は、LGBTQの人権と尊厳が社会で確立されたにもかかわらず、社会が同性愛者に向けてきた嫌悪の念が当事者コミュニティに残してきた傷がいまだに癒えてなどいないことを、強く実感させてくれる。

Quay Dash
トランスジェンダーのラッパーQuay Dashは、自信に溢れている。ブロンクス出身のクエイは、Lil' Kimに大きな影響を受けたといい、富と成功、そして男に主導権を握らせない関係を力強く歌っている。クエイはまた、有色人種のトランス女性が強いられる特殊な苦悩について、重要な問題提起をした人物でもある。昨年、彼女は『The Guardian』紙とのインタビューで、2016年がトランス女性にとって歴史上もっとも苦しい1年になったと語った(アメリカで2016年に殺害されたトランス女性の数は、22人にのぼった)。「わたしのような黒人トランス女性は、とにかく下に見られる」とクエイはインタビューの中で語っている。「わたしのような人間をよく知ろうともしない。それはとても悲しいこと」
LGBTQコミュニティの中でももっとも焦点を当てられない多要素的アイデンティティである、有色人種トランス女性。クエイは、その失意を力に昇華し、自分を愛してあげることの大切さ、そして自らの内に力を感じることの大切さを力強く打ち出している。2016年、クエイは、気高く美しくあること、富を得て人生を楽しむことの素晴らしさを謳う圧巻のEP『Transphobic』をリリースした。そこでクエイは、彼女にとってのベストな状態、すなわち真の自身のあり方を貪欲なまでに追い求めている。そして、そんな姿をさらけだすことで、聴く者にも同じように、貪欲に真の自身の姿を追求するよう、触発している。

Credits


Text André-Naquian Wheeler
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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