新時代の〈コリアン・クール〉を捉えるフォトグラファー、チョ・ギソク

韓国のアイデンティティの多様性を讃えるとはどういうことか、今国内でもっとも勢いのあるフォトグラファーに話を聞いた。

by Songin; translated by Nozomi Otaki
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20 October 2021, 10:53am

本記事はi-D Koreaに掲載されたものです。

韓国ファッションシーンで今勢いのあるスターを訊かれたら、誰もがチョ・ギソクの名前を挙げるだろう。Instagramのフォロワーは雑誌のエディターやスタイリスト、セレブ、ラグジュアリーブランドのデザイナーなど約30万人にのぼり、彼の一挙一動を見守っている。その名声が海外にも届いていることは間違いない。この29歳のアーティストは、アートとコマーシャルの境界線を自在に行き来する。常に唯一無二の、限界を押し広げる作品を制作してきたチョは、他の業界からも参照されるユニークな存在であり続けている。しかし、彼は決して現状に満足しているわけではない。

「僕は好奇心旺盛なんです」と彼はいう。「作品の分野は写真からグラフィックデザインや舞台美術、アートディレクション、映像まで多岐にわたります。ブランド〈KUSIKOHC〉を立ち上げたのも、その理由のひとつ。KUSIKOHCがなければ、写真以外のプロジェクトに取り組むのはもっと難しかったはず。写真に行き詰まったり迷ったりしたときは、KUSIKOHCに楽しみやインスピレーションを求めます。視覚芸術は目を、ファッションデザインは触覚を楽しませるためにもの。どちらにも違った楽しさがあります」

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今回、i-D Koreaの撮影を計画するうえで、チョはキャスティングやi-Dの唯一無二のアイデンティティの表現に積極的に携わってくれた。最終的に選ばれたモデルは9名。「韓国のアイデンティティの多様性やユニークさを見せたかった」と彼は説明する。

「モデルはルックスも性格も職業もそれぞれ違う。写真にはふたつのコンセプトを考えました。ひとつはモデル全員が学校の制服を着て、もうひとつはモデルがそれぞれの個性を表現するというもの。制服は往々にして個を隠してしまいますが、時が経ってもスタイリッシュです。まさにクラシックですね。制服の写真は、僕の個人的なシリーズの延長線上にあるものでもあります」

KUSIKOHC 2022年春夏コレクションのアイテムが、モデルそれぞれのユニークな魅力をさらに引き立てた。スリット入りのブラックコート、焦げ跡のあるバイカージャケット、シグネチャーロゴニット、オーバーサイズのアイレットボンバージャケットは、韓国のユースカルチャーを代表するニューフェイスに完璧にマッチしている。

「i-Dは常にファッションだけでなく若者のサブカルチャー全体に関心を持ち、現代社会について意見を述べてきました」とチョは語る。「新しくローンチしたi-D Koreaのために、今回のコラボレーションでそのスピリットを捉えたかったんです」

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チョの名前を英語で逆からつづったKUSIKOHCは今年で5周年を迎え、プロジェクトベースでアイテムを制作してきた。2022年春夏コレクションではブランドを改めて見つめ直し、最初のスローガンである〈Right to Fail(失敗する権利)〉へと立ち返った。

「大きくても小さくても、新しいことに挑戦することは有意義なこと」とチョは語る。「失敗したとしても、挑戦すること自体に意味がある。新しいことを始めるのをためらっているひとがいたら、KUSIKOHCはあなたには〈失敗する権利〉があると伝えたい」 

自らの信念を体現するKUSIKOHCは、今後は従来のコレクションに加え、カプセルコレクションやより小規模なプロジェクトを発表していく予定だ。来シーズンの買い付けがほとんど終わった今、来年には世界中の店頭に並ぶであろうKUSIKOHCの新シーズンのアイテムに期待したい。

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写真の話に戻ろう。チョの作品は〈韓国的〉なのだろうか、それとも〈アジア的〉なのだろうか。彼は確かに、韓服やタル(朝鮮半島の伝統芸能に使われる仮面)、遊戯王のカード、中国の春節祭を彷彿とさせるさまざまな装飾品など、アジア文化を体現するものを使用している。

「以前は作品で直接的な文化モチーフを見せることをずっと避けてきました」と彼はいう。「でも、今では、西洋のフォトグラファーがヨーロッパの神話から着想を得るのと同じように、アジアを中心的なテーマのひとつとして捉えています。今はハイパーコネクトの時代だと言われているけれど、韓国人アーティストとして、自分が慣れ親しんできた文化をもっと見せることで、作品を通してオーディエンスに新しいものを提示できるはずです」

いっぽうで、彼がイメージを創るうえでの目標は、実にシンプルだ。「被写体に集中すること。人工光源なしで、肉眼で美しく見えるか。それを重視しています」

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独学で写真を学んだチョは、大半のフォトグラファーが通る道を歩んできていない。それでも、彼は作品とヴィジョンの両方で高い完成度を達成し、今や世界の名だたるファッション誌やラグジュリーブランドのグローバルキャンペーンを手がけるまでになった。

「この業界に入ったのは21歳のときなので、今年で9年になります。年が経つにつれ、信じられるのは自分の才能だけだと確信するようになりました。だからこそ、自分の才能を磨く努力をし、自分の経験を信じるようにしています」

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チョが最初に得た肩書きは、あるインディペンデントマガジンのエディターだった。それ以来、彼は常に自分のアイデンティティに率直であることを心がけながら、アルバムジャケットや舞台美術、アートディレクション、キャンペーン、ストックホルムのフォトグラフィスカでの個展、多くのカバーストーリーなど、多種多様なプロジェクトを手がけてきた。そのなかで経験した失敗は、すべて成長の糧になったという。

わたし自身もチョと長年の知り合いだが、彼が立ち止まったりペースを落とすところは見たことがない。燃料の要らない列車のように、彼は前に進み続ける。撮影のない日でも、志を同じくする仲間とともに個人的なプロジェクトを進めたり、KUSIKOHCの仕事をしたり、他のフォトグラファーの作品を研究している。彼の仕事と生活は完全に一体化しているようだ。この勤勉なアーティストに、無限のクリエイティビティの源は何かと尋ねると、意外な答えが返ってきた。「昔、自分が好きなことをやっていなかったときに感じた劣等感です。だから制作を始めるときは、最初に感じたワクワクする気持ちを忘れないように努力する。一生好きなものをつくり続けるのが、僕にとって究極の幸せです」

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Credits
Creative direction Songin
Photography Giseok Cho
Writer Hyunji Nam
Translator Keith S. Kim
Make up Seongseok Oh
Hair Gabe Sin
Models Sunmean, Xenher, Jiyoung, Sukyung, Damo, Seungjin, Junhyun, Sangyoon, Sooa

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