ポストカードには載らないハワイを探して

マキシム・ラが島で撮影した写真に寄せて、ハワイ生まれのユニカ・エスカランテが、米国の資本主義が島にもたらした悪影響や貪欲さを語る。

by Eunica Escalante; translated by Nozomi Otaki
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04 October 2021, 6:27am

私は楽園で育った。少なくともそう言われてきた。9歳のとき、家族はフィリピンからオアフ島に移住した。諸島から諸島へと引っ越した当時、ハワイでの生活についてはぼんやりとしたイメージしかなかった。ヤシの木と白い砂浜、ウミガメとパイナップルだ。つまり、私の新たな故郷にまつわる知識はすべてステレオタイプで、まるでこの島を世界に宣伝するポストカードのように画一的で表面的なものに過ぎなかったのだ。

 ハワイに着くと、すぐにこの島は部外者に向けて描かれるエキゾチックな楽園以上に複雑な場所だと気づいた。もちろん、果てしなく広がるきらめくビーチや青々とした山脈など、有名な自然は確かにすばらしい。しかし、多くの住民にとって、ファンタジーの世界はそこでおしまいだ。

a young boy wearing a surf suit and a crucifix necklace

「みんなが思い描くハワイのイメージは、わらぶきの小屋と砂浜です」と語るのは19歳の活動家オーガナイザーのカウィカ・ペグラム(Kawika Pegram)だ。「現実のコミュニティがここにあり、実際に生活し働きながら、なんとか生計を立てていこうと葛藤する人びとがいることは忘れ去られています」

 ハワイで生まれたカウィカは、経済的に苦しい子ども時代を送ったという。彼の母親は、まだフードスタンプ(※​​低所得者を対象に発行される食料配給券)がなかった時代に、女手ひとつで家族を養った。彼女の当時の時給は、ハワイの最低賃金をわずかに上回る12ドルだった。

 「フルタイムで働いて最低賃金を上回る金額をもらっていても、ひとりで暮らしていくのすら厳しい。別の誰かや子どもを養うならなおさらです。この島で育つことは、必要以上に難しいのです」

 ハワイの生活費は米国で最も高い。何十年も贅沢なリゾートとして宣伝され続けた結果、この島での余裕を持った暮らしは、ほぼ不可能になった。2021年現在、年収6万7700ドル(約760万円)でも、都心部、すなわちホノルルでは低所得とみなされる。多くの住民は仕事を掛け持ちし、どうにか家賃や最低限の生活費を捻出している。

two young men stood either side of a metal wire fence

私が幼い頃、母はサービス業で夕暮れまで働き、父は建設会社で残業ばかりしていた。1年ごとに新しい家に引っ越し、出費を抑えるために賃貸マンションを親戚とシェアしていた。

 世界的にも不動産の需要が高いハワイ島で、三世帯以上が同居するのは珍しいことではない。今年初め、オアフ島の住宅の中間価格は100万ドル(約1億1200万円)で、過去最高を記録した。ハワイ州のホームレスの割合がニューヨークに次いで2番目なのも不思議ではない。

 それでも、この島では時間がゆっくりと過ぎ、エデンの園のような海岸についた途端に日常の煩わしさが消え去るというような〈おとぎ話の楽園〉としてのイメージはいまだに根強い。「楽園のイメージは間違っています」とカウィカは指摘する。「それは外部からのハワイの認識としては最大の誤解であり、最も危険なイメージでもあります」

a young girl in a dark grey t-shirt stood in front of a car

私が成長するにつれ、より多くの誤った楽園のイメージが明らかになっていった。植民地化の歴史が、今もこの島々を苦しめ続けていることを知ったのだ。資本主義の貪欲さから、米国の実業家がハワイの君主制を不法に転覆させるまで、ここはひとつの主権国家であったこと。サトウキビやパイナップルを扱う有力者が、農園で懸命に働くプランテーションの季節労働者のあいだにカースト制度を築いたこと。そして、今なお植民地主義が観光産業から搾取し続けていること。

ハワイで育つということは、矛盾を抱えて生きるということだ。故郷を楽園と呼ばれながら、その過去と現在は楽園にはほど遠い。このようなアイデンティティとの葛藤こそが、フォトグラファー、マキシム・ラの最新プロジェクト〈Hawaiian Youths〉の中心的なテーマだ。ハワイで最も人口が多く栄えているオアフ島を舞台に、ハワイの真実を捉えようとしたフォトシリーズだ。

a sunset and silhouette of a terrace over the sea

「ハワイに足を踏み入れると、この島の人びとのアイデンティティには、とても興味深く、繊細な何かがあることに気づいたんです」とマキシムはパリの自宅からZoomで語った。彼が初めてハワイを訪れたのは2020年初め。ハワイで晩年を過ごし、最近亡くなった父親の仕事を引き継ぐためだった。父親の遺品を整理していたとき、彼は島の現実と思い描いていた島のイメージがあまりにもかけ離れていることに衝撃を受けたという。

パリに帰ったあと、島に戻りたいという衝動に駆られた彼は、この新たな気づきと体験を最も好きな媒体、すなわち写真を通して消化することを決めた。「このプロジェクトの狙いは、ハワイの若者を記録し、いわゆるポストカード的なステレオタイプの外へと踏み出す未来の世代のポートレートを撮ること」と彼はこのシリーズについて説明している。

a young boy's side profile, in front of the sea

これらのポストカード的なステレオタイプから離れるため、マキシムはリアルな島の生活にレンズを向けた。ハワイの有名な景色ではなく、ポートレートの多くは、あまり表に出ることのない都市部を背景に撮影された。マキシムにとって、このプロジェクトの目的は、観光客のファンタジーを永続させることではない。さまざまな年齢や民族の大勢の若者の顔を捉えることで、彼は楽園と呼ばれる場所で暮らす若者の複雑な体験を伝えようとした。

 そんな被写体のひとりが、ブランドン・サントス(Brandon Santos)だ。〈Hawaiian Youths〉のポートレートで、ブランドンはセブンイレブンの前でカルピスを手にポーズをとっている。そのプラチナブロンドのフリンジバングとグランジ風のスタイルは、島のイメージにありがちな〈ビーチ好きの若者〉からはかけ離れている。それでも、ブランドンはいかにもハワイらしい生活、つまり高騰する家賃や高額な生活費との闘いを、嫌というほど実感している。

 「誰もが抱くハワイのイメージは、密閉された小さな楽園で、何も悪いことは起こらず、住民はアロハ・スピリットをバカみたいな皿に乗せて提供するためだけにここにいると思っている」とブランドンは主張する。「ここでの生活は決して楽園なんかじゃない。毎日生きていくのも精一杯なのに」

a young women holds a drink bottle in front of a convenience store

3年前、ブランドンの母親は再婚し、サウスカロライナ州へ移住したが、ブランドンはハワイに残ることを選んだ。ハワイの先住民であるカナカ・マオリのブランドンにとって、ハワイは唯一の故郷だ。

「自分は特にビーチやハイキングが好きというタイプじゃない。ここに住んでいるひとが皆そういうものを楽しんでいるというのは、ただのステレオタイプに過ぎない」とブランドン。「ひとつ確かなのは、ここが家族の故郷ということだけ。だから、その日暮らしでも構わない」

しかし、誰もがブランドンのように強い意志を持っているわけではない。物価の高さに耐えられず、島を離れる住民やハワイ先住民は、年々増えるいっぽうだ。その代わりに、マーク・ザッカーバーグのような億万長者が、ハワイの限りある土地を独占している。若い世代にとっても、ハワイでの暮らしはもはや手の届かないものとなってしまった。

a young woman leans against a car

「だからこそ、学生はどこか別の場所での大学進学や生活を勧められる」と16歳のエンバー・イザベロ(Ember Isabello)は語る。「生活費が高くて給料は低いから、ここでは快適な暮らしはできない。両親がどうやってやりくりしているかもわからない」

さらに、観光産業がハワイの主な収入源となっており、あらゆる業界が島の商業化に結びつけられているため、若者の職業の選択肢は非常に限られている。「ハワイの頭脳が流出している」と16歳のアリーナ・ヴィラヌーヴァ(Allena Villanueva)は語る。「ここにはキャリアを築くためのチャンスがあまりない」

さらに、先日コロナ禍での観光が再開したことで、地元住民はさらなる苦境に立たされている。住民が何ヶ月も厳しいロックダウンに耐えてきたにもかかわらず、その半年後には観光客がビーチに大挙して押し寄せることになった。

「ずっと家にいなければならないのが本当につらい。ここが自分の家と呼べる唯一の場所なのに、外を歩けば、この場所が軽んじられているのを目の当たりにする」とブランドンは訴える。観光客がSNSに投稿する、ハワイの絶滅危惧種の野生生物を傷つけたり、マスクなしで大勢で集まる様子は、地元住民を奮起させ、結果として政治に積極的に携わる若者が増えていった。

a dark grey landscape with a road running through the middle

「この〈娯楽の中心地〉に来る人びとは、私たちを抑圧し殺そうとしている米国の植民地主義に加担しています」と語るのは、カナカマオリ(※ネイティブハワイアン)のアクティビスト、19歳のカイノア・アザマ(Kainoa Azama)だ。

「ハワイ最大の産業である観光産業と軍国主義は、国際社会では不法占拠と認識されているにもかかわらず、私たちが住む場所を〈楽園〉と銘打ち、この土地の所有権や、この土地と住民を売り出す権利があるかのように振る舞っています」

ハワイの若者のあいだでアクティビズムが広がるなか、カウィカは楽園のイメージには縛られない、新たなハワイの一面に可能性を見出している。「私たちがハワイを住みやすい場所にするために必要なもののために闘わず、この島から離れ続けるなら、ハワイを見捨てることになります」と彼は主張する。「できるだけここに留まり、暮らしていくために闘うことが重要です。他の人びともここに住み続けられるように」

〈Hawaiian Youths〉の中で最も心を打たれるのが、2人の子どもたちが石橋の端に立つ写真だ。ふたりの目の前には、ターコイズブルーの波が砂浜に打ち寄せ、海水浴客が地平線上に点々と存在している。ハワイの典型的な1日だ。

しかし、マキシムの構図は子どもたちをより象徴的に写し出し、どこか予言めいたものすら感じさせる。ふたりは、多くの住民のように島から押し出され、飛び降りようとしているのか。それとも、唯一の故郷を守るべく見張りに立つハワイの未来の世代のひとりなのだろうか。

マキシム・ラの個展〈Hapa〉は、9月21日から25日まで、パリ サンクロード通り7番地で開催。

kids looks out over the sea from a high up ledge
a young woman with dyed red hair and slipknot t-shirt leans against a metal fence
a young man with a cross earring and a quicksilver t-shirt sits on a swing
three young kids stand on the beach in a golden sunset light
a young woman leans against metal railings
a young man with dyed blue hair

Credits


All images courtesy Maxime La

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