アメリカ先住民にとって「トランプ大統領」が意味するもの

これまで一貫してアメリカに暮らす先住民族を攻撃してきたドナルド・トランプ。彼がアメリカ大統領になることによってネイティヴ・アメリカンの暮らしはどう変わるのか。また彼らはどうトランプと向き合っていくのだろうか。

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nov 22 2016, 6:52am

多くのアメリカ人は「しかたがない」という気持ちでドナルド・トランプを次期アメリカ大統領として受け入れようとしている。獲得票数ではヒラリー・クリントンが上回ったものの、結果としてトランプが勝利したということは、彼が排他的な発言で公然と侮蔑の対象としてきた有色人種や女性、移民、そしてハンディキャップを持つ人々にとって、大変ショッキングな出来事だった。選挙後のスピーチで、バラク・オバマは、次期大統領に関して、変化のときを迎えた国に必要なのは「団結の感覚、一体の感覚、国家制度への敬意、アメリカが切りひらき築き上げてきた<ひとの生き方>を尊重する姿勢、そして何よりも、いかなる人間に対しても持つべき基本的な敬意」だと説いた。

しかし、多くの国民にとって、敬意や一体感の真逆の立場を露わにすることで選挙戦を繰り広げた候補者とともに前進するなど、感情的にも生理的にも無理な話だ。イスラム教信者とメキシコ系移民の尊厳を踏みにじり、セクシャルハラスメントを公然と正当化できてしまう大統領など、それこそ敬意に値するのだろうか、と。そして、祖先の土地と文化を数百年にわたり植民地支配されてきたネイティヴ・アメリカンもまた、これまでに侮蔑的発言で先住民を攻撃してきた過去を持つ人物をホワイトハウスに送ることに、悔しさ以上の感情を隠しえないでいる。

トランプがアメリカ先住民を攻撃しはじめたのは、彼が持つカジノが経営破綻に陥ったときだった。自身が持つカジノを倒産から救おうと、先住民特別居留区の実質的権限を持つ人物への根回しを行なったが、そのほとんどを拒否されたトランプ。「差別された」と訴訟まで起こしたが、結果は見事に敗訴。カリフォルニア州のカフイラ族アグア・カリエンテ・バンドと、フロリダ州のセミノール族を始めとする先住民族を対象として、ときには100万ドル(1億円)もの広告費を投じるなど手段も選ばず、アメリカ先住民を陥れようと躍起になった。

1993年6月13日、トランプは故意にショッキングな発言をすることでリスナーの感情を煽る"ショック・ジョック"として有名なドン・アイムスのラジオ番組で、マシャンタケット・ピクォート族を「インディアンに見えない」と発言。先住民に与えられた権利を巡り、見た目をベースに批判。果ては、ピクォート族がコネチカット州に持つカジノを「組織的犯罪の温床」とまで言っている。そして、インディアン戦争下で数々の民族浄化・先住民虐殺を実行したアメリカ陸軍第7騎兵軍の連隊長ジョージ・カスターに同情する発言までしている。「『先住民にも白人にも平等の権利を』と主張して、結果があれだろ」と、虐殺を繰り返した末に圧倒的な数の先住民たちに包囲されて殺害されたジョージ・カスターに自身を重ね合わせて発言しているのだ。サウスダコタ州の保留区パイン・リッジのスー族ラコタのひとびとは、家にいた女性や子供を含む約300名を皆殺しにされたアメリカ史上最悪にして最大の虐殺の傷痕から、いまだに立ち直れずにいる。そんな大虐殺を指揮し、先住民迫害を象徴するジョージ・カスターに、公然と感情移入する男が次期大統領となる——アメリカ先住民族にとって、これは大きな痛みを伴う現実なのだ。

トランプは、ニューヨーク州キャッツキル山地にカジノを作ろうとしていたアクウェサスネ・モホーク(モヒガン族)を犯罪者として描くネガティブ・キャンペーンを展開した。1億円相当を投じてメディア操作をしたとの疑いで、2000年、トランプは罰金を命じられている。そして2015年には、先住民を「赤」と呼ぶことの是非が問われてきたアメリカで、アメリカンフットボールのチーム名「ワシントン・レッドスキンズ」が人種差別に当たるのではないかという議論に、ジョージ・W・ブッシュ元米大統領の弟であり元フロリダ州知事のジェブ・ブッシュ(John Ellis "Jeb" Bush)とともに「あの名前を気に入っているインディアンもたくさんいる。差別になどあたらない」と発言。2016年に入ってからも、先住民族チェロキー族の血を引いていると自認するエリザベス・ウォーレン米国上院議員を、大統領選の演説で「ポカホンタス」と呼ぶなど、先住民族を面白半分に揶揄したり、感情を傷つける発言をしたりを繰り返している。相当量の時間とエネルギー、そして金を投じてまで先住民族の中傷を繰り返してきた彼は「アンチ先住民族のビジネスマン・政治家トランプ」という立場を明確にした。

口撃と経済的打撃に加え、トランプが打ち出す環境問題関連の政策は、アメリカ先住民コミュニティに直接的打撃を食らわす可能性がある。トランプはこれまで、連邦レベルでの油田・ガス田開発や炭鉱採掘の計画を積極的に打ち出しているのだ。アメリカはこれまでも先住民族に認められた特別居留区での資源開発を「先住民の同意は必要ない」と強硬に進めてきた歴史がある。資産公開レポートのなかで、トランプはスタンディング・ロック特別居留区のスー族を迫害するものとして避難を浴びている地下石油パイプラインのプロジェクト、ダコタ・アクセス・パイプラインを進める企業Energy Transfer Partners社に、少なくとも50万ドル相当の投資をしていることを明らかにしている。このプロジェクトに反対する抗議団体は至って平和的なプロテストを行なったが、州警察と連邦警察は軍レベルの鎮圧に打って出て、果てはスナイパーまで投入して数百人のデモ参加者を逮捕。自らが暮らす土地と、そこに流れる水を守ろうと抗議行動に賛同した高齢者や家族、若者たちまでもが身の危険に晒される事態にまで発展した。

トランプがアメリカ先住民にとって不快にして有害な存在であることは誰の目にも明らかだが、しかしだからといってトランプが大統領になることがアメリカ先住民の敗北を意味するわけではない。2016年の大統領選は、過去の大統領選とは比較にならないほどにアメリカ先住民に焦点が当てられた選挙となった。民主党のバーニー・サンダース候補は党指名がクリントンに決まるまでにアメリカ先住民族リーダー90人と面談をし、これはアメリカ大統領選史上最多の数となった。一方のヒラリー・クリントン候補は先住民ナバホ族に現代も受け継がれているナバホ語でのキャンペーン広告を打ち出すなどした。こうして政治の世界で先住民の存在に大きくスポットライトが当てられ、メディアでも、カナダ政府が先住民の土地を同意なく開発できる法律として可決したBill-C45法案に国民が抗議する『Idle No More』ムーブメントや、スタンディング・ロックの資源開発プロジェクトに抗議する#NoDAPLプロテスト運動などが大きく取り上げられ、アメリカ議会レベルでの政治に大きな影響を与えるほどの勢力になりつつある。女性の参政権が認められた1924年に、先住民を有権者の対象から法的に外したアメリカにおいて、有権者が投票をするための登録(有権者登録)に必要な条件クリアや言語の壁、地理的な障害など、先住民の政治参加には大きな問題が常に邪魔をしてきた。しかしそれらも、ゆっくりと解決に向かっている。

アメリカ先住民族は今後も、ドナルド・トランプのような人間と対峙するため、結束を続けることだろう。過去500年にもわたって続けてきたように、機能しない条約や外部からの迫害にあっても権利を守るため、お互いを支え合っていくのだ。トランプが大統領として指揮をとるこれからの4年間は、彼らにとって試練の時期となるだろう。民族としての権利、そしてアメリカにおける人間としての基本的人権を獲得、もしくは保持するための戦いは続くのだ。2010年、インディアン医療保険改善法案がようやくオバマ大統領によって可決された。先住民、とりわけ先住民族のユースたちは、祖先のため、自分たち自身のため、そして先住民族の血を受け継いでいく未来の世代のため、先住民族ネットワークを構築してきた。スタンディング・ロックのスー族出身ボビ・ジーン・スリー・レッグズ(Bobbi Jean Three Legs)を始めとするリーダーたちが世界中のインディアンとのコネクションを作り、ラコタ族出身のヒップホップ・アーティスト、フランク・ワーン(Frank Waln)など先住民族アーティストたちがメインストリームの音楽ジャンルで政治的発言を歌にするなどして、その基盤は築かれてきている。「歴史は繰り返す」——この格言が真実であるなら、トランプが打ち出すであろうアンチ先住民族の政策は、きっと先住民族たちの組織的抵抗に屈することになるだろう。

Credits


Text Braudie Blais-Billie
Photography Cougar Vigil
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.