映画は世界への窓:ジェンダー・ムービー・クラブ〈Purple Screen〉の試み

インディペンデントの映画配給? オンライン上映会? 謎多きジェンダー・ムービー・クラブ「Purple Screen パープル・スクリーン」のキュレーターたちが語る、その始まりとキッカケとしての映画。

by Yoko Hasada; as told to Sogo Hiraiwa
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25 June 2020, 6:00am

性別・人種・年齢等のラベル問わず、多様な「個」のあり方とその意思を祝福し、二元論にとらわれない表現を追求しているクリエイティブ・スタジオ、REING(リング)。ありたい自分を選択するためのポジティビティあふれる体験を提供している。

はじまりは2017年。代表の大谷明日香が、前職の広告会社で「ジェンダーギャップ」をテーマに世界最大の広告祭ヤングスパイクスのコンペティションに参加したことがきっかけで、以前から違和感を抱いていた「女だから」という枕詞に改めて向き合った。そうして、多様な個を認める社会をつくるために仕組みから変えていきたいとREINGを創設。周囲も巻き込みながら、製品開発やイベント主催、コミュニティスペース運営を行なっている。最初にプロデュースしたのは、結婚だけではなく、いろんなパートナーシップのための指輪。そして、着る人の性別を規定しないジェンダーニュートラルなアンダーウェアを発売し、話題となった。

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彼らが新たにはじめたプロジェクトが、映画を通じてジェンダーについて視点を交わす対話イベント「Purple Screen(パープル・スクリーン)」だ。毎回テーマに沿った映画をAmazon PrimeやNetflixからセレクトする傍ら、日本未公開の映画に字幕を付けてオンライン上映をしている。これまでのテーマは「女性の身体」「トランスジェンダーの可視化」「人種差別」など多岐にわたる。

オンラインでのディスカッションは毎週日曜日に開催されており、これまでにスペシャルゲストとして、カンヌ映画祭でクィア・パルム短篇賞を受賞している鬼才ヤン・ゴンザレスや、アメリカの青春映画200本以上を分析的にマッシュアップした『ビヨンド・クルーレス』を手がけたチャーリー・ラインなど、豪華な監督陣を招いている。

代表の大谷明日香、パープル・スクリーンで映画キュレーターをしているメキシコ出身でカナダ育ちのエド・オリバー(Edo Oliver)とフランス出身のジェレミー・ベンケムン(Jeremy Benkemoun)に、パープル・スクリーンについて、そしてREINGのこれからについて聞いた。

──パープル・スクリーンは、エドとジェレミーのふたりがメインでオーガナイズしているそうですね。

エド:そうです。でも僕たちだけで映画をキュレーションするんじゃなくて、パープル・スクリーンによく参加してくれる人たちも巻き込んでいます。どんなテーマにするか、どんな映画を選ぶか、コミュニティの声を聞いて、彼らとイベントを作ってます。毎月1回は必ずそうして、あとは自分たちだけで決めたり、スペシャルゲストを呼んだり。

大谷:REINGのプロジェクトのつくり方は全て一緒です。自分たちが違和感を感じていることを主題に企画をして、必ずコミュニティの声を聞いて、周りの意見を取り入れながら進めるようにしています。たとえば、メイクや美容について意見を交わす「mirrors」でも、“メンズ”ビューティーとあえて性別を限定する必要ってあるのかな?という疑問から企画をして、メンズ向けのビューティーに関わっている人たちを集めて話しました。

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エド・オリバー

エド:パープル・スクリーンでは、映画を上映していません。一緒に見るよりも、議論をする場が楽しいという意見が多かったから、映画はそれぞれ見てもらって、見た後にいろいろ喋れる場所にしたくて。好きなものや違和感について話す場があまりないから、そういう場所を作っていきたいと思ったんです。

大谷:SNSに違和感を書くことはできるけれど、それって一方通行になりやすい。インプットとアウトプットを個人で繰り返して視点を深めたいし、社会に発信することに意味があるから、会話は大事だと思います。プロジェクトの途中経過をみんなに見せたり、試着してもらって意見をもらったり、カオスだけど対話が生まれてみんなが考えるきっかけになったらいいなと思っています。

──パープル・スクリーンは初めから議論中心だったんですか?

エド:はじめは上映もしてました。1回目はクィアの短篇映画を6本。

ジェレミー:ジャン・ジュネとか、超クラシックな映画を集めて。実験的な映画とか、もっとアートっぽいセレクトでした。参加者は20代が多かったけど、年齢も人種もバラバラ。

エド:みんなで一緒に見て、それも楽しかったけど、その後に近くのサイゼリヤに15人くらいでご飯に行ったんです。ジェンダーや政治について話し始めたらすごい盛り上がりで! みんなが「そうだよ」とか「そうじゃない」とか声をあげて、超理想的でした。周りには申し訳ないくらいうるさかったけど、日本でこんないい感じで会話できたのはその時が初めてでした。

ジェレミー:パープル・スクリーンは普段できない議論ができる場所にしたいんです。これまでもジェンダーとか売春とか、普段友達と話さないようなことを話してきました。参加した人からは「ひとりじゃない気がする」とよく感想をもらいます。自分だけの悩みだと思っていたことが、同じように悩んでいる人もいるし、僕も含めて「自分だけが変なわけじゃない」と実感できる場になっているんです。

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パープル・スクリーンの様子

大谷:最近は、何回も参加してくれている高校生と大学生の2人にホストになってもらって、一緒にイベントを作りました。何を喋りたいのかアイデアを出してもらって、イベントを作って、告知も手伝ってもらって。その時はジェンダーやフェミニズムについて、普段抱えている違和感を話したんですけど、すぐに定員になりましたね。

エド:自分も高校生の時に、パープル・スクリーンみたいなイベントに参加したかった。超羨ましい(笑)。

──フランスやカナダは、日本に比べてセクシュアリティに対してオープンなイメージがありますが、ジェレミーとエドも苦労はありましたか?

ジェレミー:今のフランスは日本と比べたらリベラルだけど、僕が住んでいた町では超クローズでした。15歳で自分がゲイだと気付いて、僕は全然そのことを隠さなかったけど、小さな町だから僕だけがオープンなゲイでした。無視してたけど、いじめてくる人はたくさんいましたよ。今は高校でも自分がシスジェンダーかトランスジェンダーか、ジェンダーを決めたくないか選べるようになっています。ゲイを理由にいじめられることも減っていて、むしろ「クール!」みたいな感じで(それも差別だけどね……)。でも、ゲイの子たちがオープンに話せる場所や情報を知れる場所はまだ少ないと思います。

エド:日本に比べて海外は進んでいるけど、それでもまだまだだと思います。私の行っていたカナダの学校でも、最近13歳のゲイの男の子が自殺をして、超ショックでした。

大谷:日本だけが生きづらいわけじゃないし、ジェンダーについてはローカルによって意識が全然違うと思います。印象的だったのは、フランス在住のトランスジェンダー女優のナナ・ベナメールさんが言っていた「フランスは多様性を認める国だから、逆にトランスジェンダーが完全に認められることは難しい」という言葉。意見の違いを認めている国だから、保守層からの差別的な発言も認められなきゃいけない。彼らの多くは「トランスジェンダーの存在を絶対に認めない」と主張している。そういう人たちとも一緒に生きていかなきゃいけないから、どうやったら一緒に生きていけるか自分で考えなきゃいけない、と彼女は話していました。インターネットで検索して出てくる情報だけでは、その裏にある莫大な情報はわからない。でも会話だと1時間だけでも得られるものは全然違って、自分の感覚になる気がします。

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REINGの代表 大谷明日香

エド:パープル・スクリーンで初めてスペシャルゲストを呼んだのが、フランス在住のアレクシス・ラングロワ監督。映画の中でトランスジェンダーの役がいつもシスジェンダーの俳優によって演じていることに腹を立てたラングロワ監督と俳優たちが作ったショートフィルム『恐怖に咲く姉妹』を上映して、監督と俳優を交えたディスカッションもやりました。主要人物の4人はトランスジェンダーの俳優が演じています。フランスはこうした面で先進的なイメージがあるけど、実はレアなケースで、彼らも闘っていると話していました。どこの国だって辛いし、闘わなきゃいけない。

ジェレミー:監督は「トランスジェンダーの話に共感する人が少ない」からという理由でどのプロデューサーもこの企画に手を挙げなかったと言っていました。でも、そんなことないはずです。

エド:私はゲイだけど、生まれてからずっとシスジェンダーの物語に囲まれてきました。でも、私だって男女の物語に共感できるんです。ラベルで見ているわけじゃないし、個人の話として通じるものがあるからです。いろいろなアート作品を通じてジェンダーについて考えることができるけれど、映画はとても伝わりやすい。だから、こういう映画をたくさん作るべきだと思います。

──二人にとって、映画は自分にどう影響を与えていますか?

ジェレミー:僕はフランスの小さな町の出身で、社会も閉鎖的でした。ゲイへの差別や人種差別もある。だから「僕だけが変だ」と思っちゃっていました。旅行もしたことなくて、他の場所を知らなかったから。

小さい頃はブロックバスター(大予算の大衆映画)とか、町のみんなと同じ考え方をした映画しか知らなくて、映画も全然好きじゃありませんでした。でも、高校の先生にいろんな映画を教えてもらって、ああ僕が変なわけじゃないんだと思えたんです。映画は僕にとって、世界の窓です。

ジェレミー,
ジェレミー・ベンケムン

ジェレミー:パリに引っ越してきて、おもしろい人と出会って僕もオープンになれたし、映画の中に好きな自分を見つけた。日本のスケバンが好きで、『 恐怖女子高校 暴行リンチ教室』や『女囚701号 さそり』をよく見てました。スケバンになりたい!って思ってた(笑)。

エド:私は昔からファッションが好きだったけど、ファッションは女性のものだからと親が雑誌を見せてくれなかったんです。でも映画は許されていたのでよく見ていました。素敵なファッションやキャラクターに憧れて、真似したり。映画から世界が広がっていきました。

──パープル・スクリーンやREINGでは今後どんな取り組みをしたいと考えていますか?

ジェレミー:パープル・スクリーンを始めてまだ4ヶ月。将来はもっとコミュニティを大きくして、メンバーと監督と俳優と一緒に作品を作ってみたいですね。映画祭もいつかやりたい。個人的なことを言えば、僕は世界を変えたいです。自由な世界で生きたいから、闘わなきゃいけない。このあいだ、Black Lives Matterの渋谷でのマーチにも行ったけれど、アートを作りながらアクティビストとしても生きていきたいと思っています。でも、一人じゃできないでしょう? だからREINGで出会った素晴らしい仲間たちと一緒にアートを作っていきたいです。

エド:私は前からアートに興味はあったけど、自分がアーティストになれると思っていなかったんです。でもある時、写真を撮ってみたい、とジェレミーに言ったら「じゃあ、エドが撮って」と。カメラがあれば撮れるでしょ、くらいの感覚で言われて、ああそっかと思えた。私がジェレミーに出会ったように、REINGと出会って自分の考えを表現できるようになる人もいるかもしれない。クリエイティブは競争(コンペティティブ)になりがちだけれど、考え方が素敵なら一緒に作ろうという雰囲気ができたらいいなと思っています。

大谷: REINGに集まってくれる人たちは、自分らしくいきたいけれどどうしたらいいんだろうと悩んでいる人が多い。それぞれの人が持っている違和感を一緒に考えて、多様な「個」の声を集めてパワーに変えて、社会に届けるプロセスをきちんと作りたいです。そういうクリエイティブやアウトプットをやり続けたら、社会は少しだけ前に進むんじゃないかと思います。プロジェクトやイベントはもちろん情報発信もしたくて、雑誌も製作予定です。まだまだ規模が小さいから、少しずつREINGを大きくしていきたいです。

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