孤高のラッパー、5lackが見つめる次なるランドスケープ。interview〈前編〉

先日配信と数量限定のCDによってリリースされた新作「この景色も越へて」や自身初のドネーションソング「きみのみらいのための」を発表したラッパーの5lack。2013年に福岡へ拠点を移して以降、より一層俯瞰した視点で音楽制作の活動に没頭し、自身の表現に対してストイックなまでに追求していく彼がここ数年明かすことのなかった自身のクリエイションについて語る。

by Yuho Nomura; photos by Katsuhide Morimoto​
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28 May 2020, 9:51am

現在世界的な危機となっているコロナパニックの状況下において、欠かすことのできないコミュニケーションツールとなったZoomを駆使し、終始リラックスしたムードで遠隔インタビューを敢行。「日々の積み重ねでしかない」と語る5lackが今想うこととは。

前編では、自身のネクストフェーズとも位置づけできる、新たな作品に込められた真摯な想いについて聴いた。

自分を形成してくれたHIPHOPが世の中で一番ヤバイって思われるためにラップしてる。

—— まず前作「KESHIKI」から大きな空白期間もなく、新作の「この景色も越へて」をリリースしたわけだけども、タイトルから察するにやっぱり続編的作品っていう意図があったのかな?

前作の「KESHIKI」の時は今までにない表現方法を模索したり、テクニカルな部分で実験的な取り組みを加えたりしてたんだけど、「KESHIKI」のリリース準備期間の裏で、自分の制作クオリティがどんどん高まっていくのが実感できたし、次から次へと聞かせたいと思える楽曲が出来上がっていって、創作意欲も止まらなくなってさ。だったら続編として新しい作品をリリースしようってなった感じだね。

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—— 今回に限らず常に5lackの曲作りはハイペースだなと感じていたけど、そこはなにか意識してたりする?

全然。意識したことはないけど、今は音楽に没頭できる時間が昔以上にあるのは大きいかもね。でもこのペースでの曲作りは、もしかしたら初期の「WHALABOUT」以来かもね。

—— ひとつ前で話していた制作で進歩を感じた要因っていうのは、やっぱり前作同様に収録曲のトラックをすべて自分で手掛けたことでの影響も大きい?

そこはよく誤解されるんだけど、昔から結構トラックは作ってるんだよね。どうしても兄貴(実の兄であるPUNPEE氏)はそっちでの印象が強い分、俺はラップだけってイメージが先行しちゃっていたりするのかな?でも確かに自分で楽曲を全部プロデュースしてると、ラップとかビートをそれぞれ単体で捉えるんじゃなく、曲を総合的な視点で見つめることが多くなっているのかもしれない。感覚的にはプロデューサーに近いよね。

—— それで言うと、世間から見た5lackの印象と実際の5lackっていう人格には多少なりともズレがある気もするけど、その辺りはどう感じてる?

そのズレは楽しんじゃってるかな。感じることは人それぞれ違うだろうし、曲の感想も人それぞれじゃん。だから別に擦り合わせたり、説明する必要もないよね。一個前の質問に戻るけど、海外だとラッパーの作品であってもプロデュース陣とかトラックメイカーがきちんと認識されて、なおかつ評価されているっていう土壌が日本よりは確実にあるように思うし、そこは少しづつ変わっていけば良いのかなって。評価されるべき人が評価されて、注目されるシーンっていうのはいつの時代も求めていくべきだよね。

—— ちなみに今回の「この景色も越へて」はオフィシャルのアナウンスで、アルバムともEPとも謳っていないけど、5lackのなかのポジションとしてはどういった立ち位置なのかな?

まさにそれは聞いて欲しかった質問のひとつでもあるんだけど、アルバムとかEPの概念を壊したかった。別にどちらの認識でも良いし、シングルと捉える人がいたっていい。逆にたった一曲なのにアルバムって形式にしたって良いと思うわけ。そう考えるきっかけになったのは、親父に昔作ったEPを渡した時に「俺らの時にはこれをEPとは言わなかったけどね」って言われて、そうなんだぁってなってさ。だったら作品って括りで聞き手に委ねるのも面白いし、そもそもルールを設ける必要なんてないんだなって思って。

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—— なるほどね。そのなかで本作では唯一ミュージックビデオも製作された「Grind the Brain」は、〈漂う90年代のFlava〉ってバースにもある通り、昨今のヒップホップトレンドや5lack自身の近作ではあまり見られなかったブーンバップ的な手法がとられているけど、その辺りの意図に関してはどんな経緯があったの?

俺らの世代はオーソドックスな90年代のヒップホップを聞いて育ったから、いま改めて聴き直すと懐かしいと思うんだよね。俺が実際そうだし。今の若い子たちからしたらフレッシュに感じるのかもしれないけどね。どこか廃れてしまった感じはしても、ブーンバップな分野にもまだまだ可能性は残ってるし、俺なら更にカッコ良くできるって確信はどこかにあったね。

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—— って言うと?

例えばさ、みんな好きな曲って色々なジャンルにあるじゃん? Spotifyのプレイリストもテイストがバラバラだったりしない? それを今の時代なら意図的にジャンル分けせずに共存させられるんじゃないかって。それは俺の中でもごく自然なことなんだよね。だってそれが俺のルーツだし、俺は確かにそこにいたわけだから。要するに、俺が言いたいのはもっと他ジャンル的な視野から見た新しいヒップホップの見せ方があるんじゃないかってこと。それがたとえ昔の楽曲でも。

—— ミュージックビデオでもそのルーツを感じる映像になっていたね。いわゆる5lackファミリーが勢揃いで。

そうそう。ポッセ感じゃないけど、やっぱり俺の中でのHIPHOPのイメージっていつまでもああいう感じなんだよね。自分が好きな人たちをフックアップしたいって気持ちがあるし、やっぱり仲間だし。

—— ブーンバップの流れで言うと「俺の成り立ち」では、イントロでMONJUの「Black de.ep」から仙人掌さんのバースをサンプリングしているよね。

これは20歳くらいの時にとにかくよく聴いていた曲で、まぁMONJUが好きな人からしたら言わずと知れた名曲なんだけど。実際に俺も今真っ黒い車に乗ってるし、今のバイブス的にもリリック的にもリンクする部分が多かったんだよね。もちろんリスペクトも込めてね。

—— ここでもやっぱり5lackのルーツが垣間見えているよね。

今のHIPHOPのシーンってどうしてもレースしがちな気がする。誰が一番ヤベーんだ、みたいな。だからみんな国内のHIPHOPのなかで自分が一番ヤバイんだよって思ってラップしてると思うんだけど、俺は自分を形成してくれたHIPHOPが世の中で一番ヤバイんだって思ってもらえるためにラップしてるんだよね。もちろん俺じゃなくても良いんだけど、多分そうできる可能性を持っている何人かのうちの1人なんじゃないかなって信じてるだけなんだ。だからきっと、今もずっとラップしてる。

自分がこれまでに関わってきたものが一番カッコ良いモノであって欲しい。

—— その言葉を聞くと、リリックの意味も変わって聴こえてくるね。自分の原点を振り返りつつも、改めて5lack自身のラッパーとしての姿勢を誇示している曲でもあると。

音楽だけじゃなく、スケートやファッションも自分がこれまでに関わってきたものが一番カッコ良いモノであって欲しい。そう考えた時に、俺のための音楽か、音楽に敬意を示すか、その目的がそもそも見当違いだと、やっぱり辿り着くゴールもズレてくるわけじゃん。独りよがりじゃだめなんだよね、結局。

—— また「この景色も越へて」のオープニングを飾った「Who Said it」は「俺の成り立ち」にも関連してか、仙人掌さんとフィーチャリングしてるね。ソロ名義では久々の共演だったと思うけど、このタイミングで一緒に曲を作るにあたって、なにか狙いはあったのかな?

明確な狙いとか理由は特になくて、フィーリングだね。曲作りをしていく中で、客観的にこの曲は仙人掌が入ってきたら面白いなって思って。それこそ昔はよく俺の家で一緒に曲を録ってたし、遠隔での収録ではあったけど懐かしさ以上に互いのスキルアップした部分を試し合えて、純粋に嬉しかった。自分のアルバムでオファーする以上、どんな風にアーティストの良さを引き出そうかなって考えたりするのは、やっぱり楽しいよね。

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—— その一方、客演で言うともう一人。ファンからすると意外性のあるサプライズでもあったMacchoさんを招聘した「透明少女」もそうだよね。

Macchoさんは会えば話すような仲ではあるんだけど、それこそ青春時代に聴いていたラッパーだからね。当然いつかやってみたいレジェンドアーティストのリストには入っていたよね。だから感慨深い部分もあったかな。この曲は当初、客演を入れる予定はなかったんだけど、いざ自分のバースができた時に途中で曲を聴き直したら、このスタイルならもうMacchoさんしかいないじゃんってなったんだよね。俺の中にあるMacchoさんの見てみたいイメージがこの曲とマッチしたというか。それですかさずオファーしたんだよ。

—— かつてNUMBER GIRLも同タイトルの曲をリリースしていたけど、オマージュとかってわけではないんだよね?

うん。まずその曲を知らなかったし、そこは本当に偶然だね。繁華街とか夜の街中とかあらゆる環境で見かける“自分が何者になりたいのか分からずに、ただ漂っている少女”みたいな人って実際いるじゃん? そういう架空の人物がテーマとしてあって、ある意味普遍的でもある対象についてストーリーを描いてみたかった。でもストレートすぎる表現は好きじゃないし、今にも消えてしまいそうな儚さとかを込めて「透明少女」って名付けたんだ。

—— そして今回はタイアップソングである「フレンズ」が待望の音源化。5lack自身も演者となって出演しているプロモーションビデオが話題にもなっていたけど、これもファンにとっては嬉しいサプライズだったのかなと。

これはアディダスのモデルをした時に同時に楽曲も依頼されて作った曲なんだけど、当初は音源としてのリリースは考えてなかった。このタイミングでまたみんなに聴いてもらえたら嬉しいなと思って入れたんだよ。

—— 作品性を大切にしている5lackがこうしたクライアントワークを手掛けるのは新鮮にも感じたけど、その辺りはやっぱり普段のクリエイションとは取り組み方も違うのかな?

そうだね。そもそも求められているものが違うしね。結構こういう仕事は断るイメージを持たれることも多いんだけど、実は全然そんなことなくて。それこそNTTドコモと作ったSILENT POETSさんとの「東京」もそうだし。自分の親世代やオリンピックを意識している人たちに対して、どうしたらアプローチできるんだろうとか、個人的にはあまり気分が乗らない様なみんなが喜ぶキャッチーな曲も作ってみようってトライできるし、いつもとは違ったモチベーションで取り組めるのは意外とリフレッシュできるんだよね。「ストリート思考だった5lackがどうして?」って声もあったりすると思うけど、タイアップ曲を作ったとしても絶対にイケてる音楽にしたいし、そこは安心してほしいかも。

〈後編〉では近作で垣間見える心境や環境の変化、そしてこれまであまり明かされることのなかった音楽シーンに対しての考えに至るまでを赤裸々に語ってもらう。

Instagram:@5lack6
Official: https://5lack.com/ / http://takadaya588.shop-pro.jp/


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5lack「きみのみらいのための」
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5lack「この景色も越へて」

Photography Katsuhide Morimoto
Interview and text Yuho Nomura

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