Photography Tracey Ng

『Time 'N' Place』:KERO KERO BONITO インタビュー

ロンドンを拠点とするポップバンドKERO KERO BONITOが、驚きに満ちたニューアルバム『Time 'N' Place』をリリース。サウンドの変化は何によるものなのか? 彼らにインタビューを行った。

by Sarah Gooding; translated by Nozomi Otaki
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12 November 2018, 10:58am

Photography Tracey Ng

5年にわたり、中毒性のあるバイリンガルのバブルガム・ポップを制作してきたKERO KERO BONITO。そんな彼らが予想外の変化を遂げた。今年10月1日、ロンドンを拠点とするこのバンドは、突如としてニューアルバム『Time 'N' Place』を発表。驚かせたのは突然のリリースだけではない。彼らのサウンドが進化していたのだ。

この変化を予想していたファンもいるだろう。KERO KERO BONITOが今年リリースしたEPやシングルは、いずれもよりノイジーなスタイルを感じさせた。しかし今、ガス・ロバンとジェイミー・ブルドによる未来的なポップソングと、サラ・ミドリ・ペリーの英語と日本語のラップは、全く新しいエクスペリメンタルなサウンドに変化した。

変化のきっかけとなったのは悲しみだった。2016年、2ndアルバム『Bonito Generation』リリース後、メンバーはそれぞれ大切な人を喪い、ラップトップで陽気な音楽をプレイするだけでは不充分だ、と感じるようになった。そこで彼らはカタルシスを求め、ベースやギターを激しく掻き鳴らし、ドラムを打ち鳴らし始めた。「それぞれつらい体験をしたのがきっかけで、直接叩いたり、直接音を出せる楽器を使いたくなったんです」とロンドンにいるサラは電話インタビューで打ち明けた。「私たちが求めていたのはカオスです」

現在ツアー中のKERO KERO BONITOは、ギターにジェームズ・ローランド、ドラム/シンセにジェニー・ウォルトンを迎え、サウンドだけでなくバンド編成も一新した。10月半ば、ニューヨークのソールドアウト公演では、過去の楽曲はロック調にアレンジされ、新曲と見事に調和していた。「楽器を持ってるバンドでパフォーマンスするのは私個人としては初めてです」とサラ。「ドラマーもうしろにいるし、今まで以上に音楽を感じられます」

『Time 'N' Place』は確かにカオティックなアルバムだが、念入りにコントロールされた作品でもある。リードシングル「Only Acting」の序盤は単純明快なギターポップだが、最後のコーラスで突然サイケデリックでグリッチーなノイズへと突入していく。これは偶然の産物ではない。ガスによれば、『Bonito Generation』のポップな楽曲群を書き終えたあと、彼らは新たな試みにチャレンジしたくなったという。「大抵のバンドは『じゃあコーラスはこうしよう』と適当に組み立てて曲づくりをしてると思います。でも、僕らはただ『思いっきり楽しんで好き放題やろう!』って思ったんです」

『Time 'N' Place』の驚きの瞬間は、これだけではない。最後のトラック「Rest Stop」は、唐突に終わりを迎える。サラが最後のひと言をいう前に、歌声が途切れてしまうのだ。ガスによれば、この曲は、成長、そして立ち止まり人生を振り返る瞬間を表現しているという。「みんなこういうものに合理的な意味とかストーリーを求めますよね。でも、僕はこの終わりかたがクールだと思ったんです。ストーリーなんてない、ただのゴチャゴチャ。人生ってそんなものですよね。とりとめのない物事の寄せ集めで、不安なときも順調なときもあるけれど、そこに本質的な〈意味〉なんてないのかもしれない」

『Time 'N' Place』リリース前の悲しい体験によって、KERO KERO BONITOのメンバーは、彼ら自身についてだけでなく、これまでの彼らについても深く考えるようになった。そこから生まれたのが、今回のアルバムのジャケットだ。キャンディの包み紙、靴ひも、チェーンなどのコラージュは、見たところティーンエイジャーのベッドルームの床のようだ。しかし、これはタイムカプセルらしい。ガスがいうところの「昔ながらのちょっと悲しい慣習」だ。同アルバム収録曲「Dear Future Self」でも歌われている。

「物理的なモノや、より広い意味での〈フィジカリティ(物質性、身体性)〉が、このアルバムの大きなテーマです」とガスは、メンバーが大切な人を亡くしたこと、そしてデジタル化が進む日常生活においてフィジカリティが失われつつある現状に言及した。「現代の生活の基盤となっている、目に見えないヴァーチャル空間の対極にあるものです。僕らは、物理的な空間や物理的なモノ、つまりフィジカリティを求めてるんだと思う」

よりシンプルな生活への憧れが、郊外で過ごした彼ら自身の幼年時代を振り返ることにつながった。そのため、ガスは『Time 'N' Place』を「とても郊外的な」アルバムと呼んでいる。「僕らはどこから来て、今どこにいるのか。それと僕らの関わりを表現したアルバムです。幼い頃の僕らにとって、郊外のサウンドといえばギターミュージックでした。MY BLOODY VALENTINE、LATE OF THE PIER、CSS…。小さなガレージバンドで彼らの曲をコピーしたり。でも、ギターミュージックはもう郊外のサウンドじゃない」とガス。「今の郊外のサウンドといえばトラップかな。僕にとってのギターミュージックは、失われた郊外のサウンドの象徴なんです」

KERO KERO BONITOは、常に私たちが思いもよらない方向に進んできた。現在彼らは、バンド躍進の一翼を担ったサラの日本語ラップや歌詞をしばらく封印している。『Time ‘N’ Place』では、サラは英語だけで歌った。「僕らの方向性が少し変わったことを伝えたかった。固定的なイメージを避けたくて。でも、完全にやめたわけではありません」とガスは、彼らがバイリンガル・ポップを捨て去ったわけではないことを明かした。「いつかまたやりますよ」

ただひとつ変わらないのは、KERO KERO BONITOのポジティビティだ。『Time 'N' Place』にはどこか哀愁が漂うが、彼らは最初のシングル「Flamingo」以来ずっと、遊び心に溢れた前向きなヴァイブスを保ち続けている。「ポジティビティは私たち自身から生まれるんだと思います」とサラ。「つらい出来事もありますが、私たちはそれを経験したからこそ、光の美しさを知っている。闇を知ったからこそ、人生における光を大切にできるんです」。今の世界に必要なのは、まさにこのポジティビティだ。

This article originally appeared on i-D US.

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