#MeToo運動を疑っていた私

残念ながら、今のところ#MeTooは働く女性の生活に目に見える効果を生み出していないどころか、まったくの逆効果にすら感じられる。ただ、私は、これからも何も変わらない、と思っているわけではない。まだ何も起こっていないだけだ。

by Otegha Uwagba
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25 October 2018, 10:37am

This article originally appeared in i-D's The Earthwise Issue, no. 353, Fall 2018.

私はオテガ。かつて私は〈#MeToo〉運動に懐疑的だった。

昨年末にこの運動が始まったとき、私が抱いた率直な感想は「ハッシュタグなんかで何が変わるの?」だった。私たちが立ち向かっているのは、法的な不正行為や企業の過失のような、誰の目にも明らかな問題ではない。SNSでの告発の影響力は、問題解決につながるかもしれないが、それ以上に社会構造や数え切れないほどの男性の思考に組み込まれた、陰湿なものの見方を助長しているように思えたのだ。

SNSは様々な面で私の生活に欠かせないが、社会の変革については、私は常に〈ハッシュタグ運動〉を警戒していた。実際の活動には参加せず、SNSのプロフィールで自らのスタンスを示す人たちがハッシュタグに見出す可能性や、ソファでくつろぎながらツイートするだけで得られる偽の達成感が信用できなかったのだ。このような視点はどちらかといえば時代遅れかもしれないが、それ以外の点では、私は典型的なミレニアルだ。

念のため言っておくが、私はシェアされた体験談や、体験をシェアするに至った大勢の女性の決意、この闇を白日の下にさらさなければ、という必要性を疑っていたわけではない(日光には最高の〈殺菌作用〉がある)。しかし私は、告発する責任を女性が負わされることに、ひどく違和感を覚えたのだ。変化を促すために、彼女たちはおぞましい体験をシェアしなければならない。極めて個人的な体験を公開することが果たして進展をもたらすのか、という点にも懐疑的だった。問題の原因は女性ではないのに、なぜ彼女たちが全部やらなければいけないのか、と私はひそかに不満を抱いていた。

でも、私は間違っていた。自分の間違いがこれほど嬉しかったことはない。

〈#MeToo〉は元々、2006年に黒人活動家のタラナ・バークが始めた運動だった。しかし2017年10月、女優のアリッサ・ミラノが、今までに「セクハラや性的暴行の被害に遭った」経験があるひとは〈#MeToo〉と書いてリプライを送って、とツイートしたことをきっかけに、この運動はワインスタイン事件後再び高まりを見せ、特に職場で女性が受けるセクハラについて、女性が声を上げる場が新たに開かれた。昨年10月のあの運命的なツイート以降、告発された数多の著名人たちが、ワックスがかけられたピカピカの床の上を転げ回っている。私も多くのひとと同様、長きにわたって非難を免れてきた男たちが公の場で糾弾される姿を見て、胸がすくような思いだった。

そしてご存知の通り、〈#MeToo〉運動は、被害者を支援する〈Time’s Up〉基金設立の足がかりにもなった。〈Time’s Up〉もハリウッド発の活動だが、私はこちらはすぐに信用できた。女性が法的に過ちを正す具体的なツールがようやく生まれたのだ。そしてもっとも重要なのは、〈Time’s Up〉の対象が、第四波フェミニズム(主にSNSなどを通してミソジニーに挑み男女平等を求めるフェミニズム運動)から見落とされがちな、清掃人、ウェイトレス、介護人など、低賃金労働に従事する女性であること。経済的な理由から、同様に闘っている比較的裕福な白人女性以上に、男性の罪に寛容にならざるを得ない女性たちだ。

しかし疑問はまだ残っている。変化を促すために、ハッシュタグに何ができるというのか? そして〈#MeToo〉運動は実際に働く女性たちの生活を変えたのか?

セクハラや性的暴行への抗議運動を大々的に広めたのは、ハリウッドの重鎮、ワインスタインの失脚だった。そんな彼が今年5月にようやく逮捕され実刑判決が下される可能性が高いことは、喜ばしいニュースだ。英国では、女性記者数名への性的暴行や不適切な言動の疑惑がネットで浮上した直後、『GQ』の政治部記者ルパート・マイヤーズが解雇された。また、フリーランスジャーナリストのサム・クリスも同様の申し立てによって労働党員資格を停止され、クリスが記事を寄稿していたVICEの関係者は、二度と彼と仕事をしないと明言した。しかし、両者とも容疑をいち部否認している。

〈#MeToo〉運動による議論の高まりを受け、多くの男性が、自分も自らの地位を乱用し、過去に出会った若い女性または年下の女性に不適切な態度をとっていた、と気づいた。そんな男性から平謝りされたという女性の話を聞いたのは、いち度ではない。

こんな例もある。

今年5月下旬のある夜、私は古くからの友人と飲みに出かけた。彼女は約5年務めたロンドンの一流広告代理店を辞めたばかりだった。彼女が退職した理由のひとつは、シニアクリエイティブディレクターが、彼女(と私)には職権乱用としか思えないかたちで女性社員に嫌がらせを繰り返し、世間知らずな年下社員と次々に性的関係を持つ職場で働き続けることはできない、と判断したからだ。その上司の言動が同僚女性にとって有害な職場環境をつくりだしていることを示す明らかな証拠をのぞき、彼女の訴えはほとんど聞き入れられなかった。その代わり、友人に対する「いっしょに働きにくい人」とか「イヤな女」という噂が広まり始めた。件の上司は、〈天才クリエイター〉という評判のおかげで地位が守られたというのに。

友人の会社は〈#MeToo〉運動を受け、適切な対策を講じていたようにみえた。社員が報復を恐れずに不適切な言動を通報できる匿名のホットラインが開設され、新たな対策を知らせる全社メールが何度も送られた。

最終的に、前述のクリエイティブディレクターはひっそりと解雇されたが、友人にとってはあまりにも手ぬるく遅すぎる処分だった。その直後に彼女は退職した。職権を乱用した社員に責任を取らせようとしない会社によって、会社に残ろうという彼女の意志はすっかり尽きてしまったのだ。

残念ながら、女性支援団体〈Lean In〉が今年1月に実施した調査によると、女性への指導に不安を覚える男性管理職の数は、〈#MeToo〉運動が始まってから3倍以上に跳ね上がったという。〈#MeToo〉によって自身の卑劣な行いの報いを受けた男性は少なくないが、この運動の予期せぬ結果に苦しめられているのは、どういうわけかいまだに女性たちなのだ。

今年4月、従業員250名以上の英国企業の8割に、同じ地位の男女間に賃金格差があることが明らかになった。これは英国の労働人口全体にも当てはまる数字だろう。この現状も、私たちが職場における女性の権利を早急に見直す必要があることを示している。格差の是正に向け、具体的な措置や期限を設けた企業はほとんどない。企業は「必要な措置を検討中」とお決まりの台詞を返し、対応に追われる人事部はこぞって「透明性への努力」を持ち出している。賃金格差をめぐる議論が白熱した結果、明らかになったのが女優クレア・フォイの1件だろう。Netflixの連続ドラマ『ザ・クラウン』で主演を務め、大ヒットに貢献した彼女の出演料は、共演俳優マット・スミスの出演料より約20万ポンド(約3000万円)も少なかったという。製作側は正式に謝罪し、フォイに差額の支払いを約束したが、のちに彼女自身は、20万ポンドは支払われていないと明かしている。

しかし、働く一般女性の大半には、労働条件を交渉してくれる仲介人もいなければ、世論を動かす影響力もないのが現実だ。先日、私はSNS上で、〈#MeToo〉や〈Time’s Up〉運動を踏まえ、労働環境が改善したと感じている女性、または4月に明らかになった調査結果を受け、雇用主が男女の賃金格差を是正する前向きな取り組みを始めたという女性を探したが、回答はひとつも得られていない。もういち度強く呼びかけても結果は同じだった。ちなみに、私のフォロワー数は全てのプラットフォームを合わせて約4万人で、その大半は女性だ。

残念ながら、今のところ〈#MeToo〉は働く女性の生活に目に見える効果を生み出していないどころか、まったくの逆効果にすら感じられる。ただ、私は、これからも何も変わらない、と思っているわけではない。まだ何も起こっていないだけだ。これまでの歴史を振り返れば、私たちが生み出そうとしている社会的、文化的な変化は、2歩進めば1歩下がるといった調子で、耐え難いほど長い時間がかかることがわかるだろう(おなじみの顔ぶれが〈#MeToo〉運動は「度を超している」などと不満を爆発させているのを見てほしい)。少なくとも英国では、職場以外でのセクハラそれ自体は犯罪行為とみなされず、その事実がセクハラを常態化し職場に蔓延させている。性差による不当な扱いについて、国家レベルでの政策の改変が必要なのは明らかだ。

〈#MeToo〉の対象は邪悪な男たちだったにも関わらず、皮肉にも、変わったのは女性たちだった。私たちはようやく、長いあいだ先延ばしになってきた議論を堂々と始めるに至った。私たちが長きにわたって否応なく受け入れてきた、今まで告発するための名称すらなかった行為について、懸念を表明することが認められ始めたのだ。女性たちはいまだに矢面に立たされているが、状況は変わりつつある。

働く女性たちが集結し、私たちは声を上げ始めた。あとはみんなが行動に移るのみだ。

This article originally appeared on i-D UK.

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