From Validated, courtesy of Val Garland

ヴァル・ガーランドはいかにして最も人気のメイクアップアーティストになったか

アレキサンダー・マックイーンやニック・ナイトなど最重要クリエイターたちと働き、常にラブコールが止まないメイクアップアーティスト、ヴァル・ガーランド。彼女にその生い立ちや有益だった先輩からのアドバイス、SNSのビューティトレンドについて聞いた。

by Shannon Peter; translated by Ai Nakayama
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20 June 2019, 5:11am

From Validated, courtesy of Val Garland

ヴァル・ガーランドは現代における最重要メイクアップアーティストのひとりとして、25年間もの あいだ、トップクリエイターたちとともに時代を象徴するイメージをつくりあげてきた。その斬新な芸術性は、ニック・ナイト、コリン・デイ、マイルズ・オルドリッジをはじめとする著名な写真家たちのカメラに収められ、i-Dや『The Face』など影響力を誇るファッション誌を飾った。またジョン・ガリアーノ、ガレス・ピュー、フィービー・ファイロ御用達のメイクアップアーティストとしても活躍し、アレキサンダー・マックイーンとともに働いた期間もある。彼女といっしょに仕事をしたことがない大物クリエイターを探すほうが困難だ。

そしてついに2018年、ひとの顔をキャンバスとして描き続け、世界的な名声を獲得し、キャリア25年を迎えた彼女が、自身のすばらしいキャリアを振り返ることにした。そうして掘り起こされたアーカイブが結実したのが作品集『Validated』。ガーランドの代表的作品群を通して、彼女のキャリアを解説してくれる1冊だ。この20年のメイクの進化が並べられただけではなくガーランド自身の逸話によって語られており、80年代から90年代、そしてゼロ年代のファッションシーンの鮮やかな記録となっている。

2018年10月、制作に2年を費やした本書が満を持して出版。メイクアップアーティストの最高峰に君臨する彼女が、ビューティ業界でキャリアを築いた方法、SNSが牽引する今の時代の空気を読む方法を明かす。

——幼いころは、どうクリエイティビティを発揮していましたか?

子どものころは、ひたすら線路で遊んでましたね。想像力が豊かだったので、棒切れや石なんかを使って、おもしろい物語をつくったり。あとは宝探し。でもお金なんてないので、道で見つけた小石とかビンの王冠とか、そういうモノを宝物にしてました。

もう少し大きくなると、音楽ばっかり聴いてました。もうどっぷりハマって、ミュージシャンや歌手が私のアイコンになりました。80年代でしたから、パンクも最盛期を過ぎ、時代はニュー・ロマンティック。みんな派手なメイクをしてましたね。私が好きだったのは、トーヤ・ウィルコックス、SIOUXSIE AND THE BANSHEES、デビー・ハリー、リーナ・ラヴィッチ。別にモテたいとか、セクシーなイケてる見た目になりたいとか、そういう気持ちはなくて、とにかく目立ちたい、自分らしく輝きたい、そういうふうに思ってたんです。「うわあ、頭から爪先まで、新聞紙で覆ってるあのひと誰だ? 顔まで覆ってる? どんなひとなんだろ?」っていう反応がほしかった。そうやって、メイクへの愛が芽吹きました。

——最初はヘア専門でしたが、途中でメイクへ転向します。そのきっかけは?

〈Garland and Garland(ガーランドが元夫のテリー・ガーランドと経営していたサロン)〉をやってたとき、自分たち開催のセミナーやショーで、メイクを手がけてたんです。もともと自分のメイクも自分でやってたし。撮影のヘアスタイリングなど、他のひとたちといっしょに仕事をするようになってからも、メイクやったら?ってフォトグラファーたちにずっと言われてて。メイク業界に足を踏み入れることになるとは想像もしてなかったんですが、成り行きですね。ヘアに加えてメイクも始めるようになったのはシドニーでのこと。その後、当時の夫と離婚して英国に戻ることになって、それから決意したんです。もうヘアはやらない、メイクアップアーティストになる、って。

驚きの話があるんですけど、当時いっしょに仕事をしてたスタイリストのアシスタントを勤めていた友人に、私の送別会でその決意を伝えたんです。すると彼女は、実は自分もシドニーを離れてロサンゼルスに行く、そこで女優になる、と夢を語ってて。それから15年経ったある日、エージェントに、ある女優の記者会見用のメイクアップの依頼が来ている、といわれました。基本的にそういう仕事は断ってるんですけど、「誰のメイク?」と尋ねるとナオミ・ワッツだ、と。そう、件の友人です。コヴェント・ガーデン・ホテルへ着いた私を、彼女はオーストラリア風の「G’day mate」という挨拶で迎えてくれました。私も同じ挨拶を返したときには、彼女の夢、そして私の夢がついに叶ったんだな、と感慨深かったです。

——ビューティ業界でのキャリアにおいて、自分の転機だったと思う出来事は?

写真家のニック・ナイトやデザイナーのアレキサンダー・マックイーンに紹介してもらったときですかね。ブレイクって、スイッチが入ったみたいにいきなり爆発するんじゃなくて、少しずつ実現していくんです。自分と仕事上のパートナー、仲間たちがいっしょになって起こすものなんでしょうね。『Evening Standard』や『Observer』でいっしょに仕事をしていたカール・プルーカをはじめとする仲間たちが、当時コリン・デイやケイティ・イングランドと働いてて、そこからアレキサンダー・マックイーンに紹介してもらったんです。そうやって物語が始まりました。

——あなたは現代における数々の最重要イメージメーカーたちとコラボしてきましたが、今、撮影をするとしたら、チームのメンバーに誰を選びますか? 時代は無視してかまいません。

過去と現代を混ぜていいなら、アンディ・ウォーホルでしょう。あとリー・バウリーも。撮影はニック・ナイトかな。ヘアスタイリングはもちろんサム・マックナイト。でもふたりいてもいいかも。そしたらもうひとりはアンソニー・ターナーですね。大好きだから。いろんなひとたちが集まって、多様で歴史を変えるような時間になるでしょうね。ケイティ・イングランドも呼びます。T. REX、マイケル・ハッチェンスも絶対。それにリーナ・ラヴィッチ、アレキサンダー・マックイーン、ジョン・ガリアーノ、ヴィヴィアン・ウエストウッド。キャリアの絶頂期にあるみんなが集まる別次元。魔法のようなすごい時間になるはずです。

——業界の仲間たちから受けた、いちばん有益だったアドバイスは?

おもしろみのないアドバイスですが、「自分の意見をもて、だけどそれに固執するな」。もちろん自分のメッセージは伝えるべきだけど、それが周りに受け入れられない場合もありますから。

——メイクアップアーティストが誤解されがちなことは?

イケてる職業だってこと。一日中シャンパンなんか飲みながらゆっくり座って、赤いリップを乗せたり、目にカジャルを引いたり。そう思われるんですけど違います。ほぼ床の上です。あるいは山の上のこともありますね。いちど、モンブランの山頂での撮影で、犬ぞりに引かれて撮影場所に向かったことがありました。凍えそうに寒いなか、登山家みたいにロープでみんなの身体をつないで。もし誰かが落ちても引っ張り上げられるようにです。メイクアップアーティストは楽じゃありません。長時間働かなきゃいけないし、タフじゃないといけない。アシスタントがいなかったら、あるいは誰かが助けてくれなかったら、身動きもとれませんせん。

——メイクアップという仕事では、常に新鮮な作品を生み出さなければなりません。そのインスピレーションはどこから?

ビューティ業界でどんな業務に就いていようと、クリエイティブな仕事に携わる者は、とにかく常にいろんなことにアンテナを張るべきですね。たとえばそれは1本のセロリかもしれないし、何らかの質感や生地かもしれない。自然からインスピレーションを得ることもあれば、金物店で得ることもある。まず、自分自身のことを考えるべきです。他人の行動を見るのではなく。自分がおもしろい、新しい、と思うものをやってみる。いちばん大事なのは、時代の風をつかむことです。

——SNSがあなたの仕事に及ぼす影響は?

メイクへのSNSの影響は大きいですね。今や、SNSで存在感を発揮しないといけない。重要なのは、自分がどうなりたいか、どうみられたいかをはっきりさせること。ただ投稿したいがために、内容のないメイクフォトを投稿し続けてもしょうがない。私は読書や芸術鑑賞が好きなので、自分の写真にもアート的なエッジを加えるようにしています。たとえばファッションウィーク中なら、ショーの写真を毎回投稿する必要はない。おもしろいと思うものだけ、あるいは異なる視点を提供できる場合のみ公開すればいいんです。ノーメイクで眉毛だけしっかり描いたモデルの写真を大量に撮ったとしても、これ、エディターたちがおもしろがってくれるかな?と考えてみる。多分おもしろがってくれないはず。

Instagramには、私よりもフォロワーが数千人以上多いインスタ・メイクアップアーティストと呼ぶべきひとたちがたくさんいますよね。それはすばらしいと思います。でも、私たちはそれとは違うんです。メイクへの愛をもちながら自分自身にメイクを施す彼らと、他人にメイクするプロのメイクアップアーティストには大きな隔たりがある。プロなら、他人のパーソナルスペースに侵入せずに誰かに触れるすべを習得していないといけない。まったく違う技術です。もちろん両者ともにいろんな可能性はあるはずですし、私もインスタメイクの芸術性は好ましく思っています。ただ、インスタのアイブロウメイクとか、カットクリース、流行りのライナー、流行りのリップなど、女性はみんな同じことをしなくては、みたいな風潮にはちょっと飽き飽きです。私は、それぞれが個性を発揮している姿を見たい。大胆にならないと。

——ハッシュタグ〈VALidated〉とは?

〈#Validated〉は、数年前に始めたハッシュタグです。ショーのバックステージで、多くのアーティストたちがテープで商品名を隠して「これが魔法のクリームなんですけど、私の秘密、ということで」と隠している様子を目にしてきました。私は、特に年をとってきてから、これまで私が与えてもらってきたものを返していきたいという気持ちが大きくなってるんです。だから自分が使っている商品をみんなに公開しています。

ある日、Laura Mercierのコンシーラーの写真をInstagramに載せて、良いコンシーラーだから、メイクボックスに入れてるよ、とコメントしたんです。そのときに使った表現が、「I validate it(私のお墨付き)」。その次の日に、マリアン・ニューマンと仕事をしているとき、彼女が〈お墨付き〉って良いですね、といってくれて。それからその言葉をよく使うようになったんです。もちろんそのときは、こんなふうにひとつのプロジェクトみたいになるとは思っていなかったけど。それから1年くらい経ったとき、サム・マックナイトが、美容エディターたちは私の〈お墨付き〉商品を必ずチェックするらしい、と教えてくれたんです。みんな、私がしょうもないアイテムをオススメするはずない、ってわかってるから。そうやって、〈validated〉テープをバックステージで使うようになりました。私のチームで活躍してくれたメイクアップアーティストには〈validated〉バッジを進呈して。そうして必然的に、本書のタイトルになりました。

——あなたが注目する、業界を変える可能性のある若手メイクアップアーティストは?

イサマヤ・フレンチのメイクは好きですね。クールだし、彼女のメイクへのアプローチも良いと思う。ローレン・パーソンズもすばらしいですし、ローラ・ドミニクにも注目しています。私の初めてのアシスタントであるジョーイ・チョイも、これからすばらしいキャリアを築いていくでしょう。美しいメイクをコピーするのは簡単。この世には、コピーをするひとと、真に先見の明があるひとがいますが、ジョーイはまさに後者。色彩感覚も卓越していますし、彼女は既に、自分らしさを発揮しながらすばらしい作品を生み出しています。

——現在において、〈美〉を体現しているひとやモノとは。

今は〈美〉にも様々なレベルがありますよね。ケイト・モスの娘、ライラなんて最高に美しいと思いますし、BBC Oneの『Strictly Come Dancing』で司会を務めるステイシー・ドーリーも自然体ですごく素敵。ヘレン・ミレンの美しさも大好きです。私にとって美しさとは、自信のある女性のこと。自分らしさに自信をもっている女性です。美とはパーソナリティに根ざしたもの。気持ち良く過ごしていられれば、美しくみえる。そういうものです。

——最後に、今後の予定について教えてください。

今は本書を携えたツアーが控えています。中国、ロシアにも行きますよ。それが終われば、このあいだ撮影したテレビ番組が控えています。おもしろい番組です。2019年春に公開予定ですが、今は何もいえないんです。今後の予定はそんなところですね。そこから先はどうなるか、それは誰にもわかりません。

This article originally appeared on i-D UK.