ホスト文化と女性の欲望

1960年代に誕生したホストクラブ。男性が女性客を接客する日本のその独特な文化に関心を持ったのは、いま最も注目を集める英国の写真家ハーリー・ウィアーだった。彼女はそこに何を見たのか?

by Kazumi Asamura Hayashi; photos by Harley Weir; translated by Ai Nakayama
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05 July 2019, 5:03am

歌舞伎町は、新宿区にある街の町名で、国際色豊かな飲食店やキャバクラ、ホストクラブなどが無数に立ち並ぶ歓楽街である。今でこそ外国人旅行客が訪れる観光スポットとなっているゴールデン街も、かつては小説家や映画監督をはじめとするクリエイティブたちが集う文化の発信地であった。たとえば写真家の森山大道もこの街に魅了されたひとりで、現在進行形でこの街を撮り続けている。つい先日も彼の撮影に立ち会ったが、まるで自分の庭のように熟知した歌舞伎町を軽妙な足どりですり抜け、撮影をこなしていた。そうした多くのアーティストや作家がこの街からインスパイアを受けて、多数の作品を生み出してきた。「歌舞伎町は大衆文化の街です。そして最新の流行からはちょっとずれた歌舞伎町らしい文化がここにはあるんです」と語ってくれたのは、歌舞伎町にホストクラブを6軒経営するSmappa!Groupの会長、手塚マキだ。今回のハーリー・ウィアーの撮影は彼の協力のもと行われた。歌舞伎町に魅了され、その地で発達したホスト文化に興味を持ったハーリーに、今回の撮影に至るまでの経緯を聞いた。

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——この撮影をするきっかけは何だったのか教えてください。

女性のセクシュアリティというものをテーマにしたかったんです。女性として自分が何を欲望するか。それって、男性によってつくられた女性像、男性が求め、想像する 女性のイメージばかりが溢れる社会ではなかなか見えてこない。世の中には、セクシャライズされた女性像が多い一方、私が若い頃は、セクシャライズされた男性を目にする機会ってあまりなかったんです。特に女性にとっては。そういう考えを深めるためのスタート地点として、ホストクラブはまさに適した場所だと思いました。西洋では、女性のためのそういうサービスはありませんから。

——今回の撮影でも最もエキサイティングだったことは?

私はひとの顔が好きですし、人間っていいな、と思うんです。今回の撮影で出会ったホストたちは、みんな際立ったキャラクターをもっていましたし、彼らの容姿やふるまいには、西洋的な価値観から見ると、いかにもステレオタイプ的な女性らしさがあるんですよね。それもおもしろかったです。この広い世界では、どういうタイプの人に欲望を覚えるかはみんなそれぞれ異なるし、各人のための場所があって然るべき。そう伝えることに意義があると思っています。人間には正しいも間違っているもない。みんなそれぞれ美しいんです。

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——実際にホストクラブに行ってみてどうでしたか?

初めてひとりの客としてホストクラブに行ったときは最高に楽しかったですね。どうして人はホスト通いをするのか、その理由がわかりました。ホストたちは、お客さんに〈自分は特別なんだ〉と思わせてくれるし、しかもセックスを前提としないでイチャイチャを楽しめる。ただ、お客さんとしてもホストとしても、あまりのめり込みすぎるとストレスになるし、危険だな、とは感じました。

——あなたは男性が化粧を施して女性のお客さんを接客することについて、イギリスにはない、と述べていました。ある意味日本独自の業界なんでしょうね。

男性がそういう場所に行くのはよくあることなので、女性にも同じような場所があるというのはシンプルにフェアだな、と感じます。健全なのか不健全なのかと訊かれるとわかりませんね。両方かも。

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——肉体美、彫刻、壁。その対象はさまざまですが、あなたの写真はクローズアップが多く、とてもフェティッシュです。今回の撮影でも色々な場面を撮影したうえで、最終的にクローズアップの写真を選びました。その理由を教えてください。

やっぱり、ホスト自身や彼らの多様な人柄にフォーカスしたいなと思ったんです。彼らにとって容姿はとても大事なんですよね。そのためにクローズアップした写真を選びました。

——この撮影中にも、歌舞伎町で色々な場面に遭遇し、それが新しいプロジェクトに 発展したこともありました。街の印象はいかがでした?

東京は私にとってとても刺激的な街です。すべての街角で映画が撮れてしまうんじゃないか、というくらい。街を歩きながらホストたちを撮影しているときにも、巨体ですごく目を惹く女の子ふたりを目にして。彼女たちは、お客さんの前で食べることでお金をもらっているそうなんです。その出会いが、メイクアップアーティストのトーマス・ デクライヴァー(Thomas de Kluyver)との撮影のインスピレーションになりました。

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——写真家にとって最も重要だと思うことは何ですか?

何か絶対的なものがひとつあるわけじゃなく、とにかく自分が気になる対象に誠実であることですかね。あと人物の写真を撮るときには、撮影とはコラボレーションで あること、そして相手への敬意を忘れないことが大切です。

——インスピレーションの源はどこにありますか?

私の人生にかかわったすべての人とモノ。

——写真家になっていなかったら、何をしていたと思いますか?

チャリティーや人のためになるような仕事ですかね。実は今も、写真と融合して実現しようとしているんです。だからもうすでに始めている、と言えるかも。将来的には、そういう活動にもっと時間を割きたいです。

——本号のテーマは「ヒーロー」です。あなたにとってのヒーローは誰ですか?

両親です。私を愛し、自由にさせてくれるから。

——子どもの頃にロールモデルとなった人物がいたら教えてください。

幸か不幸か、ガールズグループのスパイス・ガールズだったんです。当時はすごく影響力があったけど、現代のスタンダードに照らし合わせてもなお若い女の子たちにとって最高のロールモデルか、といわれたら疑問ですね……。

この記事は『i-D Japan No.7』ヒーロー号から転載しました。

Credit


PHOTOGRAPHY HARLEY WEIR
TEXT KAZUMI ASAMURA HAYASHI
TRANSLATION AI NAKAYAMA

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