VetementsとDior Homme:「リアルな人のファッション・ポーズ」と「ヨーロッパの団結」

先週の土曜、パリではフランス大統領選挙の結果を受けて、Dior Homme、Hermès、Balmainが、ヨーロッパの未来への新たな希望を讃えるコレクションを発表。Vetementsは、新たな拠点となったチューリッヒへのトリビュートを捧げるエキシビションを披露した。

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jun 29 2017, 1:20pm

Dior Homme spring/summer 18

This article originally appeared on i-D UK. 

2018年春夏シーズン、パリのメンズ・コレクションは楽観主義の精神に満ちている。公園でショーを行なったBALENCIAGAも、独自の視点でフォーマルに描いた変わり者たちを頭上から登場させたRick Owensも、フランスの大統領選挙でエマニュエル・マクロンが勝利したことを受けて、新たな希望の輝きを表現しているように見えた。「マリーヌ・ルペンが大統領になる可能性もあったと考えて怖くなった。イギリスがEU離脱を決め、アメリカではトランプが大統領になって、そんな右傾の勢いを、次はここフランスが後押しすることになるのかと選挙中は怖くてしかたなかった」と、クリス・ヴァン・アッシュは、Dior Hommeの2018年春夏コレクションのプレビューで語った。プレビューは、土曜の午後に行なわれた。「すると、そこへ39歳の無名候補が突如現れ、偉業を成し遂げた。もはや"フレンチ・ドリーム"だよ。でも僕は、彼がこれから完璧な大統領になると言っているんじゃない。懸命に努力すれば、ひとは必ず何かを成し遂げられるということを、マクロンは身を以て示してくれたんだ。だから、いまフランスはとてもポジティブな力に満ちているよ」

Dior Homme spring/summer 18

ヴァン・アッシュはこの数ヶ月間、自身のInstagramで政治的なストーリーを投稿してきた。それらに比べればあからさまな政治色こそ強くなかったものの、今回のコレクションには、新たなヨーロッパの時代精神とティーンの思想という共通した世界観が描かれていた。彼は今回のコレクションを「Late Night Summer(真夜中の夏)」と名付けた。「両親から初めて夜遊びを許されて、でかけると、『恋がしたい』と出会いを求めている若者たちが溢れている——そんな世界観。容姿がいかにひとを誘惑するのに大切かに気づく、大学時代——容姿は大切なんだということに気づく年頃を描きたかった」。ヴァン・アッシュは大学スポーツチームのレタリングなど、これまでもたびたびテーマとして扱ってきた「大学時代」を、今季でも再解釈してみせた。そして、それをテーラリングの最高峰といわれるDior Hommeのアトリエへのオマージュ作品に描いた。

Dior Homme spring/summer 18

クリスチャン・ディオールが1947年に生み出し、一世を風靡した作品のひとつに、バー・ジャケット(Bar jacket)がある。腰回りを絞った女性用のジャケットだが、今回ヴァン・アッシュは、自身が「男性版バー・ジャケット」と呼ぶ、美しいカットのジャケットを作り出した。そして、「atelier(アトリエ)」の文字と、Diorアトリエの住所「3, rue de Marignan」が、薔薇の形をした勲章ロゼットやリボンにロゴ要素としてプリントされ、ジャケットやコートを飾っていた。ショーのオープニングを飾ったスーツの数々は、これまでにヴァン・アッシュが手がけてきた中でももっとも優れたテーラリングだったと言っても過言ではないだろう。完璧なシェイプを実現したそれは、男性の服ということを忘れさせるほどエレガントでセクシーだった。芝生を敷き詰めたグラン・パレを、まだ18歳にもなっていないような若いモデルたちが歩いたショーは、ヴァン・アッシュがフランスで見て感じるという、若々しい楽観の雰囲気と明るい未来への展望に満ちていた。

Dior Homme spring/summer 18

「スイスが面白いのは、国が中立性に溢れているところ。どんな立場にも加担せず、自分たちが正しいと思う道を進む。それは、Vetementsの文化にも共通するものだと思う。僕たちは独立していたいんだ」と、グラム・ヴァザリアはパリ市内北部にある駐車場で土曜に開かれたVetements 2018年春夏コレクションのショーで言った。『No Show』と題されたコレクションは、デザイナーであるデムナ・ヴァザリア自身がチューヒッヒで地元のひとびとをモデルとして撮影したルックブックを、等身大のボードに引き伸ばして展示。コレクションというよりもエキシビションの様相を呈していた。ヴァザリア兄弟は、今年初旬にVetementsの拠点をパリからスイスのチューリッヒに移転している。

Vetements spring/summer 18

「今回のエキシビションは、いま僕たちが謳歌している生活を物語っていると思う」とグラムは話す。「チューリッヒに拠点を移してから、僕たちはとても落ち着いている。経験も豊かになって、成熟してきているんだ」。3年前、Vetementsに富と名声をもたらしたのは、皮肉に満ちた破壊的なエネルギーだった。そんなVetementsだが、拠点をチューリッヒに移したからといって、今季のコレクションが退屈になったかといえば、そうではない。ブランドの原点に立ち返り、これまでのアーカイブすべてに目を通したデムナは、いくつかの作品を解釈し直し、今日的な要素を加えて"今"を追求した。例えば、アントワープを讃える内容だったスローガンを、チューリッヒに向けた言葉に置き換えるなどしている。

Vetements spring/summer 18

「Vetementsは服のブランドで、ファッションのブランドではない」と、デムナはエキシビション会場の駐車場へ向かう車中から、テキストメッセージのやりとりの中で説明した。このときデムナはプライド・パレードのため発生していた渋滞に巻き込まれていた。フランス大統領選挙でルペンが勝利していたら、ゲイ・プライドのイベントも重苦しい雰囲気が支配していただろう。「だからこそ今回は、Vetementsの服を着たリアルな人たちに"ファッションのポーズ"をとってもらったんだ」と、デムナはチューリッヒの多様な人々をモデルに迎えた写真について話した。

ヴァザリア兄弟の生活は、Vetementsの拠点移転によって大きく変わった。デムナが「ヨーロッパでもっとも退屈な場所」と呼んだ、チューリッヒの落ち着いた雰囲気に暮らすことで、彼らはよりシンプルで、純朴なライフスタイルを手にいれた。ティーンの進化を描くVetementsの世界観に、この変化は呼応している。「落ち着きとは集中できるということ。そういう状態でこそ、ひとは自分の心の奥深くに答えを見つけられる」

Vetements spring/summer 18

成熟して、ファッションの体制へと変化しているVetementsだが、現在確立しているカルト的ステータスが失われてしまう不安はないのだろうか?「体制側になるのも必要なことなんだよ。子どもじみた格好をした大人がいるけど、あれじゃだめなんだ。ブランドも同じで、成長し変化を受け入れていかなきゃならない。周囲からの期待に応えなきゃならない。クオリティや製法、発表・発売のタイミングや方法の面でもね」とグラムは話す。「それから、ショーのやり方でも」。いま、チューリッヒを"クールな場所"にする力を持つ存在がこの世にあるとすれば、Vetementsをおいて他にはないだろう。しかし、「スイスが打ち出す、外資系企業に対する課税の優遇措置に飛びついた」と非難するファッション界の声は不可避だった。「スタッフへの給料はパリの3倍払わなけいといけないから、チューリッヒは経費削減に適した場所ってわけでもないけどね!」とグラムは切り返した。「パリにあるファッション界から飛び出して、外で起こっていることを見てみたかった。でも同時に、誰にも頼らず自分たちだけの世界を築きたいという気持ちも強かった。ひとはクールになろうとすればクールじゃなくなってしまうもの。心の声に耳を傾け、自分にとって何が正しいのかを判断し、それを実行するということ——他人の意見に左右されず、自分に対して忠実でいることが大切なんだ」

Vetements spring/summer 18

2018年春夏コレクションが、Vetementsにとって「成長」のコレクションだったとすれば、クリス・ヴァン・アッシュがDior Hommeで語っていた「若々しい楽観の世界観」は、Hermèsの今季コレクションにも呼応していた。ヴェロニク・ニシャニアンは数シーズンにわたり、Hermèsのメンズウェアの活性化に成功している。土曜夜、ニシャニアンはHermèsが「アスレチック」と「レジャー」を掛け合わせて打ち出し続けてきた "アスレジャー"の世界を、新たな技術的高みへ押し上げていた。濡れたような風合を実現したトラックパンツやコート、大胆なグラフィックがほどこされた軽量のパーカーなどに、それは見られた。「ワクワクしているし、未来に希望を持っている」と、ニシャニアンはわたしが現在のフランスに満ちている雰囲気について訊くと、そう答えた。「今回のコレクションは、未来への希望とエネルギーに満ちたコレクション。楽で、カジュアルで、洗練されて、それでいて力強い——そのままどこか遠くへと駆け出してしまえそうな服!」

Hermes spring/summer 18

オリヴィエ・ルスタンはBalmainのショーで、直筆のショーノートを配布した。彼はそこで、Balmainのスタジオが持つ卓越したテーラリングと装飾技術、そしてレザー使いを讃えていた。しかし、パリ11区にあるBalmainの本部で行なわれた2018年春夏コレクションのショーで、彼は服を通して彼自身の世代を描いていた。「この国は、世界に漂っていたとても危険な気風を打倒し、心の狭いひとたちの恐怖心を突っぱねた」と、ルスタンはマクロン大統領の勝利に触れて書いていた。「先日、フランス大統領選挙の結果が出ました。そしてその結果は、私たちが持つ本質的な価値観を強く肯定してくれるものでした。Balmainは、私世代の若者のセンスを反映するブランドです。しかし、大統領選挙の結果に勇気を得た私は、より個人的なコレクションを作り、ランウェイで発表すべきなのではないかと感じるようになりました——私がいま感じ、いま着たい服の世界を反映したコレクションを」。ルスタンは、それを極められた贅のなかに描き、また、ココ・シャネルをモチーフとしたディテールに描いていた。そしてそこには、ルスタンが意図したフランスの世界観が溢れていた。あっぱれ、オプティムズム!

Balmain spring/summer 18

This article was amended on 26 June 2017, because it wrongly stated that Zurich was the capital of Switzerland, when the de facto capital is in fact Bern.

Credits


Text Anders Christian Madsen
Catwalk photography Mitchell Sams
Vetements photography Demna Gvasalia
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.