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「わたしたちと遊ぼうよ」:2018SS パリ・ファッションウィーク Day4

モダンな職人技を見せたLoeweのジョナサン・アンダーソンと、映画『シャイニング』と写真家シンディ・シャーマンを解釈したUndercoverの高橋盾。

by Steve Salter; photos by Mitchell Sams
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05 October 2017, 9:38am

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照明が落とされ、映画『シャイニング』のサントラが流れはじめると、会場のインターコンチネンタル・パリ・ル・グランは劇中の不気味なオーバールック・ホテルへとさま変わりした。それはスタンリー・キューブリックが描いたダークなアメリカーナをUNDERCOVERのデザイナー高橋盾が自身を通して見た世界だった。双子のようにモデルが対になり、手を握り合ってランウェイを歩く。間違い探しをするように、観客はショーを食い入るように観ていた。

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「ひとはふたつの面を持っているものです」とバックステージで高橋は説明した。"二面性"というコンセプトは、デザインにも強く反映されていた。すべてのドレスが完全なリバーシブルになっており、光の裏側には闇が描かれていた。またアメリカ人写真家シンディ・シャーマンのセルフポートレイトがプリントされたアイテムにも二面性が表現されていた。6年前、東京でショーを開催した高橋のもとをシャーマンが訪れて以来、ふたりは友人関係にある。今季、高橋はシャーマンの二面性を探っていた。「シンディはごく普通の生活を送る女性でありながら、作品ではまったく違う面を見せる」と語った。この予想外のコラボレーションは、当然ながらファッション関係者を喜ばせた。これこそ、わたしたちを魅了するファッションだ。

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ショー自体も不気味だったが、フィナーレも圧巻だった。実際の双子をモデルに起用し、『シャイニング』でグレイディ姉妹が着ていたようなドレスを着せたのだ。ドレスには赤いクリスタルで作られたフリンジが配されており、血しぶきを連想させた。双子モデルは、観客に向かって「わたしたちと遊ぼうよ」と言った。高橋は、コレクションを通して「遊ぼうよ」とわたしたちに語りかけていたのだ。

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UNDERCOVERが不穏な物語を見せた一方で、Loeweは「一歩立ち止まって職人技について考えてみて」と語りかけていた。自身のブランドJW Andersonで思慮深い視点を築いてきた延長線上で、今回ジョナサン・アンダーソンはLoeweに現代的技巧について静かな考察をしてみせた。「落ち着きをLoeweにも持ち込んだ」とアンダーソンはバックステージで説明した。

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2013年9月にLoeweのクリエイティブ・ディレクターに就任してからというもの、彼は多くのミーティング、飛行機とユーロスターでの移動、そしてコレクション制作など多忙な生活を強いられてきた。自身の名を冠したJW Andersonと、クリエイティブ・ディレクターを務めるLoeweで、彼が一年間で手がけるコレクション数は、なんと15。ここ一年ではコラボレーションを3つとアート展のキュレーションをひとつ手がけている。シーズンが終わればまた次のシーズンのために奔走し、また新たな過密スケジュールと雑音に満ちた日々がやってくる——何かを見失ってしまいそうなほどの激務だが、彼はそれぞれのブランドにとって重要なものを見失ってなどいないことを証明してみせた。スペインの老舗メゾンLoeweにとって「職人の技巧だけが生むことのできる服」こそはもっとも大切なものである。アンダーソンは今季、その伝統を巧みにモダンに落とし込んだ。

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会場は、円形にカーブしたユネスコビルの内部。職人の技巧とアートが、テクノロジーがタペストリーと出会った。タペストリーには、先日発表されたスティーヴン・マイゼルによるキャンペーン写真と19世紀から20世紀のモノクロ写真が、最新技術で織り込んだ数千もの糸で仕上げられていた。巨大なタペストリーを編み上げたのは、フランスのリモージュ近郊に暮らす熟練の職人たちだという。アンダーソンの革新への情熱は、コレクションを新たな境地へと押し進めた。クラシックなアイテムを現代に即して構築し直し、色鮮やかなフェミニニティの新たな解釈が強く感じられた。「日常的な空間から解き放たれて自由になった」女性像を描いていると彼はいう。行く先々で記念になる品を手に取り、インドでペイズリーのテキスタイルを、南米では手編みの生地を購入するような女性だ。

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「ドレスに隠された職人芸についてメディアが時間をかけて考えてくれなければ、それを手にとって触れる消費者に何が伝わるというのか? 僕は、ひとが近寄って触れてみたいと思うものを作りたい」。モデルたちをジャーナリストは前かがみになって見つめ、感服した。アシンメトリー、切り抜きされた生地、そしてフォルムへのアクセントが流れるようなシルエットにシャープさを与えていた。また、服へ施された手作りの装飾には優れた職人技巧が用いられていた。洗練されたエレガンスがコレクション全体を覆うなか、不思議な印象を残すアイテムが数点あった。際立っていたのは、道化師が履くようなつま先が上向きに尖った民俗調の靴だった。そこでわたしは思い至った——「これはジョナサン・アンダーソンの服なのだ。そう簡単に楽ちんなファッションをもたらしてくれるわけがない」。メゾンLoeweの職人たちを従えた、ジョナサン・アンダーソンが歩を休めることはしばらくはなさそうだ。

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