Photography Kodai Ikemitsu

シュテファニー・ハインツェはメタモルフォーゼする

今年4月に開催されたベルリン<Capitain Petzel>での個展「Odd Glove」を終えて、束の間のバケーションで来日していたシュテファニー・ハインツェに話を聞いた。

by YOSHIKO KURATA; photos by Kodai Ikemitsu
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05 July 2019, 8:57am

Photography Kodai Ikemitsu

ロンドン<Saatchi Gallery>や今は無きNY<Mary Boone>でのグループ展、そして今年11月にはジョージア<LC QUEISSER>での個展と、ベルリンを拠点に活躍する若き画家シュテファニー・ハインツェ(Stefanie Heinze)は世界を股に掛け、トランスフォームする瞬間を描き続けている。

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彼女の絵を観ていると、さまざまな断片や登場人物がイマジネーションによってランダム紡ぎ合わされ、描かれたモチーフたちや色彩がひとつのキャンバスの上をアメーバのように自由に動き出す。「アンバランスの繰り返しが新しいバランスを生み出すのよ」と作者本人でさえも完成した際には驚くことがあると笑いながら話す。

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新生児も夢を見るらしいが、その原理は何歳になっても共通し、”一日の自分の情報整理”を行なっているのだそうだ。あり得ないシチュエーションでついさっき一緒に遊んでいた友だちが登場したり、或いはランダムに複数の夢が走馬灯のように浮かんでは消える、目覚めた時にははっきりと覚えていないけれどなんだか幸せだった、というような感覚だけが残る時がある。いずれにせよ私たち生き物には「脳」という、現実を判断し解釈する機能を司る、奇想天外な記憶の断片をひとつのストーリーに仕立て上げる不思議なシステムが存在する。

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ベルリン<Capitain Petzel>での個展では、大聖堂のように広く天井高の2階建てのスペースに、2015〜2019年にかけて制作したドローイング6点と新作の大型キャンバス8点が並んだ。天高なスペースには、キャンバスがランダムかつ剥き出しに展示してあり、「Odd Glove」という展示タイトル通り、会場奥のキャンバスに涙を流し深海を潜るグローブのようなモチーフが描かれている一点が目を引く。一方、人間の皮膚を連想させるような明るめのベージュがネオンカラーのオレンジやブルーといった色彩とともに重力に向かって流れ落ちながらも不思議とそこには重力を感じさせないかのごとく軽さがある。「なんのモチーフに見えた?」と彼女の作品を見た人々に聞けば、きっと十人十色な回答が返ってくるだろう。あるメディアでは、彼女が描くグローブのようなモチーフについて、男性器/キッチンに立つ典型的な女性像、 とその両方を連想させうると解説していたが、本人は打って変わって「マルチミーニングを持っているように見えるけれど、無意識にそのシェイプが別の何かにトランスフォームする、その時に芽生える瞬間こそがエキサイティングなの。時に我に返ったように、意味のあるトピックについて考え始めることもあるけど、モノローグと似て最終的に感覚で消したペインティングの偶然性によって絶妙なラインやカラーが生まれるのよ」と無邪気に話す。

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彼女の絵に描かれる"意識"を持ったシェイプは、今にも動き出しそうなカートゥーンのキャラクターのように個性的かつ愛らしい。5歳の頃、警察官である父がコミックを模した絵を机の片隅で落書きしていた光景から、自分も絵を描き始めたという。「描き始めたら、まるでユニークで楽しい別世界に行けるような感覚を覚えた」その後はアートスクールで学び、コミック的な絵に執着するわけでなく、写実主義的な絵画や様々な手法を試してみるものの、彼女の心が今ほど満たされることはなかったという。「2012年頃、ついに自分のペインティングにイライラしはじめちゃって、そこからもっと思い切ってふざけてみよう、と覚悟を決めたの。MUJIブックにどんどん自由に絵を描き始めて、たとえ、レオナルド・ダ・ヴィンチのような完璧な円が描けていなくたって、自分の知らなかったものに出会える瞬間がどんどん増えていった」心理学やパフォーマンス、コミックが持つ、ユーモアとダークネスを併せ持つものに刺激を受ける彼女は、自身の手法でも、フリースタイルダンスのように自由なトランスフォームをストロークし続ける。「学生の頃、ドイツの男性アーティストの作品は大きなトピックで、美術史における影響も強く、彼らの多くは自己主張が強く完璧なイメージを探求していたのかもしれないし、そういった歴史的背景に対して疑問を持っていたことで、間接的に影響を受けているとも言えるのかもしれないけれど、そういった彼らのアプローチとは異なる新たな手法で創作をしたいと考えているの」。

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色つけの段階でもアイロニカルにもセクシュアルにも、そしてバカらしくも意味が取れるような抽象性を残しつつも、そこに独自のエッセンスを入れていく。「最後にはちりちりばらばらのモチーフや色彩を対面させて、バランスを保つの。常に自分に正直であり続けることでコントロールできるのよ」明るい/暗い色、アグリー/可愛いモチーフ、重力と軽やかさ、彼女が司るすべての相反する関係性は決して「中間」はなく、その「間」を行き来できるように、観賞者に想像の余白を与える。11月からはジョージアのギャラリー「LC QUEISSER」で個展を開催、今後の動向については、インスタグラムからチェックしてほしい。

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Stefanie Heinze
http://piselipi.blogspot.com
https://www.instagram.com/st.heinze/

LC QUEISSER
https://www.lc-queisser.com

Pippy Houldsworth Gallery
http://www.houldsworth.co.uk/


Credits

Photography Kodai Ikemitsu
Interview and Text Yoshiko Kurata
Coordination Yusuke Nakano
Special Thanks Yuka Kashihara, Pippy Houldsworth Gallery