男性モデルが昔の自分を再現するシリーズ〈Then & Now〉

ダグ・イングリッシュの〈Then & Now〉は、男性モデルたちが同じロケーション、同じ衣装、同じ構図で、過去の自分を再現するポートレートシリーズだ。

by Mariella Rudi; translated by Nozomi Otaki
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01 August 2022, 4:00am

チラッとこちらを見やる視線、ロッカーにもたれかかる身体、頭皮を掠める不埒な指先……。ダグはふとした小さな仕草が、誰かの人生を破滅させるほど魅惑的になり得ることをよく理解している。彼はこのような何気ない瞬間を、30年以上追求してきた。

ロサンゼルスで華やかなファッションフォトグラファーとしてデビューしたダグは、大股座りをするジェイク・ジレンホールからずぶ濡れのデヴィッド・ベッカムまで、さまざまな俳優やモデルをベッドルームやプールで撮影してきた。彼がとらえる被写体には、たくましく、それでいてどこか危うげな、健全なセクシーさがある。彼がヴァージニア州からLAに移住したきっかけは、映画『ビバリーヒルズ・バム』、そして兄の友人たちの男らしいルックスへの病的なまでの強いこだわりだという。「彼ら全員に恋をしていたんだ」と彼は当時を振り返る。「そういう憧れが感じ取れるはず」と彼は自身の写真について語る。

 ダグは〈Then & Now〉シリーズの一環として、この少年時代の幻想を再訪した。そして完成したのが、男性モデルが10〜20年前の若かりし自分の写真を、同じ服、同じロケーションで再現する15組の作品群だ。彼らが身につけているのは、ダグのヴィンテージのスポーツウェアの個人的なコレクションから厳選した、ARMYのロゴ入りジップアップ、レスリングのシングレット、星柄のブリーフなど、マスキュリニティを象徴するアイテムたち。彼らは誰もが愛してやまない、思わせぶりだがどこか憎めない少年のようなヒンボー(※himbo:ルックスはいいが頭が空っぽな男性を指す言葉)や罪作りなハートブレイカーに扮している。 

double image: l is a black and white shot of a model in a wrestling singlet surrounded by foliage, r is an image of the same model in the same singlet but 10 years older

このシリーズのために、ダグは別のコレクションも参照した。「eBayの誕生以来」ずっと集め続けてきたというレトロな男性ヌード写真の数々だ。〈Then & Now〉を通して、彼はダニー・フィッツジェラルド、カールハインツ・ワインバーガー、ブルース・オブ・ロサンゼルス(ブルース・ベラス)、そして何よりもボブ・マイザーなどのスタジオ写真を引用し、クィア・ファインアートの歴史に貢献した。ホームスタジオで撮影した半裸のボディビルダーの白黒写真を〈フィジークフォト(※1960年代頃までに普及していた男性のヌードまたはセミヌード写真)〉に偽装していたゲイのエロティシズムの父ボブ・マイザーがいなければ、ロバート・メイプルソープも、ハーブ・リッツも、そしてもちろんダグ・イングリッシュも存在しなかった。

ダグのハリウッドヒルズの自宅で撮影された本シリーズは、モデルと1対1の密室でひっそりと撮影しなければならなかった、これらの写真家たちに捧げるオマージュだという。写真に写るジョックストラップの官能的な対称性やギャランドゥは、念入りに築かれた信頼と配慮の証しだ。なかには最初の撮影が初対面だったモデルや、街なかで声をかけたモデルもいて、まるで「キャスティングコールのような時間」だったと彼は語る。

double image: l is a black and white shot of a topless model with short hair, r is an image of the same model in the same pose 10 years older

 写真はすべて8x10インチで、かつて俳優たちがオーディションや大きなチャンスの際に名刺代わりに使っていたお守り的なヘッドショット(※顔写真)のサイズだ。被写体のほとんどは、俳優を目指してLAに移住してきた。このプロジェクトも、ここ数年の多くのプロジェクトと同様、パンデミック下で始まった。彼は友人でミューズの俳優トレント・ギャレット(『New Girl ~ダサかわ女子と三銃士』)に以前撮った写真を見せ、それをもう一度撮り直すことを思いついた。「25年間こういうプライベートな写真を撮り溜めてきて、自分が誰も見たことのない膨大なコレクションを持っていることに気づいた」と彼は説明する。

全体を通して眺めると、私たちはこれらの男性についてより深く知りながら、彼らの身体の変化だけでなく、年をとることや避けられない死への自分たちの先入観に気づかされる。写真の技術と同様、肌も成熟する。〈Then(あの頃)〉の写真はペンタックス67で撮影され、アナログフィルムの線が入った状態で展示されている。いっぽう〈Now(今)〉は完全デジタル。左と右、2枚のポートレートは肉体のファンタジーだけでなく、進化を映し出しているのだ。

double image: l is a black and white side shot of a half nude model wearing jeans low around his crotch, r is an image of the same model in the same pose but 10 years older

ダグは、フォトグラファーのニコラス・ニクソンが40年かけて妻とその3人の姉妹が10代から中年へと徐々に変化していく姿を毎年記録し続けた『The Brown Sisters』について何度も考えてきたという。完成した作品が提示するのは、家族のダイナミクス、すなわち数十年にわたって変化し続ける気分、トレンド、遺伝子の影響を捉えた、言葉では言い表せないポートレートだ。「これらの写真を見るといつも心を突き動かされた。人は誰しも年をとるにつれ、過去を恋しがって『若い頃に戻りたい』と言うようになるものだから」とダグはいう。「でも、実を言うと僕はあの頃よりも幸せなんだ。交換条件みたいなものだよ。いつかはそう思えるようになるんだ」

 ニクソンが撮影した姉妹と同様、〈Then & Now〉の白黒のポートレートも、本来ならば時の経過を示すはずの写真の、時を超えたノスタルジーを拒否している。色の欠如も、そこに深みを加えている。以前はなかった線や影を指摘するなど、いわゆる〈間違い探し〉をするのは簡単だ。それでもくっきりとした顔立ちは健在で、彼らが魅力的なことに変わりはない。見た目が良くなったとか悪くなったという話ではなく、変化したのだ。確かに無垢さやコラーゲンはいくらか失われたかもしれないが、そこには加齢による気品のようなもの(となぜか筋肉)が加わっている。

ダグ版『Handsome Boy Modeling School / ハンサム・ボーイ・モデリング・スクール』のおかげで、現役モデルとして仕事を続けているひとも、俳優として成功を掴んだひともいれば、請負業者として働くためにワシントンに引っ越したモデルもいるという。「彼らが変化し成長していくのを眺めるのは楽しいし、あの頃よりも話すことがたくさんあった」と彼はいう。「みんな、ずっと完成された人間になったんだ」

double image: l is a black and white close up of a model in a white collarless shirt, r is an image of the same model in the same shirt but 10 years older
double image: l is a black and white side shot of a model sitting on a kitchen counter, r is an image of the same model in the same location and pose but 10 years older
double image: l is a black and white shot of a topless model holding a cigarette, r is an image of the same model in the same pose but 10 years older