90年代アジアのギャングカルチャーから着想を得たブランド〈LỰU ĐẠN〉

ファッション、写真、〈City Tours〉を通して、ベトナム系米国人デザイナーのフン・ラーは、アジア人のマスキュリニティの柔らかな一面を提示する。

by Andrew Nguyen; translated by Nozomi Otaki
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13 July 2022, 3:00am

伝統的な家庭で育ったアジア系米国人の若者は、将来の職業として、主に3つの選択肢を与えられる。弁護士、医師、エンジニアだ。しかしフン・ラー(Hung La)はアジア系の子どもの理想の道を外れ、自らの道を切り開いた。このロンドンを拠点に活動するデザイナーは、Balenciagaのニコラ・ジェスキエールやCélineのフィービー・ファイロのもとで経験を積んだあと、結婚10年目の妻とともにエッジィなウィメンズウェアブランドKwaidan Editionsを創設。そして今、ラーは〈LỰU ĐẠN(ベトナム語で〈危険な男〉の意味)〉でメンズウェアにも進出を果たした。

 「みんなが〈Stop Asian Hate〉やジョージ・フロイドの事件について考えていたロックダウンの期間が、自分のこれまでの旅路を振り返るきっかけになりました」と彼は語る。「80年代にメリーランド州のロックビルで育った僕は、自分の文化をすべて拒絶していました」。大手ファッションブランドでデザイナーとして働いていたときから、ラーはずっと自身のコミュニティとのつながりを実感できず、それについて語る機会もないまま、今に至ったという。2020年1月にローンチしたばかりの彼のブランド〈LỰU ĐẠN〉は、ラーが有意義な方法で自身のルーツに立ち返ったことから生まれた。

jae kim wearing a pink floral shirt and sunglasses in front of a blue wall

何よりもまず、このブランドはアジア人男性に共通する体験を中心に据えている。ヘビ柄のシルクパジャマ、70年代インスパイアのスーツ、大きな襟付きのドレスシャツなどのアイテムと同様に、ストーリーテリングが重視される。「ファッションの世界にはアジア人男性の表象が不足しているので、彼らの物語にスポットライトを当てたかったんです」とラーは説明する。

だからこそ彼は、荒い質感の写真と、ブランドのサイトでライブ配信される真剣な円卓討論を通して、世界の都市に暮らす才能溢れる人びとにフォーカスするプロジェクトを行う新生コミュニティ〈City Tours〉を立ち上げた。最初にこのプロジェクトを実施したニューヨークでは、ブルックリンのナイトクラブ〈Mood Ring〉のボーエン・ゴーとフォトグラファーでバイク愛好家のジェイ・キムを、ダニー・リムが撮影した。

「アジアの人びとには共通の歴史がありますが、LỰU ĐẠNはさまざまな街の独自の趣ある複雑なストーリーを表現する場を提供しています」とラーはいう。「NYという街は同調しないというメンタリティを体現していて、〈東洋と西洋の出会い〉について話すための良い出発点になりました」

jae kim posing on a motorcycle in front of a chain link fence
bowen goh wearing lu'u dan standing in front of a floral tree in brooklyn

ゴーもキムもアジアとNY両方に住んだ経験があり、伝統的な家庭で育った。「アジア系米国人一世は、よく西洋的な価値観と両親から受け継いだ価値観のあいだで葛藤します」とラーは説明する。「僕たちは良いアジア人の子どもになりなさいと教えられましたが、ジェイとボーエンはアイデンティティとキャリアにおいて、先駆的な存在になりました。彼らは因習を打ち破ったんです」。LỰU ĐẠNは「アイデンティティを自分のものにするアジア系のバッドボーイ」を象徴している。City Toursのさらに大きな目標は、この時代をアジア人男性として生きるとはどういうことなのか、そのさまざまな機微や語られていない物語を提示することだ。

ブランドヴィジュアルのDNAは、明らかにヤクザやアジアのギャングカルチャーにある。ラーは若い頃、『ソナチネ』や『欲望の街』シリーズといった90年代の映画や香港三合会の犯罪ドラマ、さらに2001年のバイオレンス映画『殺し屋1』に夢中だった。しかし、ラーが惹かれたのは暴力ではなく、力強さだ。「LỰU ĐẠNの魅力は、これらの写真がタトゥーの入った、外見はハードだけど、それでいてモダンな男たちを見せていることです」とラーはいう。「彼らは自分をさらけ出す、普段は話しづらいトピックについて話します。彼らは感性豊かで、街なかで彼らを見かけた人びとが受ける印象にとどまらない、語るべき物語があるんです」

jae kim walking in a garage in front of tools and a sign that says paradise

ラーが司会を務めるインタビューとともに公開されるこれらの写真は、親密で、同時に生々しい。NYの3人は自我、アジア人のマスキュリニティ、脆弱さ、対話のためのスペース構築、そしてそれらすべてとこのブランドの関わりについて話し合った。

 この体験談は、同化ではなく自己実現のために葛藤しながら、白人至上主義的な社会で必死に生き延びてきた親たちのもとで育った、多くの移民の子どもたちに共通するものだ。「自分の体験を(西洋の)メディアで目にすることはほとんどなく、僕のようなひとの表象が増える予感もしなかった」とキムはラーに語った。「そんなのクソ喰らえ。ずっと自分なりの活動を続けて、いつか時代が追いつけばそれでいい、って。こういうプロジェクトが道を築き、切り開いていくんだ」

「僕たちにしかできない方法でクールになることだってできる」とゴーは付け加えた。「他人の文化に迎合する必要なんてない。これが僕たちのありのままの姿で、それ自体がクールなんだ」

bowen goh showing off his tattoos and posing in front of the mood ring sign
bowen goh posing in a red suit at mood ring in brooklyn

ラーは将来的に、マニラ、成都、台北などの「クリエイティビティの宝庫」でも、City Toursを開催したいと考えている。それぞれの街の男性たちと交流し、地元のコミュニティ内ではなかなか積極的にできない対話をする場を提供したいという。

 ラーはコミュニティや表象が意味するものや、この対話が向かう先について、すべての答えを持っているわけではないかもしれないが、彼はその不確定さに満足している。この文化の熟考から生まれるものが、思いやり、愛着、脆弱性だということを、彼は理解しているのだ。「僕たちはもっと自分の葛藤やつらさについて話していいんです」とラーは明言する。「大切なのは、こういう感情から逃げることではありません。それを受け入れることなのです」

 City ToursはLỰU ĐẠNの公式サイトでライブ配信中。フン・ラー、ボーエン・ゴー、ジェイ・キムのインタビューはこちら

Credits


Courtesy of LỰU ĐẠN shot by Danny Lim

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