Still from Billie Eilish, 'when the party's over'

音楽ジャンルを殺したZ世代:ビリー・アイリッシュからLil Nas Xまで

ストリーミングサービスの興隆と、Lil Nas Xやビリー・アイリッシュをはじめとするZ世代が、〈ラップ〉〈カントリー〉〈ポップス〉という既存の音楽ジャンルの終焉を告げようとしている。私たちはこのまま、ポスト・ジャンル分け時代へと突入するのだろうか?

by Megan Evershed; translated by Ai Nakayama
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13 May 2019, 8:21am

Still from Billie Eilish, 'when the party's over'

Lil Nas Xの「Old Town Road」は、トラップ、ラップ、そしてカントリーとカテゴライズされている(〈カントリーさ〉が不充分としてビルボードのカントリーチャートからは外されたが)。確かにこの曲は、上記のジャンルの要素がすべて詰まっている。しかし、「Old Town Road」はどのジャンルにも当てはまらない、という言説も、同じくらい正しい。

Lil Nas XはZ世代のアーティストであり、Z世代はカテゴライズに興味はない。ジェンダーもセクシュアリティも流動的なもの、という意識は、まだ全員に受け入れられてはいないものの、間違いなく一般化してきている。そして古いジェンダーの定義だけでなく、音楽の定義も打ち壊しているのがZ世代だ。彼らは流動的で、カテゴライズが困難なサウンドを楽しんでいる。

もちろんZ世代以前にも、ジャンルを自由に飛び越えるアーティストたちはいた。ミレニアル世代だってそうだ。彼らはジャンルを横断しながらも、メインストリームから逸脱しないサウンドを生み出していた。ただ、サウンドが別物に変わってもなお、彼らはまだ伝統的なジャンル分けのなかに留まっていた。たとえばカントリーからポップへと舵を切ったテイラー・スウィフト。カントリーもポップも、長い歴史をもち、明確な定義づけがされたサウンドであるため、彼女がジャンルを〈超越した〉とはいいがたい。アルバムごとにジャンルは違っていたものの、そのジャンルを問われれば容易に指摘できた。

Z世代のアーティストたちは違う。彼らは、旧来のジャンル分けが追いつかないところを走っている。その理由は何か?

新世代のハイブリッドサウンドを語るときに無視できないのは、ストリーミングサービスの興隆だ。ストリーミングは音楽の消費のされかたを完全に更新した。Spotifyをはじめとするプラットフォームでは、リスナーは特定のアルバムやジャンルに縛られない。私たちは好きな曲を選んで、プレイリストに加える。そのプレイリストは非常に多様だ。Z世代のガールズメディアカンパニー〈Sweety High〉が発表した2018年の報告書によれば、Z世代の約97%の女性たちが「最低5つの音楽ジャンルを日常的に聴いている」そうだ。このように音楽の好みが各人各様になったことが、音楽制作にも影響を及ぼしている。音楽の作り手自身がより幅広いジャンルを聴くようになり、様々なサウンドを融合させることが、以前よりも普通になってきたのだ。

ストリーミングサービスのプラットフォームにおける音楽の提示方法も見逃せない。Spotifyは、基本的にジャンルごとに分けてはいるが、ムード(〈憂鬱〉)やアクティビティ(〈友だちとのディナー〉)をテーマに掲げたプレイリストなど、より流動的なカテゴライズ方法も採用している。これらのプレイリストは、当然ジャンルレスだ。たとえば〈クリーミー〉と名付けられたプレイリストは、フューチャーベースだけ、エモいダンスミュージックだけ、あるいはインディ的なベッドルームミュージックだけ、と限定されておらず、それらすべてのジャンルから構成されている。Spotifyと育ってきたZ世代は、そういうゆるいカテゴライズの仕方に慣れている。そして、ジャンルだけではなくムードや状況に対応しているストリーミングサービスに頼ることで、私たちの音楽のとらえかたも変化している。Z世代たちが音楽をつくるとき、彼らの音楽がジャンルを無視したものになるのも当然だし、自分たちの音楽を宣伝するためにSNSを使うのも当然なのだ。

そう、Z世代は、史上もっともSNSを利用している世代だ。彼らは人気コンテンツに精通し、フォロワーを増やすためのSNSの使いかたにも慣れている。たとえばLil Nas XのTwitterアカウントは、「Old Town Road」がバズる前からすでに人気を博していたし、同曲がバズったのも、ふたりのティーンが恋に落ちるストーリーを描いた映像のBGMとしてTikTokで使われたのがきっかけだった。この曲の魅力は、その時代を超越したセンス。今やこの曲は、ひとつのミームからシリアスなムーブメントへとかたちを変え、現在SNSを席巻している〈イーハー・アジェンダ(Yeehaw Agenda: 黒人がカウボーイスタイルに装うこと)〉のアンセムとなっているほどだ。Lil Nas Xは間違いなく、バズるか否かを見極める目を持っているし、SNSにも精通している。自分の音楽を公開するときのオンラインプラットフォームの使いかたも知っていた。4月10日にはTwitterで「俺はマーケティングの天才って噂されてるけどマジそれな」とつぶやいている。

SNSを主要なプラットフォームとして駆使しているのは彼だけではない。ビリー・アイリッシュもそうだ。2017年の『Harper's Bazaar』のインタビューで、彼女はこう答えている。「SNSには感謝してる。SNSがなかったら私は何者でもない」。彼女はSNSを使ってファンと交流し、MVを発表し、ツアーを宣伝している。SNSは、彼らのようなZ世代の楽曲制作にも影響を与えている。ネット上では、自分と同じような音楽の趣味や感性をもったひとたちと出会える。それは自分の励みにもなるが、いっぽうで、他のひとたちのなかに埋もれてしまっているような感覚も覚える。SNS上の有名人として、そしてミュージシャンとして、自分だけの空間を切り拓くことが重要なのだ。ジャンルをかけあわせて、これまでになかったサウンドを生み出すことが、ミュージシャンとしての個性へとつながる。

また、SNSが様々な新しい音楽への扉を開いていることで、非英語圏の音楽がかつてないほどに人気を博している。スペイン語作品を発表しているロザリア(Rosalía)やバッド・バニーは今年のコーチェラ・フェスティバルに出演したし、K-POPグループのBLACKPINKやBTSは世界的に大人気だ。Z世代のリスナーは、様々な国のサウンドを詰め込んだプレイリストを耳にしている。なので彼らは音楽をつくるときにも、世界各地のサウンドを混ぜ込むことに抵抗がなく、旧来的な音楽ジャンルの壁だけでなく国境までも飛び越えてしまう。23歳のシンガー、ソフィア・レイエスが最近リリースした「R.I.P.」は、そのトレンドを完璧に体現する楽曲だ。Pandora Musicは本作を分析し、カリビアン、アフロラテン、ラテンを含む8つのジャンルに分解した。もっとも色濃いジャンル(ソウル)でも、全体の16%。グローバル化していく世界を、Z世代が自らの音楽にどう反映させているか。そのひとつの答えが、多国籍な「R.I.P.」という曲に表れている。

さらに忘れてはならないのは、Z世代は楽曲制作や公開が簡単にできるアプリやプラットフォームとともに育ってきたということ。楽曲制作用ソフトは、今や業界で名を馳せているミュージシャンだけのものではない。誰でもダウンロードできるビートメイキングアプリがあるし、楽曲をつくったあとはSoundCloudにアップロードすればいい。ビリー・アイリッシュはまさにこうして音楽活動をしてきた。彼女が兄とともにジャンルに縛られない曲をつくりはじめたのは13歳のころ。2015年、「Ocean Eyes」という曲をフリーダウンロード可能なリンクとともにSoundCloudで公開する。本作は、それから数時間のあいだに注目を集めることになった。そして音楽紹介サイトの〈Hillydilly〉が本作を紹介するにいたり、ビリー本人の言を借りれば、「とにかくどんどん広まっていった」。

ビリーの人気は、音楽業界にコネがなくても楽曲制作や発表は可能だということを証明している。もちろん、いまだに音楽業界の力が強いことは否定できない。しかし今は、才能と、1台のパソコンと、SoundCloudのアカウントさえあれば、ファンベースを拡大することができる時代だ。

楽曲制作プロセスが簡易化し、業界のお偉いさんに従う必要もなくなったということは、既存の音楽ジャンルにこだわる理由がないということ。サウンドがおもしろければ、業界のほうからアプローチがある。たとえば23歳のドミニク・ファイクは、警察に自宅監禁されているあいだにインディアーティストとして制作した音楽の力が評価され、コロムビア・レコードと推定400万ドル(約4億円)の契約を結んだ。彼が6曲入りのデモEPをネットに公開してから、大手レコード会社のあいだで彼をめぐる入札競争が繰り広げられたそうだ。ファイクのサウンドは、ギターミュージック、ベッドルームミュージック、ヒップホップの混淆。様々なジャンルをひとまとめにする音楽をつくるZ世代を、まさに象徴する存在だ。

ストリーミングサービス、SNS、容易になった楽曲制作。それらをきっかけに、Z世代は既存の音楽ジャンルを拒絶することになったが、さらに、彼らの〈成功〉の定義も変わりつつある。新世代のスターやリスナーたちは、前世代に比べてチャートやセールスにあまり関心を払っていない。なぜなら彼らが聴く音楽は、既存のカテゴリーに当てはまらないから。前述の「Old Town Road」のチャートアクションを発端に、ジャンルにまつわる議論が活発化したと同時に、ビルボードチャートという指標が今の時代にも有効なのかという問題もおのずと浮上してきた。

ジャンル分けをベースとした音楽チャートを発表しているビルボードとのインタビューで、ビリーはこう語っていた。「私はジャンルっていう考えかたは嫌い。曲を何らかのカテゴリーにはめるべきじゃないと思う」。ビリーのようなZ世代のアーティストたちが、このまま分類不可能なヒット曲を生み出し続けていけば、厳格なジャンル分けは過去の遺物となっていくだろう。10年もすれば、ジャンルは何の意味ももたなくなるかもしれない。Z世代のアーティストたちは、そんな方向へ進んでいる。そろそろ音楽業界も、彼らのあとを追うべきだろう。

This article originally appeared on i-D UK.


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